とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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遅くなって申し訳ありません!

体調不良で寝込んでました
また少しずつ書いていきます


第82話 外道

ゼツを倒す為に肉体を捨てて些事なチャクラへと変容したサソリは必死に今まで見聞きしてきた情報を反芻しながら演目を組み立てるように策を練っていた。

 

そこには絶対的な目的として暁派閥のメンバーの無事が入っている。

御坂のここ最近の心理傾向や性格を考慮すれば意識を失わせるのが得策だろう踏み。

印を結び各メンバーに持たせたバッジのチャクラを辿る。

 

砂の盾は自動で守るように動くが数人襲撃されたようだ

だが、命を喪っている者はいない

 

この世界に戻ってきて初めての少しだけ安堵の息を漏らした。

 

「まさかねぇ.....貴方の心を読んだ辺りでここまで計算しているとは」

「明らかにオレを利用する事を考えている奴らだからな」

 

サソリ警策と食蜂は気絶した御坂の安全を確認するとサソリ警策が印を結んで土で出来たかまくらを作り、御坂を慎重に運び入れる。

「割と紳士なのねぇ」

「違えよ。元々はオレの身内争いみたいなもんだ......こいつらには関係ね」

運び入れると鬱陶しそうに履き慣れないタイトなスカートをバタバタさせながら舌打ちをしてナース服の第1ボタンを弾き飛ばした。

 

「ここまでするんだからぁ、何もありませんでしたじゃあ済まされないわよぉ」

「まあな......」

「あらご教授してくれるかしらぁ」

「......上条当麻という奴を知っているか?」

「っ!?」

不意にサソリから飛び出した予想外の人物に食蜂は顔を少しだけ強張らせた。

「そいつの右手は結構使えそうだな」

「な、何でそれを......」

「お前に記憶を読まれている間にお前の記憶を読んだだけだ.....御坂も知り合いのようだしな」

サソリ警策が不敵に笑いながら万華鏡写輪眼を光らせた。

 

あ、あの短時間でっ!?

ララの身体を使っているとはいえ......私と同等の心理系能力の演算が可能なの!

 

「それに前に会った事があってな......オレの分身が消されたのもそれだろ。これからの動きを軽く説明する」

 

サソリ警策はカルテの余白にペンのキャップを咥えて流れるようにペン先を走らせて簡単な図を使って食蜂に説明を始めた。

 

「ゼツ達の戦力で1番厄介なのは穢土転生を使った黒ゼツだな」

 

トビ......学園都市第1位の能力『一方通行』を使い全てのベクトルを操る。加えて血継限界の木遁を使う。

 

白ゼツ......レベルアッパーを使って学園都市のほとんどの術を掌握。

 

黒ゼツ......穢土転生の術を用いてうちは一族の創設者『うちはマダラ』を呼び出して、身体を乗っ取る。

 

「穢土転生の術は死者を蘇らせる術になる。呼び出した者と呼び出された者の間に契約が生じる......これを断ち切ることで厄介なうちはマダラを死者に還らせるのが可能となるはずだ」

「それで彼の能力を?」

「そうだな......はっきり言えば『賭け』だな。それぐらいしか思い付かねぇ」

 

一応、術者に写輪眼を使って操り穢土転生の術を解除させる事も考えているが、今回は呼び出した者が『黒ゼツ』で呼び出されたマダラの身体を乗っ取っている。

僅かに遺ったチャクラでマダラと写輪眼勝負を挑むのは無謀と言わざるを得ない。

 

今は『オレ』が死んでいると思い込んでいるこそ、絶大な力を得たゼツの裏を掛ける。

『死』は自然界ではありふれた手段だ。

食物連鎖や生と死の二元論を話したい訳ではないが、生きているモノは死を間接的に理解している。

死ぬとどうなるか知っている。理解している。

だからこそ、それを武器に使うモノもいる。

生き残る為の武器に使う。

有名所では『擬死』.....つまり死んだふりだ。

諸説あるが、生物は動いてこそ『生物』と云える。動いているモノが獲物であり捕食される危険性があった。

よって動かなくなる事で生物の枠から外れて『死物』となった場合。捕食者の認識からズレていく。

死んだモノについて考えない。

死者も生者について考えない。

 

そこに漬け込む以外に勝機が見出せなかった。

 

「あまり時間がねぇな......さっさと行くぞ」

「えぇ......」

サソリが警策の髪を揺らしながら踵を返してやたら豪華な門扉を開ける視界の下側に何か緑色の物体が縮こまっているのに気が付いて、咄嗟にナイフを構える。

「「!?」」

 

「やっと開きました.....さすがに待ちくたびれたケロ」

縮こまっていた緑色の物体が立ち上がると足先まである長い白髪にカエルの面を着けた全身緑の着ぐるみを着た女性がこちらを大義そうに見上げている。

「......」

「......」

「......」

 

いや!誰だー!?お前

カエル!?

