爆音が響き渡り、連鎖的に廃病院が爆破されていく。
轟く爆音と、瞬く閃光が周囲にいるものたちの目を焼き、耳を潰す。
「っくぅ…………あんの糞ったれ、火薬の量間違えやがったな…………相変わらず大雑把な作り方しやがって。こっちまで爆風来てるじゃねえかよ」
爆弾なんて取りあえず火薬詰め込んでおけばいいや、的な思考の製作者を罵倒しつつ崩れ落ち、灰燼に帰した病院に視線をやる。
「頼むからまだ立つとか言わんでくれよ…………?」
「さまなー。しってる? そういうのって、ふらぐ、っていうんだよ?」
「サブカルチャー染まり過ぎだろ、アリス。どっから仕入れてくるんだ、その情報」
俺はこいつの保護者(らしい)人たちになんと言ってこいつを見せればいいのだろう。
なんて戯言を言っていると。
「ヒィィィィーホォォォー!」
瓦礫の山を吹き飛ばし、出てくる一体の悪魔…………と言うかジャックフロスト。
「おい、マジで出てきやがったぞ」
一応あれでも火薬過多のC-4(プラスチック爆弾)を目一杯しかけたはずなんだが。
たまに誤解しているサマナーもいるが、現実の炎と火炎属性魔法の炎は全くの別物だ。
魔法はあくまで魔力で練られる。現実に干渉もするが、それでも結局のところ炎そのものではない。
なので火炎無効の属性やスキルを持った悪魔だろうと、現実の炎に焼かれれば熱いし、ダメージも受ける。
まあ大概火炎無効属性の悪魔は火炎属性を得意とする悪魔なので、火に関する伝承を持っていたりして現実の炎も悪魔自身の体質で問題なかったりする場合も多いのだが。
だがこのジャックフロストにはそんな伝承は無い。
なら実際の炎は喰らうし、爆風や瓦礫でダメージも負う。
と、当たりをつけていたのだが、想定外だったのはその耐久力。
やたら筋力が高かったが、耐久力まで高数値らしい。
あの爆発を耐えしのぐとは…………低レベルなら、魔王種族でも滅ぼせる程度の火力はあったはずなのだが。
「っち…………やっぱそうそう楽はできねえか」
忌々し気にそう吐き捨て、再度警戒した…………ところでフロストが笑う。
「ヒーホッホー! オイラがここまで追い詰められるなんて、アンタ強いホー!」
自身の警戒とは裏腹に、フロストがこちらに敵意を向けてくる様子は無い。
そのことにやや拍子抜けしながら相手の言葉を待つ。
「アンタについて行ったら面白そうだから、オイラはアンタの仲魔になるホ!」
「は?」
「本当かホー?!」
何故かデジャブを感じる台詞に、一瞬呆気に取られ、隣でランタンが騒ぐ。
「あ、思い出した」
と、同時に嫌な予感が過ぎる。
「だから…………」
そうして、フロストが…………言葉を続ける。
「これに耐えてみるホ!」
獣の眼光
マハタルカジャ
マハタルカジャ
獣の眼光
マハタルカジャ
マハタルカジャ
獣の眼光
マハマカカジャ
マハマカカジャ
獣の眼光
マハマカカジャ
マハマカカジャ
「ブーメランフロステリオス!」
「アリス!! ランタン!! メギドラオン!!!」
その場に二つの声が同時に響き…………。
「全治二週間…………まあマシなほうか」
病院のベッドの上で苛立たしげに呟き…………それから一つ溜息を吐く。
まあ実際問題、レベル65なんて化け物と戦って生きてるだけマシなのだろう。
「と言うかなんだそのふざけたレベル…………普通に上位区分だぞ」
レベルレベル、と言っているが用するにその悪魔が蓄積した活性マグネタイトの量だ。
世界にいる全ての悪魔は分霊と呼ばれる本体の識能を宿した御霊をマグネタイトで形作った体に宿した存在だ。
全ての悪魔にはそれぞれ顕現に必要なマグネイト量…………つまりその体を構成するためのマグネイトの最小値が決まっており、悪魔が顕現する時、その悪魔を構成するマグネタイトが足らない状態で顕現するとスライムと呼ばれる悪魔になる。
さて、ここで話を戻すが、レベルとは本来、階梯の意味を表す。
悪魔たちにおけるレベルもこれと同じ。
マグネタイトの体で本体の力をどこまで行使できるのか、と言うのを明確に表したものがレベルだ。
悪魔のレベルが上昇すると使えるスキルが増えたりするのは、その分霊がその階梯の分だけ本体の力を扱えるようになった、と言うことの証でもある。
例えるなら、分霊とは、本体の設定を丸々コピーしただけの情報の塊で、それを読み取って実行させるのがマグネタイトの力、と言うと幾分か分かりやすいだろうか。
この階梯になるとこのスキルが使える、階梯を上げる度に、だいたいこういう能力が上昇しやすい、しにくい…………まるでゲームのように悪魔の設定とでも言うものをトレースしたものが分霊だ。
