pso2仮想戦記二年前の戦争 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
ネルソン
『少数の艦を引き連れて後方に回り込み、敵の注意を引いて退却する?』
老元帥はこの若い提督の提案に目を丸くした。タクミはサミュエルの博打をネルソンに説明した。
タクミ
『はい。敵がこの少数艦隊に退路を断たれるのを阻止すべく後退します。その隙に本体は撤退します。』
ネルソン
『成る程、だが敵はこれだけの物量だ。囮艦隊に割く戦力は十分にあるし、仮に撤退したとしても、誰がその囮艦隊をやるのだね?』
タクミ
『それについても考えがあります。』
オラクル艦隊の要塞クラス主砲搭載艦が一斉に火を噴いた。十数本の光線の一本々が数万隻の艦を溶かしていった。更に一つの艦隊が他の僚艦を守るべく突出し、更に大きく横に開いた。その一個艦隊から数十本の核ミサイルが飛び、これも敵の艦隊を屠った。他の艦隊もミサイルや主砲を撃ちつつ、後方に進路を変換していった。銀河教国元帥、トゥハチェスキーは、敵が撤退すると見た。
トゥハチェスキー元帥
『敵が撤退する!逃すな‼︎砲撃しつつ、全速前進!』
教国兵
『元帥閣下!後方に3万キロ、敵八千の艦隊が出現。退路を断たんとしています。』
トゥハチェスキー元帥
『第45艦隊を向かわせろ。』
教国兵
『それが…ダーカー艦隊と友軍艦隊が先の要塞砲と核ミサイルの被害と回避運動の為、通信が乱れており、各艦隊の統制が…その…』
トゥハチェスキー元帥
『ではシャトルを出せ‼︎何のための伝令か⁉︎』
教国兵
『敵核ミサイル及び要塞砲第二射来ます‼︎』
トゥハチェスキー元帥
『狙いはダーカー艦隊か…所詮艦隊戦は彼らには向かん。全艦後退!退路を護れ!創造主様の加護ある我らには彼奴らの妨害など形骸に過ぎん!』
しかし、この事態をただ静観していたアウグストは苦々しい顔で見ていた。その美しい顔は怒りで曇っていた。
アウグスト
『愚かな…あの程度で我が軍の退路を立てるものか!』
ハインリヒ
『このままでは敵に逃げられますな…というよりもう既に何割かは離脱したようですが。』
アウグスト
『…ハンブルグ大将。要らぬ手間だが、あの痴れ者供を潰してくれ。』
ハンブルグ
『既に水雷戦隊三個部隊を派遣しました。』
アウグスト
『うむ。それ程あれば足りる。如何に良くできていようと人の血が通っていない兵器など恐るるに足らん。』
ハンブルグ大将麾下三個水雷戦隊はオラクル軍の囮艦隊を撃滅した。囮艦隊は一艦を除いて無人艦であった。しかも、急場しのぎだった為、航行以外のプロセスは最低限であり、敵艦隊に本当の数を悟られないように発射したビーコン以外の武装は一切使えなかった。因みに本当の数は30隻である。無人艦コントロール艦は、アゴリアと言う、ストックホルム級高速戦艦であった。それにアゴリアの艦長。そして、タクミと、マトイと、サミュエルと、アースグリムが乗り、それ以外のクルーは下船させていた。ネルソンはこの囮艦隊の少なさに驚いたという。アゴリアは全速力である方向に向かっていた。
さて、視点を第一艦隊に戻す。提督不在の第一艦隊は味方残存艦隊を逃すべく奮戦していた。この時、臨時でグリッドマン提督が指揮を執っていた。
グリッドマン
『全艦砲撃を緩めるな!あともう少し堪えるのだ‼︎』
アリス
『友軍艦隊脱出成功‼︎』
グリッドマン
『良し!これより敵陽動の為、Bルートを取り、第一銀河回廊に退却する。各艦あともう少しだけ耐えてくれ!』
イオ
『先輩…頼む‼︎』
敵の陽動と分かった第二銀河勢力艦隊はオラクル艦隊に追いすがり追撃していた。そんな時、アウグスト艦隊旗艦に接近する超高速物体があった。高速戦艦アゴリアだ。イラストリアスに振動が走った。
アウグスト
『何事か!』
神聖銀河帝国兵
『敵艦です!位置は本艦の真下!』
ゲオルグ
『やってくれる…撃ち方やめ!』
ハンブルグ
『誰も撃つな‼︎』
フランチェスカ
『嗚呼…何ということを!』
銀河教国貴族士官
『閣下今です。今こそあの小賢しい小僧と敵を屠るチャンスです‼︎』
トゥハチェスキー元帥
『馬鹿者‼︎そんなことしてみろ!復讐に駆られた小僧の配下の艦隊と撤退した敵の艦隊が戻って来て刺し違えんと襲い掛かってくるわ‼︎』
アゴリアでは…
タクミ
『凄い…静かだね。』
マトイ
『気づいてない…って事は無い…よね?』
アースグリム
『この上にいる人を殺したく無いんだよ。きっと。』
サミュエル
