細かく節約してかないと、すぐに金がなくなって全滅しそう。
早くレベル66まで上げて、アリスちゃん作りたいなあ…………。
ちょっと書きたくなったので、連載化。
パン、と弾けるような音がする。
…………する、などと言っても、それを鳴らしたのは俺の持つ拳銃であり、その引き金を引いたのは俺なのだから、させた、と言う表現が正しいのかもしれない。
「ガァァァァッ」
打ち抜かれたケルベロスの眉間から血が流れる…………がその程度で死ぬようなら苦労はしない。
「ガアアアアアアアアァァァァァ!!!」
そもそも銃弾がめり込んではいるが、それも先端の1cmにも満たない部分だけ、傷つけるだけ傷つけて、実質ノーダメージだ。
そしてダメージは無くとも痛覚を刺激し、獣をより一層怒らせるだけだった。
「まあ…………普通ならな」
怒りに任せ、俺へと飛び掛ってくるその巨体が…………空中で突然かくん、と崩れ落ちた。
ドォン、と音を立て地に落ちたケルベロスは全身を震わせ…………そして動かなくなる。
それから、その全身が徐々に黒く染まっていき、やがてぱらぱらと粉状になり散っていく。
後に残ったのはアスファルトの上に転がる紫っぽい鉱石のようなそれ…………マグネタイトだけだった。
「回収回収っと…………」
転がったマグネタイトを拾い…………手の中で転がるそれを砕く。
すると、砕けた結晶が光り出し、すう、と俺の腕へと消えていく。
携帯を取り出し画面を見る。
「…………九時か、そろそろ帰るか」
それから袖を捲くり、左腕につけた腕時計…………に似せたCOMPを見る。
「二万ちょいか…………出来ればもう一万ほど欲しいな」
試供品としてヤタガラスの連中から提供されたやつだが、ぶっちゃけて言ってマグネタイトバッテリー以外まともに使ってない。
実際の機能としては他にも。
DDS……デジタルデビルサモンと呼ばれる悪魔召喚プログラム。
DCS……デビルコミュニケーションシステムと呼ばれる悪魔の生体磁気通信解析プログラム。
DAS……デビルアナライズシステムと呼ばれる悪魔分析プログラム。
などがあり、他にもオートマッパーと呼ばれるGPS機能のようなものに、メタボリズム・チェッカーと呼ばれる体調管理システムや、悪魔契約プログラムなども組み込まれている。
だが実際問題、どれもこれも使っていない。
ソレと言うのも………………。
「さまなー」
後ろから聞こえた声に振り返る…………そこに俺と同じ名の少女、アリスがいた。
「いっぱいあつまった?」
嬉しそうに尋ねるアリスに、ああ、と答える。
「そっかそっか」
よかったよかった、とはしゃぐアリスを見て溜め息を吐く。
「なあアリス…………なんで出て来てるんだよ」
そんな俺の問いに、アリスはくるりとこちらを向いて笑って言う。
「なんだかたのしそうだったから」
子供みたいな理由にまた一つ溜め息…………と言ってもアリスはずっとこうなのでもう慣れてはいるのだが。
「ヒーホーサマナーは今日も眉間に皺よせてるホー」
それに続いて現われたのは、けらけらと笑うカボチャ。
「だから何でお前まで出てきてんのランタン…………」
ジャックランタン…………ハロウィンで有名なアレの悪魔。妖精種だけあって、こいつはこいつで自由気侭だ。
俺がひたすたマグネタイトを集めている理由がこいつらだ。
そうしないとこいつら活動できない、とは言え…………マグネタイトを集める俺の労力をいとも容易く踏みにじるのがこいつら。
だが俺では勝てない敵に会った時、生き延びるために必須なのもこいつら。
全くもってままならないものだ。
「アリス」
「どーしたの? さまなー」
「今どれくらいやれる?」
俺のそんな質問に、アリスが少し考えて。
「いっかいくらいならおもいっきりいけるよ」
「そうか…………」
その答えに短く頷き、道を取って返す。
「帰るぞ…………今日はもう遅いからな」
月を見る限り、明日あたりにも満月になりそうだ…………月が満ちると悪魔たちが活性しだす。
「明日は稼ぎ時だな」
朝の内に銃弾の補充をしておいたほうが良いだろう。
「サマナー誰か来るホー」
と、その時、ランタンの声に思考を現実に戻す。
確かに誰かが近づいてくる気配がある。しかも歩いている俺たちに対して真っ直ぐ向かってくる…………と言うことは俺たちが目的か?
「アリス、ランタン」
俺の言葉に二人が気を引き締め、警戒をする。これで奇襲されることは無いだろう…………が、一体誰だ?
