とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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第5話 遭遇

佐天達の見舞いが終わり、サソリは一人で暗くなりつつある病室で腕組みをしていた。

「さてと……」

いつまでもこのままではな……

サソリはこれまで起きたことを頭に思い浮かべながら、順番に整理していく。

 

暁の任務で一尾の人柱力を誘拐してくる→侵入者が来たので迎え打つ→

チヨバアと桃色の髪の娘と戦闘をする→両親の傀儡に核を打たれ、倒れる→

???→忍がいない場所で治療を受けている(現在)

 

倒れ、意識を失った後に何があった?

百歩譲って、オレはあのときに死ななかったとしておくと

あの場でオレを助けられるのは、実の祖母「チヨバア」と「侵入者の娘」しかいない。

あの二人がオレを助けた?

「まさか、チヨバアが……いや、どうだろうな」

確かに家族だったが、あの殺し合いをした後でそんな感情が起きるだろうか?

オレが最後の攻撃を躱せなかったのと同じように、チヨバアにも微かに残る家族の敬愛が起こったのだろうか。

今となっては分からんな。

さらに「人傀儡から人の姿にする」

そんな技術をサソリ自体は持っていないし、そんなものがあることを知らない。

人を傀儡にすることはサソリには可能であるが、逆は技術的に不可能だ。

「転生忍術……」

チヨバアが最後に桜色の髪をした娘に施した術を思い出す。

あの忍術にこのような効果があるのだろうか?

……考えにくいな

チヨバアは、確かに「傀儡にさえ命を吹き込める」と言っていた。

『傀儡を人間にすることができる』とは言ってない。

ひとまず、オレはあの戦闘では奇跡的に死なずに救出されてここにいる。

そして、どうやったか知らんが……オレを人傀儡から人間にした。

人体に対するかなりの知識を持っていなければできない芸当だ。

ここまで考えて該当、可能性がある忍は……

「大蛇丸か」

かつて暁時代でコンビを組んでいた忍へと行き当たる。

大蛇丸は、木の葉で伝説の三忍の内の一人だ。忍の術や優れたセンスならば暁の組織でも随一の実力を持っている。

確か人体の遺伝子に傾倒してクローンの研究をさかんに行っていたな。

だが、そいつがなぜオレを助けた?

そんな事をしてもなんの得にもならない気がするが。

「イマイチ、アイツとは美の感覚が違ったからな」

そんなこと言うとなんでも爆発させるデイダラとも美の感覚があっていない気もするが。

 

えっと……大蛇丸は、「永遠の命」と「あらゆる術」を使うことに執心していた。

「オレの傀儡なら、お前の目的に合うんじゃねーのか」

人傀儡に改造してしまえば、永遠に近い時を生きられるし、使いたい術があったら術者を傀儡にしてしまえばある程度使用可能だ。

だがアイツは。

「そんなものに興味はないわ……貴方がやっていることは私の理想と違うの」

「……」

「術なんて、自分で使うから意味があるのよ……傀儡なんてしょせんは道具でしかないわ。別に貴方を否定するわけじゃないけどね」

術は自分で使うことに意味がある。

オレの芸術(傀儡)をただの道具と言い放ったのは、アイツが初めてだ。

あの時から大蛇丸との溝が深くなり、いつしか奴は組織を出て行った。

オレの芸術を否定した奴への恨みは次第に濃くなり、次に会う時は殺したいと思ったほどとなる。

もしかしたら、ここは大蛇丸の隠された実験場でオレはその実験体でここにいるのかもしれない。

 

長居は無用か。

下手に動けば奴に見つかるが、かといっておとなしくしているのも性に合わん。

とりあえず本体は病室から動くのをやめて、チャクラが戻っていないがせめて分身を使って情報収集をしておいた方が良いと考えた。

「まあ、居たら殺るだけだが」

逆に考えよう、これは復讐をする良い機会だ。

散歩がてらにチャクラの定着と地形の把握などやるべきことはたくさんある。

「うまくいけばこの場所を抜け出して、元の場所に帰れるか……」

そこで、サソリは言葉を詰まらせた。

帰るってどこにだ?

サソリには、もう帰る場所なんてないことを痛感した。

故郷を追われ、組織に侵入した人物を排除することもできずに戦闘に敗れた。

これまで人間でも人形でもなく、真っ当な居場所もなく、不安定な世界で生きてきた。

組織が探していることも考慮に入れておくが、かなり確率は低いだろう。

負けた者をそうそうあのメンバーが探しにくるとは思えなかった。

「オレの代わりの者が組織に入っているかもしれない」

組織の一員の証となる指輪がなくなった指を見やる。

組織のリーダーは人柱力の持つ強大な力で世界を平和にすると言っていた。

うまくいったのか……失敗したのか

オレが確実に存在した証がそこにはあるはずだった。

「……」

傀儡もない、忍としての力もチャクラも取り戻せていないオレが帰る場所はあるのか……?

