とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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第49話 演技

赤い髪の少年(サソリ)の侵入により、大きく陣形が崩れた暗部組織「アイテム」。

敗北した麦野に黒い液体状のものが半身にへばり付き、床をすり抜けるように麦野を連れ去った。

学園都市では日々科学が発展しているとはいえ、目の前の現実感を喪失させる現象に絹旗は悔しそうに麦野が消えた床を素手で何度も叩いた。

 

「......超ふざけんな」

黒ゼツに身体を奪われた麦野が消えさった床を何度も触れながら、絹旗は怒りに打ち震えた。

 

聴いていない

聞いていない

こんな事が起きるなんて何も聴いていない

またいつもと同じように任務を終えたら

、シャワーを浴びて、麦野の任務の愚痴を聞いて、フレンダの超ハイテンションな会話をして......

下僕にジュースを買ってきてもらい、文句を言いながら受け取る

やっと掴んだ居場所......

チャイルドエラーから始まり、第一位の能力を再現しようと実験に肉体も精神も磨り減らされて、やっと勝ち得た場所と能力......

また奪われるのか?

 

「ここまでにコケにされて黙っているなんて超無理です」

奥歯を噛み締めて、悔しそうに目から涙を流す。

圧倒的な力の差を感じた。フレンダの姿になった赤い髪の少年。

そして、麦野を連れ去った黒い影の凄まじい殺気に気圧されて、何も出来なかった自分を嘆いた。

リーダーを失った『アイテム』は崩壊の危機を迎えていた。

 

「......」

砂から解放された滝壺は、砂を払い落としながら、目付きを鋭くして天井や床を眺め、必死に演算をしていた。

 

赤い髪の少年から感じた禍々しい拡散力場と麦野を連れて行ったモノを細部まで深く分析して比較していく。

「違う......」

呟くように言った。

確かに違う......だが、どちらも同じ系統のAIM拡散力場の特徴の波形が観測出来た。

この学園都市を崩壊させるような絶望的な力を示していることに変わりない。

 

第四位の能力者である麦野でさえも、歯が立たなかった相手。

だけど......ここで諦める訳にはいかない。

 

「きぬはた......」

周囲を巡らしながら、滝壺は絹旗に近づいた。

「?」

息を荒げている絹旗は滝壺の接近に疑問符を浮かべた。

「まだ、むぎののAIM拡散力場は消えていない......まだ生きている」

 

「!!追跡は超可能ですか?」

「可能」

滝壺と絹旗は、覚悟を決めた眼をした。

人間が本来持っている闘争心を内に秘めて立ち上がった。

「気を付けて......今まで感じた事がない程の力が一箇所に集結している......むぎのも向かっている」

 

内心は恐怖しかなかった。

麦野を倒した侵入者と引けを取らない者が複数観測され、考えれば考える程に身体は震えだす。

でも、ここで退いたら......麦野達を見捨てることになりかねない。

 

すると、バレバレの忍び足をして来る音が入り口近くから聴こえ出して、緊張が走る。

「まさか......」

 

咄嗟に物陰に隠れると、入り口から手を鉄砲の形にした黒髪の活発な少女が買い物袋を揺らしながらやってきた。

 

「あー、こちら佐天隊員!新たなエリアに到着しました」

とブツブツ言いながら、ビシッと指鉄砲を構えてた。

本人のイメージでは、未開の地を探検する探検隊のイメージである。

「太眉隊長......やはり新生ミュータントがここに居るという情報は本当ですかね......ん?隊長?隊長ぉぉぉー!」

 

ナレーション(声:佐天涙子)

突如上がった、隊長の悲鳴。

メンバーに緊張が走る。

果たして、太眉隊長は無事なのか?

そして、兵器として開発されていた動物ミュータントとは、本当にいるのか?

CMの後

衝撃の事実が明らかに!

チャンネルはそのままに!!!

 

..................

 

決めポーズをしている佐天を滝壺と絹旗は、呆れたように眺めていた。

「どう思います?」

「むぎのじゃない......」

「そんなの見れば超分かります!」

物陰に隠れながら、コソコソと話をしている。

 

佐天は崩落している天井を見上げてながら、瓦礫の前に移動していた。

「お!いい感じに崩れているではないかー!ここに太眉隊長が挟まれて、隊員に救出......いや、死んだ方が感動するかも」

中腰になりながら、瓦礫をコツコツと弄り出した。

 

ススメ!太眉探検隊

研究所に潜む生物!

黒いミュータントの謎を追え!

