もしジュリウスに転生者の姉がいたら 作:ジョナサン・バースト
6月18日 曇り時々雷雨
かつて私はアラガミの被害で毎日、いったい何万もの人間が死んでいるのか、調べてみたことがある。
その数はおよそ十万人。初めてその事実を知った時は、そのあまりに異常な膨大な数値に愕然としたものだ。
それでも犠牲者が下降傾向にあるのは、ゴッドイーターの配備や対アラガミ装甲の開発によって、アラガミの被害が少なくなってきているというのは勿論あるが……最大の理由は人類という種の総数の減少。アラガミに喰われる人間自体が少なくなれば、犠牲者の数もまた減少していくのは当然のことだ。
そんな中、お父様とお母様が死んだ。フェンリル本部にて開催される総会に参加するためのその道中、アラガミの襲撃を受けて死んでしまったのだ。
親を失うのはこれで二回目だ。
一回目は前世の時のことだ。
一人っ子だった私を、二人は深い愛情を以て育ててくれたが……二人は私が成人を迎える前に交通事故に巻き込まれて死んだ。誰よりも私が大人になることを待ち望んで、成人を迎えたらお酒を一緒に飲もうと約束していたのに、二人とも呆気なく死んでしまった。
悲しくて辛くて……苦しくて仕方がなかった。もっと二人に甘えていれば……反抗なんてしなかれば……そして、もっとちゃんと親孝行をしていればよかったと何度も悔やんだ。
孤独で、寂しくて……だから二回目の人生が始まって、私にまた親が出来た時は嬉しかった。
贖罪とか、そういうのとは違うけど、今度の両親にはできる限りの孝行をしようと、自慢の子供でいようと決めていた。
それなのに死んだ。二人の死に目を見ることも叶わず、私の親は今回も……呆気なく死んでしまった。
私は発狂してもおかしくなかっただろう。孤独とは地獄であると、私はすでに身をもって知っていたのだから。
またあの地獄を味わうくらいなら……死んだほうがマシだった。
それでも私が踏みとどまれたのは弟の存在――ジュリウスの存在があったから。
私の大切な弟、ジュリウス。
前世にはいなかった、私にとって初めての弟。
私はまだ孤独ではない。
私にはまだジュリウスがいる。
姉として、ジュリウスは守らなければならない。
残されたただ一人の家族として、私は絶対にジュリウスの傍にいなければならないのだ。
それなのに親族のクズ共は私をジュリウスから引き離そうとしやがった。親の金に飽き足らず、私からジュリウスを
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。オマエタチにいったい何の権限があって、ジュリウスと私を引き離すことができるというんだ? ジュリウスにとって私は残された唯一の家族で、そんなジュリウスを守れるのは私しかいないのに。
私からジュリウスを奪おうというなら殺してやる。殺してやる。コロシテヤル――。
(その後の文はあまりの乱雑さにとても読むことができない)
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7月8日 曇り
今日から私とジュリウスはフェンリル直轄の児童養護施設『マグノリア=コンパス』に入れられることになる。
マグノリア=コンパスは世界でも最大規模の巨大な養護施設で、その西洋的な造りはどこかヴィスコンティ邸に似ているところがあった。雰囲気が似ているので、慣れるのも案外、あっという間かもしれない。
経営するのはあのジェフサさんの娘であるラケルという名前の女性。姉のレアさんはジェフサさんの考案する『オラクル細胞制御機構』から発展させた『神機兵』という新しい兵器の研究を手伝っているらしい。ちなみにラケル先生も研究者のようなのだが、詳しいことはわからない。
ジェフサさんには「大変なことがあったようだがもう大丈夫だ」と声をかけてもらいラケル先生には「今日から私があなたたち二人の新しいママよ」と聖母のような笑みと共にそう言われた。
心に染み渡ってくるような慈愛に満ちたその言葉に、言いようのない寒気を覚えてしまったのはなぜなのだろうか。
こんなにも綺麗な人なのに。
こんなにも温かい言葉なのに。
ラケル先生の身にまとう喪服のような黒い服装が不気味に思えてしまうのか?
それとも、お父様とお母様を失ったから、私の神経が少し過敏になってしまっているだけなのか?
本能的にジュリウスの手を強く握ってしまって、ジュリウスに「い、痛い!」と言われてしまった。ゴメンね、ジュリウス。
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7月9日 曇り
今日はクラス分けのための様々なテストを受けた。なんでもこのマグノリア=コンパスでは世界中から集められた孤児たちの将来を見据えての育成も行われており、この施設の出身者は皆例外なく独り立ちできる人材に育成されるらしい。
アラガミによって不安定なこの世の中、ヴィスコンティの財産も失ってしまった身としてはありがたい話だ。
ちなみにクラスは男女ごとに特別選抜クラス、応用クラス、標準クラス、基礎クラスと四段階に分類されるらしい。一応、テストで解けない問題はなかったが、あっているかどうかはわからない。
一週間後の結果がどうなるか……正直不安だ。
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7月16日 晴れ
今日はジュリウスの七歳の誕生日。
まだ施設に入って間もなく、祝ってくれる友達もいなかったので二人きりの誕生パーティーを開いてあげた。
誕生日おめでとう、ジュリウス。
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7月18日 曇り
クラス分けテストから一週間が経過し、結果が知らされた。
私は特別選抜クラスで、ジュリウスは応用クラスであった。
二十年もの先見の明がある私はともかくとして、ジュリウスは流石だと思う。
ジュリウスくらいの年代の子だったら基礎クラス、よくて標準クラスが普通であるというのに。
「凄いわね、ジュリウス」と褒めるとジュリウスは複雑な表情をした。「だって、姉さんは特別選抜クラスだろう?」と。
いや、私は精神的にはもう成熟していて……言ってしまえばズルしているようなものなのだ。もし私がこの体に見合った精神年齢であったのなら十中八九基礎クラスだっただろう。私からしてみればジュリウスの方が百万倍凄いと思う。
「姉さん……ボク、頑張るから」と真剣な眼差しで言われた時はなんて強い弟なんだろうって、思わず涙がこぼれそうになった。親を失って、誰よりも辛いのはあなたであるはずなのに……こんなにも健気で愛くるしい弟がいて、私は本当に幸せ者だ。
頑張るのは私のほう。
あなたは私が幸せにしてみせるから。
ちょっと病んだか……(笑)
次回からは原作におけるそれぞれのキャラの視点も書いていく予定です(ナナとかシエルとか……)。