とある科学の傀儡師(エクスマキナ)   作:平井純諍

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約6年前の二次創作です。
リメイク版につき前作とは内容を変えている場所があります。

注意
作者独自の解釈や物語が入っており、原作と違う点が多々あると思いますが容赦ください。
誤字、脱字、設定上の矛盾点がありましたら指摘をお願いします。
可能な限り修正を入れたいと思います。
至らぬ作者でございますが、今後ともよろしくお願いします。


開演

前口上

とある公園の昼下がり、子供たちは限られたスペースで遊んでいた。昨今起きている遊具による不慮の事故によりかつてのたくさんあった遊具は撤去されてしまうという寂しい過去があるが、遊んでいるものにそんな過去など知らない。砂に木の棒で絵を描き、友達とかけっこをしている。学生たちがベンチに座って携帯ゲームで遊び、写真を撮ってはネットに投稿し自分の存在の証を残していく。

そこへカートを押して進んでいる1人の女性がいた。真昼の中で黒い外套を羽織っている。

いきなり公園に奇妙な恰好をした女性が現れればいやでも視線の対象となり、遊ぶ手を休めてしばし見入る。

しかし、フードを被った女性は視線に気にする素振りを見せずに

ピーヒャララ

ピーヒャララ

ラッパを軽快に鳴らしながら公園にいる人々の注目をさらに集めていく。

「はい、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。痛快の人形劇が始まりますよ。見物料は今回に限り無料といたします」

女性は、フードを深く被っているがガラスのように透き通った声で警戒を持って固まっている子供や学生に向けて大きな手振りで宣伝している。子供は好奇心でゆっくりとしながらも女性の前に移動した。

その様子を見て満足したようにフードの隙間からニッと笑顔を向ける。

「はいはーい、それでは上演を始めますよ。来てくれた方には飴を差し上げます」

と言うと、ポケットから果物キャンディーを出して子供にあげていく。そして、カートの蓋を開けて脇にあるレバーを回しだすと木製のステージが上がり、赤い幕がシャーっと開いた。

そこで女性はステージの後方に回り込むと慣れた手つきで人形から伸びている糸を指につける。

出現したステージには赤い髪をした目つきの鋭い人形が動きだし、スポットライトを浴びて一礼をする。

太鼓をポコポコと叩いて開幕音を鳴らす。そして、義太夫節のような独特の語り口調で物語の展開を語っていく。

 

一礼をした後でスポットライトが途切れて、荒涼とした砂漠地帯を模した背景に赤い髪の人形が両腕をパッと上げた。

彼の名前は「赤砂のサソリ」

この演目での主役となります。ぜひとも覚えていてください。

彼は忍と呼ばれる危ない任務を遂行する里の一つ「砂隠れの里」で生を享けました。

すると糸で操られた老婆の人形が上手から現れる

彼のお婆さんは、優秀な傀儡使いでした。傀儡とは人形を操り仕込んだ仕掛けや罠で敵を攻撃する忍術の一つです。祖母の背中を見て育った彼は自然と興味が傀儡へと向かい、日夜傀儡の術の修行にのめり込んで行きました。

そこで木で出来た簡単な人形が出てきて、サソリの腕と連動するように動いていく。

彼は、早熟でみるみる天才的な傀儡の使いとして名をはせるようになりました。

しかし彼の興味はむしろ傀儡使いというよりは傀儡制作へと向きました。最初は、普通に人形を制作していましたが、人間を傀儡にすることを思い付きました。

 赤い髪の人形が大きな包丁を持って、別の人形に襲い掛かる動作を見せる。

他の里を襲っては、優秀な忍を殺害し、死体を持ち帰っては人傀儡を造り上げていきました。

人傀儡とは、傀儡にした人間の術や特性をそのまま引き出すことができるという利点があり、傀儡の術の幅が広がりました。

人を殺して、人傀儡にするというのには高度な技術が必要でした。里もどのように制作しているのか突き止めようとしましたが、サソリは出頭に応じずに技術を公表することはしませんでした。サソリの人傀儡のメカニズムを解明しようと実験や優秀な傀儡使いを招集しては試みましたが、人傀儡は造れません。できたのは普通の傀儡のように振る舞うものだけでした。