老朽化していた建物を調査しに来た太眉隊長。

しかし、突然轟音が鳴り出して隊員の一人に瓦礫が襲いかかった。

「ぬ!?どくんじゃぁぁぁぁぁ!」

太眉隊長は、隊員にアックスボンバーを繰り出して、押し除けた。

「た、隊長ぉぉぉー!大丈夫ですかー!?」

「お、俺はもうだめじゃ......お前達は先にススメ!俺に構うんじゃ......」

「隊長、隊長ぉぉぉー!」

太眉隊長は息を引き取った。

命を賭してまで、解明したかった動物ミュータントの調査。

隊員は涙を流しながら、隊長の眉毛に貼った味付け海苔(非常食)を食べ始めた。

 

 

「って......太眉隊長の眉毛って海苔かーい」

ビシッとセルフツッコミをしながら、佐天が腰を上げた。

「ん?」

崩落した現場の近くに身に覚えのある外套が目について持ち上げた。

「これってサソリの?」

既に術の効果が切れていた外套は佐天が軽々持てる程になっていた。

「まさか、サソリの身に何か......」

 

服を脱がされて、逃げるって卑猥な事をされたのかな......

惜しい事をしたな(←!?)

もう少し早く来ていれば良かったかも(←!?)

困っているだろうから、届けますかね

 

赤い雲の模様がプリントされている外套を畳み出していると背後から声が聞こえた。

「超何しているんですか?」

「わひゃあぁっ!?」

完全に油断しきっていた佐天は、その場小さく飛び上がった。

 

慌て見ると、小学生くらいの女の子と黒髪の大人しそうな女性が足をフラつかせながら佐天の背後に立っている。

「び、びっくりしたー!驚かさないでよ」

「超こっちのセリフですよ!太眉隊長って超誰ですか?」

「へ!?ひょっとして聴いていたりします?」

コクンとうなづく絹旗と滝壺。

「太眉隊長って......ふじおか」

「わああああぁぁぁぁぁぁぁー!忘れてください」

顔を真っ赤にしながら、何度も拝むポーズで頭を下げた。

佐天の登場に変に力が抜けてしまった、絹旗と滝壺は呆気に取られて互いに視線を絡ませた。

 

「超脱力しました」

「ふふふ......味付け海苔」

「って超そこかーい!」

「あう......あう」

しどろもどろになっている佐天は、このまま光の速度でいなくなりたい気持ちでいっぱいになってしまう。

自分を氷漬けにして殻に閉じこもった。

 

「その服の持ち主は超知り合いですか?おーい」

「......能力者......?」

絹旗が窒素装甲で氷を破壊し、中から外套を持った佐天引きずり出した。

「......うぅ......恥ずかしくて死にそうです」

涙をダラダラと流しながら、項垂れる佐天。

「その服の持ち主を超知っていますか!?」

「えと!?サソリの事?赤い髪で目付きが鋭い男の子なんですけど」

 

赤い髪

黒い服

目付きが鋭い男

 

「お前の超知り合いですかコノヤロー」

佐天の胸ぐらを掴んで、無理矢理立たせて、ワナワナ震え出した。

「ちょっ!?何で怒っているの?!」

「その男のお陰でこっちは超迷惑しているんですよ!」

「さ、サソリが?!サソリはそんな事をしないわよ」

「現に麦野が......あぁー!!」

絹旗が思い出したかのように大声を上げた。

「!!?」

「超追跡です!」

佐天の腕をガッシリ掴んで滝壺と部屋の出口へ向かった。

「ちょっ!どういう事?」

「麦野達は超こっちですか?」

「うん、そこの通路を右」

「??サソリもいるのかな」

 

首を傾げる佐天をグイグイ引っ張って連れていく絹旗と滝壺。

滝壺だけは、走りながら佐天のAIM拡散力場を計測していた。

 

??

なんか違う感じがする

この世界とは異質な......

