有栖とアリス   作:水代

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初めてのタイトルから有栖の文字が無い話ですね。外伝は除く。
文字通り朔良ちゃんの話です。


朔良と群体

 

 

 六体の悪魔を同時に操る。

 それは例えCOMPを持ってしても難しいことだ。

 何故ならそれは、戦況を見ながら六体の悪魔同時に指令を出すと言うことだ。

 さらに言えば悪魔個人個人の個を抑え、暴走しないように手綱を取り続けなければならない。

 マグネタイトによる意思を伝達する。それが悪魔の意思の抵抗を上回れば悪魔は契約に縛られ召喚者の命令を聞く。だが、六分割した思考一つ一つの命令を強い意思で出す、と言うのは本当に才能がいる。さらに命令を単調にさせないように逐一考えながら戦況に合わせて、となるともう人間にはほとんど不可能な域だ…………そのはずだった。

 かつて八体の悪魔を同時に操った人間がいた。

 十四代目葛葉ライドウ。とは言ってもMAGバッテリーなどと言う便利なものも無く、マグネタイトの保存技術のまだ未熟だった当事、八体同時召喚度などすればあっという間にマグネタイトが尽きる。それを成した時が非常に特殊な状況だったのは否めない。

 だが制御にマグネタイトの多寡が関係する余地も無い。つまり十四代目葛葉ライドウは、本人の才覚のみを持って八体の悪魔を制御した……………………。

 

 そんなはずが無い。

 

 もしそんなことが出来たのならいよいよ十四代目は人間ではないだろう。

 では何故十四代目葛葉ライドウは八体もの悪魔を掌握できたのか。

 過去に三体同時制御と言うものを成功させた朔良は葛葉の里でも才能のある存在として一目置かれるようになった。

 だがそれでも朔良の目指すライドウと言う場所にはほど遠い。だからもっと制御できる悪魔を増やせば近づける、そう思っていた…………。

 

 だが、四体目が入ると朔良の制御は簡単に外れ、悪魔たちは暴走する。

 

 念のためと朔良単独で制圧できる範囲内の強さの悪魔だけで行ったため、被害などはでなかったが逆に言えば朔良一人で四体同時に相手して勝てる程度の強さの悪魔ですら四体は無理だった。悪魔の強さに応じて制御が難しくなるなど当たり前のことであり、つまりこの程度の強さの悪魔三体が朔良の限界である、と言うことだった。

 はっきり言って、とてもじゃないがライドウなんて届かない。それが朔良には分かった。

 ライドウ候補は里に何人もいて、自分なんてその候補たちに比べればあまりにも無力だった。

 

 悪魔の強さに応じて制御は難しくなる、それは当たり前だが、同時に自身の強さに応じて制御できる悪魔の強さも上がる。それもまた当たり前のことだった。

 だから朔良は強さを磨いた。個の強さ、サマナーとしてだけではない、悪魔に認められるための本人の強さだ。

 そもそも葛葉ライドウの称号はサマナーの称号ではなく、術者の称号だ。帝都の守護役を任せられるようになってからは、絶対に失敗が許されない故に最強の名へと変わって行ったが元は里一番の術者が冠する名だったのだ。

 十四代目葛葉ライドウの逸話を聞く限り、ライドウ自身が悪魔より常識外れな部分があったし、本人の強さはライドウには必須なのかもしれない。

 

 そうして朔良は強さを身に着ける。そうしてようやく四体同時の召喚に成功する。

 けれど所詮は超が付くほどの低レベルの悪魔たち。実戦で使えるはずも無い。だが実戦レベルの悪魔では精精が二体同時が精一杯だ。しかも指示を出すのが精一杯で自分で戦う余裕も無い、それでは駄目だった。

 かといって完全に補助専門にしてしまうのも出来ない。朔良は自身が力で悪魔たちと戦っていけるほどの才覚が無いことは知っている。

 故にこそ、朔良が強くなろうとするなら仲魔は必須だった。

 そしてただの仲魔ではライドウ候補たちのほうがより強い仲魔を使役している。

 本気で朔良がライドウになろうとするなら他の候補たちに負けない朔良だけの武器が必要だった。

 そのために選んだ複数同時召喚と制御だったが、それすらも実戦レベルで使える兆しが見えない。

 

 かつての祖、十四代目葛葉ライドウは八体の高位悪魔を制御し帝都を守ったと言う。

 

 十四代目の血を引く朔良はその才を僅かながらに引いているのかもしれない…………が、一体この程度の才で何がなせると言うのか。

 焦る。二十代目葛葉ライドウが、あの日守ってもらった恩人がもうすぐその座を退くと言う話を聞いた。

 焦る。二十一代目葛葉ライドウが決まってしまえば、自分が生きている間のチャンスは無くなったと思っても良い。

 焦る。今しかない、そのことに焦り、けれど上手くいかない失敗の日々。

 

 その日も朔良は失敗し、落ち込んでいた。

 気分が落ち込むといつも来ている場所。

 あの日、二人に出会った場所。守られた場所。今の自分の原点とも言える場所。

 そこに立つと、あの日の感情が蘇ってくる。あの日の決意が滾ってくる。

 疲れた心に鞭打ち、再び立ち上がろうとして…………。

 

 ふと思い出す、あの少年のことを、その仲魔の少女のことを。

 

 これまでに見たどんな悪魔よりも強かった少女。強さだけで言えば二十代目の仲魔たちより強かったのではないだろうか?

 だがそんな少女も、あの少年の言うことには素直に従っていた。

 

 何故?

