とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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遅れました
すみません

あと、超閲覧注意です


第53話 人形

昨夜未明に起きた、AIM拡散力場研究所の爆発事故に関してのニュースです。

現在では使われていない施設だったので死傷者は0。

爆発の原因についてはガス漏れが指摘されており、警備員(アンチスキル)を中心に調査隊を発足し事故原因を究明していく方針だと公式で発表しており、場合によってはツリーダイアグラムを使用するとのこと......

 

朝の特ダネニュースをテレビを観ながら、布束砥信がくせっ毛を弄りやけに開いた眼で機械的な動きをしている。

 

「ずいぶん派手にやったね」

抑揚の無い声で背後に出現した、折れた棘を携えた黒ゼツを小馬鹿にしたように言った。

「あらら、予想以上の反撃にあったみたいだね」

「......アノ娘ハ?」

「研究•開発しているみたいだよ......人形に感情を入力するってね」

人間の表情筋を超越した口の動きを見せると鋭い牙と黄色い瞳が鈍く光った。

黒髪のくせっ毛は、薄緑色の直毛に変化して白ゼツが出現した。

糊でくっ付くように細胞と細胞が呼応するかのように白と黒は半身同士を擦り合わせた。

 

「邪魔サエ入ラナケレバ......サソリヲ殺セタガナ」

「zzzz」

飛び出した棘からは寝息を立ててトビが治癒の為か寝ているようだ。

「トビと二人掛かりで挑んだのにカッコ悪」

「黙レ.......ソレニ」

「分かっているよ。影十尾の器となるマダラのクローンが消えていたからね」

「間違イナク......マダラノ力ヲ手ニ入レツツアル」

「厄介な事になったね。誰かさんが仕留め損なったお陰で」

「......イヤ」

「?」

「其レデ良イ......マダラノ力ハ強大ダ......サソリノ手ニ負エルモノデハナイナ」

 

ネバネバとした口を開いて黒ゼツが腕を前に伸ばした。

「まあ、今回のメインは違うしね。っで録れた?」

黒ゼツが掌を上に向けると四角い薄い板のような物は現れて、映像が流れ出した。

 

映像では先の戦闘が流されており、所々不自然で不連続な編集が加えられていた。

サソリがスサノオを繰り出して巨大な刀身を振り下ろして攻撃している映像が流れると脚部に円痕の銃創を負い、血を溢れ出しながら倒れるミサカの映像を繋ぎ合せたような映像だった。

 

「ちゃんと録れていて安心したよ。逃げて何も無かったら、能無しだしね」

「......」

「これで御坂美琴を追い込む手筈は完璧になるよ。噂話をそれなりに広まったし」

「コノ映像ヲ観タ時ノ御坂美琴ハ、見モノダナ......」

「ふふふ、絆は完全に壊れるかもね」

「サソリ......キサマノシテイル事ハ無意味ダ」

 

黒白の人物の黄色い瞳が怪しく光出し、朝日を避けるように部屋からすり抜けて消えて行く。

棘が一つだけ真っ直ぐ伸び上がる。

 

******

 

人形風情ガ生意気ナ......

 

何故でしょうか?

ミサカは命令通りに動きました

赤い髪の少年を仕留める事には失敗しましたが......

 

モウ要ラン

 

人形

ミサカは人形なんでしょうか?

もう要らない人形なのでしょうか?

 

ミサカは頻りに雨が降り出しているパイプだらけの里にポツンと立っていた。

濡れていく髪と身体。

かつて温もりをくれたカプセルとは違い、ミサカの体温を奪っていく。

機能的には雨宿りしたいのだが、身体をどう動かせば良いのか、今は分からない位になってしまった。

大きなパイプが走行する巨大な建物の上から下を見降ろすと大きな水溜りがあり、辛うじて自分の影と分かる程度に何者かが立っていた。

 

空を見れば真っ暗な雲から雨が降り続いていて、光は見えないが妙に自分の姿と建物だけは明瞭に区別が出来た。

 

あの研究所の爆発から数日が経ち、撃たれた脚にはまだ痛々しい包帯が巻かれている。

少しだけ歩くのに障害があるが、こうやって黙って立っている分には問題が無かった。

 

安静にしていろと言われたが、命令の無いの状態は初めての経験でどうしたら良いか不明だった。

自分の存在を掻き消すように降っている雨に身を委ねながら、ミサカは静かに目を閉じた。

 

「ミサカはどうすれば良いのでしょう......?」

雨に打たれながら屋上から暗闇に浮かぶ再び水溜りを見下ろした。

 