 

しばらく硬直状態が続いた後にカエル女は腕を伸ばすと決めポーズをして両腕を頭に持ってくると身体を左右に振り始めた。

「ミュージックスタート......」

「......」

思い切りカエル面がバタバタと動いて吸気音が響く中で手拍子をしながら音頭を取り出した。

「♫パーパカパンパン〜パーパカパンパン」

お前がミュージックやるんかい!!

 

サソリ達の怪訝そうな表情を無視してカエル女は手を腰に当てて踊り出す。そして決めの歌があるらしくヘンテコなメロディーに合わせて歌いだした。

 

♫アマガエル ミドリガエル

トーノーサーマガーエル

色んなカエルがいるけれど

名前を知らなきゃやってられん

♫ブジカエル サキカエル

ヨーミーガーエル

いつでも貴方にバッコンギッタン〜

 

「はい!」

「......?」

「あのー、何か反応してくれないと困りますね。私が駄々滑りみたいじゃないですか」

「いやぁ、アンタ滑っているわよぉ」

「えー。超ショック......朝食抜かれて」

ガクーと肩を落とすがカエル女は頭だけをこちらに向けてややトーンを低くして少しだけ殺気を強くした。

 

「本当ならもっと早くに接触を試みるべきでしたね......そうすればこのような事態は避けられたと考えます」

「?」

白髪の女性は着けているカエル面のゴムを伸ばして緩めるとゆっくりと面を外した。

「!?......御坂?」

カエル面の下から御坂美琴と見紛う姿が顔が出現しサソリ達に緊張が走った。

鼻先から目元に深い傷があり、額には横に糸を結んだかのように一線だけ皺が入っている。

「そう名乗っていた時もありましたね。今は『外道』と呼んでください......暁派閥のサソリさん」

「いっ!?......(バレているわよぉ)」

「いやはや、男性と聞いていましたが随分と可愛らしい容姿をしてますね」

 

口調は乱暴であるが現在サソリが写輪眼の力で乗っ取っている女性はまだ年端もいかぬ少女には違いなかった。

「......目的は?」

「そう構えなくて良いですよ。私の目的はゼツの完全消去です。どうです、私の組織と手を組みませんか?」

ニヤリと笑う口の下にはキッチリと首に走る一周分のノコギリ傷があり、首には円の中に内接している三角形のネックレスをしていた。

 

******

 

『目の前に自分のクローンが現れたらどんな気持ちになりますか?』

 

それは何気ない問いだった

世界には自分に似ている人が3人いるらしい

この問いに関して貴方はどう応えるだろうか

 

自分の姿や顔を見ると鳥肌が立つ者もいれば無意識的に鏡を避ける者もいる

同族嫌悪という言葉が指し示す通り、よっぽどのナルシストでなければ生きていく上で自分という全く同じ姿形の存在は同族に収まるものではなく気味悪さの塊だ。

 

私達のオリジナルのお姉さまにとってミサカは否定したい存在になる

理解したつもりだった

 

テスタメントで教えられた事は満足気に披露しているよりももっと大切な人の気持ちなんて考えずに過ごしてきた自分。

逢ってみたい気持ちがあったがこの考えの前では何もかもが崩れていき、思考が止まる。

地球の歴史から考えれば人間の一生なんて短いもの......更に無理矢理造られた私達クローンの一生なんて閃光よりも儚いだろうな

 

だから

これは罰だと思った

 

どんな銃弾も跳ね返し、核兵器をもってしても勝てない相手。

世界中の軍隊を敵に回しても笑っていられる化け物を相手に向かわなければならない

逃げる事すら許されない実験に......

 

だからこそ

相応しい罰なのだろう

失敗作のミサカに取っては

存在する権利すらない私達の一生はこの一発の銃弾よりも短く、夜空を照らす能力光よりも薄ぼやけている

 

 

「はあはあ......」

せめてもの抵抗でビリビリと蒼白い電撃を流すが化け物に跳ね返されて、身体が痺れて倒れ込む。体力の限界からか出血を抑えながら呼吸するのが精一杯だった。

 

死ぬ?......私も?

 

路地裏の隙間から見える夕焼けの空を見上げた。

この空の下に『お姉さま』がいる

ずっと逢いたくて、興味が尽きなかったモノ......家族

同じ香りの空気を吸っている

きっと私は他のシスターズとは違った考え方をした......という妄想だけで片付けられる事だろう

 

「弱くて嫌になるな」

足元に転がってもがいているミサカの傷口に手を突っ込むと残酷なベクトル変換を行った。

血を流れを逆流させ、弱く弾力性が低い静脈に流れるはずの血液がポンプで押し出された動脈の血液が流れだし、血管が耐えきれずに破裂し身体中のありとあらゆる所から出血し、心臓が破裂し絶命した。

身体が急激に熱くなってから脳の中で『ピチョン』と音がして視界が真っ暗になった。

 

次に重たい瞼を開いた時に恐怖に慄いた『お姉さま』とシスターズを連れて行こうとするゼツの姿だった。

首から下はなく何を言っているか分からないが空気音とお姉さまの表情で何となく理解した。

 

