有栖とアリス   作:水代

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野望の幻想郷久々にやってたら、投稿が一日跨いじゃった。



新章開始です。


有栖と海の街編
有栖とゴールデンウィーク


 

 

 旧校舎がヤタガラスによって封鎖されて早一週間。

 あの夜、帰宅する途中に携帯でキョウジに連絡。キョウジを通してヤタガラスに話を通し、翌日に大まかな概要を理事長に説明した。

「………………そうか、もう被害は出ないんだな?」

「ああ、ヤタガラスが簡単に調査した感じだと、異界の主がいなくなって霊地の封が緩んでたのが原因らしい。まあ普通に考えてあんな適当な呪い方で本当に呪える分けないわな」

 形こそ呪いだったから勘違いしたが、あれは本当は呪いではないらしい。高位の術者である朔良が勘違いするほどだから正直同じなんじゃないかと思ったりもするが、あれは呪った人間の感情を食らって出現した形の無い悪魔…………例えるならスライムのようなものらしい。食らった感情のせいで暴走していたらしく、結果的に呪いのようになった、と言う感じだ。要するに、呪いのように見せかけただけのただの悪魔だ。

 補足説明をすると、スライムは世界に現出する時、様々な要因で必要分のマグネタイト量が足りず、未完成なままに無理矢理現出したせいで、姿と形を失ってしまった悪魔のなれの果てだ。

「まあそれでもスライムとはまた違う新種だってんで、ヤタガラスの人間は珍しがってたがな」

 例えて言うならスライムのようなレギオン、らしい。よく分からない例えだ。

「呪いじゃないから反動は無い、当然術者も無事だ…………ただ術者当人が呪いの事実を知らないからこれからも続く可能性はある」

「それなら問題無い。夜間の見回りを強化することにした。今よりもっと遅い時間帯を見回る人間を数人こちらで見繕っている。人が見回っているのなら危険な真似も出来ないだろう?」

「まあそれはそうなんだが、人増やしてヤタガラスの人間をうっかり見つけないでくれよ? あと旧校舎のほうにも立ち入らないようにしてくれ」

 俺の忠告に理事長が頷く。

「それは分かっている。最初に徹底しておくので安心して欲しい」

「まあこの土地以外でやる分には問題ないだろ。素人がやってる呪い程度で実際に害が出るとも思えないしな」

「そう願う…………実際、うちの生徒から一人死人が出た事実は覆らん」

 最初の一人か…………それに和泉がいなければ二人目が出てたな。

「病死、と言うことで学校の名を傷がつくようなことはなかったが…………それでも、我が校に通う生徒が死んだと言うのは、教育者としては辛いものがある」

「…………なのに呪った本人は処罰無しか?」

「夜中に呪いをしたから処罰しろと? そんな理由が通るわけないだろう。それに、その子もうちの生徒だ…………更生の機会が与えてやりたい。私はな、六年前から死人を数えるような真似は止めたんだよ」

 その六年前のことを知っている身としては中々に反論しづらい。

 

 思い出す。

 

 回顧する。

 

『……………………どうして』

 泣いていた。暗い部屋の片隅で。

『………………なんで』

 本来住んでいたはずの人間の居なくなった抜け殻の部屋で。

『……………………どうしていなくなったの、お父さん、お母さん』

 少女が一人…………泣いていた。

 

 その時のことを思い出し、表情を歪める。

 

 同じように顔を歪めた理事長に何か言おうと口を開き、けれど言葉は出ず口を閉ざす。

「そうか………………なら俺はこれ以上何も言えないな。今回の顛末は以上だ」

 俺の完了の報告に理事長が深いため息を吐く。

「ああ、そうか。ありがとう、ご苦労だった」

「………………俺が言うべきことじゃないかもれいない、が。自分を大事にしろよ、()()()

「ああ…………ご忠告痛みいるよ」

 その哀愁を漂わせる声に、眉をしかめる。

 思えばこの爺さんも元は裏の事情も知らない一般人だった。だがただ学校を建てた場所が悪かった、それだけの理由で強制的にこちらの世界に関わりを持たされて、そのせいで余計に苦悩するようになった。