そこへ、空間が捻れてサソリが万華鏡写輪眼を紅く光らせながら出現した。

サソリが逃げる時に使った時空間忍術だが、急ぐあまり詳しい座標設定をしないで飛んだ先がここの奇妙な建物が乱立する世界だった。

 

「ん?何で中に入らねぇんだ?」

ここは常に雨が降り続いている。幸いに建物があり雨宿りをするのは容易な事だ。

「......」

ミサカは、明らかにどうして良いのか分からない感じで斜め下を見ていた。

「ちっ!早くこっちに来い」

サソリはミサカの手を握るとやや強引にパイプだらけの建物の中に連れて行った。

手を掴んで分かったが、ミサカの身体はかなり冷えていた。

 

建物の中は畳が敷かれた座敷があれば、風呂、トイレが完備されている空間だった。

「すぐに身体を暖かくしろよ」

サソリは写輪眼で四角い木製の風呂に水遁で水を張り、火遁と複合して風呂を炊いた。

脱衣場にミサカを連れてくると

「入って身体を暖かくしろ」

とぶっきらぼうに言うと脱衣場の扉を閉めた。

「お風呂でしょうか......?」

ミサカは常盤台の制服を脱ぎだして、お風呂場の扉を開ける。

心地よい蒸気がミサカの鼻腔に入り、喉の奥から暖かくなる。

脚先から湯船に入ると、息を吐き出しながら静かに浸かる。

「暖かい......」

これは雨とは違うものだ。

身体の芯から解されていく。

 

「着替えはこれぐらいしかねぇから着ろよ」

脱衣場に黒い影が動いて、着る物を置いたようだ。

ミサカがお風呂を済ませると籠の中に黒い服が置いてあった。

「これを着るのですか」

赤い雲のような模様が刻まれた『暁の装束』だ。

普通の服とは違うのでミサカは戸惑ったが、テスタメントにより学習したストックにあり、袖を通す。

すっかり暁の外套を身に纏ったミサカは、この世界の主であるサソリを探した。

サソリは傀儡人形が置かれている部屋に居て作業をしていた。

 

そこでサソリは何か人の形をしたモノを横たわらせて、慣れた手付きで組み立てていた。

「あのー、少し良いですか?」

「ん?......」

 

サソリは傀儡作成用の道具を置いて、後方に居るミサカと向き合った。

木山と研究施設を襲撃をした時に際立っておかしい人物だ。

サソリの脳裏には、つい先日交わされた本物(オリジナル)の御坂の言葉を思い出した。

 

 

ねえ、分身ってあたしも出来る?

 

できねーの?お前くらいなら簡単だと思うが

 

そういう能力者なら出来るんだけどね。あたしには全然

 

便利そうで不便だな

 

 

まさか御坂が影分身を修得したのかと思ったが、ゼツの命令を聞いていた時点でその存在自体は曖昧なものとなる

 

「ミサカは人形なのでしょうか?」

「!?」

「ゼツ様に言われました......ミサカは今後どうすれば良いのでしょう」

「そうか......」

サソリはそう言うとミサカの指にチャクラを飛ばして修理したての風影の傀儡にくっ付けた。

ミサカの後ろにサソリは回り込み、アシストをするようにミサカの手に触れて、視点を同じ位置に持ってくる。

サソリがチャクラを籠めると風影は意志を持ったかのように宙に漂いだした。

 

「これが傀儡と呼ばれるものだ」

「くぐつですか?......操り人形を意味しますね......とミサカは今後の展開が分からないように言います」

「よし、少しだけ操るぞ。しっかり見ていろよ」

サソリが指を動かすと吊られてミサカの指も連動した。

サソリが指を曲げれば、ミサカも曲げ、腕を前に出せば、ミサカも前に出す。

 

傀儡はミサカの指に呼応するように部屋の中を縦横無尽に動き回り、口を開けたり、腕を振り回している。

 

まるでミサカ自身が風影の傀儡を操っているような錯覚を受けた。

 

初めての経験に鉄面皮のミサカの表情は少しだけ綻んだ。

「今、どんな事を考えた?」

「え?意外に楽しいな......とミサカは素直な意見を言います」

「なら......それで良いんじゃねーか」

「?」

「ゼツの野郎に変な事を言われたが......自分が楽しいと思えるなら、人形じゃねーよ。それまで捨てたら本物の人形になるがな」

 

それはかつての自分に跳ね返ってくる言葉だった......人形に成りきれなかった人間として最後まで棄てる事が出来なかった想い。

 

「お前なんかが......簡単に成れる代物じゃねーよ」

呟くようにサソリは言った。

意識してでは無く、無意識的に自分を自嘲するかのように鋭く冷淡に......