サソリは迷いを振り払うように頭を横に振ると、印を結び、今度はただの分身ではなく影分身を生み出す。

影分身の術は、普通の分身とは違い分身体にも実体があり、分身体が得た情報を本体に還元することができるという利点があった。

分身体は窓を開けて階段でも降りるように一瞬だけ下に下がるとチャクラで吸着した足を用いて病院の外壁をスルスルと登りだした。

「やはり、見たことがないところだ」分身体は目で周りを観察していく。

あんな幾何学的な建物と鋭利にとがった建物はあまり見ないものだ。

里というのは「隠れの里」という名称がある通りに敵に見つからないように里を構築して外部からの攻撃に備えるものなのだが……これじゃ、攻め込んでくださいと言わんばかりの目立つ建物が多すぎる。

大蛇丸の隠れた実験場だとしてもかなり目立つな。

「何か感知するための塔なのか?取りあえず高いところへ移動して一望してみるか」

病院の屋上から飛び上がって、近くのビルに手を掛けて更に上へと移動していく。近くにあるビルの壁に足を付け、チャクラを集中するとスタスタと壁と垂直になって走り登っていく。

「平面で上りやすいが、窓は避けていた方が良いだろう、と」

サソリはガラスで透けるのを防ぐために、コンクリートの壁をヒョイヒョイとあみだくじのように歩いていく。

「うーむ、どう考えても窓が多いな。罠が用意されているかもしれん」

サソリの脳裏にガラス窓を突き破って忍が黒い塊となって攻撃してくる仮想映像が流れた。

用心は怠らない。

今歩いている壁は大丈夫か?

とチャクラで吸着してある足元を叩いてみる。

「かなり硬い物質で出来ているみたいだ。これなら大丈夫だろう」

歩みを進めると目の前に長方形の物体が見えてきた。

「ん?」

サソリは警戒しながらゆっくり音を立てずに周り込むように長方形の物体に近づいた。

♪~

何やら鼻歌が聞こえてくる。

「今日も汗水垂らして働くのよ~、帰りゃ女房と娘が待ってんだ~」

歌か……チャクラを感じないから幻術の類ではないか。

長方形の物体に乗っているのは作業着姿の中年男性だった。窓をきれいに清掃している。

「ありゃ!あんちゃん!こんなところまで登ってくるなんて能力者かい?」

「ん、ああ」

「そろそろ下校時間だから家に帰んな。能力者として訓練するのもいいが休むことも肝心だぞ」

サソリを能力者だと思って声を掛けたらしい。

ひとまず訊いてみるか……

「おい、大蛇丸を知っているか?」

「おろち?なんだペットの名前かい、いやー見てないね」

男性は怪訝そうな顔をするとペットの話だと思って言った。

末端の人間は知らないか……

「なあ、ここから出るにはどうしたら良い?」

「出る?許可書がないと出れんはずだぞ。無断で脱出するってんなら上に見つかる」

「上?」

中年男性が指を差した方向を見る。

「上にチカチカしているのが見えるだろう」

黄昏の時刻の空にチカチカと点滅を繰り返す何かがサソリの視界に見えた。

「ここの学生ならあれに見張られているから、脱出は考えんほうが無難じゃ」

「あれは何だ?」

「さあね、偉い人が造って、みーんなあの機械が決めてんだ」

「機械?……」

「そうだ、あれが全て決めてんだ。明日の天気から実験の結果と運命までも」

「運命……」

「そうだ。運命さえも機械に決めてもらったんじゃあ、人間も終わっちまうんかな。じゃあな」

「ほう」

長方形のゴンドラはサソリの進行方向とは逆に下降していった。

サソリはそのまま前進していく。

運命さえも決める機械?興味深いな

サソリの後ろ姿を見ながら、中年男性は思う。

「少し独特の子じゃな。あれを知らんとは……まあ知らない方が幸せかもしれないが」

人々の暮らしを豊かにするために開発されたものに今度は縛られていく哀しさがそこにはある。

サソリはチカチカと点滅するその物体を追いかけるようにビルの屋上に移行した。

運命

サソリには嫌いな言葉だ。

死ぬ運命を逃れるために人傀儡の世界に傾倒していった。

運命を決める者……それは古くから伝わる伝承では「神」と呼ばれる代物だ。

登っているが、解っている。

神と呼ばれる存在は決して手の届く距離にはない。神はただ試練を与えて無感情に駒を動かすだけの冷徹なもの。

遥か天空にいるソイツを睨み付ける。

あれが大蛇丸の策謀ならば大した奴だな。

屋上へと着くと仄かに力なく点滅する神を握り潰すように目の前で拳を重ねた。

「オレをここに閉じ込めておけると思うなよ」

 

