とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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80話突破!
3桁行ってしまいそうな勢いですね

そして今回からジワジワと反撃を仕掛けていきますよ


第80話 愛想

学園都市崩壊騒動を引き起こしたゼツ一派の幹部である黒髪ツインテールの警策がナースのような格好で停電を想定してたっぷりと充電したタブレットを使って地下の地図を出すと能力のリキッドシャドウを使ってある端末の前に染み出させる。

 

「あと少しで学園都市も終わりね。ララ......あと少しだから」

安全な場所から人形に指示を出して、端末の隣に設置されている補助電源に繋ぎ起動させると事前に調べ上げたパスコードを入力していく。

やはり示し合わせたようにほとんどのセキュリティは反応せず位置修正の画面を引き出すと宇宙空間に浮かぶ、あの外に忌まわしき機械の画像が出てきた。

 

「機械仕掛けの神(デウス•エクスマキナ)め......突き立てる牙があるのを教えてやるわ」

と学園都市所有のスーパーコンピュータであり、世界最高の超高度並列演算器『樹形図の設計者』に吐き捨てるように言った。

 

後は位置情報を弄ってこの学園都市に落ちるように細工をすれば全てが終わる。

酔狂でもなければ、度を超えた悪ふざけでもない。

いくつもの犠牲者を出しながらのうのうと発展しているこの都市に対する復讐だ。

自分も含めて......

 

 

学園都市に対する憎悪が膨張したのは今から数ヶ月前に遡る。

 

いつものように機械に入れられての脳波の検出や能力制御の実験を終えると警策は表面だけの笑顔で検査に立ち会った白衣の研究者にペコペコと頭を下げ続けた。

 

「ハイ、今日はここまで」

「おつかれさまですっ。おつかれさまでーす」

部屋の外から一礼ではなく、留まって片付けをしている下っ端の研究者にでも態々近付いての労いの言葉だ。

一礼してはクルリと向きを変えてまた一礼をする等、まるでその部屋にいる動く者全てに頭を下げているようだった。

「またよろしくお願いします」

 

笑うという表情は他の表情に比べて筋肉を使う面積が大きく、ずっと笑っていると顔筋がピクピクと痙攣するような疲労感が出てくる。

「ハァ......実験よりも愛想ふりまく方が疲れるっての」

 

学園都市で上手くやっていくには研究者に取り入るのが一番だ

 

「前回よりも数値が上がってるね」

「わぁ!本当ですかぁ。うれしー!みなさんのおかげですぅ」

 

努力が実るなんてウソ!!

進学先が就職を左右するように所属する研究機関が私たちの将来を決める

気に入られるための愛想笑いもすっかり板についた

自然と外面だけは良いペルソナを身に付けては言葉にするものは相手の機嫌を良くする饒舌なセリフ。

年齢にして14歳。

常に人の顔色を伺うアダルトチルドレンだったのだろう。

甘える事も許さず、反抗に蓋をして華々しい就職先(未来)を獲得する為の算段だった。

そう割り切れば太い注射からの副作用がいやに強い薬にも耐えられた。

ただ、そのペルソナのせいでこのコを押し付けられたのは誤算だったけどね......

 

ひたすら人間に媚びを売る小動物のように愛想を振りまいていたある日。

すっかり研究施設内で手間の掛からない『良い子』になっていた警策にとある研究者が一人の少年を紹介した。

 

「ね!空いた時間で良いからこの子と遊んであげてくれない?」

車椅子に座っている少年は点滴を受けたままで顔を赤くして俯いていた。

髪は警策のように真っ黒であるが少年の瞳を見た瞬間に背筋が冷たくなる。

紅い瞳に巴紋が浮かんでいる異形の眼をした何処か寂しげな少年。

 

「この子は『ララ』。同年代の友達が居ないから話しをするだけでも構わないから仲良くしてあげて」

 

「......ええ、私でよろしければ」

正直に言ってしまえば面倒くさいという一言に尽きた。

ずっと取り入る事に、気に入られるように大人達に振舞ってきたがここで同年代のしかも異性ともなればどのようにして良いか分からない。

大して権力も無いであろうこの少年と仲良くなる事に果たして意味があるのかと内心考えてしまった。

 

