とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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第44話 偵察

サソリがフレンダに化けて、奥へと消えた数分後。

 

サソリの万華鏡写輪眼により幻術に掛けられたフレンダは、俯せのまま倒れ込んでいた。

先ほどまでフレンダの自由を奪っていた砂は既になく、サソリの戦力となるために施設の中を意思を持っているかのように流れていってしまった。

幻術の影響でフレンダから力が無くなり、時折小さな呻き声を上げて身体を震わしている。

 

フレンダの下や周りには、彼女が用意したぬいぐるみが乱雑に置かれていた。

縫い付けられたボタンの目で見上げている。

見方によっては、主を心配するかのような佇まいだ。

 

角を生やしたぬいぐるみを中心に人型の黒い物体が床からせり上がってきた。

黒い物体は、身体にあるトゲに絡みついたぬいぐるみを鬱陶しそうに払い落として上がり続けている。

「簡単ニヤラレタカ......アレホド眼ニ注意シロト」

トゲトゲとした木を背中から生やしながら黒ゼツがフレンダを見下しながら立ち上がった。

 

「処分シテシマウカ......イヤ」

倒れているフレンダの金髪を無造作に掴み上げて、虚ろなフレンダの目を眺める。

自分の黄色い目が写り、妙案が浮かんだ。

いや、前から考えていたことかもしれない。

 

「......マダ役ニ立チソウダ」

フレンダを持ち上げたまま、黒ゼツはニタニタと粘り気のある口で笑みを浮かべた。

黒ゼツの背中から伸びている、トゲがフレンダの身体に巻き付いて行った。

虚ろは眼の少女は全くの無抵抗のまま顔にへばりつく『何か』を静かに受容した。

視線の先には、真っ赤に染まった赤銅色の月とボーンボーンと硬くて鈍い音が鳴り響く。

 

 

「......ドウダ?トビ」

「悪くないっすよ」

フレンダの顔には、グルグルとした仮面が付けられていた。

片目の部分には視界確保の為の穴が開けられており、紅色の目が光っている。

トビと呼ばれる存在は、身体の調子を確かめるように伸脚をして、身体の筋を伸ばす柔軟体操をしている。

「でオイラが寝ている間、計画は進んだ?」

声はフレンダの声帯を使っているらしく、年相応の声色であるが、口調から姿の影響で得体の知れない様相を呈している。

「不測ノ事態ガ発生シテイル」

「不測の事態?」

腕を交差させて肩甲骨を解しているトビに黒ゼツが一方的に言った。

 

「サソリガコノ世界ニ来テイル」

「ええええー!マジで!?」

コントのように仮面を付けたフレンダことトビが盛大にこけた。

スカートが捲れて、ストッキング越しに白色のパンツが丸見えになってしまう。

しかし、羞恥心の欠片もないトビは気にせずに上半身だけを起き上がらせて、あぐらをかいて座った。

 

「サソリ先輩っすか!?確か死んだんじゃなかった?だって、オイラ普通に先輩の指輪を拾ったすよ」

トビは暁のメンバーの証である指輪を見ようと左手の親指を見るが......

「あ、しまった!身体が違うんだった」

女性の滑らかな指を視界に収めると、自分の膝を叩いて失敗を愉しんだ。

 

「......死ンダハズダッタガ......コノ中ニイル」

「そうみたいっすね......もしかして、オイラを呼んだのって」

黒ゼツは、足元に転がるキリンのぬいぐるみを手に取るとねじり切るように首を切断し、トビの目の前に投げ捨てた。

飛び散る綿。

トビは、フレンダの金髪を掻きながらゆっくり立ち上がった。

「邪魔サレナイ内ニ始末シテオクゾ」

「そっすかー!面倒な事になったんすね」

トビは、千切れたキリンのぬいぐるみの首を踏み付けると首を回し、散乱した綿を集めてホワホワとした球体を作って上に投げたり、握り潰したりして遊んでいた。

そして、ジッとぬいぐるみを見ていると声を上げた。

 

「あっ!?」

「ドウシタ?」

「......この身体は女っすよね?」

「ソノヨウダナ」

「じゃあ、うんこする時に性別による違いってあるんすかねー?」

あまりに予想外の質問に黒ゼツは閉口した。

「......知ルカ」

「そうすっかー。いやー興味が尽きないっすね」

グルグルとした仮面を付けたフレンダが顎に手を当ててなんとも楽しそうに考え込んでいる。

 

******

 

フレンダに化けたサソリは通路を走っていき、万華鏡写輪眼で周りの状況を把握するようにキョロキョロと見渡していた。

 

木山の教え子とやらを早めに探しておかないとな......

