思ったよりテスト勉強が早く終わったので、書いてみました…………番外編を。
【休日の朝の一幕】
朝。五月と言ってもまだ朝は肌寒い。
すでに太陽は昇っており、早起きな人間ならそろそろ寝所を抜け出す時間帯。
とある家のとある一室。
机の上に置かれた腕時計のようなソレ。
それが僅かに光り、次の瞬間には一人の少女が現れる。
西洋人のような白い肌に、金の髪、そして紅い瞳のまだ十歳前後と言った年頃の少女。
「っ~~~~」
少女が口に手を当て、欠伸を一つかみ殺す。
涙に潤んだその目を手の甲で軽く擦ると、その場に立ち尽くす。
半分閉じたその目を見るに、どうやらまだ寝ぼけているらしく、ふらふらと吸い寄せられるように部屋の隅にあるベッドへと歩いていき、そのまま倒れこみ、ぼふん、と布団に顔を埋める。
「………………ん…………あ…………」
その衝撃で、布団に丸まっていた少年が身を捩じらせる…………と、布団の上に一人分ほどの隙間ができる。
「…………ふぁ…………あったかい」
温もりを求めるがままに布団の中へと入っていく少女。その小さな体がすっぽりと布団の中に納まると、少女は再び目を閉じる。
「………………おやすみ、さまなー」
「………………おい」
声。どこか聞き覚えのある声。いつも聞いている声。懐かしい声。どこか安心してしまう、ほっとする声。
「…………起きろ、おい」
いつまでも、いつまでも聞いていたい。空っぽだった自身の中身を埋めていってしまう、冷たかった自身を包んでくれる、温かい感情。
「起きろ、アリス!」
それが自身の契約者のものだと気づくと、少女はうっすらと目を開いた。
「……………………さまなー?」
猫の鳴くようなか細い声で少女が言葉を紡ぐ。
ようやく返答の帰ってきたことに少年が一息吐き、少女の頭を軽く撫でながら続ける。
「いい加減その手離せ、朝飯の用意できないだろ」
そう言われて少女は初めて自分が少年の服の裾を握っていたことに気づいた。
少女が少年に言われるままにその手を放す、と少年が再度息を吐き、立ち上がる。
「…………あ」
そのまま部屋を去っていく少年に、少女が一瞬手を伸ばすが、その手は空を掴むだけだった。
少年は気づかない。
少女のその寂しそうな横顔に。
アリスと言う少女は言うまでも無いが、悪魔である。
いつもニコニコと嗤っているが、別に感情が無いわけでも無い。
特に、自分の領分を侵されるのは我慢ならない、という辺りその契約者とよく似ている。
有栖と言う少年は言うまでも無いが、人間である。
悪魔召喚師などと言う一般人とは逸脱した職業についてはいるが、あくまで本業は学生である。
人並に笑い、人並に友と語らい、人並に怒り、人並に嘆き、人並に生きる。
そんな少年の傍に五年も居続けた少女もまた、その有り様が多少変わっていたとして、一体何の不思議があるだろうか?
「さまなー、どこかいくの?」
少女がいつもの蒼いワンピースから着替え、楽しそうにそう尋ねる。
悪魔にとって、身に着けている衣服も含め、全て自身の体だ。なので、少女の服も少女が変えようと思えば、実は簡単に別の服にすることもできる…………まあ、どんな服か少女自身が認識していないとダメなのだが。
いつかの銭湯の時に服を脱いだやり方の応用である。
いつもの蒼いワンピースを止めて、新しく着ているそれは、黒いドレスのようなそれである。ふんだんにフリルのあしらわれたその衣装を簡単に説明するのなら。
ゴスロリ服だ。
「ん、ああ…………今日は駅前のほうまで出るからな、ついでだからお前も一緒に行くか? って…………聞くまでも無いか、っていうかなんつう服着てるんだよ」
半眼でこちらを呆れたように見る少年に、少女が花のような笑みを浮かべて返す。
「えへへ、かわいい?」
くるり、とその場で回転する少女。そのスカートがふわり、と一瞬浮び上がる。
並の男ならばその愛らしい容姿と可愛らしい仕草に釘付けになったかもしれないが。
「…………ん、まあいいんじゃないか?」
少年の反応は淡白であり、少女が不満げに頬を膨らませる。
少女の様子に、少年が苦笑しながら玄関を開き、その手を差し出す。
「んじゃ、行くぞ」
差し伸べられた手を数秒見つめていた少女だったが、やがて。
「うん!」
満面の笑みでそう返し、その手を握り返した。
【アリスとでーと】
休日に家に引き篭もる、と言うのは正直、非常に魅力的なことだ。
と言ってもそれが出来ないのが一人暮らし(人間は)の辛いところだ。
日用品に食料品、雑貨品など足りないものはいくらでもある。
なのでこうして毎週毎週、駅前まで足を伸ばしているのだった。
「これで大体は買ったか?」
必要なものはだいたい買ってしまい、現在時刻は昼前。
思ったよりも早く終わったせいか、食べて帰るには少し早いし、帰って昼食を作っていたら遅くなりそうだった。
「どうするかなあ」
考えていると、ふと俺の袖口が引っ張られる。
視線を移すといつものワンピースから何故かゴスロリ服に着替えていたアリスが首を傾げて言う。
「どうしたの? 有栖」
「んー、中途半端に時間余っちまってどうしようか、って考えてるとこ」
そう答えると、数秒考えたアリスが楽しそうにこう言う。
「でーとしよ! 有栖」
デート…………恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が、連れだって外出し、一定の時間行動を共にすること。
と言っても、最近ではもう若い男女が一緒に出かければそれはもう立派なデート、らしいが。
ふと俺の手を握るアリスに視線を移す。
若い、男女?
