【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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誤字報告をいただくみなさま。
本当にありがとうございます。
とはいえ、自分は表現することしかできないので、書くほうで頑張りたいとおもいます。



第5話

12日早朝 エ・ランテル 城塞塔跡地

 

 昨晩のアンデットの大群との戦いが、エ・ランテルに大きな傷跡を残した。それは夜が明け、光の下に曝されてより一層に明確になった。

 巨大なアンデットに潰された共同墓地を取り囲む壁や門の一部。アンデットの爪で削り取られた家屋。なによりもスケリトル・ドラゴンによって破壊された城塞塔。

 

 興奮のあとの虚無。

 

 守備兵の多くが亡くなった。

 

 守備に参加した冒険者にも少なくない犠牲がでた。

 

 そして守るべき街の人にも被害がでた。

 

 しかしそんな状況でも、特別に異様というに相応しい状況がある。

 

「ハイドリヒ卿とエンリ殿はまだ戻ってこないでござるか」

「さっきの人が言うには、なんでもついでにヴァンパイアを討伐に向かったって言ってやしたぜ」

「あれだけ大暴れして、まだ足りないんですかい。旦那は。か~やるねえ」

 

 と巨大な魔獣とゴブリン達が壊れた城塞塔の残骸の一部に腰掛けて話しているのだ。

 

「ジュゲムの兄貴、うちらこの後どうすればいいんですかい?夜中に招集かかって大暴れしたってとこまではいいんですが」

 

 そんなことをゴブリンの一匹が言う。

 

 実際彼の言うように、昨晩彼らの活躍はすさまじいものであった。普段ならアイアンやシルバーの冒険者に狩られる側のゴブリンだが、魔獣と共に聖女の旗の元でアンデットの軍勢をそれこそ粉砕したのだ。

 

 その姿は戦場の高揚もあって、戦うものや見るものに勇気を与えた。

 

 しかし、いざ終わってみれば近寄ってくるものはいない。もちろん攻撃を仕掛けてくるような恩知らずもいないのだが、なかなか人間と人外の確執は深いものが有るのだ。

 

「ああ、今さっき冒険者ギルドの職員ってやつが来てよ、旦那と姐さんがかえってくるまで、ここでおとなしくしてくれってさ。ああ、あと干し肉とスープを持ってきてくれたぞ」

「お、ありがてえ」

「まあ、そんなわけだ飯食ってしばらく休憩したら、ここの後片付けを邪魔にならん範囲で手伝うってことでいいなおまえら」

「食べ物もらったからにゃ~しゃーない」

「最近おれら村の防壁つくったり畑耕したり、家つくったり何でも屋だからな」

「近いうちに歌でも歌えって言われるぜきっと」

「こっちは戦ってばかりだったでござるよ。たまにはゆっくり休みたいでござる」

「カルネ村で怠けると、ユリの姉御にどやされるんだぜ」

 

 ゴブリン達やハムスケはそんな軽口を叩きながら、差し入れのスープと干し肉を口にするのだった。

 その後、世にも珍しい土木作業に汗を流すゴブリンと魔獣という光景が広がる。エ・ランテルの人々は、ここが人間の街であることを一瞬わからなくなるような光景にまた頭を痛めるのだった。

 

******

 

12日 夕方 エ・ランテル 黄金の輝き亭

 

 ラインハルトはシャルティアを傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)の支配から開放した足で、大規模破壊魔法を使い戦闘跡を作り出していた。

 

 最初こそ戦闘跡のためであったが、普段使わぬ魔法の思わぬ効果範囲の違いに、確認作業がはじまり、気が付けば各種戦闘系スキルの確認にまで及んでいた。

 

 それどころか、途中から魔法マニアのナザリック最高支配者が、失墜する天空(フォールンダウン)天地改変(ザ・クリエイション)という超位魔法の確認をはじめる始末。

 

 昼過ぎに終わるはずが夕方までかかり、森の一部どころか半径数kmの単位で破壊しつくされる事態となっていた。

 

 さすがにやり過ぎたと思ったのか最高支配者はすごすごと帰り、残されたラインハルトとエンリ、アンナはありのままに冒険者ギルドに報告した。

 