『好都合だ。このまま第一艦隊を逃がしてもらおうよ。』
第一艦隊は敵連合艦隊に、悠々と腹を見せながら、退却した友軍とは別の方向に退却させていた。
アウグスト
『私の身を引き換えにこのまま勝利を逃すわけにはいかん!ここで勝利を逃すなど耐えられん‼︎』
ハインリヒ
『お待ちを閣下!』
アウグスト
『攻撃せよ‼︎』
イラストリアス艦長
『閣下お待ち下さい‼︎当艦の指揮は艦長を任された自分にあります‼︎上級大将閣下は、艦隊司令官としてのご自身の責務をお果たし下さいますよう!』
アウグストは艦長の言葉で我に帰り、そして穏やかな顔に敬意を表しながらこの壮漢に謝罪した。
アウグスト
『そうだな…イラストリアスについては艦長。卿に任せるものであったな。艦隊司令官である私にその権限は無い。済まなかった、二度とせぬ。』
イラストリアス艦長
『このまま待機致します。』
後にこの艦長、名を、シィファール・オゼス大佐は、この件でアウグストと親しくなり、後に艦隊を任せられ、フランシス麾下連合艦隊後衛を任せられる様になる。第一艦隊が戦闘宙域を離脱したのに合わせて、アゴリアもまた、イラストリアスから離れていった。
ハインリヒ
『追わなくて良いのですか?』
アウグスト
『良い。これ以上の犠牲は無用。追撃はフランシスに任せてある。我らは例の作戦に備える。』
ハインリヒ
『時期早々ではありませんか?まだ調略のしようは有りますが?良いのですか?』
アウグスト
『クラウゼウィッツ。もし敵に聡明な人間が一人でも居れば、自らこちらに来るだろう。勝機は、奴らには無い事を分かっているのならな。』
ハインリヒ
『それはそうと、元帥は引退を承諾致しました。』
アウグスト
『あの老人がな…俺を殺そうとしたが失敗して恐れを抱いたか?クラウゼウィッツ…どうだ?』
ハインリヒ
『そうでは、無いと存じます。引退を承諾なさったのは会戦の2日前です。恐れながら、閣下は試されたのです。』
アウグスト
『やってくれるな…あの老人め。…おや貴族の奴らは追撃する気だな。六個艦隊も差しむけるのか。』
ハインリヒ
『元帥が許可なさったのですかな?』
アウグスト
『それも無いな。あの男は、貴族の権力争いを嫌う。奴は貴族との関わりを持たん。あれはきっと私利私欲と私怨に駆られた者達の暴走よ…さてハインリヒ・クラウゼウィッツ大将よ、何個艦隊戻ってくると思う?』
ハインリヒ
『1個艦隊程度かと。上級大将閣下。』
アウグスト
『卿も、時には甘い見積もりをするのだなw…ゼロだ。戻って来て5,000隻行くか、行かないかだろう。』
ハインリヒ
『敵を買っておりますな。(分からなくも無いがな)』
その頃、アゴリアは第一艦隊に合流しており、タクミは武蔵の自室の中で古代の兵法書を読んでいた。
イオ
『センパ…提督、失礼します。ん?古代の兵法書?』
タクミ
『ああ、うちの屋敷の古い書庫に入ってた、オラクル船団創立前の兵法書だ。あんまり古いから、出所は異界かもしれない物なんだが、ついさっき翻訳が完了してね。いやはや…』
マトイ
『アリス少佐に持って来て貰ってから唸りぱなし。そんなに凄いことが書いてあるのかな?私にはサッパリ。』
イオ
『風り…なんだ?これ?』
タクミ
『風林火山。早きこと風の如く。静かなること林の如く。侵略すること火の如く。動かざること山の如し。兵が動く時は風の如く早く動き、陣を構え、並ぶ姿は林の様に静かに、攻めたてる時は、火の勢いの様に、そして如何なる謀略、攻撃に晒されようとも、その場を死守する様は山の様に…軍隊運動の基本だ。そしてもう一つ、言い伝えの異界ではこの兵法書に則った戦い方をしたことで有名な英雄が居るらしくて、その人が言った言葉もここに、新たに書き加えられて居る。』
マトイ
『人は城…』
イオ
『人は石垣…』
タクミ
『如何に堅牢な要塞にいても、人心が離れれば、呆気なく落ちる。だから自分の周りの人々を大切にすれば、人々を自分から離れない。そして自分を守ってくれる。そしてその逆も然り。って事さ。全くその通りだよ。schloss von gotts要塞が最前線になった今、これが正しく該当する状況だ。この戦争という時代。より一層人の心を大切にしないとね。』
マトイ
『うん!』
イオ
『人は城…か。』
サミュエル
『おーい。夕飯時だぜ?そろそろ行こう。 』
アリス
『早く来ないと、席取れなくなりますよ?』
タクミは二人の少女の顔を見て、席を立った。
タクミ
『腹が減っては…だね。行こうみんな。』