カツ、カツ、カツ、とアスファルトを叩く靴の音。
そして街灯の光に照らされたその人物を見て、俺たちは警戒を解く。
「…………なんだキョウジか」
「何だとは何だ」
煙草の煙を吹かせる白いスーツ姿の男、キョウジの姿を見て俺は立ち止まる。
「相変わらず荒稼ぎしているようだな…………あのケルベロスはそれなりに強かったはずなんだがな」
目つきが軽薄そうに見えるが、グラサンでもかければ完全にヤクザのような格好のキョウジが俺を見て…………それから俺たちの来た道へと視線を移し、そう呟く。
「強かろうが弱かろうが関係ねえよ…………分霊なら消せる、それが俺の作った術式だ」
「デタラメなやつだ」
そう言うキョウジのほうが俺なんかより十倍デタラメだと思ったが、言わないでおく。
「と言ってもまあ…………どうやっても無理な相手もいるだろうがな」
例えば魔王とか魔王とか魔王とか。あと邪神とか。
レベル70を越えるようなやつら相手では俺の銃は通用しない。
と言っても俺はまだレベル30ほどなのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
そう言った化け物はアリスにお任せだ。俺はそのアリスが全力で戦うためのマグネタイト集めをせっせとするだけだ。
「で、何しに来たんだ?」
キョウジが来る時と言うのは中々にろくでもない時が多い。
「くく…………厄介者を見るような目は止めろ。今回はただの伝令だ」
「…………ただの? 伝令? あんたが?」
思わず胡乱気な目で見てしまう…………だって仕方ないではないか。
葛葉の掃除人、葛葉キョウジ…………それが目の前にいる男の名なのだから。
葛葉四天王の分家の血筋、それだけでこの男の立ち居地の高さも伺えると言うのに。
「…………くく、実を言えばまだこれからちょっと寄るところがあるのさ、それだけの話だ」
絶対にそれだけではない、とは思うものの俺には関係の無いことなので黙っておく。
「それで、伝令ってのは?」
「ああ…………西にある廃病院跡地は知っているな」
そう言われてから数秒、頭の中でその場所を思い出し、頷く。
「そこにジャックフロストが現われたらしいから、それを片付けろ」
「…………一つ聞いていいか? ジャックフロストなら他のサマナーでも問題ないだろ? 何で俺のところに?」
こう言ってはなんだが、俺はこの街のサマナーの中では頭一つ飛びぬけた実力がある、だからこそ俺に回ってくる話と言うのは大抵厄介ごとなのだが…………ジャックフロストはどうやってもレベル20以下だ。並大抵のやつらならともかく、レベルの高いこの街のサマナーたちにはそれほど問題にもならないような相手のはずだ。
だと言うのに何故俺のところに回ってきたのだろうか?
「ああ、それかなーに簡単な話だ……………………ただそのジャックフロストが特異固体と言うだけの話だ」
「………………また?」
ああ、まただよ。とキョウジが頷くのを見て、俺はがっくりと肩を落とす。
「ヒーホーオイラのお仲間だホー」
後ろでランタンが騒いでいるが、俺はそんな気楽にはなれない。
「ああ、片付けろ、としか言われてないからな、そいつみたいに仲魔にしてもらっても構わんぞ…………ま、できるならな」
この男も無茶を言う…………俺がランタンを仲魔にするまでに何度死に掛けたことか。それを知っていて言ってくるのだから、暗にキョウジは俺を殺したいのではないだろうか、と勘ぐってしまう時もある。
「断っても構わんぞ…………まあ、そんな余裕あるなら、だがな」
「無いの知ってて言うなよ…………ていうかその余裕を奪ったのはあんただろ」
「あの時、お前を見捨てて置けば良かったか?」
「……………………それは」
良いわけない…………それすらも分かってて言ってるのだから、本当にこの男は性格が悪い。
「感謝してるよ…………アンタには」
何せ……………………五年前、アリスと契約したての素人だった俺に一からデビルサマナーとしてのイロハを叩き込んでくれたのはこの男、葛葉キョウジなのだから。
「…………なんだ、おかしなガキが二匹か」
両親の墓の前で手を合わせる俺の後ろから、そんな声が聞こえてくる。
振り返ったそこにいたのは、白いスーツを着た柄の悪そうな男。
軽薄そうな目付きをしているが、その視線は決してそんな浮ついたものではなく、冷たく、重い。
「誰…………あんた」
その視線を俺を捕らえる…………だが、一向に動じない俺を見て、その男がほぉ、と呟く。
「俺はキョウジ…………お前は?」
「…………有栖、でこっちのもアリス」
自分で聞いてきた割りに、興味も無さそうに、そうか、と男……キョウジが呟く。