唯一の手掛かりであったサソリは、里を抜け出して、煙のように行方を消しました。

 ライトが消えてサソリが下手にはけていく。

未知なる力を持ち、里の意向に従わないサソリは里にとっては危険因子に他なりません。

里は行方をくらましたサソリを手配し、全力で探しましたが消息を掴むことができませんでした。

発見したとしても、返りうちに合い、人傀儡の材料を提供してしまうことになります。

いつしか、里は積極的にサソリを探すことをやめました。しかし、手配書には指名と顔を公表して打ち取ることのできる忍を広く募ることを政策として挙げました。

彼は手配されたことを知ると、大きな動きを見せずに少しずつ人傀儡の戦力を増やしていきました。

そんな中で、声をかけてきたのが「暁」という組織です。

紙で描かれた女性が上手から出てきて、下手のサソリを連れてくる。

優秀な忍をメンバーとして集めて、強大な力を持って世界を平和にするという新興組織でした。

縛られるのが嫌いな彼は断りましたが

メンバー集めを担当した女性に敗れ仲間となりました。

紙の女性人形は、下手に退場していく。

組織の仲間入りを果たした彼は自分の思うように研究を進めて、究極の傀儡を追及することにしました。

そして、彼は自らを傀儡人形にすることを選びました。

サソリの人形にピンと糸が張られて、サソリの人形が機械的な動きを見せる。

傀儡に美を見出した彼は、自らを人形とすることで永遠に近い瞬間を得ました。歳をとることもなく、食事も必要ない、必死で生きる必要のない道を歩み出しました。

更に傀儡の殺傷能力を上げるために独自に研究・開発をした猛毒を仕掛けや武器に施すことで死体の数をケタ違いに上げました。

パンパンと板が鳴る。

だが、組織から言い渡されたある任務が彼の運命を大きく変えました。

それは、かつて所属していた砂隠れの里の長で五代目風影となった人柱力を誘拐してくることでした。

粘土で作られた男性人形と赤い髪の人形は、「風」と書かれた人形を掴み、走る動作を見せる。

人柱力というのは、大きなエネルギーを持った怪物を自らの身体に封印した人だと思ってください。

誘拐は見事成功し、大きなエネルギーを組織は手に入れました。

 粘土人形と赤い髪の人形はそのまま上手に消えていく。

しかし、長が誘拐されたとあっては黙っているわけにはいきません。砂隠れの里は隣里に助けを要請し、傀儡の術の専門家に声をかけました。

皮肉にもそれは、自分の術の師であり実の祖母でした。

再び老婆の人形が出てきて、両手を上げて別の木製人形を持ち上げる。

ここで、孫と祖母の壮絶な戦いが始まったのでした。

かつての孫と祖母、師と弟子の関係から、殺し合う間へと変貌してしまいました。

二人の戦いは想像絶するものとなりました。

傀儡を両者で操り、相手の裏を読み、仕掛けを発動させる。

二体の人形が武器を持って戦いだす。

恐らく、祖母一人だけだったら彼は勝っていたことでしょう。

計算外だったのは、隣里の医療のエキスパートのくノ一が居たことでした。

下手から桜色の髪をした人形が勢いよくやってきて、赤い髪の人形に殴りかかった。

ヒラりと躱す赤い髪の人形。

2対1

単純な計算でも不利ですが、サソリが生み出した猛毒の解毒に成功したくノ一の功績は大きく、彼は核を刺され動かなくなりました。

赤い髪の人形が2人の攻撃に敗れて、その場で倒れた。

物語では、ここで終わっていますが。

ライトが赤い髪の人形に当たる。そしてムクッと起き上がるとステージにある奈落から下へと落下する。

ここから、彼は異世界へと飛ばされてしまい、そこで自分自身と向き合いながら丁々発止、一騎当戦の大活躍を見せます。

退屈ですか?

字ばっかりでつまらないですか?

無料ですから文句はなしですよ!

前口上が長くなりましたが、本編へと参りましょう

その前に!

フードを外すと黒髪のセミロングに端正な顔をした女性が赤い髪の人形を手に持って微笑みだす。

かつて名乗った名前ですが「フウエイ」と申します。覚えている人が居ましたら「ありがとうございます」

知らない人でしたら、物語の「語り部」として記憶してください。

それでは本編でございます。

飲み物を用意して、気楽に見ていってください。

では、後程……

 

 