「…………ステータスだレベルだなんだと、まさしくゲームか」
さながら俺はゲームの世界に迷い込んだ登場人物Aと言うわけだ。
などと笑いながら、夜の病院に一人佇む。
「ヒーホ! マスター、何黄昏てるホ?」
「お前のせいだよ、アホ」
と、ふと聞こえた声に呆れた表情で返す。
そこにいたのは、あのフロスト。
メギドラオン二発でも相殺しきれず、半死半生だった俺たちを前にして。
ホー! やっぱりアンタ面白いホ! これからよろしくだホ! マスター。
あっさりとそう言い、その場で契約した。
ランタンもアリスも力を使い果たして現在休養中だ。
「しかし、お前…………思ってたよりあっさり仲魔になったな」
「ホー?」
「ランタンはもっと徹底的に戦って戦って戦い抜いたから、お前もそうなのかと思ってたが」
あの時はひどかった。俺もアリス…………そしてランタンも満身創痍な上、あと数分でこの街が吹っ飛ぶと言う状況だった。
それと比べると、今回はどうにも上手く行き過ぎた感じがしないでも無い。
まあぼっこぼこに殴られて体中骨折してるから無事とは言いがたいが。
それにランタンの時は傷を負った、と言うより熱で火傷したり、肺が焼けたりとそっちの方面で重体だったのだが。
「…………なんつうか、落ち着いてたな、お前」
ランタンの時と比べるとやはりそこが一番気になった。
「特異点から情報流を受け取ってないのか?」
特異悪魔は特異点から異界の情報が流れ込んでくる。故にこそ特異悪魔はこの世界のものではない法則を扱ってくる。だが、だからこそ絶えず流れ込んでくる世界一つ分と言う膨大な情報に耐え切れず理性が弾け飛ぶ。それがランタンに聞いた話だ。
「? よく分からんないホ」
「ん…………そうか」
この様子では受け取ってない…………と言いたいが、あの強さから考えるにやはり受け取っているのだろう。
だとすればどうしてフロストは平気だったのか。
「そんなことよりマスター! マスターと一緒にいたら、オイラはもっと強くなれるホ! だからマスターもどんどんオイラを使うんだホ!」
「ああ…………頼りにしてるよ」
真面目に言って頼りにしている。アリスもランタンもガチガチの後衛型だ。俺自身も補助魔法と銃撃と言う後衛型で、前衛が誰もいない俺たちにようやくやってきた前衛だ。
そう…………ジャックフロストと言えば氷の妖精、また後衛型だと思っていたのだが、こいつはまさかのガチガチの前衛型だ。アナライズを使って見たこいつの能力値は力と耐久が抜群に高い。
しかも攻撃の全てがあの時見たように拳に魔法を乗せると言う方法であり、その威力は筋力と魔力の両方からに依存すると言うまさしく法則とか色々ぶっ壊しているやつだ。
その分、魔力や知力が低いのだが、それにしたって十分許容範囲内で、飛びぬけて低いわけでも無い。
ランタンが魔力特化だとすれば、フロストは物理主体と言った感じだろうか。
「ところでランタンもだったが、なんで仲魔にした途端に獣の眼光消えてるんだよ」
あのやたらと連続で魔法が使えるスキルの名前を獣の眼光と言うらしい。
ランタンも敵だった時は使っていたが、仲魔にした途端何故か消えている。
「ホ?」
思わず尋ねずにはいられなかったのだが、肝心のフロストはわかっていないらしく首を傾げている。
あれがこちらも使えれば相当に便利なのにな、と思わずにはいられないのだが、仲魔にした途端使えなくなるのだから理不尽なものだ。
と言うより、もしかすると特定条件でしか使えないのかもしれない。
ランタンもフロストもあれを使ってきたのは最後の瞬間だけだった。
そう、最後のフロストの行動にデジャブを感じると思ったら以前のランタンも最後の最後に同じことしてきたことのだった。
マハマカカジャ四回からのマハラギダイン。メギドラオンではなかっただけマシなのかもしれないが、耐火装備着けてほぼ死に掛けたのは軽いトラウマだった。
「で、んな思いまでして仲魔にしてみれば、肝心のスキルはありませんってか…………」
理不尽だ。本日何度目になるか分からない言葉を胸中で呟く。
だいたいレベルが上がったわけでも、新しいスキルを覚えさせたわけでも、悪魔合体させたわけでも無いのに何故使えないのか…………。
「って、俺が知るわけねえよな」
自身は学者でもなんでも無い。
使えないのなら、使えないと割り切って戦術を考えるしかない。
「ったく…………侭ならないもんだ」
ふっと出た欠伸を噛み殺し、ベッドに横たわる。