しかし、アダルトチルドレンは感情を封じ込めて言いなりに徹しなければならない。研究者が『仲良くしてあげてね』と言ったら鬼だろうがタランチュラだろうが仲良くするのがここのルールだ。

 

それ以来、実験の時以外はいつも彼の部屋に居るようにしている。

部屋の監視カメラに良く映えるような位置どりを考えながら良い印象を画面の向こう側に伝える為に。

「こうざくみとり......みとりさんで良いかな?」

少年は初めての女性相手にどうすれば良いか分からないようで照れながらも懸命に話し掛けてきている。

 

まあ、社交辞令程度の受け答えなら応じるわよ

 

「なんで外に出ちゃダメなわけ?」

「なんかチリョーみたいなんだ。それがマダラになるためだって」

「?まだら?」

 

意味わからん

 

「僕も良く分からないんだよね。ゼツからは兄だって教えて貰ったんです。それに妹の為でもあるって」

「ふーん、兄妹がいるんだ」

「逢った事ないですけど」

 

家族の事を話す彼は少しだけ誇らしげだった。

「いつか逢ってみたいんだよね。マダラ兄さんと妹に......そして一緒に暮らしてみたい」

「考えていれば叶うんじゃないかしらぁ」

弟の様であり、歳上の兄のような丁寧な言葉に凸凹とした印象を受ける。

きっとこの堀の向こう側にこのコを待っている家族が居るんだと分かった途端になんかずっと独りだった自分とは違っていて恵まれた存在のララに少しだけ嫉妬した。

 

「ありがとうね......みとりさんの夢も叶うよ」

窓際で二人並んで話している時にララの瞳が妖しく光だして巴紋がクルクルと回り出して、引寄せられて魅入ってしまった。

宝石のような不思議な魅力な輝きを放つ眼を見詰めているだけで何か穏やかな気分になれた。

何でも出来そうな気がする。

 

「夢ねぇ......アンタに話して叶うなら苦労はないわっ」

「うわ、酷いな」

露骨に落ち込むララを見ているとなんだか元気が出て来て、グシャグシャとツンツンとした黒髪を撫で回した。

「?」

「しょうがないわぁ。友達になってあげるわよ」

「ほんとー!ありがとうね」

 

見た目相応の無邪気なララと居るだけで、愛想笑いじゃなくて本当に笑っていられる

そんな気がした

ララと過ごす日々が重なると警策は押し込めていた感情の封を徐々に解放していく。

 

歯車が狂い出したのは何でもない日だと思っていた日だった。

予定されていた実験が早めに終わり、警策は日課となっていたララの元に急いでいた。

 

今日は何して遊ぼっかな?

この前見せて貰った『すさのお』って凄かったわっ

 

「お邪魔するわ......ね」

「!?」

扉を開けると部屋で定期健診中だったらしいが普段実験し易い服装で隠されたララの胸部から腹部に掛けての部分が露わとなり生々しい褐色の傷痕に大小のシリンダーが突き刺さり、妙な経文のような文章が臍を中心に渦巻いていた。

「!?......」

咄嗟に口を抑えて警策は酷い有様のララの身体を直視し続けてしまった。

「やあッ!」

ララは聴診器を振り払い身体を実験着で隠した。

軽く震えているのが分かった......

あれだけ他人のご機嫌を取るのが板に付いて来たと豪語していた癖に本当に大事にしたい人の前だと固まって何も出来ない自分の醜態を見せ付けてしまう。

 

「そ、それって......」

やっと出て来た言葉がこれか

でも思い付かない......どうすれば良いのかなんて分からない。

 

部屋の出入り口で固まっている警策の腕を定期健診に来ていた研究者が溜息を吐きながら少し広めの場所へと連れ出した。

 

これは失望の表れだ

期待に添えなかった時の反応だ

分かり切ったように、悟ったかのように研究者を踏み台にしようとしていた自分の甘さが露呈して狼狽してしまう。

 

「今日は帰りなさい。あの子が治療でここにいるのは聞いていただろう?生活していくためには生命維持装置が必要なのよ」

 

生命維持......