全ての生物は死ぬ

つまり、人間は死ぬ

更に自分が介入すれば容易く、あっけなく。

殺人に手を染めてからというもの、自分の心が溶けてなくなるような感覚を何度も味わった。そして、日増しに募る「死」というもの。

始まりと終わり。生と死……永遠なんてない。

人間の無常に嫌気がさして、たどり着いたのは人形だった。

生を捨て、死を超えた先に待つ「何か」を知るために••••••

祖母が傀儡を扱う忍術を使うことから自然と興味が傀儡に向かった。

傀儡というものを大雑把に説明してしまえば、操り人形のことだ。人形を操って、武器を仕込み攻撃する、それが傀儡の術だ。

祖母から傀儡使いとしてのノウハウを受け継いで、人形を操ることに没頭していく。

しかし、最初からスムーズに動かすことが出来ずに何度も指が引きつり、筋肉痛で疲労し眠るのがあっと言う間だった。

初めて人形の内部を見て自分で分解と設計を変えてみる。傀儡の知識の奥底へと自ら足を踏み入れていく。扱いに慣れてきたら、傷ついた部分を自分で修復し、知識、経験を蓄積していく。

才能と言ってしまえば、答えは簡単になってしまうだろう。

それは四六時中、傀儡のことだけに没頭できる環境と本人の意欲、関心がなせる努力だ。

ここまでなら、ごく普通の家庭内容、いやむしろ、恵まれている方だろう。

家に帰れば、両親と暖かい料理が待っていて、幸せな眠りへと落ちる。

自分の心が歪んだのはいつ頃だったか?

人として忍としての道を外れたのはいつだったか?

里から追われ、砂場や森を転々とする生活を始めたのは。

思い返してみると。

傀儡使いとして修行していたある日、両親が死んだ日に起因すると述懐できた。

任務中の殉死か、病死だったかイマイチ判然としないが死んだ事実に変わりない。

初めての肉親の死に遭遇した。葬式で多くの弔問客が来たことから人付き合いをしっかりしていたのだろう。

真っ白な布団を2つ並べて、父と母の間に自分は座る。

時々、思い出したかのように手を伸ばして呼吸を確かめる。

もしかしたら、父と母が息を吹き返したのではないか、そう思ったからだ。

鼻先に持っていく。しかし感じるはずの息は感じない。

3分後、5分後、10分後••••••1時間経っても両親は変わらずに死に続けていた。

食う物も食わず、飲む物も飲まず。

両親が目を覚ますのを待っている。

自然と頭を過ぎったのは、「動け!」という言葉。

それにある種の既視感を覚えた。

初めて人形を動かした時の感覚と相違ない。

技術不足で思うように動かない人形に苛立ちながら思った言葉がそれだった。

人間と人形の境目が虚ろになった気がした。

 

父と母は死んだのではない

人形になった

 

人形なら動かせる、自分で修理が出来る。

もう一度、両親の愛情が手に入る。

その一心で埋葬された両親の遺体を掘り出して、傀儡にしていく。匂いはキツイが不思議と楽しさがあった。

人間を傀儡にするのは前代未聞だったが、サソリには造れそうな気がした。

腹を裂いて、内蔵を取り出す。

使えるところを吟味していき、両親の形を写真で思い出しながら寸分違わぬ傀儡にしていく。

メスで内部を覗いて両親を深く知ること。

奇しくも、傀儡の世界に没頭することに似ていた。

固まった筋肉を削り、骨を見てどのように人間を支えているのかを緻密に記憶し記録していく。

骨の代わりに傀儡作成するのに使う、檜を集めては削りだし、丁寧に洗った皮膚と大きさを合わす。微調整をする

両親には外部からの殺傷痕があった。殺されたということだ……

痛かっただろう……怖かっただろう……苦しかっただろう。

両親を苦しめた憎い内臓一つ一つに恨み言葉を浴びせながら余計なものとして処分する。

思ったよりも滑る、そして力を入れるだけで思いのほか簡単に千切れていく。

モノを食べる苦しみ、息をする苦しみ、生きる苦しみ。

もう、食べることも息をする必要もない。生きる必要もない。

皮膚を剥いで綺麗に丁寧に洗う、苦労したのは遺体を腐らないようにする防腐処置だ。特殊な薬品が必要だったが、なんとか手に入れることができた。

永遠に自分の側に居てくれる究極の家族が完成し、痛みも苦しみもない傀儡の世界へ両親を連れて行った。

それが人傀儡の始まりであり、サソリの運命を大きく捻じ曲げる要因となった。

 

NARUTO×とある科学の電磁砲(レールガン) クロスオーバー作品

とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

 

第1話 叶わない夢

犯罪請負組織「暁」のメンバーにして、稀代の天才傀儡師「赤砂のサソリ」は生涯を終えようとしていた。

自身の傀儡の師匠である祖母「チヨバア」を殺そうとした矢先、桜色の髪をした娘の命を削った行動に阻まれ、祖母が所有していたサソリ作の両親に包まれるように刃で胸部にある核を射抜かれた。