 俺のように悪魔と契約したものでもない。ヤタガラスの人間のように国家のためと言って覚悟を持って働くような人間でも無い。本質的にこの爺さんは一般人だ。

 だと言うのに死と暴力の蔓延る裏の世界をまざまざと見せ付けられ、その火の粉がかからないように尽力し、けれど今回一人の生徒が犠牲になってしまった。

 直接的には爺さんは何も関係ない。だが殺されたのはこの学校の生徒、殺したのもこの学校の生徒。けれど殺せてしまったのはこの土地の事情。

 転居しようにも今の街にこの大きな学校一つを移す土地の余裕も無い。

 結局、神経をすり減らしながら裏の事情に付き合いながらやっていくしか爺さんには選択肢が無い。

 一般人だと言うだけあり、その精神はあまりにも普通だ。死に対して感覚の麻痺した俺たちとは違う。

 結局のところ、爺さんを疲れきった表情にさせるのはその感覚の差異なのだろう、そう分かっていながらけれどそのままの感覚でいてほしいとも願う。

 

 異常なのは俺たちのほうなのだ。そんなこと当の昔に知っていた。

 

「じゃあな…………割り切ってしまえるとも思えないが、あまり気に病むなよ」

 無茶だ、と自分でも分かっているが、それでもそう言いながら、手をひらひらと振って俺は理事長室を後にする。

 

 

 残されたのは男一人。

 男は再度深いため息を吐き、机の引き出しを開けると一枚の写真を取り出す。

「………………香織、祐次君。私は…………どうしたら」

 写真に写っていたのは一組の男女とその男女と手を繋ぐ少女。

「詩織だけは…………絶対に守ってみせる」

 

 だからどうか、力を貸してくれ。

 

 自身以外誰もいない部屋で、そう呟いた。

 

 

 * * *

 

 そんなことがあったのが一週間ほど前のことだ。

 

「そういやさ、田島のやつが朝から警察に駆け込んだって話知ってるか?」

「誰だそれ?」

 詩織を見るが詩織も首を振って知らないと言う。

「クラスメートだろ、覚えててやれよ」

「最初に一、二週間休んでてなあ。まだクラスメートの名前覚えてないんだ」

「あ、ずるい。私だけ悪者にしようとしてる」

 苦笑しながら詩織を見て、詩織と悠希もまた笑う。

 実に平和だ。

「んで、警察に駆け込んだその田中がどうしたんだ?」

「田島だっつうの。いやな、警察に駆け込んだ理由が、夜の学校の裏でカボチャオバケに出会った、って言う理由らしいぞ」

「…………へえ、カボチャオバケねえ」

「いるわけねえだろそんなの、ってことで警察も相手にしなかったらしいんだが、そしたら田島のやつすっかり怖がってな、人に声をかけられただけで気絶しちまったってんで、帰ったらしいぞ」

「そいつは気の毒な話だな」

 何を白々しいことを言ってるホー…………うっさいぞフロスト。

「でもまあ良かったかもな…………いやな、田島のやつどうも苛めにあってたらしくてさ、今回のことで人の噂に上って注目されちまったから、しばらくはアイツに絡もうってやつも減るだろ」

「苛め? そんなのこの学校にあったのか?」

「アイツ人付き合いも悪いし、他人と積極的に会話するようなやつじゃないからさ、影が薄いんだよ。実際お前らだって名前知らなかったしな。だから俺も気づくの遅れてさ、何とかしてやりたいと思ってたんだが…………まあ結果オーライと言えなくも無いかな? 苛めてたやつも、人目を気にしような真似はしないだろ、したら教師に見つかるしな。俺さ、今度田島が学校来たらもっと積極的に話してクラスの輪に入れるようにしたいんだ」

「ほー、さすが学級委員長は言うことが違うね」

「お前らが俺に押し付けただけだろうが」

 