「普段使わぬ魔法やスキルまで使う羽目になった、少々森を壊してしまったがヴァンパイアの件は無事終了した」

「はい、私も依頼人として遠目でございましたが、確認させていただきました。凄まじい戦闘跡(・・・)でした」

「そうだったね」

 

 冒険者ギルドとしても、最終的に各員のための人員を送ることとして、とりあえずの解決宣言をだすこととなった。なぜなら、街まで破壊音や巨大な光の柱などが聞こえていたのだから、どれほどの戦闘が行われたのか推して知るべしというレベルなのである。

 

 そんな事があり、なぜか土木作業に汗を流すゴブリン達を回収し、買い付けた食料や酒などを持たせカルネ村に返した後、3人は宿屋にもどってきたのだった。

 

 ラインハルトはつかれたような素振りを一切見せず、部屋で静かに茶を飲みながらナザリックに出すのだろう報告書らしきものを作成している。

 

 エンリはこれは私の仕事だと言わんばかりに、ラインハルトに茶を入れ脱いだ装備の汚れを落とすなどをしている。

 

 そんなさなか書類を持ちアンナが部屋に入ってきた。

 

「ハイドリヒ卿。少々よろしいでしょうか」

「なにかな」

 

 ラインハルトが筆を止め、向き直る。そこには純白のフリル過多な衣装を着たアンナがいた。しかし片目を隠した無骨な包帯は、見るものには痛々しく映るのだが、この部屋にはそんなことを気にするものはいなかった。

 

「本日の件についてギルドへの報告書になります」

「確認しよう」

 

 そういうと、ラインハルトは報告書の確認をすすめる。実態はアインズ・ウール・ゴウンとスレイン法国によるマッチポンプだが、スレイン法国としては人類存続のためにもなんとしても強力なプレイヤーの後見を欲し、いくつもの不利を飲み込んでいる状態である。

 しかし報告書は事実を織り交ぜた内容となっており、マッチポンプと気づくことができるものはいないだろう。なによりヴァンパイアの死骸などを回収することが出来なかったとまとめているが、あの大破壊跡を見ればだれもが納得せざる得ないのだ。

 

「一つ確認だが、このアンナ・フローズヴィトニル・バートンとは卿の正式名か?」

「はい。私の洗礼名がフローズヴィトニルですので、正式な文章ではこの名前を使っております」

「悪評高き狼、ある神話では神殺しであったか?」

「神話は存じておりませんが、私が巫女姫の素質を持って生まれたため、この洗礼名となりました」

「巫女姫とは?」

「叡者の額冠というスレイン法国の最秘宝の一つを纏う巫女の筆頭です。これを装備した巫女姫は自我を失い、魔法を発動するマジックアイテムとなります。しかしその効果は人類では未踏となる第8位階魔法の使用も可能になります」

 

 その言葉に静かに考えはじめる。

 そしておもむろにアイテムの収納から、昨晩ンフィーレアに付けられていた叡者の額冠を取り出すのだった。

 

「これのことか?アイテム鑑定した結果ユグドラシルでは存在しないアイテムであったので保存していたのだが」

「それは闇の……。そうですか、反逆者に奪われていたのですが、ハイドリヒ卿のもとにあったのですね。そちらですが、私に使いますか?」

 

 アンナは何でもないように、アイテムの使用確認を取る。

 しかし、このアイテムを鑑定し、現物も見たラインハルトは装備したものは自我を失い外したとしても精神が死ぬことを知っている。

 

「使わぬよ。たかだか8位階の魔法に執着はせん。我が半身はなかなかアイテム収集家でな、未知のマジックアイテムということで土産にするつもりだ」

「そうですか。私はもう闇の巫女に成ることはないのですね」

 

 ラインハルトの返答に、アンナはポツリとつぶやく。

 

「不服か?」

「いえ、私は死の神に仕える巫女。人類のために身を捧げることのみを教えられ、考えて生きてきました。ただ捧げる方法が変わったことに戸惑っているだけです」

「なら、存分に悩み渇望を実現する方法を追い求めることだ」

「はっ」

 

