有栖とアリス   作:水代

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遅れましたああああああああああああああああああああああああああ?!

MMスレが面白すぎるのがいけないんだ。
第一期は全部見たけど、今第二期見てる途中です。


さて、今回の話を読む前に一言。

今回ダーティーなので心折られないようにご注意ください。


和泉と仇

 

 

 痛む、軋む、壊れる。

 けれど止まらない、止まれない、止まることなどできない。

 走って、疾って、翔って。

 目前の仇へと迫る。

 気づく、気づかれる、だがもう遅い。

 その背後に回りこむ、右の銃は後頭部に、左の銃はその喉元に。

「全員の仇よ、お前はここで死ね」

 それ以上言葉はいらない、今更そんなものは、もういらない。

 ただ無言で撃つ、撃った、引き金を引いた。

 

 BAN

 

 二発の銃声が重なり、一発分の銃声が響く。

 そして……………………

「哀れだなあ…………憐れだなあ…………く、くく、くははははははははははは!!!」

 嗤う、嗤う、王が嗤う。心の底から愉快である、とでも言うように。

「……………………っ」

 けれどそんな王の様子も無視して、引き金を引き続ける。

 撃って、撃って、撃って、撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って。

 カチン、と音が鳴る。

 それが弾切れの音だと気づくと同時。

「どけっ」

 短く発せられた言葉、同時に爆風が吹きすさび、和泉が吹き飛ばされる。

「ああ…………本当に」

 そうして、王が…………嗤う。

 

「憐れなものだな、模造体(コピー)

 

 

 * * *

 

 

 スコープが無くともはっきりと分かる赤。

 紅蓮に包まれた世界を、スコープ越しに覗きながら、男はゆっくりと角度とピントを合わせていく。

「……………………………………」

 無感情な男の瞳、けれどそのスコープの中に一瞬映ったものを見た瞬間、その瞳が僅かに揺れる。

 ゆっくりと、けれどさきほどよりも急いだ様子で男が自身の見たものへとスコープを向け…………。

「…………………………なるほど、どうりで」

 初めてその口を開く。低い成人した男の声。全身を覆うコートのせいで体格は分かりづらいが、上背も相応であろうことは分かる。

 男がそっと目を細め、スコープを動かし、対象へと再度、ピントを調整していき…………。

「…………………………白死」

 そこに映った人物の名をそっと呟く。スコープ越しに見る景色の中、銃を持った少女がその引き金を引いて。

 

 けれど吹き飛んだのは少女のほうだった。

 

「……………………………………………………なに?」

 ぶれる銃の様子から両銃ともほぼ全弾撃ちつくしたであろう様子がありありとわかり…………けれどまったく傷ついていないその対象の様子もありありと分かった。

「……………………………………………………」

 自身の獲物は銃だけである。その銃が通じない可能性がある。

 逡巡の迷い、そして自身の中で一つの決定を出す。

 

「心の清き者、罪なく生きる者は」

 

 狙撃とは初弾こそが最も重要である。と、言うより、一発目で決められないのならそれは失敗と言っても過言ではない。

 

「許されて、御父の慈愛に身をまかす、幼子の如く」

 

 故にこそ狙撃手とは誰よりも完璧を求めなければならない。絶対であらなければならない。僅かばかりの危険すら冒してはいけない。

 

「いざ、天をば、仰ぎ見ん」

 

 必中必殺の魔弾ではない、絶対的な危機回避能力(リスクコントロール)。それこそが現在に至るまで狙撃手を生き永らえさせた物なのだから。

 

「永久なる者の捌きを固く信じて」

 

 だが今回ばかりはそうもいかない。アレはここでしとめなければいけない故に。

 

「身を任せん、御父の慈愛に」

 

 侭ならないものだ、そうは思っても、止めるという選択肢は…………すでにない。

 

「心の清き者、罪なく生きる者は」

 

 故に至高の一発を持って決める。

 

「許されて、御父の慈愛に身をまかす、幼子の如く」

 

 この…………幕引きの一発で。

 

Der(デア) Freischütz(フライシュッツェ)

 

 

 * * *

 

 

 音は無かった。

 予兆も、気配も、それを予期させるようなものは一切何も無かったと断言できる。

 空気の振動さえ止め、ほぼ空間跳躍の体で飛来したソレを。

「温い」

 王はその一言とともに止めた、指先一本、それだけで。

 和泉も王も知るはずも無いが、少なくともそれを行ったものにとっては必中必殺の魔弾を。

 