 昼休み恒例の三人で机を囲んでの昼食。

 これをするとささくれ立った心が癒されるような気分になる。

 なんと言うか、朔良やアリスは俺にとって非日常の象徴であり、詩織や悠希は俺にとって日常の象徴だ。

 俺はデビルサマナーとしての日常的に動いているが、かといって一般人としての日常を捨てる気も無い。

 だがあまり裏事情に慣れきってしまうと、平和な日常生活に戻った時、価値観にズレが出てくることが多い。

 俺にとってこの平穏は、そのズレを修正してくれる貴重なものであり、俺がまだ人間である、と思えている重要なものだ。

「そういえばさ」

 これはそんな日常の一コマ。

 

 そして。

 

「もうすぐゴールデンウィークで五連休だけど、二人とも何か用事あるか?」

 

 これから起こる事件の…………始まりだったんだホ。

 

 ……………………おい、ランタン、不吉なモノローグ入れるな。

 

 なんのことだホ?

 

 お前の入れ知恵だろ、アリス。

 

 えー? なんのこと? わたしわかんなーい。

 

 こんな時だけ子供の振りをするな。

「ゴールデンウィーク? 私は特に無いかな?」

「そうかそうか、んで? 有栖は?」

 尋ねられ、まだ言い足りない物を感じながらも思考を戻す。

「俺か…………特に無い、はずだ」

「そうかそうか、んじゃーさ!」

 と悠希が何か言おうとしたところで。

 

 ピピピピピピピピ

 

 俺の携帯が鳴る。

「悪い、ちょっと電話してくる」

「誰からだ?」

「バイト先だ」

 発着者名バイト先…………つまり、ヤラガラスのことだった。

 

 

 

「もしもし?」

『俺だ』

 名乗りもせず端的な言葉。だが声に聞き覚えはあるし、その物言いはもっと覚えがある。

「キョウジか。何のようだ? と言うか番号はカラスのほうからだったはずなんだが」

『ああ、そっちからかけているからな。まあそれはどうでもいい。お前ゴールデンウィークは暇か?』

 さっき同じようなこと聞かれたな、と思いつつ。

「いや、特に用事が無いが?」

 正確には今は無い、これから入るかどうかはキョウジ次第だ。

『なら良い。仕事だ、帝都南の沿岸部にある青海(あおみ)町と言う町に行って来い』

「青海町? そこに何かあるのか?」

『異界がある…………カラスの監視を抜けて霊穴の封を緩めていた期間が凡そ一週間ほどらしいが、そのせいでせき止めていた場所に異界ができた、と言う話があちこちで飛び交っている』

 うわあ、と思わず顔をしかめる。それはヤタガラスの連中も大忙しだろうな。

『で、青海町の異界は先日観測されたばかりものだがおかしなことになっているようだな』

「おかしなこと?」

『確かに異界化した痕跡と反応があるのに、どこに異界があるのかが分からない。すぐ傍で異界が存在している気配はするのに、どうしてか異界が見つからない…………新たに発生した異界は他にいくらでもあるのに、いつまでもそこにかまけてはいられない。幸いと言うべきか、街中にできたような様子は無かった。だったらすぐに町の人間がどうこうなるわけでは無い、と言うことで調査を打ち切ったらしい。でだ、頼みたいのはその異界を探して来い、ってことだ』

「専門機関のヤタガラスが見つけられないのにどうやって俺が探せば良いんだよ」

 俺の問いにキョウジが問題無い、と返す。

『街中の大部分の調査は終わっている。だから街の周辺を適当に見て回れ。調査済みの箇所を記入した地図を渡すからそれを参考にしながら調べろ』

「それをゴールデンウィーク中にやれ、と?」

『ああ、頼んだぞ』

「ちょ、待て!? キョウ……ジ……っ」

 俺に反論の隙を許さず電話を切るキョウジに、思わず肩を落とす。

「くそ、面倒ごと押し付けられた」

 たしかにキョウジへの借金が後五億ほど残っている。向こうが回して来たと言うことはそれで返済しろ、と言うことなのだろう。

 キョウジから回される依頼は報酬が破格だったりもするが、難易度も異常だから困る。

「…………まあ押し付けられたからにはやるしかないか」

 どうせ拒否しても手が回らないヤタガラスから再度押し付けられるのがオチだろうから。

 ただまあ、悠希が何か言ってたが俺は付き合えなくなった、と思い、ため息を吐いた。

 