「昨日の夜に遊歩道にいたのはお前らか?」
その言葉に俺は目を細め…………それからキョウジの目を探りながらゆっくり頷く。
「…………そうか」
だが、返答はあっさりとしたもので、だからこそ俺は肩透かしを食らった気分になった。
「ついでにお前らを片付ければ問題ないな」
呟いたその目は本気の色がアリアリと見えて…………マズイ、と思った。
「よくよく考えればあの流れから良く弟子入りに持っていったな俺…………」
「くく…………弟子入りなんぞと大層なもんでもねえよ」
煙草を吹かしながらキョウジが俺の独り言に反応する。
「実際のところ、お前が勝手に俺の技を盗んでいっただけだろうが」
「最低限の知識だけ詰め込んだら後は好きにしろって言ったのあんただろ」
そうして三年、この男の下で知識と技術を身につけた俺だったが…………。
「まさか最後の最後で授業料請求させるとは思わなかったわ」
「くく…………そうそう美味い話があるわけ無いだろうが」
「だからって、三年で七億は法外過ぎだろ」
そんな俺の抗議に、キョウジは小馬鹿にしたような声で返す。
「くくく…………法に収まるような技術じゃねえんだ、報酬だって法の範囲に収まるわけ無いだろうが」
まあ実際…………要求された七億と言う法外な金額だったが、現在までの二年ですでに二億は返して残り五億。
それもレベルの低かった頃はまだ報酬も低かったことを考えると実質この半年で一億五千万程度だ。
今のペースで考えるなら四年、まだまだ強くなることを考慮すれば二年あれば返せる。
「そう考えると七億が安く見えるから不思議だよな」
「実際に破格だ」
それは嘘だ。
そんな戯言を互いに吐きつつ、しばらく時間を潰していたが、やがて時間も遅くなり、互いに分かれる。
「じゃあな、キョウジ」
「じゃあな、有栖」
互いの顔を見ず…………そのまま別々の方向に歩いていく。
…………さてはて、気紛れが服を着て歩いているようなあの男。
次に会うことはいつになるやら。
「…………ねえ、
「…………なんだ、アリス」
キョウジと分かれた帰り道…………二人並んで歩いていると、ふとアリスが口を開く。
因みにランタンは先の話に出てきたジャックフロストを見に行かせた。
だから今ここにいるのは俺とアリスの二人だけだ。
そしてそのアリスが足を止め、じっと俺を見上げる。その表情はさきほどまでの愉快そうな気配はなく、どこまで真剣なものだった。
「わかってるよね? キョウジは」
「…………
アリスは基本的に俺をサマナーと呼ぶ。それは俺がデビルサマナーとなった五年前からのこと、それ以前はお兄ちゃんと呼んでいた。
だからアリスが俺のことを名前で呼ぶことは
そう…………滅多に、だ。
稀にあるのだ…………こうして、自分と同じ名を呼ぶことが。
そうして、そういう時は、アリスなりに真面目に話しをするサインのようなものだった。
嘘を言わせない、誤魔化しもさせない…………そう言った気迫で俺の目を見つめてくるのだ。
だからそう、俺もそういう時だけは
「……………………分かってるよ、キョウジが俺を殺そうとしてることなんて」
そんなもの二年前から分かっていた。
俺のそんな答えに、アリスが眉が顰める。
「わかってるのに?」
なのに、なぜ? そう問うてくるアリスの視線から目を逸らすことなく、返す。
「一応の恩人だから、義理くらいは通す…………だが、もし」
そう、もし…………その時が来れば。
「殺すよ…………キョウジを」
そう答える俺に、アリスは一つ溜め息を吐く。
それは呆れなのか…………それとも
「安心しろ……………………俺は死なねえよ、もう二度とな」
口調を強めたその言葉に、アリスの表情が戻る。
「…………そっか。ならいいよ」
そう言ってまた歩き出すアリスを追うように俺も歩き出す。
「死ぬ気は無い…………来るなら殺すつもりでもある」
けれど。
できるならば…………。
「俺にお前を殺させないでくれよ…………キョウジ」
そう願うばかりであった。
色々とオリジナル設定が多いです。
葛葉キョウジ
葛葉四天王の一つに数えられる家系のそのまた分家の血筋。
初代葛葉キョウジは相当性格に難ありな人物だったらしく、周囲から狂死(キョウジ)と呼ばれていたらしい。
葛葉ライドウ、葛葉ゲイリンと同じく世襲制の称号のような名前。
当然ながら本作の葛葉キョウジも本名は別にある。
さらに言うなら、原作に出てくるのとは全く違うオリジナルキャラ。
最後に一つ言うなら、悪魔以外原作キャラ(特に人間は)でないと思ってください。
しかしこの主人公…………さらりとアリスとジャックランタンの仲魔二体同時召喚をこなしている。作者自身も書いてて気づいた。