 見ているものが違いすぎる。

 感じているもの違いすぎる。

 生きている場所が違いすぎる。

 

 ようやくそれに気づく。

 ようやくそれに気づかされる。

 もっと早く気づくべきだったのだ。

 もっと早く気づけるはずだったのだ。

 

 悪魔が弱い存在に従うことは無い、と。

 あの化け物たちを従えるだけの力を持っているのだと。

 自分独りが敵うはずがない、勝てるはずがない。

 

 それをようやく認識し。

 

 だが頭の中は別のことで埋めつくされていた。

 

「コピー?」

 

 意味は分かる、が何故ここで自分のことをそう呼ぶのか、それが理解できない。

 だが予感がある、それを聞いてしまってはいけない。

 もし聞いてしまえば、自分はもう立ち上がれなくなるような。

 

 王が嗤う。凶悪に。最悪に。悪意に満ちた笑みで、告げる。

 

「知らないのか? ああ、知らないだろうな、くく、くははははは」

 

 告げる、告げる、告げる、聞きたくないことを一から十まで。情けも容赦も無く。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。全員の仇? 何をバカなことを言っている? お前たち全員、あそこで作られたただの消耗品に過ぎないのに、あの実験のためだけの存在なのに、あの実験で消耗されることこそが本懐だろうに、何を恨む必要がある?」

 

 その言葉を理解するのは数秒で済んだ。けれど理性が理解を飲み込むまでにたっぷり十秒以上の時間をかけて。

 

「…………何を言っているの…………?」

 

 けれど納得はできなかった。それを当然と言った顔をしながら王が続ける。

 

「分からないか? 分かりたくないのか? なら言ってやろう、お前たち全員はあの実験のためだけに作られた……………………ただのクローンだよ」

「嘘よ!! …………だって、私はずっと両親と、あの日までは両親と暮らしてきたはずよ」

「く、あ、はははははははは、あはははははははは」

 

 嗤う、王が、嗤う。心底愉快であると言うように。

 

「傑作だ、そんなあやふやな記憶ずっと信じていたのか? いや、それともやつらがそれ以上に優秀だっただけか? 教えてやろう、そんなもの偽物だ。正確には、クローン元となった人間の情報に過ぎない」

 

 そして、トドメとばかりに、最も聞きたく無かった情報を今になって告げる。

 

「ついでだ、教えてやろう。お前の探し人こそが、お前のクローン元の人間だよ。どういう風に記憶を植えつけられたかは知らないが、そいつは今も家族に囲まれて幸せに暮らしているぞ?」

 

 お前のことなんて、誰も知らない。お前のクローン元も、その両親も、誰も、な。

 

 ぴし、ぴし、と心が音を立てて砕けていく。

 

「お前が恨んだ全てはただの筋違いで、お前のただの思い込みでしかない」

 

 言葉が出ない、思考が回らない、目の焦点すら定まらず。

 

「哀れだなあ、お前」

 

 その一言に、完全に心が砕けた。

 

 

 * * *

 

 

 ザッザッ、と間近に聞こえた足音にストレイシープが飛び退る。

「何者だ」

 俺の視界の先、こちらを見て硬直する悪魔からけれど注意を逸らさず男はこちらに問いかけてくる。

「そうさな…………ま、ただのサマナーだよ」

「くすくす…………そうそう、ただの、ね」

「うるせえよ」

 俺の隣を歩くアリスがそんな風に茶化しながら、そいつの前まで進んでいく。

「アリ…………ス…………?」

 声が響いた。呟いたのは俺ではない、男ではない、当然アリスでもない。

 

「ふふ…………おひさしぶりね、赤おじさん」

 

 アリスがそう言った相手…………男が戦っていただろう敵。

 

 悪魔ベリアルであった。

 

 

 

 アリスが悪魔ベリアルと会話を始めると同時に俺は男へと近づく。

 すぐさま男が身構えるが、両手を挙げて敵意が無いことを示すと、男の殺伐とした雰囲気が少しだけ和らぐ。

「おっと、俺は敵じゃない。まあ味方なんて言うつもりは無いが、少なくともメシアとガイアの抗争に割って入るつもりは毛頭ない、それだけは先に言っておく」

 俺のその言葉に多少敵愾心が下がるが、それでもまだ男は刃を下ろさない。

「ならば何故ここに来た? 偶然と言う言葉では片付かないと思うが?」

 金の瞳をギラギラと光らせながら尋ねる男に、簡潔に答える。

「人の心臓ぶち抜いたやつ探してるだけだ、少なくともさっきまではそれが目的だった」

「なら、今は?」

 口元を吊り上げる。視界の先に見える男と少女の姿。

 