来るのは分かっていたが、何故か躱さずに祖母の攻撃を受けてしまう。

抜忍となり多くの人の命の終わりと、傀儡としての始まりを身体に染み込ませているサソリには、敵の攻撃が来るなど当たり前のように分かっていたのだが••••••動かなかった。

自分を傀儡にするという禁断の行為を行いながらも捨て去れぬ「何か」によってサソリは、死闘の末に敗れた。

祖母へと向けた猛毒刃は、桜色の髪をした娘を貫き、予定通りに倒れた。

サソリは唯一の急所を打たれことで口から血を吐き出すが、苦しむことはなく漫然と機能が停止していく己と娘を見下した。

祖母は、娘の為にチャクラを流し治療を施しているように見えた。

「無駄だ••••••急所を突いた。そいつはもうじきに死ぬ」

人は容易く死ぬ。

それはサソリにとっての日常だった。里にいた頃も組織にいた頃もなんら変わりない真理だ。

誰よりも人の死に触れてきたとは言わない、だが死に抵抗が無くなるようは体験をしてきたことは自負している。

「ワシが今やっておるのは、医療忍術ではない••••••」

チヨバアは、倒れている娘に向けてチャクラを流し込み続けながら言う。

「己の生命エネルギーを分け与える••••••転生忍術じゃ」

サソリは、チヨバアを一瞥すると倒れている娘に目を落とした。

「••••••」

転生忍術?

自分の命を相手に流し込むのに意味なんてあるのか?

「そもそもこれは••••••お前のために長年をかけ編み出したワシだけの術じゃ」

オレの為?

理解が追いつかないサソリは、初めて人間らしい疑問の表情を出した。

そして祖母からの次の言葉で全てを理解する。

「この術があれば、傀儡にすら命を吹き込むことが出来る••••••術者の命が尽きるのと交換でな••••••」

孫の苦しみを身近で見て来たのは、誰でもない祖母だった。

幼いサソリが禁忌を犯し親の人傀儡を造り、仮初の愛情を求めた時も祖母は近くで見ていた。

何も出来ない自分を悔やみながら、立ち尽くしていた。

孫の幸せを願わない祖母が何処にいようか。

チヨバアは最後にサソリへと絞り出すように言う。

「今となっては、叶わぬ夢だがの」

 

サソリは全てを悟ったが、積み上げた何かが壊れるような気がしていた。

「くだらねぇな」

せっかく永遠の存在へと昇華した両親を薄汚れた人間に戻すことに美を見出せずにいた。

人間は人形となり、永遠の存在となる。これが至高の極みのはずだ。

それが大前提のサソリには、祖母の言葉が耳に入るのに抵抗がある。

人間を捨て、人形の身体に居場所を求めたが••••••結局、人間の弱点である核を持つ不完全な人形。

人でもなく••••••

人形でもない••••••

核を貫かれたサソリに残された時間はあと僅かだった。

「無駄な事を一つしてやろう••••••オレを倒した褒美だ」

エセ合理主義のサソリが初めてした気まぐれの行動に二人は耳をすませる。

「大蛇丸の部下にオレのスパイがいる••••••知りたいなら行ってみろ」

サソリは、父と母の人形に抱かれながら親子3人で地面へと倒れた。

サソリは、その生涯を終えた。

傀儡に美を見出し、極め続けた男の壮絶な最期であった。

 

奈落の底へと独りで落ちていくサソリは、ある種の冷たさを感じていた。

これが死というもの。

今迄奪ってきた死がサソリを奈落の底へと引きずり込んでいく。

花畑なんてない、窪んだ水の底に沈められていく感覚に近かった。

「……ふん」

サソリは、嘲笑に似たような動作をすると身体がグニャリと曲がり出した。痛みはなく水に色が溶けるような感覚に近い。

「なんであんな事を言ったんだろうな?」

桜色の髪をした娘が知りたがっていた大蛇丸の情報を渡したことに関してサソリは、答えが出せずにいた。

だが、それは過ぎたことだ。

考えるだけ無駄だ。

これから死ぬ奴が生きている奴のことを気に掛ける方がおかしい。

サソリは、瞼を閉じて流れのままに溶けていった。視界が歪んでいくのを感じるとそのまま眠るように意識を手放した。

そして、空間が断裂して一点に凝縮されるようにサソリは窪んだ水底から姿を消した。

 

 


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