 

******

 

テレスティーナを幻術に堕としたサソリと木山は、グルグルの面をした金髪少女を見上げた。

かつて所属していた『暁』でサソリの欠番を埋めるために入団した謎の忍『トビ』

 

「木山これを持っていろ」

と木山にキャパシティダウンのリモコンを手渡した。

「ああ」

とサソリからリモコンも受け取るがサソリの険しい表情に寒気を禁じえない。

 

「何者だ?」

見た感じでの身体は、ここに侵入する際に幻術に堕とした少女だ。

だが、チャクラの感じは金髪少女の上に覆い被さるように何者かのチャクラをへばり付いてようなものに近い。

 

それにあの面は何処かで見た記憶があるな

 

二階と一階を区切っている柵の上ど脚を組み直し、面に手を掛けた。

「サソリ先輩っすね!オイラは知っていますが、先輩にしてみれば知らないみたいっすね。トビと呼んでください」

少女の無垢な声色を使っているが、今までに感じたことの無い粘着剤のようなチャクラにサソリは不快感を露わにする。

 

トビと名乗った少女は、首をポキポキ鳴らし、軽く体操をすると見張り台のような二階部分から姿を消して、サソリの前に風を吹き込みながら一瞬で移動した。

 

「先輩......オイラと感動的な対面なのに分身だなんて無粋っすね~」

澱みなく着地しながら、トビフレンダはバタバタとスカートをはためかせている。

金色の髪がまるで生き物のように縦横無尽に流体力学に沿うように靡いた。

 

「木山、少し離れていろ」

「ああ?」

サソリはトビと呼ばれる奇妙な面を付けた少女を凝視しながら木山に声を掛けた。

着地や今までの動作から、目の前に居るのは特殊な訓練を積んだ忍であることをサソリは、静かに確信した。

 

「この女の仲間か?」

サソリが幻術に罹っているテレスティーナを指差しながら質問した。

 

「テレ......何だったかな?まあ、表面上はね......今はそんか事よりも」

急激にチャクラがトビフレンダから溢れ出して、凄まじいスピードで床を蹴り出して移動した。

それに呼応するかのようにサソリも黒い線となって消えた。

 

「!?」

一瞬、二人が居なくなったが次の瞬間には木山の右側の壁に金髪少女が叩きつけられてサソリが砂クナイを使って喉元に突きつけた。

 

は、速い

全く見えなかった......

 

木山の両眼は赤色を無くし、普通の眼に戻り、ポカンとしていた。

「流石っすね。人間になっても動きは衰えていないみたいっすね」

トビフレンダは頭を押さえ込まれているが、飄々とした口調でサソリを賞賛した。

サソリは、舌打ちをしながら更にクナイを喉元にチラつかせた。

 

「貴様らの目的は何だ?」

「オイラ達?目的はね~」

首元にクナイを突き付けられてもトビフレンダは涼しげだ。

「......」

サソリは緊張を高まらせて、クナイを持っていない手で印が結べるように宙に漂わせた。

 

さあて、何を企んでいる?

場合によっては......

 

「目的は......排便の感覚を知る事っすかね~」

 

..................

 

「「は?」」

グルグルの面をした少女の予想外の回答にサソリと木山は高まらせた緊張感を何処に持って行けば良いのか分からずに素っ頓狂な声を漏らした。

「オイラは、人間のようにうんこをする事をしないんすよ~。色んな奴に訊いても真面目に教えてくれないんすよね」

 

「何だコイツ......」

「色々ぶっ飛んだ子だ」

さすがにサソリと木山はドン引きをしたが、トビフレンダは気にすることなく胸を張り出した。

 

「オイラなりに、色々調べてみたんすけどね~。確かかなりすっきりする感覚らしいみたいっすね。先輩も人間になったからあるはずっすよね......」

 

「ふざけてんのか貴様」

「これだから嫌になるんすよね~」

 

首だけをサソリに向けて、赤い目を煌めかせた。目の前に居たトビフレンダが木の質感の分身体となり、人形のように固まった。

「!?」

「油断しちゃあ、ダメっすよ先輩」

 

いつの間にかサソリの背後に移動したトビフレンダが大きく腕を振り上げて、挿し木のように複数の樹木でサソリの分身体を串刺しにした。

 

「がっ!?」

「排便って人を殺した時のすっきりした感覚に近いって思うんすよ!」

 

「サソリ君!」

身体中に挿し木で滅多打ちにされて、崩れ落ちるサソリを目にして思わず叫んだが......直後にポンと誰かの手が木山の頭を撫でた。

「?」

木山には、何か凄まじいスピードで動いている白黒の物体にしか確認が出来なかった。

しかし、不思議と安心感があった。

 

サソリの身体を形作っていた砂鉄が崩れ始めて、真っ黒の砂の塊へと変貌した。

「さあて、次は~」

高速で移動してきたのは、外套を半分脱ぎ捨てて移動して来たオリジナルのサソリであった。

サソリは印を結ぶと、術を展開した。

 

砂鉄時雨!