 

 * * *

 

 

 どうか今日も良い一日でありますように。

 

 毎朝、岬に立てられた祠で石動小夜が祈る。それが彼女のライフワークだった。

 言っては何だが小夜は別段信心深いわけではない。

 近所の神社など行ったことは子供のころに友人たちと遊び言った数回程度だし、初詣に通うことすらしない。

 教会などに言っているわけでも無く、寺に最後に行ったのは十年ほど前の祖父母の墓参りの時くらいだろう。

 だと言うのに。

 幼少の頃から小夜は毎朝ずっとその祠に通って、祠を清掃し、祈りを捧げていた。

 

 もう一度言う。

 小夜は決して信心深いわけではない。

 

 だが、ソレとは別に信じているものがあった。

 

 幼い頃の自分。

 大好きだった祖母と手を繋いで祠へと通う。

 祖母がいつも言ってたこと。

 

 ここには神様がいらっしゃる。

 

 それを信じていたわけではない。

 ただ祖母がそう言って毎日この祠を訪れていた。60年以上も欠かさずに、だ。

 だから小夜は、祖母を信じた。

 祖母が神様がいると信じている、ことを信じた。

 それは決して信仰ではない。

 だが無条件は肯定、それは信心ではあった。

 

 そうして祖母が亡くなる際に自身に託したこと。

 

 それが祠を保つことだった。

 

 だから祖母が亡くなってからもずっと祠を欠かさず訪れた。

 そのついでとばかりにいつも簡単に祈っていく。

 

 どうか今日も良い一日でありますように。

 

 だからその日も当たり前のように小夜は祠を訪れた。

 

「やあ…………おはよう、かな?」

 

 そして……………………一人の女性と出会った。

 

 




Q.有栖に平穏は無いんですか?
A.主人公にそんなものありません。あっても「束の間の」と言う言葉が付きます。

因みに以前、サマナーは儲かるみたいなこと書きましたが、厳密にはある程度以上の強さを持ったサマナーは、ですね。
だいたいレベル20超えた辺りで普通のサマナーにとっては一流なので報酬額高いですね。
レベル30超えたら普通は超一流です。有栖がそんな風に見えないのはピンポイントで超一流以上を引き当てるから。
比率にすると
1~10レベル 駆け出し 40%
11~15レベル 一人前 30%
16~20レベル 優秀  15%
21~30レベル 一流  10% ←朔良
31~50レベル 超一流  3% ←朔良(仲魔込み)、有栖、群体(地下)
51~75レベル 人外   1.5% ←和泉、有栖(仲魔込み)、群体(屋上)
76~  レベル 化物   0.5% ←キョウジ
100レベル以上 論外   0% ←泰山府君

泰山府君ェ…………。本来0%のはずなのにピンポイントで引き当てた有栖のそれは運が良いのか悪いのか、まあ悪いか?
しかしこうしてみると、キョウジがの化物っぷりが分かる。そして仲魔込みの有栖と同等の和泉の強さも。
因みにこの表は作者の勝手な想像な上に適当でデタラメなのであまり気にしないでください。



メガテン3買いました。
雑魚相手に殺される理不尽さに頭抱えた。
よくも悪くも平等過ぎてプレイヤー側が圧倒的に不利。
ていうか、最後にセーブポイント寄ってから一時間プレイして一回もセーブポイントが出てこないって…………。
雑魚相手にパトってしまって思わずコントローラー投げた。
あの辺のシビアさはさすがメガテンだと思わざるを得ない。

でもそう考えるとライドウさんマジでチートだと思わざるを得ない。
ライドウさんはマジヌルゲー。ラスボスすら刀オンリーで十分倒せる。仲魔いたほうが楽なのは事実だけど。超力兵団はアリスちゃんに天命滅門覚えさせてたら圧勝でした。合体技せこい。

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