有栖とアリス   作:水代

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ここ何話か感想こなくて寂しいなあ(チラッチラッ
アリスちゃんの可愛い話早く書きたいなあ。


有栖と群体

 

 

 例えば。

 俺たちの立つ地面の下。

 そこに地下水脈があるとしよう。

 もしこれに何らかの装置で干渉をしようとするなら。

 果たして、三階建ての建物のどこにそれらしき装置を取り付けるだろうか?

 常識的に考えれば一階。

 もしあるのなら…………地下などどうだろう?

 

「迷った」

「だねえ」

 途中でマグネタイトコストを気にしてランタンを下げたはいいのだが、アリスと二人歩いていると完全に道に迷った。と言うか異界と言うのはどこもかしこも全うな形をしていない。外見が長方形の校舎でも中は複雑怪奇な迷宮のようになってしまっているのが異界と言うものだ。

「仕方ない…………あんまやりたくなかったが、朔良とも会わねえし一度主のところに行くか」

 ここの異界を作った主は情報としては知っている、その居場所も当然。

「ってことで下に行くか」

「なにがっていうことなの?」

 気にするなアリス。と言いながらCOMPを操作する。

「出て来い、ジャックフロスト」

「ヒーホー! 久々の出番だホ!」

「…………出番って何だよ」

「なんだろうねえ?」

 その笑みはなんだよ、アリス。

「まあいい…………物は試しだ、フロスト。()()()()

「りょーかいだホー!」

 俺の指示を受けたジャックフロストが拳を振り上げ。

 

 床に全力で叩き付けた。

 

 ズドォォォン、と拳が殴ったとは思えないような轟音。

 異界全体が揺れる。

 異界というのは一つの結界のような世界だ。

 球形にして円形。力が循環し続けるからこそ保たれる小さな世界。

 空間を切り取った異世界。

 

 まあ床ぶち抜いたからって必ずしも下に進むとは限らないのが異界と言うものだが。

「なんで屋上…………?」

「うーん、くーかんがへんなふうにつながってるんだとおもうよ?」

「いや、それは分かってる」

 フロストの時の異界化した廃病院もそうだったし。

 一階の入り口から入ったのに、繋がった先が三階で。そこから一階まで降りて非常用出口を抜けると屋上、と言う意味の分からない繋がり方をしていたし、もう異界に常識なんてものは通じないのも分かっている。

「で…………あんた誰だ?」

「俺か?」

 そこにいたのはダークスーツを着てサングラスをかけた男。

 手に持ったアタッシュケース…………そこから感じるのは禍々しい気配。

「俺は…………そうだな、群体(cluster)とでも呼んでくれ」

「ああ、新手の中二病か」

「いやいや、違う違う…………本当にそれが()()()()()の名前なんだよ」

「……………………たち、ねえ。まあいい…………それで? あんたここで何やってんだ?」

「ああ、何。簡単な実験さ」

 

 この地に眠る強大な力を使って、とあるものを呼び出そうとしているだけさ。

 

「…………ふうん」

「おや、意外と冷静だな。もう一人はいきり立ってきたと言うのに」

「うん、まあお前らがここで何しようと勝手なんだが…………ちゃんと許可はもらってきたか?」

「は?」

 俺の問いに、男が目を丸くして呆けた声を出す。

 数秒その意味を考え、やがて笑いだす。

「アハハハハハハハ、ハハハハハハハハ!!! 分かってて言っているんだろうね、キミは。ああ、残念だ。残念ながら許可はもらっていない」

「そうか………………まあ分かってたけどな。ああ、後さ」

 

 さっきのもう一人は、って発言に関して聞かせてもらおうか。

 

「ああ、構わないよ。私はキミが気に入ったからね。もう一人、地下で私と戦っている少女のことだね?」

 やっぱ地下に行けば良かったか、と思いつつも、まあ今からでも遅くないか、と呟き。

「さっさと倒されていけ。そしたらさっさとあいつのところに行くからよ」

「残念ながらそれはできないな…………さあ、出て来い。モロク!」

 

 SAMMON OK?

 

 出現する大きな魔方陣。

 そこから現れたのは…………強大な魔王。

「…………魔王モロク、ねえ。ますます見逃せないな、あんた」

 魔王種を従えるサマナー…………しかもヤタガラスの重要な領域に侵入して、か。

「…………まあ、無意味だけどな」

 

 SAMMON OK?

 

「ヒーホー! ようやくオイラの出番かホ?」

「ヒーホッホー! ランタンの出番は無いホー! オイラが全部やっつけるんだホー!

「…………くすくす。にぎやかだね、さまなー」

 協調性? なにそれおいしいの? と言わんばかりの面子。だが俺の最高の仲魔たち。

「相手は魔王種だ。思いっきりやっていいぞ」

 追加のマグならそこら中にあるから、な?