「はい?」

ミサカは聞き返した。

「何でもねーよ。少し腕の角度を直した方が良いな」

サソリは前に出していた腕をゆっくり下降させて、台の上に三代目 風影の人傀儡を置いた。

 

ミサカは、解かれた指の糸の感触の余韻に浸りながら両手を見つめた。

味わった事がない心の充実感にミサカは、やや興奮気味に質問した。

「ミサカにも操れますか?」

「傀儡使いになりたいのか?」

「ダメですか......?」

サソリは、風影の腕を外すと微調整をしてくっ付けた。

 

「......」

サソリは部屋の戸棚から黙って糸を用意して風影の傀儡の節々に付け始めた。

糸の末端には指輪状になっている操り手があり、サソリはミサカの指に丁寧に嵌め始めた。

 

「まずは立たせるところからだな」

それは、傀儡使いとしてミサカの修行を認めた瞬間だった。

「はい!」

ミサカは指を乱雑に動かしてみるが、傀儡は座っている姿勢から少し右側に傾いて、崩れるように台の上に折り重なるように倒れこんだ。

「あ.......すみません」

先ほどとは勝手が違い思うように風影の傀儡が動かせずに申し訳なさそうにサソリを見た。

 

「デタラメに動かせば良いってもんじゃねーよ。少し肩の力を抜け.......あと自分の呼吸を合わせろ」

 

真剣に傀儡と向き合うミサカの姿がかつての自分の子供時代と重なる。

がむしゃらに傀儡に没頭していた自分。

それだけの為に存在しているかのように感じていた。

 

サソリは腕を組んで、ミサカの横顔を見た。

どの指が傀儡の人形に対応しているかを見定めるようにじっくり観察して、ゆっくり確実に進めていく。

 

やはり、根本的に向いているのかもしれねぇな

ここは、御坂とは違う根気強さがあるようだ

 

それに、サソリには『ゼツ』が言った一言に怒りを覚えていた。

 

人形風情ガ生意気ナ

 

サソリにとっては一生涯追い求めた傀儡を軽んじられ、全否定された気がした。

 

このミサカを一人前にする事こそ、ゼツに対抗する手段であり、傀儡使いとしてのミサカを育て上げるのが自分に課せられた使命ではないかと考えていた。

 

指を震わせ、汗を流しながらゆっくりと動かした指を組み合わせて、傀儡人形の片膝が立たせることに成功した。

身体は倒れたままで片方の脚だけが地面に垂直に立っているので、かなり歪な姿だが、第一段階を自力で乗り越えたミサカは今までにない達成感にニコッと笑った。

「出来ました!」

「そうか......もう片方もな」

 

暁時代に居なかった、サソリの傀儡使いの弟子が生まれ、師として何が残せるかを少しだけ考えた。

 

この関係が数日後に崩壊することを知らずに......

 

******

爆破事故から数日後

ゼツは融合した状態で夜の闇に乗じて進んでいた。

奥に行くに従って夥しい数の人形(ミサカ)の死体を横目で確認しながら、虫けら以下を見るかのような目で見ていた。

 

チャカチャカと点滅する街灯の光の先から腕から出血をした御坂のクローン体が逃げるように走ってきた。

ゼツの身体に当たり、跳ね返されて謎の追跡者の足元に転がった。

 

「はあはあ......」

ビリビリと電撃を流すが追跡者に跳ね返されて、体力の限界からか出血を抑えながら呼吸するのが精一杯だった。

 

奥からやって来たのは、白い髪に赤い眼をした華奢な身体をした少年だった。

「あぁ?誰だテメェ?」

前に立っている不審者を不快そうにしながらポケットに手を突っ込んで睨み付けた。

 

「僕は、君の『協力者』だよ。気分はどうかな?第一位」

 

学園都市第一位 一方通行(アクセラレータ)

御坂美琴が第三位、サソリと交戦した麦野沈利が第四位となっており、実質的に学園都市で最強の能力を持っている少年だ。

 

能力:一方通行(アクセラレータ)

運動量・熱量・光・電気量etcといったあらゆるベクトル(向き)を観測し、触れただけで変換する能力。

 

「弱くて嫌になるな」

足元に転がってもがいているミサカの傷口に手を突っ込むと残酷なベクトル変換を行った。

血を流れを逆流させ、弱く弾力性が低い静脈に流れるはずの血液がポンプで押し出された動脈の血液が流れだし、血管が耐えきれずに破裂し身体中のありとあらゆる所から出血し、心臓が破裂し絶命した。

 

「これをあと数万回か......怠ィ作業だな」

ミサカの首を足蹴りしながら、アクセラレータは『協力者』と名乗る人物を見上げた。

 