「フロスト、もう寝るからCOMPに戻ってろ」
「了解だホ」
COMPの中に消えていくフロストの姿を見送り…………目を閉じた。
朝目が覚めると布団の中にアリスがいた。
「……………………おい」
時々だが、気づくと勝手に潜り込んでいるので今更ではあるが、さすがに病院では止めて欲しい。
「ん~…………おはよーさまなー」
「おはよう、じゃねえよ。こんな他人の目が場所で出てくるな。ただでさえお前日本人には見えない顔してんだから」
「えへ~」
えへー、じゃねえっての…………取りあえず個室だったから良かったが、相部屋だったら悪魔の存在がばれてたかもしれない、そう思うと少しばかりドキリとした。
「俺はこんなくだらないことで、キョウジと戦うのは嫌だぞ」
もしそうなれば葛葉の掃除人が出てくるだろう。この街はあいつの根城だ。
さらに言うなら、キョウジが出てくれば間違いなく処分は全員皆殺しだろう。
「頼むから人前で出てきてくれるなよ?」
ガラッとドアが開かれる…………入って来たのはキョウジだった。
「キョウジ…………なんだ、電話でも良かったのに」
送還間に合って良かった…………とこっそり心の中で呟いておく。悪魔を出しっぱなしにしているところを見られたら大変なところだった。
くつくつと笑う男は病室を見渡し、他に誰もいないことを確認した後こちらを向く。
「今回はご苦労だったな、まさかレベル65とは俺も驚いたぞ」
「嘘つけ、あんたなら驚くほどの数字でも無いだろ」
何せこいつの連れている仲魔たちの平均レベルは70以上だ。
今代のライドウがまだ成長途中と言うことを除いてもここまでふざけたレベルにはならない。まあライドウと言っても正確には候補だが。
葛葉最強と呼ばれるだけはある、まさしく化け物だ。
まあ十四代目ライドウと当時の葛葉キョウジはそれ以上の化け物だったらしいが。
「取りあえず良くやってくれた。正直俺も忙しいんでな、代わりになりそうなのがお前しかいなかったのも事実だ」
それは事実だろう。この街にいるのは国内でも有数の猛者たちだが、それでも連れている仲魔の平均的なレベルは30代。
と言うか、それでも普通一流なのだ。こいつが、と言うか葛葉が異常過ぎるだけで。
参考までに言えば葛葉の言うところの一流はだいたいレベル45から始まる。
正直数は非常に少ないが、小数精鋭を地で行っているのが葛葉の里だ。
俺も一度しか行ったことは無いが、あそこは基準がまずおかしい。
と、まあ話を戻すが、確かにこの街のデビルバスターたちのレベル事情を鑑みれば俺しかいない、と言うのも納得できる。
それにキョウジはキョウジで、いつもふらっと現れるから印象は薄いが、この街の裏事情の切り盛りに加え、葛葉の掃除人としての役割など多忙を極めているのも事実だ。
特にこの街は帝都には珍しく、メシア教とガイア教の狂信集団のみならず、独自勢力とでも呼べるものがひしめき合っている魔窟だ。どこかが暴走しないように、どこかが突出しないように勢力バランスに気を使っているのは俺も知っている。
「それは知ってるけど、毎回こうも入院してたらたまったもんじゃねえよ。だいたい俺明日からも普通に学校があるんだが」
因みに現在俺は十五歳。入学したての高校一年生だ。そして入学初っ端から全治二週間で入院となったわけだが。
「後で専門の医療班をまわしてやる。それで一週間で済むだろ。それはそれとして、次の仕事だ」
「また?!」
一つ終わればまた次が舞い込んでくる。
俺の平穏は一体いつ訪れるのか。
それは、誰も知らない。
やっとジャックフロスト編終わった。
今回説明回みたく大量に設定さらしたなあ。
メガテン世界は設定が多すぎて、説明はさまないと知らない人には読めないだろうし。
メタいな、と自分でも思うけどレベルが無いと強さが分かりにくいから設定付け足してみた。
因みにこの世界では、仲魔が自分より強いと契約できない、と言うことはないです。自分より弱い相手と契約してくれる悪魔はそうそういませんけど、アリスとかみたいにそういうのとは関係ない、って性格の悪魔とは普通に契約できます。
まあ代わりに契約できても強制力がありませんが。要するに命令を無視しようと思えば簡単に無視されますし、サマナーを殺そうと思えば簡単に殺せます。
つまり自分よりレベルの高い悪魔と契約したなら絆を結んでおかないと、仲魔に殺される危険性大です。
あと関係ないけど将来的には閣下とか出す予定。
でもまあ次回からは学校での日常編になる…………予定。