 

 始まったのは、蹂躙。

 戦いですら無い。

 魔王種だろうが、なんだろうが。

 俺の前に立ったなら、ただの敵だ。

 

「モロク、マカラカーン」

 魔王が魔法反射の壁を張る。だが無意味だ。

「フロスト、吹っ飛ばせ」

「ヒーホー!」

 フロストが拳に冷気を纏わせ、魔王を殴りつける。

 その巨体な軽々と吹き飛ぶ、と同時に魔王に張られていた薄い緑色の壁が砕かれる。

「なに?!」

 バリアブレイク、とでも言うのだろうか。

 フロストの拳は補助魔法をあっさりと打ち砕く力があるらしい。

 恐るべきは特異点悪魔、と言ったところか。よくまあこんなの仲魔になったな、と今更ながらに思う。

「アリス、ランタン」

「「メギドラオン」」

 吹き飛んだ魔王に追い討ちをかけるようにアリスとランタンから放たれたメギドラオンが魔王を飲み込む。

「甘いな。モロクには苦労して万能耐性を」

「核熱耐性なんて無いだろ、流石に」

「っ?!」

 焼け焦げ、ぼろぼろになった魔王の姿に、群体とか名乗った男が眼を見開く。

「馬鹿な…………モロクは火炎属性を無効するはずだ」

「火炎属性じゃねえしな」

「っく、まだだ、まだやれる! モロク、メギドラ!」

 ぼろぼろになってもやはり魔王か。まだ動けるらしく、黒紫色の光を出現させ、放ってくる。

「フロスト」

「了解だホー!」

 放たれた魔法を、フロストが前面に立ち、俺たちをかばう。

 ボン、と一瞬音が響く…………が、そこに相変わらずの様子で立っているフロスト。

「さすがな、万能耐性持ちは」

「ヒーホッホー! もっと褒めるホー!」

 いや、しかし耐久力が高過ぎて、本当に要だわ、フロスト。

「…………さて、そろそろ終わらせるか、アリス」

「はーい…………あのねー? 死んでくれる?」

 瞬間、アリスの周囲から闇が溢れ出す。

 黒い、黒いソレが魔王を捕らえて…………。

 あっさりと、その命を奪った。

「…………な、ばかな」

 これ一体しか出さなかった辺り、自身の切り札だったらしいソレをあっさりと倒されたことに、男が愕然として身動きを止める。

「…………よし、アリス。あれやってやれ」

「あれ? んー? あ、わかった! ねくろまー!」

 アリスの足元に魔方陣が現れ…………直後、俺たちの目の前に今しがた倒した魔王が召喚される。

 ネクロマ、と言う魔法がある。死んでしまった仲魔一体をゾンビとして再召喚し、操ると言う魔法だ。

 敵をゾンビする、なんてことはできない…………本来なら。

 アリスのネクロマは、アリスが殺した敵すらもゾンビにし、隷属化できる。しかも召喚できる数がマグネタイトがある限り無制限。そう言えばこいつ出会ったときも死体引き連れてたよな、と思い出す。

 さすがにあれを家に上げる気は無かったので土葬させたら全員土に還って昇天してしまい、ゾンビにできなくなってアリスに怒られたのも思い出す。

 

『お前が俺から離れない限り、俺はお前と一緒にいる…………約束だ』

 

「……………………」

「どうしたの? さまなー?」

「あ、いや、なんでもない」

 余計なことまで思い出したが、今は置いておく。

「さて、オッサン。一体何をしようとしていたのか…………懇切丁寧に教えてくれるか?」

「…………………………」

 沈黙する男。観念したか? とも思ったが、すぐに違和感に気づく。

 震えている。だが男から恐怖の念は感じられない。

 だとするなら…………この震えは。

 

 ()()()()()

 

「来たぞ。ついに、来たぞ!!! さあ来い、地獄の底より招来せよ!!!」

 

 狂ったように男が叫ぶ。

 

 同時に、光る。校舎全体を囲うほどの巨大な召喚陣。

 

「っ!! 何を召喚するつもりだ!! 止めろ、ランタン!!!」

「マハラギオンだホ!」

 咄嗟の命令でランタンが炎を放ち、男が炎に包まれる。

 

 だが、止まらない。

 

「汝、裁きを行ないし偉大なる者。恐るべき地獄の主、冥界の王。陰陽の長」

 

 漂う。知っている。ああ、これは。

 

 死の臭いだ。

 

「来よ!!!」

 

 そして。

 

 

 

「「泰山府君其我也」」

 

 

 

 声が重なった。

 

 

 

 

