pso2仮想戦記二年前の戦争   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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10話 反乱の終焉

議事堂の首相室の隠し扉にはシャトル発着場に繋がる抜け道があった。首相を始めとした政治家達とその家族はここを通り、シャトルに乗り脱出した様だ。最後の便が発進した時間は船団宙域の制空戦の始まる直前であった。彼らは一体どこに向かったのか?いや見当はこの若い提督には分かっていた。この重囲を突破する方法は一つしか無いからだ。『連中…新造試験艦を盗んで逃げるつもりだ…』新造試験艦とは今後建造が予定されている新型巡航艦と新型戦艦のテストベット兼高速戦艦研究の為に建造されていたストックホルム級高速戦艦であった。従来艦とは違い、全高と全幅を少し抑えスリムな船体を持っている。船団戦闘艦艇の特徴であった艤装型100センチ代のフォトンレーザー主砲をコスト削減の為廃止し代わりにダーカー艦をモデルにした30〜55センチ代の連射、照射が可能の艤装型主砲に取り替える形になり、それを多数取り付ける事になった従来の艤装型主砲とは違い軽量である事から相当数装備できる為、軽量化と火力向上にも繋がっている。その一艦を奪い、船団から逃亡しようと言うのだ。カテゴリーは戦艦である為、500名強の人数はゆったりと搭乗できるだろう。さて船団の外では艦隊が待機していた。だが戦闘時の包囲体型では無く、それぞれがアークスシップへの揚陸作業に従事していた為追撃所では無かった。満足に追撃出来る艦といえばマザーシップ周辺に居た艦のみであった。首相を始めとした者達を乗せた高速戦艦ストックホルム級がマザーシップのドックから出航した。例の如く数隻が追撃行動を取ったがいかんせん速度が違い過ぎた。普通なら巡航艦クラスであれば充分追いつくのだが揚陸作業に従事していた為本来の速度を出せなかったのだ。然しストックホルムは無人の巡航艦と駆逐艦合わせて百数十隻の船隊が全速力で走り抜けていった。もうダメだ…追いつけない。誰もがそう思った。然し、首相達は船団方向から放たれた巨大なエネルギーの帯に飲み込まれてしまった。それは第二艦隊旗艦ガーディアンの放った艦首要塞クラス級レーザー主砲であった。偶然にもジャン提督率いる第二艦隊がこの区域の担当であり、更にガーディアンは首相達の乗るストックホルムの向かう方向に艦首が向いていたのだ。この要塞クラス級レーザー主砲もそうだが、艤装型100センチ代二連〜三連装主砲は元々、深遠なる闇との戦闘の数日前に起きたダーク・ファルス・若人の再封印のさいに使われた新型フォトンキャノンのデータを参考に造られた物であった。その延長線上に最大出力で発射すれば惑星一つ消滅させる程の出力を誇る兵器となったのだ。だがそんな兵器をたかだか100隻単位の艦隊に使うのはいくらなんでもオーバーキル過ぎやしないかと後の学者達が語るが、実際の所これを使う以外手が無かったのだ。仮にあったとしても彼らはこうでもしなければ気が済まなかったのであろう。こうして一連の首謀者は消滅し、内乱は終結した。タクミも、首相達の死亡を聞くとただ一言『そうか。』と返しただけだった。本当は彼自身が自らの手で首相達の首を叩き斬りたかったのだろう。だがそれは叶わない。その悔しさ故に彼はその一言のみ返したのだった。翌日、船団内の混乱は次第に収まっていき、アークス達はアークス本営への帰還を果たした。彼らは早速、船団の外で戦っていたアークスの安否を確認した。然し、結果は最悪な物であった。首相派防衛軍によって老若男女問わずアークス六万将兵が死亡していたのだ。その殆どが前線指揮官であった。まさか突然信頼し、背中を任せていた戦友に背中から撃たれるなど夢にも思わなかっただろう。更に悪い事に首相敗死と聞いてアークスを殺害した将兵は自決し、中には民間人にも自決を強要していた者までいた事が判明したのだ。この内乱で死傷した人数は船団内外合わせて500万人強にも及んだ。450億の国民を保有する国家から見れば大した数字では無い。だが会戦を複数回やって出る死傷者をほんの数週間で出してしまい、失った人々の数を上回る数のその尊い命を失い、悲しみ嘆く人間が出てしまったのだ。アークス本営の面々はなんとも言えない空気の重さに襲われた。こんな大きな傷跡を残したままダーカーという巨大な敵と戦わねばならないのか…彼らは嘆こうにも嘆くことは出来なかった。一方タクミも車内の人となっていた。鹿島の後任で副官となったアリス大尉改少佐と鹿島には個人的な恩のある為同行を希望した若手士官の副砲術長綾瀬士郎中尉そして、船団近衛兵として随行しているマトイと共に鹿島の娘夫婦の住む住居に向かっていた。インターホンが鳴り、扉を開けると喪を示した軍服姿の若い男女達が居たので鹿島の娘は驚いたが直ぐに彼女はタクミ達を応接室に通した。応接室にはタクミと綾瀬、そして鹿島の娘夫婦が座った。4歳を迎えようとしている鹿島の孫娘はアリスとマトイが外で遊んでいる間にタクミは鹿島の死をこの娘夫婦に伝えた。娘は泣きくずれ顔を覆った。夫はそれを支え、震える肩を抱きしめた。綾瀬はそんな娘夫婦を見ていられなかったのか顔を背けた。そして彼の逞しい肩も微かに震えていた。