「とっておきの方法があるよ」

ゼツは眼からも耳からも出血しているミサカの遺体から頭部だけを切り離して、髪を掴んだ。

傷口からボコボコと逆流の余波からか真っ暗の血が溢れ出しているが気にせずに持ち上げた。

 

「んあ?」

「妹達は所詮『レールガン』の劣化版だよね......だったら、本物を叩けば短縮出来るんじゃないかな」

「そりゃあ、願ってもなェことだな。どうやって?」

『協力者』からの思わぬ提案にアクセラレータは、鋭い笑みを浮かべた。

「簡単だよ。レールガンは感情に走り易いからね」

切り離したミサカの頭部の髪を掴んだまま、ゼツは踵を返して離れて行った。

「何処に行くつもりだァ!?」

「ちょっとした贈り物をね。来るべき時が来たら教えるよ」

 

******

 

常盤台の寮で御坂はパジャマの姿でベッドに横になっていた。

白井は、シャワーを浴びに行っており、部屋の中は御坂が一人でぽつんといる。

 

「色々あったみたいだけど......サソリ達が無事で良かったわ」

 

まあ、脱走した事やケガ人多数で、黒子やあの看護師の鬼軍曹にこってり絞られたらしいわね

 

「でもやっぱり、サソリがやっていないってことが分かって良かった」

あの後で読心能力者を呼んで、盗撮犯とサソリは無関係であることが証明されたのだ。

 

すると部屋をノックする音が聴こえてきた。

時刻は午後八時半を指している。

「こんな時間に誰かしら?」

恐る恐る御坂は鍵を外してドアを開けると眼鏡を掛けた寮監が丁寧にラッピングされた箱を持っていた。

割と大きい箱だ。

 

「夜分にすまないな。君宛ての小包だ」

「あ、どうも」

「では」

一瞬、ドキリとしたがラッピングされた箱を寮監から受け取った。

「?」

妙に重い。

誕生日プレゼントにしては時期的におかしい。

 

包まれた箱を御坂に渡すと、寮監は足早に去って行った。

耳まで裂けた口で笑いながら......

部屋に戻りながら、箱の中身が気になるようで何回か振ってみた。

中でゴロゴロと音がする。

ただ宛先が御坂美琴とだけ書いてあるだけで、誰からかも分からない。

「差し出し人も分からないわね......!!?」

箱の下に伸ばしていた手に流体の感覚が走り、自分の手を見るとドス黒い血がべったりと塗りたくられていた。

「......えっ?え!?」

御坂は、そこで初めて箱の中身がおかしいことに気付いた。

背中に気持ち悪い汗が流れ下着を肌に密着させる。

本能的に中身がヤバイと大号令を掛けているが、床に真っ赤でドロッとした粘性の液体がポタポタと斑紋を生み出して、絨毯を染めている。

 

御坂は、自分の反射的に離れたい欲求と格闘しながらも、落としそうになる手を必死に抑えながら、箱の口に手を掛けた。

口に引っかけて開ける。

決して開けてはならない箱を......

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー!!?」

 

限界点を超えた御坂の身体は、もはやなりふり構わずに箱を投げ捨てて、勢いで滑り落ちた箱の中から御坂美琴そっくりの首がゴトリと音を立てて転がった。

 

「何で......あたしの首が」

正気を亡くした眼でミサカは口から血を滴らせながら御坂を見ていた。

 

「ど、どうかしましたの?!」

シャワーを浴びていた白井がタオルを巻いただけの簡単な装備で御坂の悲鳴を聴いて、慌て部屋に雪崩れ込んだ。

「く、首が......あ、あたしの」

「首......ですの?」

 

もはや、まともに見る事が出来ない御坂は震えながら照準が定まらない様子で指を指す。

「......マネキンの首ですわよ。タチの悪いイタズラですわね」

「えっ......?!」

 

よく見ると茶色の髪をしたマネキンの頭部を転がっていた。

 

でも......確かに

 

両手を見ると、べったり付着した筈の血は無くなって真っさらな手になっていた。

「??」

「全く!お姉様に対する嫌がらせですわね」

テレポート能力で寮の外のゴミ捨て場に移動させて、白井はパンパンと手を叩いた。

 

「お姉様!怖かったら私に抱きついて寝ても構いませんわよ」

「いや、遠慮するわ......?」

 

マネキンの頭部が入っていた箱から一枚の紙があるのを見つけ、手に取った。

 

紙には英語で一文......

 

This experiment can still continue on.

(その実験は今も続けられている)

 

「!?」

 

悪魔の実験がジワリジワリと御坂の側まで近づいて来ていた。

サソリの知らない所で御坂との絆を壊すために......

 


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