学園都市の遥か上空に存在する人工衛星としての世界最高のコンピューター「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)」はとある演算結果を提示していた。

毎日のように送られてくシミュレーション依頼の実験の合間を縫って静かにそれは進行している。

おそらく科学者や人間が気づかないほどの小さな異変から最悪の事態を想定しての演算。

全ての関係者に迅速に指令が出せるように設定し、関係者を選定していく。

仮想未来を想定しては全ての住民(二三○万人)を振るいに掛けていく。

1人、また1人と落としては再浮上させてもう一度シミュレーションをする。

それが現実にならず、シミュレーション結果が削除されることを願いつつ……

結論から言ってしまえばサソリを呼んだのは、ツリーダイアグラムではない。

彼は偶発的に現れた。それにより生じた不確定要素は、大きな波紋となって都市全体に広がっていく。

 

あれが監視の物体だとすればオレは既に見つかっていることになるな。

サソリは、ビルの屋上からぐるりと自分がいる都市を見渡す。四方全てを掘りで囲まれている要塞のような姿を視界に収めた。

「……がくえんとし……か」

閉鎖的な外観の都市を眺めて、サソリは黙ってビルの下を覗き、飛び降りるように漆黒に包まれる市街へと身を投げた。

まだ分身の自分を解く気にはならない。

 

分かったのは、ここは元いた世界ではない。

チャクラや忍が概念として抜けている世界だ。

実験だとすれば長期のものだろう。

当たり前のことを与えずに生物が成長すればどのようになるか?