つーか、今まで見たことがない機械がたくさんあり過ぎて全然分からんな

知っている奴を見つけて縛り上げてみるか

 

廊下を走っている時にガラス窓があり、一階下の部屋を見ることが出来た。

大きなモニターとキーボードが配置してあるコンピュータ室のようだ。

 

「うーむ......とりあえず、あそこに木山を飛ばせば良いか」

この世界にはサソリの理解を超えた物が数多くあり、ガラス窓に手を置いて詳細に写輪眼に写していく。

「ん?」

部屋の片隅に誰か立っているのに気付いた。

茶色の髪に頭にはゴーグルをしているおり、手に何かを持っている。

そのシルエットにサソリは見覚えがあった。

「御坂?」

しかし、身を乗り出してみるがガラス窓に阻まれて顔までは見ることが出来ないでいた。

 

「アイツがどうしてここに?」

「フレンダ?」

サソリフレンダが窓に手を置いたまま、声の主を探す。

声はするが姿が見えない。

首を傾げて、ズレた帽子を直していると

「ふ、ふざけているのですか......フレンダ」

サソリフレンダが目線を下げると、小学生に近い身長のフードを被った女の子が身体をプルプル震わせながら、握り拳を構えていた。

サソリフレンダは、慌てて窓から手を離してフレンダと呼ばれる少女の演技を始める。

「ご、ごっめーん!いや、小さくて気づかなか......!?」

咄嗟に身を捩って、少女の強烈なパンチを躱した。

ガラス窓に風穴が開いて、大きくひしゃげた。

「誰が、小学生並で豆粒で超チビ助だぁぁぁー!」

 

そこまで言ってねぇ!

 

バラバラとガラスの破片が散らばりながら大きく穴が空き、横目で確認する。

 

危ねぇ

コイツは......確か

 

サソリフレンダは、冷や汗をかいた。頬を少し掻く。

 

「超よけンなぁッ!これでも、年齢や身長を考慮すれば超完璧なスタイルと言い切れますよ!」

口を膨らませて、拗ねたような態度を見せます。

「大体、フレンダも超幼児体型に近いではないですか」

 

サソリの頭の中にフレンダから読み取った情報を浮かばせる。

この娘は......絹旗という奴か

サソリフレンダは、コホンと咳払いをする。

「いやー、ちょっとむぎのんに用事が出来ちゃってねー。どこにいるか分かる?」

腕を組んで、機嫌が悪そうな態度の絹旗に、サソリフレンダは頭を掻きながら困り顔の演技をした。

「それなら、ここを真っ直ぐ行った部屋に居ますよ。どうかしました?」

「別に大した事じゃないわ。ありがとう」

「?」

サソリフレンダは、絹旗に背後を見せながらゆっくりとした足取りで距離を取っていく。

右手にチャクラを集中させながら、静かに隙を探る。

 

サソリフレンダを見送りながら、絹旗はフードを被り直していると強烈な殺気を背後に感じ、ほぼ反射的に身体を縮めた。

体躯を落として、身を抱える。

「!?」

「ちっ!」

サソリフレンダの鋭い手刀を躱して、絹旗が目線を上げた。全体からフレンダとは似つかない殺気を放つ存在に、絹旗はスイッチが入ったように無表情になった。

「......フレンダじゃないみたいですね。超排除します」

「............」

サソリフレンダは鋭い目付きのまま地に伏している避けた絹旗へ第二の攻撃として腕を振り上げ、射抜こうとする。

ガキン!

しかし、服から数センチの距離で手刀が止まり、行き場の無くなった力がサソリフレンダの指を微かに震えさせる。

「あなたが侵入者ですか?」

 

サソリフレンダは、飛び上がって絹旗との距離を取る。

絹旗は、立ち上がるとシワが寄った服を着なおした。

ポケットに手を入れると、ゴソゴソと何かを操作しているような素振りを見せた。

 

やはり、何かの術者か

分身体ではあまり写輪眼は使えんが......

 

サソリフレンダはチャクラを溜め、高速で印を結ぶと砂が絹旗を覆うようにパイプの切れ目から流れ込んできた。

「!?」

砂は小さな塊となると、絹旗目掛けて一斉に飛んでいく。

しかし、砂の塊は先ほどと同じように彼女の周囲で謎の障壁に阻まれて、ただの砂となって落下した。

 

「私の窒素装甲(オフェンスアーマー)には超効きませんよ」

 

窒素装甲(オフェンスアーマー)

空気中に78%の割合で存在する窒素を自由に操り、攻撃にも防御にも転換できる能力。

主に絹旗は防御に特化しており、360度無意識的に自動防御を行っている。

ただし、能力展開が身体から数センチと極端に狭いので、攻撃をする際には直接殴らなければならない。

 

サソリフレンダは、指先でチャクラ糸を飛ばしてみるが、やはり女の子の身体との間に障壁が出来て、弾かれていくようだ。

絹旗は、作業が完了したようで間合いを一気に詰めて拳を回転させながら、サソリフレンダの鳩尾を狙い突き出した。

「くっ!?」

サソリフレンダは、腕を前に出して後方へと飛び移る。

「超逃がしません」

後方に飛んだサソリフレンダを向けて、更なる攻撃を仕掛けるために足先に力を込めて間合いを詰めた。

 

サソリフレンダは、被っていた帽子を手に持つと乱気流している絹旗の拳目掛けて投げ付けた。

帽子は、絹旗の拳に当たると形状維持が出来なくなり、砂粒となった。

一瞬だけ、絹旗の視界が塞がれた。

 

なるほど、そういう術か......

