有栖とアリス   作:水代

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大帝国やってたら更新できなかった罠。
あと艦これ、っての始めました。電ちゃん可愛いよ、電ちゃん。
戦艦作ったら一人目から長門さんだった。超強い。


有栖と姫君

 

「きひっ」

 耳に届いたその声に、アリスの襟元を掴み、飛び下がる。すぐにアリスを帰還させ、体勢を立て直す。

 直後に切り裂かれた床、はじけ飛ぶ蛇。

「いただくぜぇ」

 蛇の周囲から俺たちが遠ざかったのと入れ替わりに魔人が蛇に近寄る。

「させるか!」

 右手に持った拳銃から放つ銃弾、音速に近い速さで飛来するそれを、けれどやはり、と言うべきか魔人はあっさりと刀で弾く。

 けれどその程度はこの間の戦闘の時点で分かりきっていたことだ、さらに十数発弾倉が空になるまで撃ちつくす。

 全て防がれはしたが、その間に目的のものは取り出せた。

「これでも…………食らえ!」

 左手の指でピンを抑えた手榴弾を思い切り投げる。

 遠投の勢いでピンの抜けた手榴弾が宙を滑空し…………魔人の手前で爆発する。

「くっそ、今回てめえのせいで大赤字だよ!」

 対戦車手榴弾含めてこの間、あの死神を倒したことでもらった金の半分くらいはもう費えた気がする。

 元々日本は銃火気の持ち込みはNGなだけに手に入れようとすると一般人が一年暮らせる程度の金が軽く必要になるのだ。安い拳銃程度なら十万前後と言ったところだろうが、悪魔にすら通用するほどの強力な火器となるとその値段も跳ね上がる。

 入る金も大きければ出て行く金も大きい、とにかく金の動く仕事だ、サマナーってのは。

「くそ、さっきランタンのメギドラオン使ったのは失敗だったな」

 こうも湿気の高い場所では、半分以上の爆弾が使えないし、威力が減衰する。

「龍神! さっさと荒御魂のほうを回収してくれ!」

 先ほどまで魔人と戦っていた龍神へそう声を張ると。

「分かったけど、あの魔人が近くにいたんじゃ戻れないよ!」

 そう返ってくる。数秒考え…………魔人へと接近する。

「俺が引き離すから、急いでくれよ!?」

 それだけ言い残すと左手のCOMPを操作する。

「ランタン、フロスト…………アリスが幾分かマグネタイト確保してくれたが、それでも余裕は無いからな、短時間で終わらせるぞ」

 

 SUMMON OK?

 

 召喚されたランタンとフロスト。

 そして。

「「デビルフュージョン!!!」」

 召喚ジャアクフロスト。

「ヒホヒホ! クライシス!」

 紫色の光に包まれる、と同時に飛来する斬撃、だがそれもジャアクフロストの魔法により弾かれる。

 さらに近づき、もうすでに頭突きができそうなくらいまで距離を縮め…………。

「ヒホー!」

 素早く打ち出すフロストの左ジャブ。氷結魔法を纏ったそれを魔人が刀で払い…………。

「っぐぅ」

 苦悶に顔をしかめる。僅かだがその動きが鈍り、隙が出来る…………そう、フロストが一撃叩きこむだけの隙が。

「沈めてやれ! フロスト!」

「ヒホヒホヒホ…………これで決まりだホー!」

 全ての魔力を集中させたジャアクフロストの拳が唸る。それが抉りこむように魔人へと吸い込まれていき…………。

 

「何を遊んでいるの、ヒトキリ」

 

 返還(リターン)

 

 魔人の姿が掻き消える。

 代わりに入り口のほうから現れたのは…………一人の少女。

 この夏直前の暑い時期に着物など来て下駄を履いて歩くその少女はまるで、時代劇の中から飛び出してきたような雰囲気を纏っていた。良く言えば古風、悪く言えば古臭い少女のその雰囲気は、けれどその容姿とは裏腹に熟成した精神を感じさせた。

「いつ私が動けと命じたの、全く…………主の命令一つ聞けないとは情けない」

 

 召喚(サモン)

 

「言ってくれるなよ、(ひい)サマァ…………ようやく見つけたんだぜぇ?」

 少女の手に持つ扇のようなそれから召喚されたのは…………今の今まで戦っていたはずの魔人。

「見つけたのならそう報告すれば良いでしょ…………何を勝手に手を出しているのかしら」

 睨むような少女の視線に魔人がばつが悪そうな雰囲気で頬をかく。

 魔人を従えた少女がその視線をこちらに移し、感情の見えない瞳でこちらを見つめる。

「こんにちわ」

 ぴくりとも変わらない無表情を扇で隠しながら少女が言葉を紡ぐ。

「……………………」

「あら、挨拶も無いの? 全く…………お前が余計なことするから警戒されてるじゃないのよ」

「きひっ…………こんなところにやってきてる時点で警戒なんてされてるぜ?」

 茶化すような魔人の言葉を真に受けたのか、あら? と無表情なままだが、どこか驚いたような様子の少女。

「まあいいわ…………それで、見つけたってどれがそうなの?」

 少女の言葉に魔人が地に転がる蛇を指差し…………その傍にいる龍神に気づく。

「全く…………人の体だと思って散々に痛めつけてくれたねえ」

 その蛇の体をそっと手でなぞり、龍神が呟く。

「もう散々暴れまわったでしょ? いい加減戻りなよ」

 そう呟き、その手をそっと蛇の頭部に添える…………そして。

 

