有栖とアリス   作:水代

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なんか前回のあとがきのせいで、この話完結したと勘違いさせたようですみません。
「もうこれで終わっても良いかなあ?」と言う程度の愚痴だったんですが、後であの言い方じゃ勘違いされても仕方ないと怒られました。

訂正するのも遅い気がしたので、更新することでまだ続くと言う意思表示に変えたいと思います。


有栖と夢

「有栖! おい、有栖!!!」

 心臓から血を流し、倒れる親友の傍でその肩を揺らしながら必死にその名を呼ぶ。

 だが、血の気の引いたその顔はぴくりとも動かず、自身の呼びかけに応えることも無い。

 その事実が、悠希を焦らせる。

 もしそこにいたのが、悠希だけだったなら、呆然としたままその死を見ていることしかできなかったかもしれない、だが。

「落ち着けい、召喚師殿! 友人殿の保持する活性マグネタイトのお陰で即死は免れておる、今すぐ回復魔法を使えばまだ助かろう!」

 そう言って、悠希を落ち着かせようとするのはジコクテンだった。

「回復魔法って、俺もお前も使えないじゃねえか?!」

「召喚師殿に無くとも、友人殿ほどのサマナーなら、仲魔に必ず回復魔法を持った悪魔がいるであろう」

 そういわれ、悠希がはっとなって、すぐさま有栖の左腕のCOMPを手に取る。

 自身のCOMPと違った形状のそれは、使い方は分からないが、それらしいボタンを片っ端から押していき…………。

 

 SUMMON OK?

 

「…………………………」

「サマナー! 大丈夫かホ!?」

「すぐに回復するホー!」

 三体の悪魔たちが有栖のすぐ傍に召喚され、有栖を見て騒ぎ出す。

 そしてその中の一体、カボチャのおばけ…………ジャックランタンが手に持った灯りをかざし。

「ディアラハンだホ!」

 有栖の体が光に包まれる…………と同時にその胸の傷が塞がっていく。

 青ざめた顔色が少し良くなったのを確認し、悠希がほっと息を撫で下ろす。

「…………………………」

 金の髪の少女が、傍でただ無言で、じっとそれを見つめていた。

 

 

 * * *

 

 

 夢を見ている、何故だか夢の中にあって、それを自覚していた。

 

 そこはとある小さな街だった。

 平和で、のどかで、平凡な、そんな有り触れた街。

 人々は穏やかに日々を過ごしていて。

 時々やってくる旅人や商人がやってくるくらいで、基本的にそれほど人の出入りも多くない、小さな街。

 そんな街にたった一つだけ存在する教会の入り口に、少女が腰掛けていた。

「うーん…………」

 どこか悩むような素振りで、うーん、うーん、と先ほどから頭を捻っている少女。

 不思議なことに、道行く人々はそれを恐ろしいものでも見たかのような表情で足早に去っていく。

「うーん…………うーん」

 少女が一人唸っていると、街の入り口に近いほうの道を一人の少年が歩いてくる。

 明らかにこの街の住人ではない大荷物、他の住人たちはすぐに気づいたが、唸っていた少女はそれに気づかない。

 ふと、少女に影が差す。 顔を上げると、目の前に少年がいた。

「…………………………だあれ?」

 少女の問いに、少年もまた首を傾げ、答える。

「俺か? 俺は旅のもんだが…………お前は?」

「わたし? わたしは………………」

 アリス、少女の口がそう紡いだ。

 

 

 * * *

 

 

 心臓から血が流れ出す。

 貫いた刃が引き抜かれ、和泉の白い服を紅く染め上げていく。

 膝から崩れ落ち、地に倒れ伏す。

 流れ出た血が廃墟の床を赤く染めていく。

 貫かれた心臓はその鼓動を止め、全身から力が抜けていく。

 

 どう考えても致命傷だった……………………そう、普通ならば。

 

