とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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遅くなって申し訳ありません


第99話 半死と半生

読者の中には幽霊の類を信じている人は居るだろうか?

科学技術の発展や映像加工が素人でも簡単に行えるようになった昨今の世論では本当に信じている人が少数派となり、新たなフィクション作品として語り継いだり娯楽、趣味としての側面が強くなったように感じる。

 

だからと言ってこの話で「私は幽霊否定派を明言する」とか「いや幽霊は居るんだ!」と肯定するものではない。

どちらかと云えば娯楽や物語としてこの先を読み進めてほしい。

 

都市伝説や怖い話界隈では割とよくある流れや展開ではあるが......

『幽霊は生前に強く想い遺った事を繰り返し行う』というのがある。

ピンと来ないと思うので例を出してみると

 

ある人が人生に絶望してビルの屋上から身を投げて自殺をした。

しかし自殺した本人は死んでからも屋上から身を投げ続けて死の痛みを刻んでいるらしい。

何十回、何百回と繰り返し飛び降りて悟るまでそのままの状態でいるとの事(諸説あり)

 

その他にも強い怨みを持った者が悲惨な最期を遂げると怨み相手を呪い殺す。

逆に我が子に愛情を持ったまま亡くなった親がピンチの子を助けに来るという話もある。

強く遺った意志がそのまま生きている者に影響を与えるというのは昔から変わらずに記録されて伝えられている。

 

『これから死ぬ奴が生きている奴のことを気に掛ける方がおかしい』

と彼は冒頭で述べたが死んでも遺るものがあるのかもしれない。

 

「.............」

彼が求めていたものも作品も彼の意志を持ってか現実から最も近く、最も遠い世界から伸びる糸が三体の人形に伸びており、反転したサソリが半覚醒のまま歪んだビルの屋上から戦場を眺めていた。

 

******

 

「うひぁ......」

惰性で鞄に詰めて持ってきた謎の『蠍』と書かれた物体を背負ったままビルの階段を上がっている佐天と警策だが隕石の破片のような岩石が階段を少しだけ塞ぐ形で壁をへしゃげて転がっていた。

佐天の直感では御坂はこの真上の階に居る事は分かっており、直前での足止めに口を尖らせて隕石の破片を叩いた。

 

「別の道を探した方が良いんじゃないかしら?」

「えー!?ここまで来たのにですか?」

「割とメンドーな事を言うっすね」

佐天と一緒にブーたれる元敵戦力兼パシリ面のトビ。

「ってかアンタがなんとかしなさいよ!!結構強いんでしょ?」

「オイラには手も足も出ないっすねー。面だから」

「このまま火に焚べる薪にでもしてあげようかしら?」

液体金属の刃をトビに向けて構えると浮いている面を横に振りながら隙間を光らせると不恰好な木製の腕を裏側から伸ばして岩を持ち上げた。

「じょ、冗談っすから仕舞って欲しいっす」

「またサボるに決まっているから暫くこのままね」

「うう、捕虜としての正当な権利を主張するっす」

「まあまあ......あっ!」

解放された階段を昇っていると佐天の驚異的な感覚が御坂が超スピードで移動しているのを捉えて『しまった』と言わんばかりの声を上げた。

「びっくりするわね!どうしたのよ」

「御坂さん行ったみたいですね。あちゃー惜しかった......?!」

「......うが!?!」

振り返った佐天の目には空中で苦しそうにもがくトビの姿だった。

金縛りにでもあったかのように伸ばした腕が小刻みに震えながら何か別の物が取り憑くような描写が相応しい。

「な、何してんのよ!?」」

「ち、違うっす......何かがオイラの身体を」

樹木を生やしながら必死に抵抗するが見えざる何かは徐々に所有権を奪い隆起した木の腕で隕石の破片により開けられた壁をこじ開けるように外に出た。

「ちょっ!ちょっと!?」

佐天の頭に懐かしい手の感触が柔らかい絹越しから伝わるように包み込んできた。

「え?」

振り返るとサソリの匂いが強くなる。

佐天の隈取が赤く伸びて、目の縁を彩るとぼんやりと薄明かりに照らされたサソリの後ろ姿が体感するように浮かび上がっている。

「サソリ?」

「......」

水に滲んだ絵の具のように掻き消えるとトビの姿はこの部屋から消えていた。

佐天が所有しているサソリと書かれた筒が新たな自然チャクラに反応するようにトクンと打ち始めていた。

 