そう考えた瞬間、腕に痛みが走る。
何かと思えば、アリスが俺の腕を抓っていた。
「痛い痛い、何すんだよ」
「…………むう、なにかしつれーなことかんがえた?」
何で分かったのだろうか、悪魔とは言え、一応性別は女だし、女の勘だとでも言うのだろうか、この年齢不詳幼女は。
「お前の気のせいだ。だから手を放せ」
「やだ」
ぷい、と顔を背けると、俺の腕を抱え込むように自身の胸元に当てて両手でしっかりと抱く。
お陰で片腕だけ矢鱈と下がってしまいバランスが取りづらい。
「歩き辛いんだが」
「ダーメ、しつれーなことかんがえたバツよ」
そう言って俺の腕を抱えたまま早歩きし出すアリスのせいで、俺は引きずられるようにアリスに連れられて歩くことになったのだった。
「っかし、デートつってもなあ…………何するんだ?」
「おもしろそーなこと」
「まった抽象的な…………」
取り合えずぶらぶらと道端を歩いているが、周りの視線のどこか温かいものでも見るような視線が気になる。
まあ傍から見れば、妹にせがまれた兄と言ったところか?
問題は俺とアリスが全く似ていないと言うことだが。
と、なると一体どういう風に見られているのやら。
まあ、冷たい視線に晒されるよりはいいだろう、と言うことにしておく。
と、そんなアホみたいなことを考えていると、ふと目に入るものが。
「ゲーセンか…………アリス行ってみるか?」
「げーせん? ってなに?」
「ま、いってみれば分かるだろ。適当に時間潰したら飯食って帰るぞ」
「はーい」
抱えられていた手は放され、今は普通に手を繋いでいるのだが、アリスが走るので、結局また引っ張られるのであった。
前世では良く行ってたのだが、今生では初めてかもしれないゲームセンター。
けれど記憶でなく、魂が覚えている、とでも言うべきか、がやがやと騒がしいその音に、不思議と心が弾んでいた。
「わあー」
俺の感情を読み取ったか、それとも単純に好奇心からか、目を輝かせるアリス。
と言ってもアリスがやれるようなゲームなど限られてくるので、手を引き連れて行く。
「ほら、これやるか」
「なーにこれ?」
連れてきたのは一つの大きなガラス張りの機械だ。
中にはぬいぐるみなどがあり、底に穴が開いている。
つまるところ、クレーンゲームだ。
「ここに小銭入れてだな…………で、スタート」
百円硬貨を筐体に入れ、スタートボタンを押すと、ぴろりん、と電子音がして右と上の矢印マークの書かれた二つのボタンが光る。
「このボタンを押して、中のクレーンを動かす、で景品をあの穴に落とせば下から取り出せる、簡単だろ?」
そうして一度実演してみるとすぐに理解したのか、興味深そうに筐体を見つめる。
「やってみていい?」
「ああ、良いぞ」
許可を出すと、アリスがすぐに筐体の傍に行き、早速始めようとし…………そして。
「有栖ーみえなーい」
背が低いせいか、手を伸ばしてもスイッチまで届かない。ぴょんぴょん、とジャンプしても同じである。
正確には届いてはいるのだが、押し続けないといけないのでそれは意味が無いのだった。
しかも背が低いので、景品が見えておらず、どう動かせばよいのか分からず、なんとか景品を見ようと跳ねていた。さきほどまでは遠くから見ていたので、ある程度は見えていたのだが、近づいたことにより完全に見えなくなっている様子であった。
「有栖ー!」
必死に景品の位置を見ようと努力している姿を見ているのも面白いのだが、そろそろ可哀想になってきたので、アリスの傍に寄り…………その腰に手を回し、抱き上げる。
「あ、みえたー!」
一気に視点が高くなり、景品のぬいぐるみを見つけると、嬉しそうにボタンを押す。