本当に?

あれほどの恐ろしい装置を付けないと生きている事が出来ない身体なの?

あんなに元気で自分よりも真っ直ぐなのに......

 

学園都市で上手くやっていくには研究者に取り入るのが一番だ

邪魔立てなんてもってのほか......

 

警策は何故か特異な研究者である『ゼツ』が居座る部屋の前に案内された。

事実上の研究者のトップに君臨している異形なる者だった。

扉をノックするとすぐに「どうぞ」と軽い調子の返事が来る。

「失礼します」

「いらっしゃーい」

「......」

「あれあれ?元気がないね。こっちは特別な報酬を用意してあるのに」

「ララの身体は一体......」

語気を強めて警策は言い放ったがゼツは構う事なく警策の分の紅茶を淹れると湯気が立ち上るマグカップを前に出した。

 

「ありがとう......君のおかげで苦労していた万華鏡写輪眼を手に入れられたよ」

「?」

頭が付いていかないが、警策は論理の段差が大きいゼツの話しを反芻するように頭の中に留めた。

「......」

「そうだね。次は上手くいけばララの寿命が伸ばせる実験になるね」

「ほ、本当......ですか?」

「ああ、だけどララの力が安定するまで会う事は出来ないけど待っていられるかな?」

「う、うん」

その言葉に安心したかのように警策は出された紅茶を飲むと急な睡魔に襲われて黒革のソファに横になった。

 

良かった......

またララと話せ......るのね

凄く眠たい

 

警策が眠ったのを確認すると何処かに電話を掛け始めて、連絡を取ると静かに受話器を置いた。

「だいぶ理論とズレているね」

「近シイ者ノ死ヲ必要トシナイ......オリジナルヨリモ強ク成リソウダ」

 

連絡を受けてやって来たのは防弾チョッキを着込んだ屈強な大男二人だった。

対能力者用に訓練されて能力を弱体化させる装備をしている。

 

「生かしておくのですか?」

「まだ役に立ちそうだからね。例の場所に運んでおいて」

「分かりました」

運び出された警策は引き摺られるようにゼツの部屋から出されると研究施設に備え付けてある牢獄へと投げ捨てられるように入れられた。

 

数ヶ月ー......

いや、もっと長い期間だったか

ある日、突然見張りがいなくなり表に出た警策。

すっかり研究施設はもぬけの殻になっていた。

部屋を渡り歩きながらかつてララが居た部屋に入るが私物も何も置かれていない、何も聴こえない。

 

物事はいつも順序良く来る訳ではない

不条理は常に畳み掛けるようにやって来る

混乱する頭で情報部屋に向かう。

どうやら、ララは死んでしまった事が分かった......

あの後に用意されていた寿命を延ばす実験は失敗に終わり、死体を残さずに消滅。

実感が湧かず、失意と無力感に苛まれた。

 

そして学園都市崩壊事件を引き起こした警策は淀みなくある画面を睨み付ける。

絶望を生み出した日からずっとあの何でもない日々を奪った学園都市に対する怨嗟が蓄積していく。

かつての彼との想い出を胸に抱きながら、バッテリーの切り替えを行う。

「軌道修正、座標変更......っとこれで数時間であの忌まわしい機械は落下をするわ」

 

もうすぐ地上を焼き払う怪物が本来のポイントからズレていき、大気圏に突入。

ここに落下して来ることになるだろう

隆盛を誇った恐竜を滅ぼしたのと同じように人間を滅ぼす。

夥しい犠牲で成り立つこの都市を破壊して終焉に向かわせよう。

 

ララ......

もうすぐ私の夢が叶うわよ

 

ブーーーー!

 

「!?」

警告音が鳴り出して画面一杯に『WARNING!』というウィンドウが次々と展開されて中心に『アクセス失敗』と表示された。

「!?な、何が......パスコードは間違っていないはずよっ」

デタラメにキーボードを動かしていくがめぼしい反応はせずにブザー音が鳴り続けていく。

 

盗んだカードキーでロックが解除出来ないかと伸ばした金属の触手で動かしていくが......