という実験は過去から現在まで数多く行われてきた。

チャクラという概念を知らないということ自体も実験だろう。

だが、それを行うことの結論、結果が分からん。

まあ、分からんから行っているのだろうが。

知らないなら、知らないで通りそうだ。

傀儡もなく、生身の人間の身体に閉じ込められたような感覚のままサソリの影分身は彷徨うように都市の中を歩いていた。

自分を証明するものがない今。

オレは本当にあの忍の世界にいたのだろうか。

あの時に両親に貫かれた機械的な核貫通感覚。

それさえも今となってしまえば曖昧な存在となる。

新しく知識が増えたからなのか、それとも不明点が明らかになっただけなのか……

サソリは鉄橋に差し掛かった。欄干から流れる川を眺める。

忍だった頃、組織にいた頃では使えなかった時間だ。

何もしないで流れる水と煌々と光る街灯と通り行く光線を見やる。

一つ一つに詳しい説明が付属していない、ありのままの風景を頭に残す。

「オレは後悔しているのか?」

暁の組織で人を殺めたことか……違う

人道から外れ抜け忍となったことか……違う

両親を人形にしたことか……たぶん、違う

負けたことの後悔なのだろうか、あの時に動いて反応していれば負けずに済んだかもしれない。いや違うだろう。

サソリは自分の思考結果を嘲笑った。

これが現実、これが結果だ。

オレは負けた。だが生きて動いている。

もう、それでいい。

「オレは分身だ。消えれば本体に戻る。役目はこの場所を調べることだ」

サソリの分身が帰結したことは本体の一情報として処理される。

ただそれだけだ。

「さてそろそろ戻るか」

辺りはすっかり暗くなった。人の通りもまばらになる。

すると、そこへ髪が妙にツンツンとした青年がサソリの前に息を切らしながらやってきた。

「あ!アンタ逃げた方が身のためだぜ。後ろから不良の方々が……いない!?」

後ろを振り向いて、男はサソリの目の前に来て肩で息をした。

「よし、うまく撒けたみたいだ」

男が来た方向をサソリは黙って見続けていた。

「いや、誰か来ているみたいだぞ」

「うえ?」

とその時に橋の端から青白い閃光が一直線に飛んできた。

男は右手で光線を受け止めると、右手に触れるや否や閃光は収束して四散していく。

「サンキュー、助かったぜ」

サソリに向かって会釈する。

「何やってんのアンタ!不良から守って善人気取り……ってサソリ!?」

見知った顔が暗闇の中から街灯で浮かび上がった。

御坂美琴だ。

「おう、お前か……何かあったのか?」

「あたしが情報収集していたところをこのバカに邪魔されたのよ」

顎で男を差す。

「なんだよ、人がせっかく。アンタひょっとしてこのビリビリの知り合いか?」

「ん、ああ、まあな」

「じゃあ、あとは頼んだ」

「待ちなさいよ。今日こそ決着をつけるわよ」

「頼むぜ。もうこんな不毛な争いはしたくねえんだよ」

御坂が電撃を飛ばして、男に当てるが右手で打ち消される。

「まあ、いい奴なんだが、少々喧嘩早いからな、なっ!」

と男は右手でサソリの肩を掴んでお願いするが

「ん?」

サソリの身体が煙のように消えていった。

……

……

「へ、へ?この右手は異形の能力を打ち消すだけであって人命を奪うような代物ではないと上条さんは思っていたわけですが、殺ったの、この歳で上条さんは殺人罪に処されるのでしょうか」

サソリが消えた痕跡の煙を集めて元に戻そうとするが、煙と化した分身は戻らず、手の流れで更に強くたなびいて薄く大気に溶けていった。

御坂には前に見たことがある光景だったので頭を抱えて、帯電していく。

「それなら心配いらないわよ。それよりも、本気でいくわよ」

モクモクと御坂の背後にある空に大きな積乱雲が出てくる。

「ま、待てメンタルでかなりやられているのに、それに大電流を落としたらこの辺一帯、停電に……」

「問答無用ぉぉぉぉぉ!」

その日の晩に雨のない落雷が橋に落ちました。

 

本体に戻った、サソリは先ほど分身に起きたチャクラの変化に首を傾げていた。

「チャクラの流れが断ち切れた?どういうことだ」

あの男に触れた途端に形を作っていたチャクラが消失し、分身が本体に戻っていった。

「妙な能力の奴が多いな」

当面の目標は、こんな実験場に送ったはずの大蛇丸の調査だ。

そうと決まれば少しずつ動きだしておくか。

サソリは、病院に備え付けてあるテレビの視聴を再開した。

『現在に残る伝統名工、カラクリ人形特集』

そこでブツンっとテレビの電源はおろか部屋の電気が落ちて、一気に暗闇が支配する。

「ん?」

すぐに自家発電により、病院の電力は復旧したが、節電のためテレビには供給されませんでした。

 

******

 

翌日から病院には、一種の混乱状態となった。この一週間に原因不明の意識不明者が急増し、医師たちも頭を悩ませていた。伝染病の線も疑われたが院内感染の要因は少なく、急増する患者に手の打ちようがないと言った状態だ。

御坂と白井は、先日起こった爆発事件の犯人が意識不明であるという情報を手に入れて病院に急行していた。

原因としてはレベルアッパーが考えられるが情報不足のため断定できない。

状況を重くみた病院当局は外部の大脳生理学の専門チーム(代表 木山春生)を呼んで原因究明に尽力することとなった。

「お待たせしました。木山春生です」

御坂と白井はそこで奇妙な科学者と初めて出会った。

 

一方、そのころ佐天は自分の部屋に居た。

「病院から貰った巻物……サソリが持っていたらしいけど」

サソリを救助した時に身体に身に着けていた巻物である。今までサソリの件でゴタゴタしていたため忘れていた。

大きさは片手で掴めるほどだが、それが数個存在していた。

佐天の手からはみ出すくらいの大きさの巻物を目にして、佐天は考え込んでいる。

「巻物を使っているんじゃ、やっぱり忍者かもしれない……けど中身が気になるなあ」

極秘の文書?それとも財宝のありかを示した地図?

開いていない巻物に対して、アニメや漫画等で収集した情報を総動員して中身を想像する。

「いや、持ち主のサソリに持っていくべきかも……で、でも」

もしも財宝の在処だったらと考えると欲望は止まらない。気になっている服を買って最新モデルの携帯も……へへへ

「でもなーあれ?そういえばサソリも聞いてこないところを見ると忘れているのかも」

何度も開こうとするが、良心の呵責に悩み続けている。

「一応、文書は無事か確認だけでも……やめた。今度行ったときに訊いてみるという形で」

佐天は、巻物から手を放しパソコンを起動していつも利用している曲ダウンロードサイトへと移行し音楽プレイヤーに曲を入れようとしていた時に、バランスを崩して椅子から転倒していた。開いてページのある部分に転倒の衝撃でマウスポインタが移動すると、リンクが貼られており、そこには背景が黒塗のページに唯一文。

TITLE:LeveL UppeR

ARTIST:UNKNOWN

「何これ……?」

それは噂だけの産物が目の前に突如として出現した。

そこに倒れたイスが拍子となって巻物の封が解かれ、煙がモクモクと立ち上り、佐天の部屋には黒髪の男性が突如として出現した。

「ん?!!きゃああああああああああ」

どこから?一体どこから湧いたのこの人?