 ぞくり、と背筋が凍る。

 群体へと刀を突きつけていたヨシツネを含めて全員を咄嗟に自分の下へと集める。

 仲魔たちも異常を察してか、すぐさま駆けつけてくる。

「なにこの禍々しい気配」

 見れば奥の祭場で呪が不気味に発光している。さきほどとは明らかに様子の違うそれに、違和感を感じる。

 これを放っておいてはいけない。直感的にそう思い…………それを信じる。

「お、おお…………おおお…………」

 様子がおかしいのは群体もであった。

 眼を見開き何かに祈るような様子でひたすら上を見つめている。

 今がチャンスだ、内心が呟き。

「………………ヨシツネ、奥にいる呪を撃破して」

「任された」

 端的な言葉のやり取り。そして男の意識が向いていない間にヨシツネがその横を駆け抜け。

 一閃。薙いだ太刀が祭場を両断する。その中心に縫い付けられたノロイごと。

 ノロイが悲鳴を上げ、消滅する。と、同時に背筋を凍らせる気配が…………強まった。

「っ!?」

「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 叫ぶ、男が。歓喜したように。走り出す、地下から。

「なっ! 待ちなさい!」

 それを追いかける。見失わないように必死で食らいつく。だが男はすでにこちらを気にも止めていない。

「グルグルグルグルと、どんな迷宮よこれ!!」

 見失わないようにするのに精一杯で追撃をしかける余裕も無い。それほど複雑怪奇なのだ。

 特に空間と空間がわけの分からない繋がり方をしているせいで、入る扉を間違えるだけで全く違う場所に出る。

 扉をくぐった瞬間姿を消えるのではいつか見失いそうだった。

 そうして走って走って。

 たどり着いたのは、屋上。

 

 そこに……………………ボロボロになって倒れ伏した有栖がいた。

 

 

 

 

 ヒトの世界など、ヒトが認識できる小さな範囲でしかない。

 世界単位で見ればそれはとてもとても小さなもので。

 けれど、ヒトは一人一人己だけの世界を持っている。

 自身の見ているものと目の前にいる別の人間が見ている景色は本当に同じものなのだろうか。

 自身がそうである、と思っているものだって実は他人から見ると全く別物だったりするのではないだろうか?

 

 りんごは赤い。

 

 そんなこと子供のころから知ってる当たり前だ。

 だが自身の見ている赤さと他人の知っている赤さは本当に同じだろうか?

 もし自身にとって黄色だと思う色に見えていたとしても他人にとってそれが赤なのだとしたら、一体その認識の誤差をどうやって埋めることができるだろうか?

 

 ヒトは…………否、理性ある生物はみな、自分だけの固有の現実を持っている。

 ある学者が言った。

 ヒトが視覚で見ているものの90%以上は脳が錯覚しているだけのものではないのか、と。

 それを実験した者がいた。

 

 Radical Science Development Society

 急進科学発展党…………RSDSと略される科学に魂を売り渡した狂った人間たちの集団。

 

 群体は、そこで生まれた。

 

 複数人の魂を円環するように繋ぎ、全員の自意識を殺した上で一つの個を植えつける。

 実験に参加したのは百人…………内、奴隷として連れて来られたのが四十八人。残りの五十二人全員が()()()()()されてきた存在だった。

 狂人たちに良識などは一切無い。何の躊躇も呵責も無く、無理矢理誘拐され監禁された五十二人の自意識をあっさりと殺した。残りの奴隷たちも翌日には全員、その自意識を破壊され。

 こうして百人の廃人が生まれた。

 次いで廃人たちの魂を全て繋げる。それを為したのは、ファントムソサエティ、と言う結社らしい。

 元々の計画では、ここで自意識が芽生えるのを待つだけだったらしい。全ての自意識を殺した状態で全員の魂を繋ぐことで感覚、感情全てを共有させる。この状態で新たな自意識が芽生えたのなら、それは全員の感情から生まれた個にして群なる者だった。

 だが、半年以上経てど自意識の芽生える欠片も無い廃人たちの業を煮やした狂人の一人が偽装された人格を植えつけた。

 この状態で全員が動き出せば成功。人格を植えた一人だけが動けば失敗。

 結果は、全員が動き出した。

 狂人たちが歓喜した。

 廃人たちには名前(コード)がつけられた。研究対象としての識別コード個にして群なる者(クラスター)と。

 

 




ようやく名前が出てきたファントムソサエティ。はっきり言ってここから先出てくるかは完全に不明。

ちなみにモロクのレベルは70。
え? 一方的だった? 有栖強い? だって有栖の仲魔って…………。
アリス Lv70
ジャックランタン Lv60
ジャックフロスト Lv65
平均レベル65ですよ? 特に、この小説独自設定の特異点悪魔は非常に強力です。何が強力かって、未知だから。上の面子でモロク1ターン目のマカラカーン。普通に考えればかなり良い手のはずなのに、ジャックフロストが殴りかかってきてしかもそしたらマカラカーン破壊されるとか、意味分からんことになるなんて予想できるはずもない。
有栖の最大の弱点はマグネタイト。全員レベルが高過ぎて、なのに有栖はレベル35しかないから行けるダンジョンで手に入るマグネタイトの量と普通の戦闘で消費するマグネタイトの量が全然吊りあってない。だからいつも全力は出しづらいし、マグネタイト収集に必死になる。

そして初めて出てきた朔良の勘。
あの時ノロイを殺さなかったら………………?
さて、どうなったでしょうね。

アリスのネクロマはコドクノマレビト参照にしました。
死んでくれる? で殺しネクロマでこちらに召喚。なんと言うゾンビサイクル。

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