pso2仮想戦記二年前の戦争   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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32話 苔頭対飼い犬

第二銀河で内乱が起きた。アウグスト・ヴォン・シュヴァーベン率いる独立派。アインツヴェルン率いる反独立派。そしてそれを操る深淵なる闇が率いるダーカー。黒い姿をした連中同士の壮絶な内輪揉めは、ハンブルグ・シューマッハがバルトハルト・シュヴァルを撃退した戦いから始まる。

 

若き艦隊司令官バルトハルト・シュヴァルは己の手勢が如何に問題児ばかりを抱えているかという現実から逃げたくて仕方がなかった。戦を知らぬ者、自己中心的な物言いをする者。正論のみしか話す者。バルトハルトの周りには戦ができる者が居なかった。

 

おまけに相手は百戦錬磨のハンブルグ艦隊。勝ち負けは火を見るよりも明らかであった。

 

バルトハルト

『まさか、シューマッハ提督と戦う事になるとは。隙を見せれば逃げることは叶わぬだろう。さてどう戦えば良いものか。…チッ!こんな時においでなすったか。』

 

艦橋の隔壁が開くと、分艦隊司令官を務める貴族達がづかづかと入ってきた。

 

貴族A

『総司令官閣下!何故攻勢に出ないのですか‼︎我らは敵の二倍、三万隻の艦隊です!対する敵は約一万七千。圧倒的に我が方が有利ではありませんか?』

 

貴族B

『敵はこの広大なアステロイド帯を挟んで向こう側におります。そこに我らが戦力を分散し敵を挟み込めば、大勝利間違いなしですぞ‼︎』

 

貴族C

『母上が言ってたよ。平民は貴族に手を出さないって。攻撃しちゃおうよ!』

 

バルトハルトはこの三人が思い思いに喋り始めるので耳が聞こえなくなったのかと錯覚したくなったという。バルトハルトとしては戦う気なんて更々なかったのだ。

 

バルトハルトは士官学校時代、サラザール・ヴォン・ディートリッヒと言うダーク・ヒューマンの中で高名な戦士に教えを請うていた。ディートリッヒが貴族側に参加すると聞いて、バルトハルトも参加したのだが、二人ともアウグストの麾下で戦ったことがあり、ディートリッヒは陸戦においても、宇宙戦においてもアウグストを戦争の申し子とその能力を早くから認めていた。(アウグスト自身も二人を麾下に加えたかったものの貴族側の対応が早く調略に失敗してしまっている。)

 

バルトハルトとしては、指揮系統がバラバラになっているところをディートリッヒが一本化して、統制が取れるまでの時間稼ぎをすれば良く、統制が取れれば、物量を活かして、大軍を援軍に差し向けてくれることも分かっていた。

 

もっと言えば、この星域は第二銀河における航路の中心に位置しており、殆どのワープ航路にこの星域は繋がっており、ここでワープ妨害をすれば、第二銀河を航行する全ての艦船をこの星域に足止めできる程である。

 

その星域を支配下に置いている貴族側の優位を盤石にするのが当面のバルトハルト達の役目だが、それを理解せず己の武勲ばかりを気にする貴族達にバルトハルトは嫌気がさしていた。

 

バルトハルト

『とにかく、攻勢には出ぬ‼︎総員第三種のまま待機‼︎』

 

貴族達は怒りを表しながら引き上げていった。

バルトハルトは傍らの女性侍従兵を見て、指で合図した。侍従兵は首を振ったが、バルトハルトが強く合図したので近寄った。侍従兵が胸に手を当てて、ポケットからカードキーを取り出した。

 

カードキーを受け取るとバルトハルトは自分の座席にかざした。するとラム酒の瓶が出て来た。バルトハルトはそれを掴み、一気にラッパ飲みした。

 

バルトハルト

(恐らく、シュヴァーベン候はクラウゼウィッツ大将から俺がいるのを聴いているだろう。ならばシューマッハ提督だけをさし向ける訳がない。多分ゲオルグ提督も差し向けているだろう。艦隊は見えないから、ゲオルグ提督がシューマッハ提督の艦に乗り込んでいるのだろう。)

 

『全く…やれやれだ。これぞ厄日。』

 

バルトハルトの考えは当たった。ゲオルグはシューマッハの艦に乗っていた。

 

ゲオルグ

『流石バルトハルト…貴族の餓鬼どもをよく抑えているな。ディートリヒ老人の援軍を待っているな。』

 

シューマッハ

『ディートリヒとバルトハルトは不味い。あの二人が軍の統制を整えれば一年二年じゃあ戦いは終わらないぞ。』

 

ゲオルグ

『俺たちの半分は死ぬだろう。だが…貴族の餓鬼どもを戦に連れていては無理があるだろうな。レーダー妨害のお陰で、敵はこっちが動いた事を知らん。

 

必ず痺れを切らす。おい!バルトハルト艦隊旗艦、アイヘンドロフの監視を怠っては居ないな。』

 

帝国兵

『ハッ!バッチリです!動き出せばレーダー上に映るようにしておきました。』

 

シューマッハ

『ヨォーシ‼︎狼ども!狩の時間だ‼︎アップを済ましておけ‼︎しっかり嚙み殺すのだ‼︎』

 

その頃、バルトハルトは女性侍従兵に酒の飲みすぎを説教されて居た。突然…。

 

教国兵

『バルトハルト提督!我が艦隊の左翼側半数が、移動を開始!アステロイド上回運動を開始しました‼︎』

 

バルトハルト

『何だと‼︎クソッ‼︎全艦最大出力、右翼側に回る!敵艦隊を挟む‼︎撃滅出来れば、どうとでも成る‼︎』

 