******

 

「ゲフ......ゴフぅ!!?」

マダラが地中から出した五つ目の尾が鋭くフレンダの下腹部を貫くとそのまま尾を持ち上げて地面から持ち上げるように上げてドス黒い血を吐き出しながら声にならない呻き声を出して自重で押し広げられる傷口を庇うという無駄な抵抗をしていた。

「ぁ......がぁ」

「痛いか?それは自業自得だな。本来ならばオオノキの娘を狙ったがまあ良い」

「はぁぁぁー!!」

苦悶に意識を混濁させているフレンダを嬲るように尾の畝りを変えるマダラの右腕脇から絹旗が空気を巻き上げながら拳を突き出した。

しかし、写輪眼で先読みされた未来視によりマダラは繰り出される拳を紙一重で躱すと拳の先から衝撃波が飛び出した。

「煩い虫けらが多いな......!!?」

体勢を戻したマダラが指を鉤爪状に曲げると外した絹旗の首を撥ねようとするがマダラの顎に強烈な衝撃が加わりそのまま吹き飛ばされて消火栓に激突した。

 

ナオセ......

「!?」

尾から外れたフレンダが地面に落下すると同時にトビの面がフワフワと被せられて大きく開いた傷に木遁のチャクラを流し込まれてみるみる塞がっていく。

トビは何かから怯えるようにビクッと面を震わせた。

 

「トビ......貴様」

消火栓を破壊し水浸しになるマダラの悍ましいチャクラが針のように周囲の人間に突き刺さる。

マダラの口から微かに血を流しており、痣を作っていた。

首をポキポキと鳴らすと印を結びだす。

 

「ち、違うっす!オイラじゃ」

 

火遁 業火滅却

 

「はい!」

マダラの口から巨大な火柱を上がらせながら広範囲に爆炎が拡がる中で隠れていた湾内が水を操り壁を作るがすぐに水蒸気となり辺りの視界が遮られる。

尚も残る爆炎に路地裏から出て来た婚后が向かい風で上空へと散らすが霧間からマダラは一瞬で移動し湾内の目の前でスサノオを開眼して斬りかかろうとしていた。

 

「!?」

スサノオの刀を振り下ろすが何故か妙な位置で止まり、見えざる手が刀を握っているような感覚に陥る。

「どういう事だ?」

更に力を強くするがその壁はビクともせずに湾内の盾のままだった。

隙を突いて泡浮が浮力を変えて大きなブロック塀を持ち上げるとマダラの空いている脇腹を薙ぎ払うように殴りつけた。

 

「......」

マダラは抑えられている刀を支柱にしてブロック塀に飛びかかるとそのままブロック塀を足場に踏み切りそのままビルの窓にくっ付いた。

「まさかな......」

 

麦野のメルトダウナーが着地したマダラに向けて発射されたが輪廻眼を開眼し吸収すると地上を凝視した。

 

居るはずだ......生意気な

 

輪廻眼で辺りを見渡していると点々とこの世とは違うチャクラが付着しているのが観えた。

「何処だ......何処に居る?」

「何ボヤいてんだぁ?」

窓枠をまるで階段でも昇るかのように一方通行が両手を軽く広げて、マダラに悪魔の笑みを浮かべて首を掠め取ろうとするがマダラは腕でガードした。

「また意味無......?」

パキッと空気の入った何かが破れる音がしてマダラの腕が宙を舞う。

「!?」

傷口からダラダラと血を流れ出すのを確認すると血染めの腕を見上げた。

そこには真ん丸な月が見下ろしている。

真っ赤な世界が月に収斂されると紋様が浮かび上がり写輪眼が月の表面にうっすらと投影されていく。

 

「何だあれ?」

「変な模様が」

 

マダラは付いている腕の手首を掴むと全ての尾を出現させた。

既に尾は6本目が出現しており、動いていない死者の心の臓が拍動を始めている事にマダラはやや歓喜した。しかしすぐに不測の事態を察知すると輪廻が浮かぶ満月を見上げる。

「......月の眼......この状態では」

マダラの飛ばされた腕の影が変形して無数の根っこのような物を伸ばして影の世界でくっ付くと現実世界に射影されて縫われるようにくっ付いた。

 

