有栖とアリス   作:水代

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フランといっしょにすりーぴんぐ、と言う動画を見た。


…………そろそろ結婚生活(仮)書こうかなあ(
でもぶっちゃけ、アリスちゃん、時々あんなことを有栖くんに(してたりしてなかったり


有栖と怪物

 ネクロマと言う魔法はかなり特殊だ。

 普遍的効果を持った悪魔合体などで継承可能なネクロマと言う魔法があれば。

 俺の仲魔のアリスのように、通常とは異なった効果を持つネクロマの魔法もある。

 だがどちらの魔法にも共通すること、それは死者を操る魔法である、と言うことだ…………正確には死者の隷属。

 やっていることは、ネクロマの応用である。

 前提として、雲霞のごとく押し寄せた騎士たちは、全て死霊である。

 その死霊たちをネクロマの魔法を媒介に操作する。つまり、そう言うことだ。

 それこそがネクロマの本来の効力であるのだと、知っている人間は少ない。

 この魔法は本来、悪魔だろうが人間だろうが、生命としてそこに存在しているものが死に憑かれた時、それを操ると言うものであり、仲魔の死体をゾンビとして操るのはその一面的な使い方に過ぎない。

 そうして操作を奪い取った騎士を仲間割れさせて倒す。そうすると勝手に自爆してくれる…………周囲の他の騎士を道連れにして。

 結果、連鎖的に爆発が起き、その場にいた騎士たちの大半が爆発四散し、消滅していった。

 二百か三百そこらいた騎士たちがほとんどいなくなったのだから、大成功…………と言いたいのだが。

「………………こいつは、やばいな」

 操った数は二十。数が数だけにこちらもある程度の頭数は必要だったのだ。

 一つだけ問題なことがある。

 

「さまなー、いしきがはっきりしててむずかしいよ」

 

 それはマグネイトの消費量だ。

 基本的にネクロマとは単体に使う魔法だ。数回に分け、それでも3,4体が精々だろう。

 それを20体も一度に操ったのだ、その消耗は押して知るべしである。

 

「何…………? げっ、ごっそり減ったな」

 

 一つだけ予想外だったことがある。

 それは、アリスも言ったとおり、騎士たちの意識が予想以上に強かったことだ。

 当たり前だが、物言わず思考も止まった死人と、思考をする死人とでは、後者のほうがマグネタイトの消費量が多い。思考を塗りつぶして、こちらの色に塗り替えるのだから当たり前と言えば当たり前だ。

 抵抗の意思を残す相手をその意思ごと塗りつぶすのなら、余計に魔力が必要となる、イコールでマグネタイトの消費量の増える。

 

 COMPに表示されたMAGバッテリーの残量に顔をしかめる。

 一度で半数近く減ってしまった。自爆されるとマグネタイトの回収ができないから消費が想像以上に激しい。

「…………まだ、大丈夫か?」

 本気でやらなければまだ数戦の余裕はあるが、もし全力で戦わなければいけない相手ならば一戦が限界だろう。

 この異界内にはジョーカーがいるはずなのに。それはかなり不味いと言わざるを得ない。

 視線を上げる。眼に見える範囲内には敵の姿はない。

 全て仲間の自爆に巻き込まれたようだった。

 あれだけの数を倒したのだ。当面の間は安全だろう…………そう、思った時。

 

「見つけたぞ」

 

 聞こえたのは、押し殺したような低い声。

 どこから? そう考え、上からだと気づき、顔を上げる。

 

 そこに、立っていた…………白が、赤が、黒が。

 

 満月よりも白く、鮮血より紅く、闇よりも黒い。

 男とも女ともつかない、中世的な青白い相貌。

 この夜の闇に溶けて消えてしまいそうな漆黒のマントを羽織った腰まで届く真っ白な髪を携えたソイツ。

 その目は紅く爛々と怪しく輝いており、開いた口から尖った鋭い犬歯が見え隠れする。

 ソイツはそこにいた。この暗い暗い紅闇(あかやみ)の中にあって、けれどその姿ははっきりと捉えることができた。

 

「見つけたぞ…………月の血統」

 

 頬を吊り上げニタリと嗤うソイツ、狂乱絵札最後の怪物…………ジョーカーがそこにいた。

 

 

 * * *

 

 

 和泉と言う少女はその日、偶然そこにいた。

 現在和泉と言う少女がこの街にいるのは、ガイアの命令だからだ。

 メシアに下った予言の少女…………聖女を探し出すこと。

 それが今の和泉の役目だ。

 ただそのためにこの街に来て早々にメシアと激突したり、狂乱絵札と戦ったりと、初日から騒動に巻き込まれ、その報告のために二週間ほどガイアの拠点へ戻っていたのだが、今日から再び役目のためにこの街へとやってきたのだ。

 そうして、二週間前は急遽だったことにより用意できなかった拠点も二週間の間に用意され、明日からいよいよ本格的に調査を始めよう…………と言うその日の晩。

 