 ぱぁ、と蛇が光となって分解される。

 

 光が帯のようにうねり、龍神の…………小夜の体の中へと消えて行き。

 

「ああ、これでようやく全力でいけるね」

 

 瞬間、異界が脈動した。

 

 

 

 異界が揺るいだ。

 冗談でも比喩でも無く、異界が揺れている。

「くく……あはは…………あはははは」

 ソレが笑う。小夜の体で、小夜の顔で、けれど小夜では無い誰かの目で。

(ヒイ)様、異界が乗っ取られかけてるぜェ、良いのか?」

「良いわけ無いでしょう! ヒトキリ…………今すぐアレを止めなさい」

「きひっ…………御意」

 主の命により魔人が飛び出そうと刀を構える。

 

 だが。

 

「大海嘯」

 

 ()()()()()から突如押し寄せてきた波が魔人を、その主を飲み込もうとする。

「っ(ヒイ)サマァァァァ!!!」

 魔人が瞬時に自身の主のほうへと向き…………その姿が波間へと消えていく。

 今更な話だが、入り口から入ってすぐの今俺たちのいるフロアはその半ば辺りが階段になっており、フロアの手前と奥で一メートルちょっとの段差が出来上がっている。

 水は高きより低きに流れる、そんなことは当たり前だ。けれど手前側から溢れ出して来たこの大波はその段差を駆け上がってくる。

 海嘯、と言うのは河口へと揺り戻った波が川を逆流することを言うらしいが、まさに今この光景がそれだった。

 一番最初に水族館に入った時に見た光景に似ている、問題は…………今回の水位が二階にまで到達しようとしているところだが。

「フロスト、凍らせろ!」

「ヒホー!」

 このままでは俺たちまで飲み込まれる、すぐさまその考えに行き着き、ジャアクフロストに命じ円形の氷の檻を生み出す。

 数秒後、二階の手前まで水没した水族館の中、龍神が笑う。

 

「ようやく取り戻した…………この力を、僕は、私は」

 

 ピシリ、と何かが軋む。

 

「さあ、私の宮に案内しよう」

 

 ピシ……ピシ……と軋む音。

 

 異界が軋んでいる、そう気づいた時。

 

 パリーン、と硝子の割れたような音。

 

 そして。

 

「ようこそ、竜宮へ」

 

 見たことも無い場所にいた。

 

 

 

 そこはまるで時代に取り残されたような…………そんな古い御殿だった。

 それは明らかに現代のものではない作り、けれどまるで昨日今日建てられたかのような真新しさを感じさせる若々しい木々。

 何より異質なのはその周囲。青い、どこまでも青い。揺らめく景色。

 

 そう…………そこは水の中だった。

 

 とても大きな水溜まりの底にぽっかりと開いた空間に建てられた御殿。

 

 見上げる景色は澄んでいて、美しく、どこか幻想的だった。

 

「どこだ…………ここ?」

 先ほどまでとまるで違う光景に一瞬呆然とし…………すぐにハっとなって仲魔の姿を探す。

 するとすぐに同じく一転した光景に驚き、呆けたジャアクフロストがいた。

 左手のCOMPも確認し、アリスもいることを確認。

 取り合えず全員無事なことを確認すると僅かに安堵の息を零し…………。

「それで? どこなんだここは」

 こちらに背を向けたままの龍神に尋ね、龍神が振り返ってこう返す。

「竜宮さ…………簡単に言えば、僕の全力が出せる場所さ」

 どうやってここに、とか何故そんなことを、とかは聞く必要も無いだろう。手段なんて知っても何か意味があるとも思えないし、全力が出せる場所、なんて言っている以上、理由なんて分かりきっている。

「まだ倒せてないんだな? あいつらを」

 俺の問いに龍神がどこか真剣な表情で頷く。

「津波で呑み込む直前に魔人がもう一人を抱えて間一髪で二階まで逃げられた…………二階には彼女たちがいるから咄嗟にこっちに引っ張ってきたんだよ」

 すぐに接敵しないようにちょっと遠くに飛ばしたけどね、とは龍神の弁。

「…………なるほど、それは正直助かる」

 これ以上あいつらを危険な目に合わせるわけにはいかない。

「さて…………これが最後だ、手伝ってくれるかな? 召喚師さん」

 龍神のそんな茶化すような言葉に、けれど俺は頷く。

 ジャアクフロストを使って時点でもう残りのマグネタイトも少なくなってきている。後二、三度魔法を使えばそれで無くなってしまうかもしれないほど残量は減っている。

「正直もうどこまでやれるかは分からんが…………あいつらを野放しには出来ない、それだけは絶対だ」

 撃ちつくし空になった弾倉を捨て、次をセットする。引き金を引きいつでも撃てるようにしておく。

 爆弾類も使い果たし軽くなってしまった懐から取り出すのは一つの巾着袋。

「それは?」

 龍神の問いに答える代わりに手のひらに袋の中身を取り出す。

「…………宝石、かな?」

「いや、魔法石だよ」

 