 うつ伏せで見えはしないが、和泉の右胸が光る。正確には、そこに描かれた紋様が。

 紋章から光の線が延び、全身を駆け巡る。

 痙攣する。全身が作りかえられていく感覚に、恐怖すら覚える。

 声が聞こえてくる。喰らえ、喰らえ、と言う声が。

 体を起こす。自身の意思に反し暴れ狂いそうな体を止める。

 自身を塗り替えていく恐怖を意思でねじ伏せ。

 暴れ狂いそうな本能を理性で抑えつけ。

 目の前で起こったことに目を見開く男を見つめ…………。

 次の瞬間、男が吹き飛んだ。

 爆発的な脚力で地を蹴り、一瞬で男の元へとたどり着いた和泉がその勢いのままに体当たりしたのだ。

「食イタイ、食イタイ…………乾ク、飢エル」

 らんらんと紅く光るその瞳に理性の色は薄く、けれど本能だけと言うわけでも無かった。

「…………っく、獣が!」

 意表を突かれ、一撃もらった男だったが、すぐ様持ち直し反撃に映る。

「Jesus.(おお、神よ)…………あなたは御心のままになし給う御力の御方に在します。あなたの他に神はいまさず、あなたは栄光に輝き、常に許し給う御方にまします。Amen(アーメン)」

 男は神父か何かなのか、すらすらと淀み無く聖句を呟き、さらに続ける。

「私は死者のうちから立ちあがり、神とともに生きる。神の手は、私の上にあり、そのはからいは、神秘に満ちている。Hallelujah」

 唱えた言葉は光となり、神父を包む。光に包まれた神父の体が、銃弾に貫かれ穴だらけとなったその体があっと言う間に治癒されていく。

 完全に傷が塞がりきった神父は、さらに言葉を続ける。

「この方の口からは諸国の民を打つために、鋭い剣が出ていた。この方は、鉄の杖をもって彼らを牧される。この方はまた、万物の支配者である神の激しい怒りの酒ぶねを踏まれる。これはまた御霊の与える剣である、神のことばを受け取れ」

 途端、神父の持っていたまだ無事だった剣が砕け散る。

 けれど次の瞬間、神父の両手に光が収束する。

 そして光が収まったその時には、神父の両手には、剣が一本ずつ備えられていた。

「慈しみの主はのたもう、我に来よと……………………神に逆らいし謀反人どもが、この二刀を持って神に帰せ」

 そうして神父が走り、右の刃を振り下ろす。

 工夫も何も無いただの振り下ろし、そんなもの欠伸をするより簡単に避けることができた。

 と同時に不審感が募る。どうしてこんな避けやすい攻撃をしてきたのか?

 この男は達人だ。銃弾を剣で切り裂くなどと、並の使い手ができることではない。

 だと言うのに、どうしてこんな人を食ったような攻撃を?

 うまく思考が纏まらない。今の状態のせいなのは明らかだった。

 だからだろう…………その意味を深々考えきれず、反撃に移ろうとして。

 

「殺刃十字第二刀」

 

 避けることも、防ぐこともできない、そも知覚すらできない速度で…………()()()が振り抜かれた。

 首元から血が溢れる。動脈まで斬られているせいか、出血量が異常だった。

「ぐ…………あぁぁぁぁ!!!」

 血の溢れる首を片手で抑え、もう片方の手は神父を掴む。

 そうして…………その首筋に牙をつき立てる。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 神父が絶叫する、が万力のような力で押し込められ、引き剥がせない。

 じゅる、じゅる、と神父の首から溢れた血液が啜られていく。

「吸血鬼風情がああああああああああああ!!!!」

 身体能力で敵わないとすぐ様悟った神父は、その両手の剣を和泉へと突き立てる。

 その腹に剣が突き刺さると、さしもの和泉も堪らず神父から離れ…………その間際に右の目を抉った。

「ぐ…………が…………くそが、クソが、クソが、クソが、クソが!!! 吸血鬼風情が、悪魔風情が、よくもよくもよくもよくも、俺の眼をおおおおおおおおおおおおお!!!」

 激昂する神父。そして警戒しいつでも動ける態勢で待ち構える和泉。

 

 けれど、お互いに殺しあうまで止まらない、そう思われていた闘争は。

 

「では両方死ね」

 

 直後に訪れた劫火により、中断された。

 

 

 * * *

 

 

 少女、アリスは死神と呼ばれていた。

 理由は単純だ。

 アリスの傍にいた人間が次々となんらかの理由で死んでいくからだ。

 両親は事故で死亡、引き取られた先の親類は家が火事に見舞われアリスを除き一家全員が焼け死んだ。

 そうして入った孤児院には強盗が押し入り、子供も大人も区別無く、アリス以外全員が死んだ。

 そして当ても無くさ迷うアリスの面倒を見てくれていた人の良い教会の神父は、先月隣街から戻ってくる途中、突然雨に降られ木陰で雨宿りしていたところ、雷が落ちてきて黒焦げとなって死んだ。