 

崩れ始めた砂鉄が細かい刃となり、クナイのように攻撃をトビフレンダに浴びせた。

トビフレンダは、樹木を腕から成長させてすっぽりと身体を覆い、防いだ。

木山の目の前に上半身裸のサソリが現れて印を結ぶと地面に両手を付けた。

 

土遁 山土の術

 

床がせり上がり、トビフレンダを挟むように土砂の塊が出現して、左右の土砂が勢い良くぶつかり合った。

 

少し息を切らしながら、現れたサソリの姿に木山は内心ホッとした。

「間に合ったみたいだ」

サソリは、人差し指から伸びているチャクラ糸を確認した。

 

その糸は木山の手首に付いており、規則正しい振動をサソリに伝えていた。

握手をした時にサソリは木山の脈にチャクラ糸を付けており、木山のバイタルが手に取るように分かっていた。

 

「一瞬、危ない時があったみたいだな......」

早々に麦野との戦闘を切り上げたのもこのバイタルを伝えるチャクラ糸だった。

「大丈夫か?」

「サソリ君」

ヘタリと座り込んでいる木山の手を掴んで立たせた。

「遅くなった。こっちの方が戦局としてマズイ所だった。すまない」

「いや、謝るほどでは」

「教え子については、何か分かったか?」

「いや......邪魔が入ってな」

「そのようだな」

 

すると、壁に押し当てられていた木の分身を破壊するように緑色の光がサソリ達に向けて一筋の光線となって進んできた。

「!?」

反応したサソリは、瞬時に木山を脇に抱えると後方に飛び上がり、着地をした。

 

煙が棚引く壁の穴からゆっくりとした足取りで身体の半分が黒い物体に覆われた茶色の長い髪をした女性が悠然とぎこちなく揺らしなが潜ってきた。

 

「久シブリダナ、サソリ」

ニタァ~とネバネバした口を耳まで裂けて、余裕の笑みを浮かべている。

 

「......貴様は、その身体は?」

「ククク、使エソウナ身体ダッタカラナ」

「そういう能力か......悪趣味な術を」

 

既に正体を無くした麦野は虚ろな眼で黒ゼツの黒くネバネバした身体に支配されていた。

サソリに抱えられている木山を見つけると耳まで口を裂けて、笑いだした。

「木山モカ......トックニ死ンダカト」

 

木山の脳裏に忌まわしい記憶が呼び起こされた。

あの時に、実験の説明をした『協力者』という奇妙な存在。

身体の半身は女性であるが、半分を占める黒い塊の黄色く光る眼は忘れることは出来なかった。

 

それに身体を使えそうだから、乗り移ったという事か......

木山は唇を噛み締めた。

まただ、またしてもこのような子供が犠牲となる

 

「......知ッテイルゾ......ガキ共ノ安否ガ知リタイヨウダナ......ナラバ此方ニ来イ」

「!?」

黒ゼツの思わぬ行動に木山とサソリは目を丸くした。

「ぶ、無事なのか!?」

気付いたら、木山は前のめりで質問していた。

安否だけでもなんとか......という気持ちだ。

 

「無事ダ......意識ハ無クシテイルガナ。木山......オマエノ隣ニイルノガドウイウ奴カ教エテヤロウ......ソイツハ人殺シダ」

「オイラ達は研究者に敬意を払っているっす。なんなら子供達の快復させるように働き掛けてもいいっすよ」

「此方ニ来レバ、オマエノ要望ヲ聞イテヤロウ......サア」

 

手を伸ばして、勧誘をする黒ゼツとトビに木山は考えるような素振りを見せた。

何かを悩むように考え事をしている。

 

「.......」

「惑わされるな......木山」

マズイと思ったサソリは、木山に声を掛けた。

揺れている。このままではゼツの思い通りになってしまう。

 

「オレ達ハ学園都市ヲ管轄シテイル......ドチラニ付イタ方ガ得カナ?」

 

「脳と脳を繋ぐ研究は大変興味深いっすよ。これを学会で発表すれば、罪は相殺し元の研究生活に戻れるっす。あ!教師が良いなら子供達が目が覚めたら担任にでも」

 

澱みなく木山に取って、耳障りの良い話を展開している。

「耳を貸すな......コイツらがそんな事をする奴らじゃない」

しかし、サソリがそう言った後で木山は決意をしたように黒ゼツとトビの元に向かった。

 

「サソリ君......すまない......」

「賢明ナ判断ダナ」

「木山......」

黒ゼツの近くまで来ると、クルッと回りサソリを真っ直ぐ見つめた。

「だが、信じて欲しい......君を裏切る訳ではない......もっと早くこうするべきだったのだろう......私はもう大人だ」

 

!?