マダラは追撃してくる一方通行の足場となっている窓を蹴り割るとフワフワと浮かび上がり、落下を食い止めている削板を横目にの最高点に来るとスサノオを出現させて力を注いだ。

「時間を掛け過ぎた」

隕石の重さが数倍にまで跳ね上がると抑えていた削板が徐々に押されて地面に脚が刺さり出す。

 

「ぐぅ......ぎ!!こ、これはヤバイかも......なぁ!!」

削板の腕から血が噴き出していくが本人は力を緩めずに真正面から受け止めて脚を組み換えて力を溜める。

予想外の抵抗に業を煮やしたマダラは印を結び十尾の影から七本目の尾を出して闇の波動で押し潰し始める。

「虫けらどもめ!!」

 

他の能力者達も集まり、隕石を撥ね返そうと能力を使い出す。

サイコキネシストは岩の一部に浮遊を持たせて、麦野達はメルトダウナーでマダラを狙い打ちをしていく。

 

するとビルの外壁を崩しながら一直線に蒼い電光が移動し雲を帯電させてマダラに雷を落とした。

「っ!?」

「頭痛ったいわね!これ」

 

御坂美琴

ミサカネットワーク私用

Level next

 

電気の反発により青白く発光した御坂が髪を逆立てながら雷の衝撃で吹き飛ばされたマダラをリニアモーターのように高速移動すると回転しながら回し蹴りをした。

「ガキが」

マダラは御坂の回し蹴りの脚を受け止めると背負い投げのように地面に投棄てる。

帯電し光る腕を鬱陶しそうに眺めるがカチカチと時が刻まれていくような音が流れて満月の万華鏡が鈍くマダラの写輪眼と重なった。

赤銅色となった満月から昼間のような光が注がれて全ての人間、全ての物陰に影を生み出すのを許さないように眩く強烈な閃光が照らし出した。

 

「!?......あが......」

マダラの身体から黒い影が炙り出されて生身の生きている部分の肉体が浮き彫りとなりガリガリに痩せたマダラが出現した。

「はぁはぁ......馬鹿な」

 

元々、十尾の人柱力になる為には生きている肉体が最低条件であるが影十尾の場合は少し構造が異なっていた。

影は死を象徴するものとし穢土転生体でもある程度は穢土転生体のメリットの不死性を使う事が可能であるが、尾が増えるに従い肉体は生者のソレとなり最後は十尾形態の時には生きている人間と変わらない状態となる。

しかし、今のマダラは半死半生であり影の力を使う影十尾の効力は月光の万華鏡で消え失せてしまい、今は力半分の生きている肉体だけが放り出された。

 

「何故だ......何故無限月読が」

「ちょっとだけ使わせて貰っただけだ」

「!?」

そこには白黒反転したサソリが空間に浮遊しており、糸をマダラの身体に縫い付けた。

瓦礫を除けた御坂が上空にいるマダラに向けて電流を充電し始めた。

「くっ!!」

マダラが必死に抵抗をするがサソリは読みが当たったと言わんばかりの笑みを浮かべ。

「さて伝説の忍様はどう躱すか見ものだな」

サソリが下がると隕石を抑えていた削板の場所に一方通行が近づいていき、隕石に触れると『ベクトル変換』でマダラの位置を演算結果に反映させて掠るように弾いた。

隕石がゆっくりと進行方向を変えてマダラに向けて加速度的に落下を始めると同時に御坂は腕を伸ばして羽衣のように伸びる電性体を砲台代わりにし一気に圧縮した超電磁砲を放出した。

 

力が戻らず拘束が解けないマダラは迫る隕石と超電磁砲を避ける事も受け止める事も出来ずに直撃し、身体の大半が粉々に消え去った。

「く、くそグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアー!?!」

 

隕石と雷がぶつかり合うのを確認すると反転したサソリは静かに言う。

「決着を着けようぜ......ゼツ」

 

上半身を吹き飛ばされたマダラの肉体の中から黒い塊がマダラを覆い出していき、ニヤリと粘ついた笑みを浮かべて上空へと押し出された。

 


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