バルトハルト麾下半数は右翼側からシューマッハ艦隊を挟むべく移動を開始した。バルトハルト直属の半数は高出力反応炉と高速艦改装が施されて居て、レオポルド騎兵艦隊やシューマッハ艦隊程のスピードは出せないが、それでもダーク・ヒューマン艦隊の中で指折りのスピードを誇っている為、先に移動した左翼艦隊に合わせることが出来る。

 

そこにバルトハルトは賭けた。もしシューマッハ艦隊がまだ動いてないのなら、十分挟み込めるし、数の上で圧倒的に不利な左翼艦隊が全滅する前に後ろにつけると踏んだのだ。しかし!神はそれを許さなかった。

 

左翼艦隊がアステロイドの四分の一程の距離で戦闘状態になった。シューマッハ艦隊は移動して居た。そして左翼艦隊の二倍の兵力で圧した。温室育ちの猫に野山を駆け回った虎が襲い掛かるが如く、左翼艦隊はあっという間に消えた。消滅してしまった。

 

シューマッハ

『我々平民が何もせずに殴られに来るかといったらそれは大間違いだ。それも分からぬとは貴族というのは度し難いな。それに付き合わせられる兵が惨めで堪らぬ。』

 

ゲオルグ

『同感だ。だが、まだ敵は残ってる。相手はバルトハルト。下手をすれば残りの兵と共に玉砕して、我らの半数以上を道連れにしかねない。』

 

シューマッハ

『海賊と呼ばれる男だ。その麾下の兵も勇者揃いだ。』

 

ゲオルグ

『荒くれ者をあそこまで統率するカリスマ。大艦隊を率いらせれば、御前も舌を巻くだろう。だが御前や俺たちもその時は五分以上の兵力で当たるがな。』

 

帝国兵

『提督!敵艦隊からの抵抗が消えました。敵に残存艦艇はありません。残りの半数は回頭。我が艦隊の前に出ようとして居ます。』

 

シューマッハ

『真っ向からか。乗り込みを考えてるかも知れないな。』

 

ゲオルグ

『艦載機隊も発艦させろ。先手を取られれば面倒な事になる。対空監視を強化!』

 

シューマッハ

『全艦鶴翼に開け!敵は死に物狂いで突っ込んで来るぞ‼︎海賊共を近づけるな‼︎』

 

シューマッハ艦隊は鶴翼に開いて、迎撃の体制を整えた。一方のバルトハルト艦隊は紡錘陣のまま突撃していた。そしてその先頭に旗艦アイヘンドロフが居た。アイヘンドロフは全長5キロの楔形の船体の戦艦であり、フランチェスカの乗る艦と同型艦だが、艦首から中央部が開いており、ネガフォトン・スーパーレーザー砲が搭載されている。実に攻撃的な艦であり、レオポルド騎兵艦隊旗艦と一位二位を争う事の出来る攻撃力を持つ。

 

バルトハルト

『敵と会敵次第、スーパーレーザーを撃つ。その後全艦近距離での砲撃戦に移れ!白兵戦も許可する!存分にやれ!目にもの見せてやるのだ‼︎』

 

両艦隊は射程距離に入った。

 

シューマッハ

『来たか!全艦砲撃開始‼︎』

 

バルトハルト

『スーパーレーザー…フォイヤー‼︎』

 

アイヘンドロフからドス黒い光線が放たれた。その光線はそこらに浮遊して居た隕石も全て飲み込んで向かっていった。その破壊力は最大出力で撃てば、惑星を粉微塵に出来るという。(然し、撃てばアイヘンドロフは艦首部が完全に崩壊するらしい。)

 

ゲオルグ

『しまった‼︎全艦回避しろ‼︎』

 

シューマッハ

『緊急回避‼︎』

 

両提督の対応が間に合ったお陰で艦隊そのものは救われたが、それでも3割の艦艇を失ってしまった。

 

シューマッハ

『やってくれる‼︎全艦アイヘンドロフに砲火集中‼︎』

 

ゲオルグ

『ダメだ!距離が近過ぎて、ロクにダメージが通らん!距離を置きつつ砲撃する。』

 

バルトハルト

『何が何でも追いつけ‼︎近距離の撃ち合いで俺たちに敵う者は居ない。居たとしてもレオポルドの猪武者ぐらいだからな!わはははははは‼︎』

 

双方の艦隊は、引きつつ、追いつつ砲撃していた。一隻の戦闘艦の主砲が光るたびに数百の人間が死ぬ。それでもやめない。艦腹にレーザーが当たるたびにその場に居合わせた老若男女の悲鳴と呻きが起こった。女性兵の首が無い状態で糞尿を撒き散らしながら、死体かわビクビク動いていたり、溶ける若い少年侍従兵。下半身の無い男。艦の破片が身体中に刺さっている者を現れた。

 

艦載機の小隊が一隻の戦艦に群がり、分解していく。そのレーザーやミサイル、爆弾に当たり、また多くの将兵が死んでいく。

 

シューマッハ

『そろそろトドメだ。全艦前進!合わせて主砲‼︎斉射三連‼︎‼︎』

 

教国兵

『バルトハルト提督!艦隊の損耗率8割に達しました。本艦にも被弾箇所からの損害が見受けられます。これ以上は‼︎』

 

バルトハルト

『ああ。潮時だ、逃げるぞ‼︎勝負にならんわ!』

 

ゲオルグ

『逃げるか…バルトハルト。』

 

シューマッハ

『御前から生かして捕まえろと言われているが、骨が折れそうだ。』

 

ゲオルグ

『この戦いもな…』

 

 

32話終

 

 

 

 

 

 


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