pso2仮想戦記二年前の戦争   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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36話 災いは常に後ろから

 

 

第2銀河の回廊での戦いを制したのアウグスト・ヴォン・シュヴァーベン候だった。彼は合流したフランシス艦隊と共に勢いに乗り、進撃するが…。

 

シューマッハ

『御前!報告いたします!地方の貴族達が手勢を率いて、我が軍の支配星域に侵略を開始しました!既に予備補給路の一部を寸断された模様‼︎』

 

アウグスト

『…如何にあの老提督が入れ知恵しようと貴族どもが手を取り合うことなど無い、もし取り合ったとしても何処まで保つか見物だと思っていたが…ここまで組織だった動きには何かありそうだな。』

 

フランシス

『貴族達を束ねられる様な要素…』

 

クラウゼウィッツ

『考えられるのは1つかしかあるまい、深遠なる闇が出てきたのだ。』

 

ゲオルグ

『それについて卿はどうするつもりだ?クラウゼウィッツ、総参謀長殿の意見を是非聞きたいものだ。』

 

クラウゼウィッツ

『地方貴族と反乱軍の貴族共の間に疑心の種を蒔こうと思っている。我が配下によると、反乱軍は蜂起した地方貴族の軍勢を配下に加えて、戦力の穴埋めをしている。そこに付け入る。』

 

フランチェスカ

『どんなやり方をするのかしら?総参謀長閣下?』

 

クラウゼウィッツ

『先ず、地方貴族達には、自分達の同胞である中央の貴族の一部はアウグスト軍に繋がっていて、時が来れば友軍に牙を剥く。当然その牙も自分にも剥くから気をつけろと広め、反乱軍側の有力貴族達には、地方貴族の殆ど、特にアウグスト・ヴォン・シュヴァーベン候の支配領域周辺の者達は既に調略済みで、戦闘になれば後ろから撃って来るから気をつけろと広める。しかも有力貴族側にばらまく噂で地方貴族の間にも疑いの芽を作り出せると言う寸法だ。何せ誰も調略してないからな。皆が嘘をついて居ると思い出すだろう。』

 

レオポルド

『成る程な、普段からお互いの腹の探り合いをして、陰謀を企てるのが貴族共の日常だからな。自分達の背中を撃ちかねない連中が居るとなったら、周りが信用できなくなってもおかしくないしな。実にお前らしい考え方だな参謀長。』

 

クラウゼウィッツはレオポルドを見やったが直ぐに視線を戻した。レオポルドもそれに気がついたのか、愛想を尽かしたように顔を背けた。

 

アウグスト

『ともかく貴族共は自ずと自滅するのを我々はそれを促すだけで良いと言う事だな。総参謀長。』

 

クラウゼウィッツ

『左様に御座います閣下。』

 

アウグスト

『では、皆この方針に則って進撃せよ。進撃再開は明朝のマルロクマルマルとする。クラウゼウィッツは調略を済ませ、敵の撹乱に努めよ。レオポルド、卿は先陣だ。フランチェスカ艦隊が後方から援護する。一直線に帝都へ進め!他の艦隊は進撃に伴い、各星系を征服せよ。後方の敵は、残しておいた予備艦隊で片付けろ。後方からわずわらしくされても目障りなだけだ。』

 

フランシス

『後方艦隊の司令官は如何致しましょう?私が行きましょうか?』

 

アウグスト

『いや、オーヴェルニュ提督には、世の前を頼みたい。誰か適任者を知らぬか?出来れば後方の整備も出来る者が良い。』

 

シューマッハ

『では、マシヤ・ケベック中将など如何でしょう?』

 

アウグスト

『どういう男か?』

 

シューマッハ

『はっ、長らく地方艦隊の司令官を担当していたのですが、後方整備の達人でしかも本人は参謀本部の出身なので戦術にも明るく、有能な男です。』

 

ゲオルグ

『参謀本部出の地方艦隊司令官か…なにかやった口だな。』

 

シューマッハ

『なんでも貴族が建てた戦略が穴だらけの矛盾に矛盾を重ねた酷いものだったから考え直すように言ったら忌避を買って飛ばされたそうだ。』

 

アウグスト

『シューマッハ大将がそこまで推す男なら安心だな。ではその男に任せよう。その前に会ってみたいな。』

 

数十分後、一隻の戦艦が総旗艦イラストリアスに近づいてきた。その戦艦から一隻のシャトルが飛び出してきてイラストリアスのエアロックに接続した。手の空いた衛兵が儀仗整列して乗ってきた人物を迎えた。一地方艦隊の司令官といえど将官である以上これぐらいしなければならないが、何よりこれから重用するであろう有能な人物に対して礼を尽くさなければならないというアウグストの配慮もあった。