『協力ご苦労......少しだけ身体を借りさせて貰う』

手に持っていたタブレットから手を離そうともがくが逆に握る力が強くなり離れない。

「くっ......ああああああ......ああ......あ」

ブザー音が止んで、機械の合成音声の言葉がスピーカーから流れると強力な笛の音と画面に幾何学模様が描かれて、タブレットで地図を観ていた画面も連動していき同じ映像と音が流れて少女の瞳に陰が落ちた。

 

パキンッ!

タブレットが落ちて画面が割れ、警策はゴキゴキと首を鳴らして、黒いツインテールを搔き上げるような仕草を見せると鋭い目付きで歩き出す。

窓から見える景色を確認すると少女はほくそ笑むように黒い雷が集中する地点を見上げた。

 

「大方予想通りになったようだ......さて始めるか」

窓ガラスが幼さが残る少女から溢れ出すチャクラに耐えきれずに静かに亀裂が入った。

 

殺気の正体は愛想良くして取り入っていた少女とはかけ離れた修羅の道を突き進んで来た天才傀儡造形師と呼ばれた『赤砂のサソリ』と同じであった。

 

******

 

幻想月読と呼ばれるレベルアッパーを改良した代物を使い、反則スレスレのやり方でパワーアップした白ゼツにより爆発に巻き込まれた木山とその教え子の六道。

窓は割れ、床と壁は吹き飛ばされた事により舞い上がった木片やコンクリート片が視界を覆っていた。

 

何が起きたの......?

爆発音がして、目の前が真っ白になった瞬間に衝撃が......

 

天道は隣にいる畜生道、修羅道を見て心配の幅を狭めていく。

「痛ったー!」

「信じられない事をしやが.....!?」

 

段々と視界がクリアになるに従って教室の端っこに六人を抱えるように木山が覆い被さり、爆発によるダメージを一身に背負っていた。

「嘘よね......先生」

 

木山の背中には爆発による衝撃で飛んで来た窓枠の十字架のような木片が斜めから突き刺さり、かなりの出血が見られる。

「だ、大丈......夫かい?」

「先生......」

ポタポタと中心に居た天道に何か水滴のようなモノが頬に落ちてきた。

「良かった......すまなかった......辛かったな......居場所がないって本当に......すまない」

 

六道に覆い被さりながら木山はあの時の後悔と謝罪を述べて大粒の涙を流していた。

「ッ!......」

木山は六人の無事を確認すると片膝を付いて自重を支えられないかのように崩れ落ちていくが立ち上がった天道が優しく受け止める。

あんなに大きく感じた先生が今では小さく感じる。

 

何の力も才能もないのに

私達を助ける為に奔走してくれた

やはり......

 

「あなたが先生で良かった。木山先生に出逢えて良かった」

気を張っていた精神の緊張が解け、気を失ってしまった木山の身体から神羅天征で正確に傷口に沿って取り出すと地獄道の癒しの焔が包んで損傷を燃やし尽くし、綺麗に傷口を塞いだ。

 

「大丈夫ですよ先生......ゆっくり休んでください」

目の下の隈は先生がこの学園都市と闘い続けた証だ。

私達の為に......

 

全員の輪廻眼が光だして餓鬼道は鎧の兜の緒を締め、地獄道は大きなジッパーを上に上げる。

畜生道は指をポキポキと鳴らして、人間道はフードを被った。

修羅道はギシギシとモーター音を鳴らす。

そして天道は赤いカチューシャを被り、爆心地を睨み付けた。

 

「地獄道と人間道は木山先生をお願いします」

「はい!」

「残りはゼツを叩きに行きます」

「上等だぁ!先生をコケにした罪はデケェぞ!」

 

校舎の派手に空いた隙間から六人の影が二つにバラけながら高速で学園都市の街並みを潜り抜け移動を始めていく。

 

反撃開始!


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