タクミは暫くして例の遺言を切り出した。『鹿島大佐…いえ鹿島中将閣下はお亡くなりになる際に遺言を残されました。『私の代わりに孫に誕生日プレゼントを渡して欲しい』と』タクミは箱を娘に渡した。『父は、本当にあの子を愛していました。いつかきっと美人に育つ。だからそれまでにこの戦いを終わらせたいって』それを聞いた綾瀬も『中将も同じような事を僕ら若い士官にも仰っておりました。』鹿島は艦隊の中では慎重な男で厳格さ故に口煩い印象もあるが、面倒見の良い男であった。その為、艦隊の若い連中は彼を父の様に慕っていたのだった。そんな彼を失ったのは第一艦隊の面々にとって大きな痛手となったのは言うまでも無い。そこに応接室の扉が開いた。入ってきたのは可愛らしい将来間違いなく美人になるであろうと誰もが思う様な可愛さを持つ鹿島の孫娘だった。彼女はタクミが持ってきたプレゼントに興味津々だった。後から、アリスとマトイが入ってきた。アリスは申し訳無さそうにこう言った。『申し訳ありません閣下。疲れたから帰りたいと言ってたので、うちに入ったらそちらに走って行ってしまってしまって』『ママこれなぁ〜に?』孫はタクミの持ってきた鹿島の遺品であるプレゼント箱を指差して母に尋ねた。娘は、『おじいちゃんからのプレゼントよ。このお兄さん達が持ってきてくれたのよ。お礼を言いなさい。』孫はそれを聞くや、タクミ達には礼を言わずプレゼントを開けてしまった。『すみません…まだどうも…』娘夫婦は謝罪した。タクミはこれに焦り、気にしないでくれと言うしかなかった。プレゼント箱の中身は熊のぬいぐるみであった。女の子にはぴったりな誕生日プレゼントだ。タクミは内心そう思った。孫は目を輝かせ喜んでいた。タクミ達はここを後にしようと立ち上がったが、タクミは孫に裾を引かれた。そして孫はタクミにこう尋ねた。『おにいちゃん、じ〜じはどこ?いつかえってくるの?』タクミの何かがここで切れた。彼を膝を折り、孫を抱きしめ、涙を流し嗚咽を吐いた。そして何度も何度も『ごめんね…ごめんね』と繰り返した。残酷だ…幼子にどうやって自分の祖父の死を告げられようか。そして彼の葬儀の時彼の棺が地に埋められる時孫は恐らく何故自分の祖父を埋めるのかと聞くだろう。そんな孫を自分はどんな気持ちで見なければならないのだろうか…まだ21の青年には答えを出すことは出来なかった。そもそも彼が自分の艦隊の将兵の死を一切語らなかったのはこの答えを出せずにいたからであった。彼にとって自分の艦隊の将兵たちは親兄弟も当然であったのだ。

暫くしてタクミ達は鹿島の娘夫婦の住まいを後にした。車内の中では皆が泣いていた。タクミも綾瀬もアリスもマトイも彼らは泣くしか無かったのだ。戦争と言うのは若者達の心に大きな傷を残すようなものだ。然し、生がある以上彼等に時代という大きな流れに逆らう事は出来ない。そして今、この時時代は血を欲していたのだ。ならばこの時代を生きる者は一切の躊躇無く自らの血を流すであろう。翌日、艦隊司令部においてタクミは辞令を受け取った。第一、第3艦隊は約40万強の将兵を持って惑星リリーパに向かい、同惑星にて拠点包囲行動中のダーカーの大軍を壊滅させよというものであった。彼はその内の第3軍麾下の騎兵軍団長の任も兼任するよう通達されたのだった。艦隊司令官兼騎兵軍団長というのは異例の事態であったが、既にアークス、防衛軍共に反乱による混乱で人事が行き届いておらず特にアークス大虐殺により、指揮官が不足していた事もあった。と言うよりも一番の理由は防衛軍発足時に復活した騎兵というカテゴリーをよく知っていて、それを扱う事の出来る指揮官でうってつけであったと言うことだろう。タクミの父はアムドゥスキアに置いて、龍族とアークスによる初の会戦でアークス騎兵軍団を率いて敵の大軍を幾たびも潰乱させた男であったから、その素質を息子であるタクミが継いでいるだろうから任せようという事になったのだ。タクミからしてみれば迷惑な話ではあったが、彼自身は騎兵として父の様な活躍は望んではいたし、騎兵戦術は上手く応用すれば艦隊戦でも十分使えることから戦術勉強にも良いだろうと考えたのかこれを了承した。そもそも辞令なので拒否権は無いが。休む間無くタクミ達は出兵のパレードに参加した。まだ新政権も船団復興も進んでいない中の出兵式であったがそれでも多くの人間が集まっていた。然し、タクミにとっては…と言うよりこの場にいた将兵達は彼等は自分達の生還を望んでここにいるのでは無く、自分達の死を望んでここにいる。あの笑顔や歓声は、死刑囚が断頭台に登った時の見物客達の歓声と同じだと感じていたのだ。無理も無い。つい二日前にまで自分達は

仕方なかったとはいえ彼等の親兄弟、友人、恋人を殺したのだから無理も無かったのだ。そんな狂気と哀しみに満ち溢れた空気に戦士達は背中を押され、彼の地へ出発しようとしていたのだった。

 




10話です。自分ではかなり重い話なのでは無いかと思います。なおTwitterの方で絵心の無い絵ですがストックホルムや話の中に出てきた兵器の想像図をあげておきますので良かったらこっちも見ていただけると幸いです。本アカ@sky0v pso2メインアカ@takumipso2ship7
それでは皆様これからもどうかご贔屓にお願いいたします。

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