 

イラストリアス艦橋に一人の男が入ってきた。歳は40になったかならないか。首ヒゲが関羽髭の様になって居る。髪型は首を覆うぐらいの長さ、背格好は長身だが、ガッチリしている。手には白手袋をつけて、上着のポケットからはモノクルが垂れている。見るからに紳士だ。だが彼が戦士だという証なのか、大型のガンスラッシュが腰に挿してある。

 

ケベック

『マシヤ・ケベック中将であります。元帥閣下。ご命令により参上仕りました。』

 

アウグスト

『ご苦労、ケベック中将。卿には、後方の地方貴族どもを殲滅して貰いたい。予備艦隊を率いて任務に当たってくれたまえ。』

 

ケベック

『ハッ!』

 

アウグスト

『そして、聞いても良いか?何故、艦橋の中なのにも関わらず、大柄な銃剣(ガンスラッシュ)を携行している。嫌なら別にこれ以上詮索せぬが。』

 

ケベック

『いえ、閣下。お答えします。私の家系は代々帝国騎士(貴族階級の最下位)でして、その証としてこの様に我が家に伝わる銃剣を携行しているのであります。ご不況を買ったのであれば、直ちに外しますが?』

 

アウグスト

『いや、良い。帝国騎士か…随分と懐かしい響きだ。私もオラクルに居た頃は帝国騎士だったのだ。懐かしいな…。』

 

アウグストは過去に想いを馳せたが直ぐに我に帰った。そして目つきを変えると、席から立ち上がり、皆に聞こえる様に艦橋一体に響く声を出して己の新たな僕に命令した。

 

アウグスト

『では、ケベック中将。直ぐに任務につけ、その他各諸将も抜かりなく掛かれ。良いな!』

 

一同

『はっ!』

 

アウグストの諸将達は己が主君を敬礼で見送ると、また席に着き、深い溜息をついた。

 

ゲオルグ

『さて、どうしたものかな?』

 

シューマッハ

『ああは言ったが、実際後ろを取られているのは痛い。地方貴族ども自体は1つ1つの軍勢は蟻同然だが、よって集られては話にならんからな。』

 

提督一同

『ハァァァ〜…。』

 

提督達の溜息が会議室一体に広がる。提督達は、気を落としながらも次の戦いに備えて、それぞれの座乗艦にかえっていったこの提督達にとっての幸運は、命を預けるに値する君主の元に生まれた事だが、彼らの不幸はこの戦の申し子のような君主の元に居る以上、生涯戦場から離れらなくなるという呪いと、この君主の容赦ない人使いの荒さであろう。

 

シューマッハ

『しかし、我らは武人。戦場から離れる事など考えられん。』

ゲオルグ

『同感だ。我らは、忠誠を捧げるに値する君主の元に居られるだけで良い。不惜身命、出なければ我が王には仕えられんよ。』

 

シューマッハとゲオルグは互いの盃を交わして、その中身を飲みほした。

その頃、クラウゼヴィッツとフランチェスカ両大将は、ケベック中将の見送りに行っていた。

 

クラウゼヴィッツ

『卿の任務は大変重要なものだ。我が軍の退路と補給線をこれ以上奴らの好きにはさせる訳にはいかない。』

 

フランチェスカ

『多くの兵の命が掛かって居ます。どうか我らをお救いください。』

 

ケベックは二人の手を取り、力強く答えた。

 

ケベック

『必ずや、殿下の後背を害しようとする不届き者どもを成敗してまいります。なのでどうか例の件は良しなに…。』

 

クラウゼヴィッツ

『案ずるな。閣下も了承なされた。必ずや探し出そう。あの男もまだ戦えるのなら我らの助けになるであろうしな。』

 

ケベックはクラウゼヴィッツの返事に満足すると、右手を頭の前に持っていき、敬礼の形を取ると

 

ケベック

『では出立致します。』

 

と言い、自分のシャトルに乗り込んで行った。

こうして、ケベック中将は配下5000隻を連れ、予備艦隊20000隻との合流の為、戦列から離れ、アウグスト軍は、行軍を再開した。目指すは、第1帝政。至尊の冠を頂くために、王は進む。そして同じ時に、貴族軍もまた、艦隊を派遣し、アウグスト軍の侵攻を阻むべく出撃していたのである。

 


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