やっぱり恐れられたんだ

心の底から不快に思っていたんだ

......逢えなくて正解だった

会わなくて良かった

 

失敗作でごめんなさい

同じ顔でごめんなさい

もう首から上しかないからもうすぐ死にます

ミサカは地獄に落ちます

さようなら

サヨウナラ

......生きていてごめんなさい

 

大きな物体を吸い込み、吐き出した辺りで急な浮遊感の後に硬い何かに当たりグシャリと潰れるような音を聴きながら意識を手放した。

そこで確かに意識は無くなった

これが死というものだと、たくさんの経験則から知っていた。

これが死の痛み

罰の痛み

罪の痛み

頭が割れそうな痛み

 

だが、運が良いのか悪いのか不明瞭であるが物語はそこで終わらず奇妙な現実を提供していく。

オレンジ色の培養液の中でミサカは目を覚ました。

多分、抱え込むようなポーズをしていたと思う。いわゆる胎児型の姿勢でたくさんの管が身体に繋がれている。

すっかりと伸びた白い髪は浮力を得て、容積いっぱいに広がって漂ったままだ。

首が疼くような痛みが走り顔を歪め、姿勢を変えようとするが全身が重怠い。

 

「......っ!?」

培養液に居る自分を見てかモニターを見ての判断かは分からぬが若い研究者が培養液の前にやってきた。

「ん!?目を覚ましたみたいです」

「まさか本当に成功するとは......あの者が言った通りだ」

「すぐに博士に連絡してきます」

若い研究者が喜び勇みながら自動ドアを開けてカルテを持ちながら走って出て行く。

 

??

理解が追いつかないミサカ重い身体をよろけさせながら状況を把握しようと首を巡らせた。

ズキン!

鋭い痛みが走り、口から泡が漏れ出した。

良く見ると首の傷には縫合された箇所があり、気泡が漏れ出している。

 

「動かない方が良い。首が切断されていたが、問題ないようだ......どうかな「不死」になった気分は?」

 

ふし?

ふしって何?

 

鼻の上に大きなホクロを持った無精ヒゲだらけの男性がそっと見上げながら微笑んだ。

「あのお方もこの研究を喜ぶ事だろう。人類で初めての不死を体現したのだからね」

無精ヒゲの男性は大きなあくびをしながら、資料が積まれた机から何かを探すように乱雑にひっくり返しながら

「確か、ここに入れた気がするんだよな」と呟いており、引き出しを開けていく。

「おあ、あったあった......まだ外には出られないがプレゼントだ」

男性は机の中で埋もれていた金属のネックレスを手に取ると不恰好に広げた。

弛んでいる場所があるが形としては円の中に内接している三角形があるのが見える。

「どうやら必要みたいだからな......何だったかなー、殺戮が云々かんぬんみたいな感じだったが」

 

生きている?

私はまだ生きている......なぜ?

なぜだなぜだ

なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ?

 

また私はお姉さまを苦しめる

存在しない方が良い命

それなのに生きている

 

ミサカの身体から凄まじいオーラが滲み出て、培養液の入った筒に微小なひびが入りだしてオレンジ色の液体が水鉄砲のように放物線を描きだして出ていく。

「なぜ?私は......」

「!?お、落ち着きなさい!」

 

生かしてくれと誰が頼んだ?

誰が『ふし』にしろと言った

私は......ミサカは

誰?

 

真っ赤に染まる輪廻眼を光らせながら徐々に力の度合いを強くしていく。

額にある大きな皺が開き、普通の眼の1.5倍近い真っ赤な眼が出現すると入っている筒が光出したが、男性がスイッチを押すと管から鎮静剤を注射されて3つの眼がゆっくり光を抑えられて瞼を閉じて眠りだした。

 

「予想以上のもんが生まれたな......」

肝を冷やしたかのように汗をダラダラと垂らしながら一息つく男性。

未だに水漏れする培養液の筒に近寄りガムテープで補強していく。

「これでいいか分からんが無いよりはマシか」

伸びをしていると出て行った若い研究者が息を切らしながら慌てた様子で戻ってきた。

 

「だ、大丈夫ですかー!?先輩!」

「んあ?一瞬焦ったがな...,..それより博士を呼んできたか?」

「うっ!呼びに行ったら研究室から凄まじい音がしたんで戻ってきたんですよ」

「そうかい。ならさっさと行ってこいよ。ここなら大丈夫だ......たぶん、うん、おそらく」

 

またあの桁違いの念力を使われたら今度こそ持たない気がするが、いや鎮静剤を打ったばかりだからしばらくは大丈夫なはず

 

「ほっほっほ......大丈夫じゃよ」

「!!?は、博士!」

研究室の扉から杖をつきながら白衣を着た男性が震える手を抑えながら、ニコニコと入ってきた。

老博士はゆっくりと見上げるように白髪の少女の身体を眺めると少し思慮に耽ると思い付いたように部屋の皆に伝わるように言う。

「うむ、成功したよーじゃな......そうじゃの輪廻の理から外れた存在。『外道』と名乗りなさい」


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