サソリは木山のキーワードに反応した。

大人......!?

あれほど毛嫌いしていた大人をワザワザ言った?

あれは、本心ではないのか?

 

サソリは一つ信じてみた。木山がどんな作戦を立てているか分からないが、何か考えがあってのことだろう。

ここは合わせるか

「木山!」

切迫した表情をして、不快そうな演技を始めた。

「残念っすね~先輩......裏切られるってどんな気持ちっすか?」

 

「木山......それで良いのか?」

「......ああ、私の為にあまり力を使わないで欲しい」

 

力?

木山の為に力を使うな...,,,

コイツラに使えということか......?

 

「何ヲゴチャゴチャト......」

黒ゼツ麦野が腕を横に振り出すと波紋が広がり、緑色のメルトダウナーをサソリに向かって打ち出した。

 

「肝心ナモノハ何一ツ見エナイ......人形ニ逃避シテイタ負ケ犬風情ガ」

 

「オレが負け犬だと?」

サソリは目を閉じて、両眼にチャクラを溜めると万華鏡写輪眼を開眼した。

「あらら」

トビフレンダが手で蛍光灯の光を遮るようにサソリの眼の変化をつぶさに観察した。

サソリの万華鏡写輪眼の紋様を見た黒ゼツとトビは、思わずたじろいだ。

「アノ眼ハ......ヤハリ、マダラカ」

「影十尾計画のね......合点がいったっすね」

 

 

かつて忍の世界を二分したうちは一族の頭目。

名前を口にするだけで、震えが止まらないとされる者がいるほど脅威となった才能とカリスマ性を持った忍。

 

長い金髪をポリポリ掻きながら、ため息を吐いた。

「『うちはマダラ』っすかー。誰がこんな細工をしたんすかね」

「マダラ?」

サソリは自分の両手を覗き込むように眺めた。

うちはマダラ......確かに奴はそういった。

伝説になぞられるように語り継がれる逸話。

一人で地形を変える程の力を持ち、木の葉の初代火影と唯一対等に渡り合ったうちは一族のかつての長だ。

終末の谷で戦死したと聴くが......

 

「身体ヲ勝手ニ......貴様ノオ陰デ計画ガ色々狂ッテクルナ」

 

「知るか!」

キッと目を鋭くするとサソリは万華鏡写輪眼から、スサノオを生みだそうと蒼く燃えるチャクラの塊を身に纏い始めた。

 

その様子にニヤリと黒ゼツが笑うと両手でガッチリと耳を塞いだ。

 

「??!」

木山はその行動に首を傾げながらも耳を塞ぎ、両目を白衣で覆った。

トビフレンダはスカートの中から黒いスプレー缶のような物を取り出すと、ピンを抜いて床に叩きつけた。

「!?」

 

床に着火した瞬間に太陽より強い閃光とジェット機が耳元を通過したかのような爆音が炸裂し、万華鏡写輪眼の力が打ち消され、出し掛かっていたスサノオが消失した。

 

「ぐっ!?」

しまった......目と耳が......

強烈な閃光に視力を奪われたサソリは、一切のうちはとしての能力を封じ込められたに近かった。

 

目と耳が使えなくなったサソリの腹部にトビフレンダがチャクラを溜めて、サソリを蹴り上げた。

 

「がはっ!?」

目と耳が使えなくなったサソリにとっては、敵の攻撃を知る手段が苦手なチャクラ感知をしなければならない。

 

「天下の写輪眼も道具一つで使えなくなるんすねー」

「はあはあ、貴様ら......」

サソリは印を結び、感じた二つの強力なチャクラ反応に向けて土砂を流し込んだ。

木山はなぜか壁際に移動しているのが分かり遠慮なく攻撃を仕掛ける。

 

「無駄ナ足掻キヲ」

しかし、土砂を避けようとした直後、部屋中に不協和音が鳴り出して、トビと黒ゼツの身体が硬直した。

「「!?」」

 

壁際に移動した木山がリモコンを片手に子供のように薄ら笑みを浮かべて強く黒ゼツ達を睨み付けていた。

木山はダイヤルを回して、出力を高めていく。

「オノレ......キャパシティダウンヲ......」

 

聴覚を封じられたサソリには、キャパシティダウンの影響を受けず、土砂が勢いそのまま黒ゼツとトビを巻き込んだ。


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