とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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リアルでゴタゴタしていて遅れました。

やっと御坂が起きてくれた


第88話 砂細工

板張りが軋むような音で目が覚めた。

幽かな人の気配。

「......」

「......」

麻痺していた感覚が起き上がり、空気の圧迫感を覚える。

決して心地良いとかではなく、両親から発せられる理解できない世界からの無常な緊張感が走り、座っていたソファを浅く居直す。

確かサソリの話を聴いてそれから......

それから?

「ん......」

何かあった事は思い出すが今起きている事象と繋がらなくて固まる。

 

「あ、あの」

砂のドームのような部屋に学生服で居る自分や気まずさを鑑みて決死の覚悟で声を掛ける。

あくまでトーンには気を付けて。

 

「......本当なの?」

御坂の目の前には赤い髪の男性と黒髪の女性が部屋と部屋を跨いで口論のような話をしていた。

男性の手には赤い紙が握られており、正気が無くなった目で立て掛けられた写真を倒した。

「ああ......今日日勅命らしい。すぐに準備をしなければ」

「で、でも」

「......国の為だ。俺らの時代では無理だったがサソリには戦火を知らない時代でありたい」

 

えっ?

えっ!?

サソリ!?

何でサソリの事?

サソリの親って事?

「いや、そう言われると似ているような」

髪が赤いのって遺伝が強いのかしら

 

せんかって戦争?

虐待された訳じゃなくて、戦争があったの?

 

グルグルと頭を巡らす。

何が正解か?

何が不正解か?

ここにいるのがサソリの両親か?

サソリはあのサソリなのかでさえも分からない

 

幾重の肉弾戦や能力を駆使した戦いをしてきた御坂だが、大多数の戦争というのは体験していないし書物の中、歴史の流れでしかない。

 

サソリはずっと昔の......?

 

「......」

ギギィ......

油が切れたかのような軋む音がして御坂は物思いに耽っていた頭を起き上がらせた。

「!?」

先ほどまで肉感のあった男女の身体が今や崩れるように燃え出して、骨組みだけになりながら這うように恐怖で固まる御坂と腕を掴んだ。

「ちょっ!?いや!!?」

「......ボソ」

御坂の腕を掴んだ男性の骨組みは細長い棒のような物を持たせる。

「え......?」

その表情は寂しげでもあり、儚くもあり、哀しくもあった。

燃え残った油が目から溢れて炎に照らされて涙のように映る。

直方体の口が開き、機械的に一定体積変化させながら繰り返し御坂に訴えているようだった。

「よ......ん.........で?」

 

よんで?

読んで

詠んで

呼んで?

 

何を!?

中年に近づくと会話の中で主語が消失して述語しか言わない事が多々あるから解読作業が大変なのよね

 

「......」

言葉を伝えられて満足したのか二人の男女の人形は御坂から離れていく。

握らせた手には巻物があり、硬く紐が縛ってある。

「えっ、えっ!?」

骨組みだらけの腕を振りながらバイバイと御坂にしばしの別れを告げる。

「いやいやいやー!!?なに一方的に伝えて消えんのよ!バイバイじゃないって!」

 

尚も手を振り続ける二人。

ぎこちなく軋む腕は御坂にではなくもっと奥の誰かに振っているようにも感じた。

彼らの乾いた瞳は御坂よりも頭一つ上を見ている。

「???」

試しに覗き込むように首だけを動かすが松明の灯りがぼんやりと揺らいでいる程度だ。

その揺らめきが大きく左右にブレ出すと御坂の視界は暗転していき。

 

 

「!?」

赤色の豪華な絨毯の上で仰向けで気絶していた御坂が勢い良く夢での反動そのままに状態を起こすと砂で強固に造られたかまくらのようなモノに頭をぶつける。

「あだっ!!?つぅー!」

 

砂のかまくらは御坂の頭突きを受けてヒビが入り、自重でヒビが大きくなるとサラサラとした砂が御坂の上に砂糖のように流れ出てきた。

「うわっぷ......??ぺっぺ」

盛大に掛かった砂を吐き出しながら髪の毛に絡む砂を払うと何か棒のようなモノに気が付いてそっと確かめるように指先で探る。

 

「これってサソリが持っていた巻物?」

それは暁派閥発足時にサソリが持っていた巻物と瓜二つであった。

解こうにも強い力が働いてあり、解けない。

これは確か......