 突然、拠点ごと異界に取り込まれた。

 

 あまりにも唐突な事態に、数秒思考が停止したが、すぐに我に返り、状況の把握に努めようとする。

 現在和泉が…………と言うより、ガイア教が用意した拠点は吉原市にあるとあるマンションだった。

 ガイアなんて因果な組織に所属している上に、その幹部格の和泉自身何かと狙われる身である、突然の自体とは言え動き出す用意はすでに整えてある。

 即座に部屋を飛び出し、近隣の様子を伺う。だが隣の部屋もその隣の部屋も…………マンション全体からは人の気配が感じられない。

 ほんの数分前まで確かに感じられていたはずなのにも関わらず…………だ。

 

 何かを基準に選別して異界に取り込まれた?

 

 だとすればその条件が分かれば、この異界の主のことも何か分かるかもしれない。

 基本的に単独任務、単独戦闘を旨とする和泉にとって重要なのは判断力だ。

 状況を把握し、現状を判断し、行動を決断すること。単独行動における最も重要なものを和泉は持っている。

 故に決して和泉の頭の回転は悪くない。だからこそ、空を見上げ、紅い月を見つけた瞬間、すぐさま気づいた。

 

 沸騰したかのように血が騒ぐ。

 

 体中の細胞と言う細胞がぞわぞわと奇妙な感覚を覚え。

 

 無性に喉が渇いた。

 

 それが何なのか…………すぐに気づいた。

 

 吸血衝動。

 

 飢え渇く。本能が満たされないその欲求不満に、理性が揺らされる。

 いけない、と考えてみてもどこか物足りない感覚が付きまとい、満たされたいと言う欲求が湧き上がる。

 全てあの月が原因だと考え、けれどどこか違和感。

 細胞が震える。埋め込まれた因子がざわめく。

 

 自身の体に埋め込まれた…………ヴァンパイアの因子が。

 

 共振、とでも例えれば良いのだろうか。

 まるで自身に近い存在が今どこかに居て、自分の体がその存在を感じ取っている。

 言葉にするならそんな感じである。

 一体これは何なのか、そんな疑問もけれど答えは出ない。

 

 ただ、行って見るしかない、と思った。

 

 この異界、そして自身の体の異常。二つはきっと繋がっていると直感する。

 

 両手に銃を握る。

 

 両方を一度構え…………そうして、またホルスターに戻す。

 

 さて、行こうかしら。

 

 心中で呟き。

 

 そうして、夜の街へと飛び出した。

 

 

 * * *

 

 

「メギドラ」

「マハラギオン」

 両者から撃ち出された魔法が宙で激突し、爆発を起こす。

 十数度にも及ぶ、魔法の撃ち合いに、自身たちも赤い騎士もさすがに疲れを見せ、互いに一度後退する。

「あの時の子供がここまで食いついてくるとはのお…………」

「いい加減死にやがれ…………魔人」

 互いに視線を逸らさず、次の布石を用意し…………。

 

「くく…………」

 

 微かに聞こえた笑い声に、ばっと振り向き、さらに二度、三度と地を蹴り大きく後退する。

 あの魔人すらもその予期せぬ乱入者に、僅かばかり動きを止めた。

 この異様な赤い世界にあって、その存在はあまりにも自然だった。

 白く、赤く、そして黒い。

 それを認識した直後。

 

「何を気配がすると思えば…………まさかこんなところに異界があるとはな」

 

 聞こえる声、それはその乱入者が呟いたもので。

 

「悪いがこの辺りにいられると困るのでな…………消えてもらうぞ」

 

 それが俺とジョーカーの最初の邂逅。

 

 そして。

 

「また出会ったな…………まさか貴様が月の血統だとはな。あの時は気づかなかったぞ」

 

 これが二度目の邂逅。

 

「あの時、軋み壊れた空間に飲まれていたが…………まさか戻ってくるとはな、結果的には好都合だ」

 

 同じように、ソイツは俺を見下ろしていて…………。

 

「では目的を遂げようか」

 

 けれどあの時とは違って。

 

「とりあえず…………死ね」

 

 その身に纏う魔力は、桁が違った。

 

 

 

「メギドラオン」

 呟くその声と共に、ジョーカーの左手に黒紫色の光が集う。

 それが撃ち出されるのと俺がその場からダッシュで逃げ出すのはほぼ同時だった。

 瞬間、暗い夜の空にさらに暗い黒紫の光が光った。直後に訪れる轟音、それがその攻撃の強大さを物語っているようであり、事実着弾した周囲一体が文字通り消し飛んだ。抉れた地面が巨大なクレーターとなっており、周囲にあった建物も全て吹き飛んだ。

 俺が助かったのは、放たれたと同時に走り出し、咄嗟に前転して飛距離を伸ばしたからであり、今の一撃の爆風で吹き飛ばされ、爆発自体には当たらなかったからである。それでも尚、十メートル以上吹き飛ばされ、そこからさらに数メートル地面を転がっていた。