 街の誰もが恐怖した。少女を排斥しようと、悪魔の子だと言って街から追い出そうとし…………死んだ。

 突然に苦しみ出し、胸をかきむしりながらそのまま息絶えた。

 以来、誰もアリスを街から排斥しようとするものはいなくなった。

 アリスは基本的に何もしない。アリスに近くに寄る人間が勝手に死んでいくだけで、アリス自身はむしろただの少女だ。なんら代わり映えしないただの子供だった。

 毎日教会の玄関に座り、死んだはずの神父の帰りをぼぉっとしながら待つ。

 それを繰り返すだけの日々。

 こちらから干渉しなければずっと動こうともしないその少女故に、強硬手段と言う手を取ろうとする人間がいなくなったのは良かったのか、悪かったのか。

 

 そんな時、少年がやってきた。

 

 少年は旅人だった。

 街から街を宛ても無く放浪する。

 旅の途中で見つけた珍しいものを買って、次の街で売ることで旅の資金を賄う。

 そうして旅を続けること十年以上。最初は共に旅をしていた仲間たちもみなそれぞれ定住の地を見つけ、残ったのは少年一人だった。

 その街に来たのはただの偶然だった。

 さして大きくも無い街、とは言え村よりも規模の大きな人の集落だ、旅人にとってそこは一時の休息所となり得る。

 その街で見かけた一人の少女。

 その出会いは、人から見れば、少年の人生を大きく変えたのかもしれない。

 

 だが、少年から言わせれば、きっと何も変わっていないのだろう。

 

 何故なら。

 

 少年は最初から最後まで、自分でしか行動しなかったのだから。

 

 

 * * *

 

 

 突然の乱入者の登場により、私は即座に撤退を選択する。

 傷は深い、敵を倒す目処が立たない、相手の情報が足りない。

 これだけ不利な条件が揃ったのなら、さっさと撤退してしまうに限る。

 だが動けない。撤退したいのに、動くことが出ない。

 理由は簡単だ。

 

 一帯が炎に包まれている。

 

 それだけの話であり、それが最大の問題であった。

 

 

 和泉はかつて、メシア教にいた。

 そしてメシア教の中でも特に気の触れた集団の実験体として様々な実験を施された。

 その中の一つが、今和泉が見せた異常なほどの回復力と生命力である。

 悪魔と人間との融合。

 それが掲げられたテーマだった。

 人間であり、悪魔である。もし実現できるのならば、マグネタイトコストの問題が大きく解決するのは間違いないだろう。

 できるのなら…………だが。

 悪魔の分霊を無理矢理に人の魂と融合させる。そんな無茶な実験をして、正常でいられるはずも無かった。

 実験体として集められた検体百人のうち、六十人が暴走し、悪魔へと変貌した。変貌しなかった人間四十人のうち、三十人が精神に異常をきたし、廃人となった。

 残った十人のうち、九人が悪魔の侵食に耐え切れず命を落とした。

 百人いた検体の内、たった一人、和泉だけが生き残った。

 悪魔の分霊に魂までをも侵食されながら。けれど侵食した悪魔を心でねじ伏せ、逆に自身へと取り込んだ。

 魂を侵される身を切るような激痛に耐えながら、常に聞こえてくる気が狂いそうな幻聴に耐えながら、一週間、ただひたすらに暗い檻の中で自分の中の悪魔と戦い続けた。

 そうして悪魔に喰われるどころか、悪魔を喰らい尽くした和泉は、喰らった悪魔、ヴァイパイアの力を手に入れた。

 人間でありながら悪魔である。実験は成功したと言っていいだろう、九十九人の犠牲の上に、だが。

 

 喰奴(くらうど)。悪魔へと変貌し、悪魔を喰らう和泉のような存在を言うらしい。

 別名、アバタールチューナーなどと呼ばれるそれには、実は先例があったらしく、どこかからそれを知ったカルトたちが自分たちでも実験を開始した、と言うのは始まりらしい。

 