「くちよせ......」

それを使えという事?

 

******

 

月が叢雲の中へと消えていき、枝垂かかるような暗闇が広がる中で転生体のマダラの身体を奪った黒ゼツと警策の身体を奪った分身体のサソリが互いに万華鏡写輪眼を鋭く光らせて向かい合っていた。

 

似たような字面ではあるがチャクラの総量と奪った身体の熟練さは月とスッポン程あり、サソリの勝機は万に一つ無いように思えた。

それはサソリ自身も嫌というくらい実感している。

万に一つ無いかもしれないが、十万にも兆に一つなら数値誤差で生じる奇跡に等しい確率でなら倒せる手がサソリの戦場を越えてきた小賢しい頭脳で到達していた。

 

それは幾つもの運要素が必要になってくる。

他人に頼らなければならない場面も多く、策としては破綻している無謀な挑戦に近い。

 

しきりに黒ゼツは馴染んでいないのかマダラの指を開いたり閉じたりを繰り返している。

その様子にサソリ警策はニヤリと笑い、最初の賭けが成功したと確信した。

サソリは気取られぬように淡々と冷静に構えを解かずに質問を始める。

 

イマイチ奴らの目的がはっきりしないからだ。

だが予想している。誘導をすればいい。

「一つ良いか?」

「?!」

「お前らはコイツらをどうするつもりだ?」

サソリ警策の後ろにいる湾内達を親指で指差しながらサソリが訊く。

黒ゼツはいつもの調子で口を大きく開けると小馬鹿にするように答える。

「......知ッテドウスル?カツテノ同胞ニデモナルツモリカ?」

「これでも歴史には深い方でなうちはマダラの力は常軌を逸した存在であると分かっている。力を解放すれば此処を滅ぼすのは簡単だろうな」

 

「......ホウ」

 

「だが、現在それをしないという事は......別の目的があるという事だな。例えば十尾を復活させて......コイツらを使うような感じだな。写輪眼を使うから洗脳術はお手の物だろ」

 

コイツ......

ダカラ初メニ潰シタハズダッタ

 

「図星か?十尾を復活させる為にもコイツらが必要になるんじゃねーの?」

サソリ高速で印を結ぶと強大な液体金属が溢れて、人形を生み出して刃物状になった腕で黒ゼツを切りつけ始める。

「!?」

黒ゼツはマダラの身体で術を使う為に指を動かそうとするが、震えて上手く動かずに舌打ちをしながらサソリ警策の液体金属人形を避けたが寸前で右腕が切り離されて、修復の為に塵芥が集まってきた。

「マ、マサカ......」

「指動かねぇだろ?指先は神経が多くあるからよ、少しでも狂えば印なんて結べるもんじゃねーよな」

 

穢土転生の塵芥が集まり、右腕が復活すると黒ゼツは今までにない程の憤怒の表情でサソリを睨み付けた。

「オレがマダラの手を奪ってある」

サソリ警策は印を結ぶと警策の背中から砂が溢れ出してきて、風に舞って流されると隣のビルの壁にサソリの分身体が出現してペタリと張り付いた。

砂が抜けた警策は力が無くなり、その場に小さく意識を無くして倒れだした。

 

「取り戻したかったら、オレを倒す事だなゼツ」

「サソリ......殺シテヤル」

「奇遇だな。オレも貴様を殺すつもりだ。来いよ寄生虫野郎が」

 

黒ゼツは屋上のフェンスを突き破ると一直線にサソリの分身体目掛けて拳を振り上げた。

 

そうだ来い......

これでケリを付けてやるぜ

 

サソリは写輪眼がクルクル回転し始めて、右手を握り締める。

勝負は気付かれる前の一撃だけだ。


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