顔面真っ青で宙に浮いているが次の瞬間には重力の影響でガシャンと佐天の部屋の床へと崩れ落ちた。

佐天は男性に恐る恐る近づいてみる。

黒髪の男性は、人間みたいなのだが人間でないような雰囲気を纏っていた。

ところどころに真っすぐな線が入っており、人としてはありえない関節を無視した倒れ込み方をして床へと広がった。

 

よくテレビでかわいい人形の劇や人間みたいにリアルなロボットの開発等があるが。

人間というのは人間に形が似てくれば親しみを覚えるらしい。虫よりもサルの方が親しみやすく、サルよりも人間と言った具合にだ。

だから、ロボット工学の発展の功績にいかに人間に近づけるかの研究が続けられている。

しかし、ただガムシャラに人間に近づければ良いものではなく。

近づく中である種の恐怖というのが出てくる。

専門家の言葉で言うならば「不気味な谷」というものが存在する。

人形やロボットはある程度であれば人間に近ければ近いほど私たちは親しみを覚えるのだが、近づけるに当たって一般の人間が見たら、不意に何かが「おかしい」と思った時に一気に親しみから不気味さが強くなる領域がある。

これをうまく使った映画としては「ゾンビ」が挙げられるだろう。

人間に限りなく近いが、人を襲い、銃で撃たれても痛がる素振りを見せない彼らに不気味さや怖さを感じるのには、この「不気味の谷」が関係している。

 

佐天の眼の前に現れたこの黒髪の男性も一種の不気味さを持っていた。人に似ているが動かない瞼、身体。男性はまんじりともせずに天井を凝視し続けており、黒を基調とした服にダラリと垂らした腕と足が男性を生き物ではないことを決定付けている。

「これって人形?……」

サソリが人形を操ると言っていたけど、こんなに不気味な人形を操っているのかな?

勝手に某放送局で流しているかわいい人形を想像していたが、これは明らかに人気が出なさそうな感じだ。

「良く出来てるわ。この腕なんて本物の人間みたいな」

カチャ!

かちゃ?

人形の腕がパカッと開いて針がマシンガンのように発射されていき、佐天の目の前を通過した。

「ぎょわああああああ!!」

突如として起こった非日常に人形から腕を慌てて離すと手近にあったクッションで微かに暴れている人形の腕を抑え込んだ。

「あー、びっくりしたあ」

クッションから目線をずらして人形を見ると反動で機械的に開いた顎をそのままに首を傾けて佐天を見続けていた。

じー

じー

じー

じー

こ、怖い……物理的に怖いが、精神的にもかなり怖い。というかどっかから現れたんだ?

「これは、私を狙う敵の勢力かもしれない!」

眼を細めてじろじろと見るが、でも下手には触らない。

ふと、足元にサソリの巻物が開いているのが映る。

「まさか、この巻物から?」

いやいや、二次元から三次元の物体を呼び出せるはずが……ん!!

待てよ、これって魔法陣に怪物?

「だとすると召喚士じゃん!ほえぇ、ここまで科学は発達したんだ」

巻物に手をついてみるが、当然ながら何も起きない。

巻物に書かれている字を見る。うわー、パソコンでしか見たことないような行書体だ。

こういうのを達筆というのかしら、ミミズが這ったような字にしか見えない。

「用はないのでお帰りください。さあ、早く巻物に帰ってください」

と頭をついて手を上に持っていき、拝むような動作をする。

しかし、いまだに顎が外れているかのように佇んでいる物体はうんともすんとも言わない。

「今度、サソリに会ったら訊いてみるか。さすがに部屋に置くのにはセンスが悪い気が」

でも、動けば罠が発動する。厄介なものを病院から押し付けられたもんだ。

取りあえず、座布団を緩衝材にしながら慎重にズルズルと部屋の隅に追いやり、顔の部分にタンスからタオルを取り出して被せる。

これでオシャレなインテリアになって……いくことはない。ダラリとはみ出る腕と足。

「仕方がない。お主にはバスタオルをかぶせてあげよう」

と仰々しく言ったところでバサッと人形にかぶせる。

なんか悪いことを隠すような感じだな……

さて、人形は無事に隠せたが何かパソコンで重要な情報を開いた気がする……あっ!!

「レベルアッパーみたいなのを見つけたんだ!さてさて」

佐天は自分の音楽プレイや―にそのレベルアッパーらしきものをダウンロードした。

その人形から伸びる小さなチャクラが佐天に付着したことを知らずに……


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