 そうして、和泉は人でありながら、悪魔となった。

 悪魔を殺し、その肉を喰らわなければ、飢え、理性を失い、正気でいられなくなった上に、ところ構わず満ち足りるまでヒトを、悪魔を喰らう化け物となった。

 正確には、必要なのは生体マグネタイトらしいが、非活性マグネタイトでは代用できない以上、やることは変わらない。

 

 一つだけ、地獄に仏とでも言うのだろうか。救いのようなものがあるとすれば…………それは喰らった悪魔がヴァンパイアだったこと。

 ヴァンパイアは吸血鬼の名の通り、肉ではなく血を喰らう悪魔だ。

 通称レベルドレインとも呼ばれるのだが、ヴァンパイアは生き血を啜ることで、活性マグネタイトを吸い取ることができる。故に和泉は未だ、悪魔の肉を喰らったことはない。

 

 さて、話を戻すが。

 和泉はヴァンパイアと言う悪魔でもある。

 故に、肉体がヴァンパイアに変貌している以上、その耐性もまたヴァンパイアと同じになってしまうのだ。

 曰く、太陽の光が苦手。

 曰く、流れる水が苦手。

 曰く、十字架が苦手。

 曰く、銀が苦手。

 曰く…………etc

 

 と、上げると想像以上にヴァンパイアと言うのは弱点が多い。

 そして、ヴァンパイアと言うのは一度死んだ人間が蘇った存在、とされる。

 つまり、何が言いたいかと言えば、火炎属性に強烈に弱いのだ。だけのみならず、通常の炎ですら大ダメージを負ってしまう。はっきり言って、炎に対する耐性は、人間よりも低かったりするのだ。

 

「不味いわね…………」

 炎に囲まれながら独り呟く。

 脱出しようにもこうも炎に囲まれていては、逃げ場が無い。

 と、その時、こつ、こつ、と足音が響く。

 自身も少し離れたところにいる神父も動いてはいない。

 と、なれば…………。

 

「御機嫌よう、とでも言うべきか? 俺の名は(キング)。争乱絵札の王だ」

 

 争乱絵札、その名に自身と神父の両方が反応する。

 メシア教、ガイア教、ヤタガラス。この国の勢力を置く組織でありながら、最も敵に回してはいけない組織を三つも同時に敵に回しながら未だに生きながらえている組織。

 ガイア教にとっては、メシアの次に忌むべき相手であるし、恐らくメシアにとってもそうだろう。

 

「来るべき時は来る、その日は近い、もろ手を上げてその日の到来を喜べ」

 

 そうして姿を現したのは、黒いローブのようなもの身に纏った男。

 そしてその背後から現れたのは…………。

 

「っな!!?」

 

 天使だった。背に生えた白い翼。手に持つ剣。天使の特徴だ。

 神父が驚くのも当然だろう。神に仕えるべきはずの天使が、メシアの敵たる男に従っているのだから。

「ウリ…………エル…………様」

 神父の口から漏れた言葉に、私は目を見開き、男が口元を歪める。

 ウリエル、神の火の名を持つ大天使。決してメシア以外に従うような存在ではないはず…………だと言うのに。

 けれど、この次に出てきた存在を見て、私はさらに驚く。

「………………嘘」

 私も一度だけ見たことがある、手に燃える剣を持つその姿。そして棺に隠れたその姿。

「スルト…………モト?!」

 

 魔王と死神が、そこにいた。

 

 




アバタールチューナーの設定は多少弄ってます。ペルソナもそうですけど、原作が曖昧な部分はけっこう勝手に設定詰め込んでます。

ところで。
マザハさん出したい、と思ってちょっと調べてたらサタンの話に飛んで、そこからさらに神霊の話にとんだんですよ。
で、設定的に面白いので、Lルートでツァバト、Nルートでエロヒム、Cルートでシャダイ出して、アリスルートでヤハウェ出したい、とか思ったんですけど。
実は次回作のようなもの考えてると前に言いましたが、それと凄く絡むんで、両方の設定をすり合わせながら書くと、今の5000字前後で一話でやってたら250話くらいまで続く気がするので、再考中。
今回の夢の中の話もそうだけど、着々と次回作の伏線は今までの話の中にも張られてますよー。


そういや、不意打ちされて、気絶。はもう飽きたって言われたけど、そんなにやってるっけ?
有栖気絶させたことほとんど無かったと思うんですけど。
そもそも相手が目の前にいるのに気絶してたら、ほとんど殺されてると思うんだがなあ。

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