「俺の大事なものを傷つけたバカ野郎があそこにいるんでな、それだけは清算させなきゃならねえ」

 

 銃を抜く、と同時に男の警戒が強まり…………けれど俺はその銃を真後ろに向け、無造作に数発撃つ。

 

『ぬうおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?』

 

 背後でアリスと会話していたであろう悪魔に銃弾が突き刺さり、銃弾に刻まれた術が発動する。

「話は今度にしてもらおうか、保護者さんよう。今は、邪魔だ」

『き、貴様ああああああああああああああああ!!!!』

 アリスに完全に気を取られ無防備に受けたその銃弾の術式が悪魔の動きを縛る。

「アリス…………吹っ飛ばせ」

「うふふ、ごめんなさい、おじさん。またこんどあそびましょう?」

『あ、アリ「メギドラオン」

 悪魔がその名を呟くのと同時に、アリスの魔法が悪魔を吹き飛ばし…………。

『ぐ…………あ…………………………』

 その体が塵となって消えていった。

 

 

 アリスと言う悪魔はとある二人の悪魔の存在によって生まれた。

 ここで詳しく語ることでもないので触りだけ説明するならば、魔王ベリアルと堕天使ネビロスの二人である。

 両者は過去に人間であったアリスと言う少女の死を憐れみ悪魔へと変えた。

 だが悪魔としての体を維持できなかったアリスはその魂を無数に散らせ、幾多の世界へと散っていった。

 その欠片の一つが今ここにいる魔人アリスと言う悪魔の正体である。

 つまりあのベリアルと言う悪魔はアリスにとって家族のような存在であるはずなのだが。

「指示しておいてなんだが良かったのか?」

「なにがー?」

「あのベリアルとか言う悪魔倒して」

「うーん? またそのうちあえるよ」

 なんとも気楽な答えである。それは置いておいて、和泉である。

 遠くに見える光景は地に倒れた和泉とその傍に立つ男。

 つまり、ピンチである。

「行くぞアリス」

「はーい」

 自身のことをじっと見てくる男の視線を感じながら、けれどそれを無視して和泉たちのほうへと歩いていった。

 

 

 * * *

 

 

 和泉。

 

 和泉。

 

 和泉。

 

 和泉、それが自分の名前。

 両親のくれた、くれた…………

 果たして自分の両親はどんな顔をしていただろうか?

 自分の両親はどんな人だっただろうか?

 あの実験施設で目覚める前の最後の記憶は、両親に連れられてどこかに行く、そんな記憶。

 売られたのだと思っていた。

 両親に、信仰のために、売られたのだと思っていた。

 だがそれは違うのだと言われた。

 

 そもそも自身はあの実験施設で目覚めたあの瞬間から始まっていたのだと。

 

 それ以前の記憶は全て植えつけられたただの偽物なのだと。

 

 違う、そんなはずはない。そんなことがあるわけがない。

 だとしたら、一体何のために。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()?!

 

『ねえ××、お母さんと一緒に』

 

 違う、違う、違う、私は××などと言う名前ではない。私は、私の名前は。

 

『実験体番号123番ね、い、ず、み、なんてな』

 

 ち、がう…………私の名前は、両親からもらった…………

 

『だ、誰、あなた…………いずみ? 誰なのそれ、誰の名前…………や、止めなさい、なにを』

 

 ………………ち…………が…………

 

『お前のことなんて、誰も知らない。お前のクローン元も、その両親も、誰も、な』

 

 う…………あ…………ああああああ、あああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ………………………………

 

 

 …………………………………………………………。

 

 

 …………………………………………。

 

 

 …………………………。

 

 

 ………………。

 

 

 ……。

 

 

 




もう和泉ちゃんを苛めるのはやめてあげてよお。
>>絶望が足りません。

狙撃手さんの必殺技(笑)
>>レベル差とステータス差がありすぎです、現在王様は覚醒中です。

おじさんェ…………
>>ロリコン故仕方ない。というのは冗談で、有栖が撃った弾がいつか使ってたパスを切断する銃弾、レベル120のマグネタイト大喰らいさんの供給パスを切断した上にアリスちゃんのコンセントレイト+のメギドラオンによる負荷で一気に現世からお帰りになりました。この辺の理論は適当なので流してください。

クローン元さん
実はすでに小説内に出てきています。

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