 ストーン、と呼ばれるそれは簡単に言えば魔法の詰まった石だ。

 特殊な術式で石に(とど)めたマグネタイトを開放すると、特定の魔法へと変換される。

 火炎系ならアギストーン、氷結系ならブフストーン、電撃系ならジオストーン、衝撃系ならザンストーンと属性ごとに名前が異なり、まだ効果も違う。

 と言っても石に留めておけるマグネタイトの量などそれほど大したものでも無いので、本来の悪魔の使う魔法よりは威力が弱い…………が、この石の最大の利点は、本来自分たちが使えない属性の魔法が使えると言うこと、そして使用者本人のマグネタイトは一切使用しないことだろう。

 俺は魔法などと言うのは使えない。そしてアリスは呪殺と万能系の魔法しかなく、フロストが氷結系、ランタンが火炎系と属性特化していて、電撃属性と衝撃属性を使える仲魔がいない。悪魔と戦う時に相手の弱点を付くのは基本中の基本だ。なのに全属性をカバーできていないと言うのでは話にならない。かと言って新しい仲魔を、とは簡単にはいかない。そもそも俺のレベルで契約できる範囲なんてたかが知れている上に、とても仲魔たちの戦いぶりについていけるとは思えない。サマナーと仲魔のレベルがとにかくアンバランスなのだ俺たちは。

 とまあそれはさておき、だからこそ俺はカバーできない属性をそう言った道具で補う。道具のあるなしで本気で生死を分けるのがこのデビルバスターと言う職業であり、念のため程度のものが命を救うなんてことはざらにある話だ。その上で悪魔の弱点を付くためのもの、などという重要なものを俺が見逃すはずも無く、当然のごとく全属性一式を五個程度ずつ揃えている。さすがにそれ以上は重いしな。

 

「でも何でそんなのを?」

「さっきジャアクフロストが一発だけ当ててただろ、あの時のあいつの顔みたか?」

 あの少女が現れる直前、全力の一撃を放つ隙を作った先制の一撃。

「あれはあくまで全力の攻撃を放つための軽い牽制みたいなものだったが…………けっこう効いてた様子だったな」

 そのことと、後は…………。

「あいつあれだけきっちりと魔法を撃ち落すのは何か理由があるんじゃないのか?」

 もしかしたら、と言う程度の推論ではあるが。

 

「あの魔人、魔法が弱点なんじゃないか?」

 

 

 

 御殿の前で待つこと数分。

 そして、彼女たちはやってくる。

「やれやれ…………だわ、このバカのせいでとんだ事態ね」

 優雅な佇まいで扇を広げため息を吐くその姿は、けれど美しかった。

「改めてこんにちわ…………あなたがこの異界の主かしら?」

 無表情に龍神を見つめながら、少女がそう問いかける。

「ああ、そうだよ」

 龍神が肯定すると、少女が続ける。

「そう、突然で悪いのだけれど…………あなたの持つ異界の理が欲しいの。だからその力、渡してもらえるかしら?」

「それは断らせてもらうよ」

 少女の提案を龍神が即決で断る。

 少女もそれが分かっていたのか、特に異論を唱えず、ただ一言、こう呟く。

 

「そう、なら死んでもらうわ」

 

 少女がそう言い、手にした扇を一振りすると、扇から光が放たれ少女の目の前で人の形を象っていく。

 やがて現れたのは時代錯誤な着流しに左手の刀…………魔人だった。

 

(ヒイ)様…………ご命令はァ?」

 

「なで斬りにしなさい、今度は…………()()でね」

 

 少女がそう言った瞬間。

 ゾクリ、と寒気が走る。

 そして、目の前の魔人の雰囲気が一変する。

 例えるなら、刀そのもの。

 触れれば切れる、振れば切って落とす、殺意の刃。

 

「我は修羅」

 

 右手で刀の柄を握り。

 

「我は羅刹」

 

 抜刀する。

 

「我は剣鬼也」

 

 そして。

 

「“剣鬼”ヒトキリ…………いざ、尋常に」

 

 一歩踏み込んで。

 

「勝負!!!」

 

 向かってきた。

 

 




と、言うわけで、魔人は実は仲魔だったでござるの回。
おかしい、今回で二章終了だったはずなのに、なんでまだ続きがあるのだろう?
徹夜のテンションって怖いね、と言うことで二章延長。
あと四章が分岐だって書いたけど、一つどうしようかと思ってるネタがあるので五章分岐の可能性もあり。

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