 

壁際へと追い詰められたサソリフレンダは、金色の長い髪の隙間から紅い眼を光らせて、絹旗の能力の分析を始めていた。

 

絹旗は、立ち昇る砂煙に意を介さないように無表情のまま目の前に立っているフレンダの偽物を見据える。

「どんな奴が来るかと思えば......逃げるだけで精一杯の超臆病な奴ですか」

 

絹旗は拳を構えて演算を行い、乱気流を発生させるとサソリフレンダに向けて打ち出す。

だが、直後にサソリフレンダは印を高速で結び出して、絹旗と同じように拳から乱気流を発生させた。

 

「!?」

両者が互いに拳をぶつけ合うと、破裂音と共に凄まじい突風が吹き荒れた。

「ど、どういうことですか?私の能力が」

 

コピーされた!?

 

突風によりフードが外されて、絹旗の顔に冷や汗が滴り落ちた。

信じられないものでも見るかのようにサソリフレンダを覗き上げる絹旗に、長い金髪をはためかせながらニヤリと笑い掛ける。

 

「......風遁に近い術のようだな」

悪魔のような両眼には写輪眼が光り、巴紋がクルクルと回りだしている。

絹旗は圧倒的強者が放つ本気の殺気に身震いし、前に進んでいた足を後退させ始めようとする。

しかし身体が縫い付けられたように硬直していき、中心から力が末梢に向けて抜けていった。

「あ......ああ」

絹旗もサソリの幻術に掛かり、能力は解除されてその場に倒れこんだ。

 

「ふぅ......厄介な術を使う奴がいるな」

サソリフレンダは、頭を下げて呼吸を整える。

偵察と銘打っての砂分身だが、これほどハイペースで写輪眼を使わされるとは予想外だった。

 

一度、本体に戻るか......

いや、まだリーダー格の麦野と呼ばれる奴の能力だけでも暴いておきたい所だ

 

残り少ないチャクラを奮い立たせて、サソリフレンダは、顔を上げた。

しかし、背後にある壁の向こう側から強烈なチャクラ反応を捉えて、横に飛び移る。

刹那、緑色の光線が一直線に壁を溶かしながら進んでいった。

倒れこんでいる絹旗の上方をまるで計算したかのように通過していく。

 

「殺ったかしら?」

「まだいる」

溶かされた壁から栗色のセミロングの女性と黒髪の女性が悠然と入り込む。

スラッとしたワンピースに短パンを履き、胸の大きさを強調するかのように胸下にベルトを巻きつけている。

「あら、フレンダ?」

 

「違う、フレンダとは違うAIM拡散力場......偽物」

黒髪の女性が眠そうな目で答えた。

「そうみたいね」

 

あれが、麦野と滝壺か......

チャクラ反応から飛んでもねぇな

それに、さきほどの攻撃は......

 

麦野は倒れている絹旗のフードを掴むと引きずるようにして滝壺に預けた。

「絹旗から連絡を受けたけど、間に合わなかったみたいね。それに、フレンダの方も期待できそうにないわ」

やれやれと麦野が首を横に振った。

脳内にテヘヘとフレンダが舌を出して

 

ヤラレチャッタ

 

と声を出すのが容易に想像できる。

 

「さて、正体を現して貰おうかしらね」

麦野が腕を伸ばして構えると緑色のエネルギーを集中させて、光の球体を造り出すと、息を荒げているフレンダの偽物に向けて放った。

 

迫り来るエネルギー弾にサソリフレンダは、避けることもせずに写輪眼で最後まで分析•解析を進めた。

逃げる動作をしない、フレンダの偽物に麦野は怪訝そうな表情をした。

「!?」

 

緑色の光線はサソリフレンダの腹部に直撃して、上半身と下半身に分離されて機械的に倒れた。

すると、実体が保てなくなったサソリの砂分身は崩れて、ただの砂へと変貌した。

絹旗を安全な場所で寝かせている滝壺がボーっとした感じで砂の山となった侵入者を見ていた。

「砂......」

「のようね。って事は本体がいるのかしら?」

麦野は、崩れていく砂を嘲笑うように踏み付けた。


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