 アンナは静かに礼を取った。しかし思い出したように聞くのだった。

 

「そういえば反逆者はいかがなされたのですか?」

「今頃、人を辞めている(・・・・・・)ころだろう。あの渇望が本物なら、ナザリックにとって良い駒となることだろう」

「そうですか。神に仕えることが出来、あの者も幸せですね」

 

 そういうとアンナは微笑むのだった。その笑みはどこか大輪の薔薇を思わせるものだった。美しくもどこか棘がある。ただ、華には一切の罪は無くただ咲き誇るのみ。

 

 

******

 

 アンナの報告が終わった頃、エンリが茶を持って部屋に入ってきた。

 

「おつかれさまです。ラインハルトさん。お茶を温かいものに換えますね」

「ああ、頼む」

 

 ラインハルトとエンリのやり取り、さも自分の分があるのは当然という風に口を出すアンナ。

 

「あら、私には入れてくださらないの?」

「え?欲しかったんですか。要件が終われば帰るものと思ってました」

「そんなに帰って欲しかったの?」

「冗談ですよ。カップも持ってきてますから」

 

 そんなやり取りをしたのち、3人はあたかかいお茶と、クッキーを囲むように座るのだった。

 

「そういえば、アルベド様でしたっけ?あの黒い翼の美しい女性の」

「ああ、アルベドがどうした?」

「今回のシャルティア様の失敗は、彼女の策謀ですか?」

 

 お茶を飲みながら、エンリはいきなりとんでもないことを言い始めた。ラインハルトはそれを面白そうに返す。

 

「なぜ、その考えに至った?」

「アルベド様は立ち位置から玉座のモモンガ様の補佐かと。シャルティア様の詳細な行動を知って、あの場で情報の総てを事前に整理できたのは、モモンガ様とアルベド様かなと思いました。でもモモンガ様はシャルティア様を含めみなさまを大事にされるお気持ちが伝わってきましたが、アルベド様にはモモンガ様への忠誠だけのように感じましたので」

「あの場にはデミウルゴスもいたし、他のものもいたが?」

「あの悪魔の方を見た時、きっとあの方が本気で策謀をすれば、私が違和感を持つこともないと思いました。他の方はなんとなく……。ですが最後に、ラインハルトさんがアルベドさんに言った言葉が決定的だったとおもいます」

 

 エンリは感覚論ながらも、自分の印象からの人物像をあの中で作り上げていたのだ。その結果、シャルティアの件に違和感を感じたというのだ。

 

「将とはわずかな情報から、全体を想定し決断するものだ。その点では、卿の考えはある意味ただしいな」

「そうですか」

「答え合わせというわけではないが、アルベドはシャルティアと冒険者の衝突、そして運がよければスレイン法国の衝突と期待していたのだろう。もちろん失敗しても良い」

「神はそのようなことを望んでおられないと、感じたのですが」

 

 ラインハルトのコメントに、アンナが付け加える。

 

「ああ、あれはアルベドの独断であろう。目的はイレギュラーを起こし我が半身に、外に対する警戒心を持たせ、あの地から外に出さないようにすること。しかしスレイン法国は思った以上に対策をしていた。そして完全な想定外の白金の鎧も現れた。結果、アルベドの目的は100%以上の結果を産んだわけだな」

「それでは、シャルティア様があんまりにも」

 

 エンリとして面識のあるシャルティアが、味方の策謀で失敗したというのはあまりにも不憫に感じたのだ。

 

「そうだな。しかし、これから最終的に我が半身のためという名目で、多くの思惑が交差するだろう」

 

 その言葉にエンリは残念そうな顔をする。しかしラインハルトはさらに言葉を重ねる。

 

「しかし、私は卿らの契約を覚えている。故に私は行動しよう。そして卿らはおのが渇望を実現するために、何ができるかを考え行動することを期待する。私に卿らの物語を見せてくれ」

「はい」

「はい」

 

 二人の声は重なる。

 同時に二人は感じたのだ、黄金の獣との出会いは必然だったと。自身の渇望のためにも、自分のこれからのためにも。

 


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