「っ…………なんだ今の?! 爆撃か何かかよ!!」

 メギドラオンとは確かに万能系魔法でも…………否、全ての魔法の中でも最強クラスの威力を誇る魔法ではある。俺の仲魔も何体か使うことができるが、実際には一部の高位悪魔しか使うことのできない魔法である。

 だが、それでも、だ。それでも一魔法の範疇である。個人の使う魔法である。あんな爆撃のような威力は普通出ない。地形すら変えてしまうなど、あんなもの最早戦術的レベルでの威力だ。

 魔法の威力とは、究極的にはそれを使用する本人の魔力の高さによって変わる。

 俺のアリスでも、ジャアクフロストでもあそこまでの威力は出ない。となればそれ以上の魔力の持ち主、と言うことになる。いつか見た和泉の使ったメギドラオンをさらに凌ぐほどの威力。

「まさに化け物…………怪物(ジョーカー)だな」

 ジャアクフロストはレベル90の最強レベルの魔王だ。

 そのジャアクフロストよりも高い魔力の持ち主など、早々いない。

 まさに化け物である。

「ほう、生き残ったか…………まあこの程度で死なれても面白くないが」

 こちらに語りかけているとも独り言ともつかぬ言葉と共に、ジョーカーが地に降り立つ。

 手のひらを真っ直ぐに伸ばす、そこに生えた爪は長く鋭い。人間のものとはとても思えない造形。

「ブラッディサイクロン」

 ブォン、と体ごと回転させながら爪を振るう。彼我の距離は5m以上、当たるはずの無い攻撃、そのはずが。

「…………っ」

 全身に切り傷が出来、血があふれ出す。じわりと熱を帯びた全身に顔を顰め、けれどホルスターから銃を取り出し、照準もつけずに感覚だけで狙い撃つ。

 バン、バン、といくつも弾丸が撃ち出され、その内の数発がジョーカーの体を貫く。

「なにっ?」

 いとも容易く弾丸がその体を貫いたことに、逆に疑問を覚える。

 案外守りは弱いのか? そんな疑問は、けれど即座に払拭される。

「痛い、痛いなあ」

 一瞬、ジョーカーの体に魔力が渦巻き、気づけば貫かれたはずのジョーカーの体のどこに傷は無く、服に空いた弾痕だけが確かに弾丸を貫かれていたことを証明していた。

「再生能力? 厄介な…………」

 銃ではダメだ、あの程度の傷では即座に回復されてしまう。

 ならば斬撃? 俺の手持ちにそんな仲魔はいない。

 だとすれば…………。

 

「アリス、フロスト、ランタン」

 

 俺の傍にいたアリスとフロストを呼び、そしてジャックランタンを追加で召喚する。

 それだけで俺の仲魔たちは動き出す。

「メギドラオン」

 アリスが自身の持つ最大威力の魔法を放ち。

「マハブフダインだホー!」

 フロストが拳に纏わせた魔法を全力でぶつけ。

「マハラギダインだホ!」

 ランタンが最上級の火炎魔法を撃ち出す。

 それら全てがジョーカーを襲う。爆発が起こる。先ほどのジョーカーの一撃にも匹敵しようかと大爆発。地形を変えるほどの威力は無くとも、三種類もの強大な魔法を同時に放ったのだ、その威力や想像を絶するものがある。

 

 だが。

 

「痛いな、だがその程度だ」

 

 爆煙。その中から飛び出してくる影。

 俺はそれを目で追いきれなかった。黒い影、としか表現のしようが無いほどにそれは素早かった。

 気づけばフロストが目の前から消えていた。

 直後、背後から聞こえるガラガラガラガラガラ、と言う建物が崩落する音。鼓膜が破れるかと錯覚するほどの轟音に、咄嗟に耳を塞ぐ。

 酷い耳鳴りに顔を顰めながら振り返り、目を見開く。そこにあったのは瓦礫の山。最早何の建物だったのか分からないほどに崩れてしまっていた。

 暗い夜の闇と舞う砂煙のせいで見えはしないが、確かに感じていた、そこにフロストがいると。

 

 帰還(リターン)

 

 召喚(サモン)

 

 引き離された、その事実に気づいた瞬間、フロストを帰還させる。そして同時に召喚しようとし。

 

「遅いな、遅すぎる」

 

 目の前に現れたジョーカーの姿。咄嗟に銃を突きつけ、引き金を引こうとして…………。

 

「冥界破」

 

 その言葉が聞こえると共に感じたのは衝撃。全身をバラバラに引き裂かれるような、そんな衝撃に、俺は意識を失った。

 




敵を目の前に意識を失うなど、最早結末は決まったようなもの。

二十一話書き終わりました、現在の施行度90%。
あと5話くらいで四章終了予定なので、そろそろ毎日投稿する……かも?

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