クレーンが動いていき、ぬいぐるみの傍に寄った瞬間アリスが手を放すがクレーンゲームの感覚に慣れないためか、アリスが狙ったであろう地点よりも幾分かずれていた。
右、上と動かしぬいぐるみを狙ったクレーンは僅かにぬいぐるみに触れるが、その体を一ミリと動かすことなく戻ってくる。
「むー」
上手く行かなかったからか、アリスが頬を膨らませ、むくれる。
その様子に苦笑しつつ、もう一枚硬貨を投入する。
「ほら、もう一回だ」
そう言うと、ぱあっと、笑みを浮かべ。
「うん、ありがとー有栖!」
そう言ってもう一度じっと筐体の中を見つめた。
通算七回。
あの後アリスが挑戦した回数である。
「えへへ」
そして結果は、現在ご機嫌そうに兎のぬいぐるみを抱いていることでご察しである。
しかし、ゴスロリ衣装に白い兎のぬいぐるみ…………何か狙っているとしか思えないあざとさである。
そろそろ良い時間だったのでゲーセンを出た俺たちは、そのまま歩いて適当な店屋に入る。
「そう言えば、アリス、お前も何か食べるのか?」
悪魔は基本的に食事は必要としない。マグネタイトさえあれば生きていけるのが悪魔と言う存在だ。
かと言って食べられない、と言うわけでも無いのだが。
「んー、おなかすいた?」
「いや、俺に聞かれても困るんだが…………まあいいか。じゃあ適当にデザートでも頼んでおいてやる」
「はーい」
そう言って俺は昼食を、アリスにはデザートにプリンがあったのでそれを頼む。
「飯食ったら帰るけど、いいな?」
「かえるのー? いいよー」
ごねるかと思ったら意外とあっさり認めたので、少々驚く。
「どうした、やけに素直だな」
「えへへーうさぎさんがいるからきょうはいいよー」
ゲーセンで取ってきた兎が相当に気に入ったらしい。
先ほどから片時も放そうとしないし。
ゲーセンらしい荒い縫い目の安物だが、本人が気に入っているのならそれでいいのだろ、と思う。
楽しそうに兎と戯れるアリスを見つめながら。
ああ、久々に平和だな。
そう思った。
【夢の残滓】
「人間を救うのは人間でなければならない」
その人は私に向かってそう言った。
私の住む地方では珍しい顔立ちに初めて見る黒い髪の男の人。
「神こそが人を救うなどと言っている宗教家たちばただの狂人だ。人に人は救えないなどと言っている愚か者はだたの諦観者だ」
それはその人の信念だった。
「だから私は今から挑む。キミの運命を弄ぶ神へと」
誰もそんなことは頼んでいない。
「ああ、そうかもしれない。けれどキミは確かに口にしただろ? 助けて、と」
それは…………。
「ただの独り言、だとしても良いさ。私が勝手に行って勝手に戦うだけの話だ」
けど、勝てるはずが無い。
「勝てるはずが無い、何故そう言い切れる? できないと口にしてしまえば出来なくなる、けれど、できると強がれば案外できることも多いものさ」
案ずることは無い。とその人は言う。
「私は私のまま私を通すために行く。キミはキミのままでキミを通せば良い」
……………………。
「ではさようなら、だ」
そう言って、あの人は私の前から立ち去ろうとし…………。
「また…………また会いましょう」
気づけば、私はそう口にしていた。
その人はそれを聞き、少し驚いたような表情をし…………そして笑った。
「ああ、また会おう」
それが、私が神殺しの青年と出会った日のことだった。
コンセプトは読者を萌え殺せ!
むしろ作者が萌え殺されそうになった。
アリスちゃん可愛過ぎるだろおおおおおおおおおおおおお。
ゴスロリアリスちゃんprpr
最後の?
ああ、あれは…………まあ秘密。
でもこの有栖とアリスと言う小説において、ある意味原点となる話ですね。
有栖がアリスと出会いそして契約する。それが本当に偶然なのか、どうか。
さて…………それは物語を進めてからのお話です。