神の首が堕ち、八尾比沙子が奈落に飲み込まれた数日後――。
須田恭也は大字粗戸から大字波羅宿へ向かう山道にいた。右手に神の武器・宇理炎を、左手に神代の宝刀・焔薙を持ち、そして、背中に小銃・散弾銃を背負い、腰には拳銃や手榴弾を携えている。
緩やかな下り坂の先には集落が見える。数日前に発生したダムの決壊により、眞魚川周辺の集落は半壊したのだが、屍人たちは、再び家を建てようとしていた。
恭也は携帯音楽プレイヤーを取り出した。カセットテープ式だ。もう、ずいぶんと型落ちの物で、CDやMDと比べて音質が悪く、早送り巻き戻しが面倒で、シャッフル再生ができないなど、不満は多いが、激しい動きをしても音が飛ばない点は気に入っている。ずっと使い続けているが、最近では、音楽プレイヤー自体にCD何枚分もの音楽を録音できる物も発売されている。音飛びもしないし、ずっと欲しいと思っているのだが、なかなか手が出ない値段だった。まあ、今はまだ、この古い音楽プレイヤーでも十分だ。
そんなことを考えながら、恭也はヘッドフォンを付け、携帯音楽プレイヤーのボリュームを上げた。ハードなロック曲が、鼓膜と脳を刺激し、気分が高揚してくる。
恭也は坂を下り、集落の入口に立った。屍人たちが気付き、一斉にこちらを見る。警戒する者、襲い掛かろうとする者、脅えている者……様々な反応を見せた。
恭也は、天高く宇理炎を掲げた。
恭也の命の炎が、宇理炎を通して天へと昇っていく。
天から、青白い炎が、雨のように降りそそいだ。
炎が、屍人を、家を、村を、焼く。
もちろん、それで恭也の命の炎が燃え尽きることはない。
恭也は宇理炎をポケットに収めると、焔薙を両手に持ち替え、咆哮を上げながら集落へ入った。
屍人を斬る。
一人、もう一人、また一人、と、屍人を斬り捨てていく。
銃も撃つ。小銃も、散弾銃も拳銃も、手榴弾も使い、屍人たちを殺していく。
炎に燃えている屍人、燃えていない屍人、襲って来る屍人、逃げる屍人、泣いている子供の屍人、子供を護ろうとする屍人――。
すべて、手当たり次第に斬り、銃で撃ち、手榴弾で爆破していく。
屍人が一人倒れるたび、恭也の気分は高揚していく。脳を刺激するハードな曲が、それをさらに高める。さらに殺す。気分が高まる。
恭也は、ふと。
――これじゃあまるで、三十三人殺しの犯人だな。
そんなことを、思った。
☆
――――。
約束したんだ。
すべて、終わらせるって。
屍人も。
村も。
全部、消す、と。
美耶子との約束だから。
約束したんだから――。
☆
恭也は、殺戮を続ける。