 

 そう考えた時、どうして十四代目葛葉ライドウが八体もの悪魔を使役できたのか。

 

 その答えが見えた気がした。

 

 

 

「頼んだわよ、みんな」

 私の叫びと共に仲魔たちが飛び出す。

 同時に向こうのレギオンとデカラビアも動き出す。

 幽鬼レギオン…………軍団、軍勢を意味するその名の通り、レギオンはいくつもの死者の魂の集合体だ。

 堕天使デカラビア…………ソロモン72柱の1柱。悪霊30軍団を従える序列69番の地獄の大侯爵で、惑い、謀反、降伏を司る悪魔だ。見た目がヒトデのような形の非常に特徴的な外見をしている。

 どちらもレベルにして40から50の強力な悪魔だ。

 だが、力押しだけで勝てるほど悪魔との戦いは単純なものでもない。

「ヨシツネ、タルカジャ。ネコマタ、ラクカジャ。ツチグモ、マハジオ!」

「レギオン、テトラカーンだ。デカラビア、スカクジャ」

 互いが互いの悪魔に指示を出しながら互いの隙を伺う。

 指示を出したのは六体のうちの半数。残りは待機させ、いつでも指示を出せるようにしておく。

 一手目、攻撃をしたのはこちらのツチグモ。

 ツチグモが放った電撃が相手のレギオンとデカラビアを穿つ。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 その攻撃にレギオンがはっきりと怯む。どうやら弱点だったらしい。

 だが対照的にデカラビアがびくともしない。効いてはいるようだが、効果は薄いらしい。

「なら、ライホーくん。絶対零度! オルトロス、マハラギ」

 私の命令で繰り出す攻撃。ライホーくんが大きく手を広げると冷気が溢れ出し、相手を襲う。

 だが両者共に効果が薄い…………だが、効いている。

 ライホーくんは少しばかり特別な仲魔だ。平均レベルが30前後の私の仲魔の中で一体だけ45レベルと言う高さを持つ。その分強さは折り紙付きだ。

「む…………そのおかしなジャックフロスト、なかなかにレベルが高いようだな」

 すぐに気づいた群体が指示を出す。

「レギオン、戻れ」

 弱っていたレギオンをCOMPへと戻し…………。

「出て来い、ケツアルカトル」

 新たに召喚されたのは翼を持つ白い蛇のような悪魔。

「厄介なのが出てきたわね」

 それの正体が分かってしまうだけに思わず毒づく。

 龍神ケツアルカトル…………アステカ神話に登場する風の神。強力な四属性魔法を操る厄介な敵だ。そして何より。

「氷結無効持ち…………厄介ね。ライホーくん、下がって。ヨシツネ、さらにタルカジャ。ツチグモ、マハジオ」

 氷結属性攻撃しかないライホーくんを一旦下がらせる。それからさらにヨシツネのタルカジャで物理攻撃力を上昇させ、ツチグモのマハジオを撃つ。

「たしか、電撃弱点だったわよね」

 自身の記憶通り、ツチグモの放つ電撃に身をくねらせる蛇。

 ただ、問題は。

「…………さすがにレベル差がありすぎるわね」

 ケツアルカトルは50以上だったはず。ツチグモが27レベル。悪魔自体のスペックに差がありすぎる。

「なら諦めてはどうだい? ケツアルカトル…………マハブフダイン」

「ライホーくん!!!」

「了解だホ」

 咄嗟にマグネタイト越しに指示を出し、相手の出してきた氷結属性最強の魔法をライホーくんで受け止める、と同時に一度全ての仲魔を管に戻し範囲内から脱出させる。

「ごちそうさまだホ!」

 氷結吸収を持つライホーくんがその魔法を全て吸収し、それを確認した直後に再度仲魔たちを召喚する。

 正直、今のが決まっていたら全員やられていたところだったので、冷や冷やものだった。

「ツチグモ、マハジオ! そろそろ行くわよ、モコイ、鷹円弾! ヨシツネ、大暴れ! オルトロス、連弾! ネコマタ、ラクカジャ!」

 二度目のマハジオがケツアルカトルとデカラビアを穿つ。幸いだったのは相手が一度に一体にしか命令してこないことだろうか。何か考えがあるのか、それとも単純に出来ないだけなのかは知らないが、今のうちに叩けるだけ叩いておかなければ、基本レベルが違いすぎて戦力に差がありすぎる。有栖がいればまた違った戦い方ができるのだが、今は自分一人な上に、今を逃せば何が起きるか分からない。贅沢は言っていられない。

 全員に一斉攻撃を受け、僅かだがケツアルカトルが揺らぐ。

 そしてその隙を狙い、自身は飛び出す。

 

「ツチグモ!! 雷電忠義斬!!!」

 

 合体技。かつて十四代目葛葉ライドウが使ったとされる悪魔とサマナーが協力して行う通常よりも遥かに強力な必殺技。

 葛葉の人間なら大抵持っている太刀を抜き、ツチグモとマグネタイト越しに共振する。

 そうして…………(いかづち)を纏った自身の太刀を蛇へ向け…………振り下ろした。

 

 絆で繋がる。

 

 それが有栖とアリスを見て導きだした、かつて十四代目の行った八体同時召喚に対する私の答えだった。

 サマナーに対して仲魔が全幅の信頼を寄せる。自身の身を削ってでもサマナーのために尽くす。

 そうした仲魔はサマナーの指示に対して無条件に応えてくれる。

 故に例え八体の高位悪魔だろうと使役することができた、つまりはそういうことではないだろうか?

 十四代目とその仲魔を見るにあながち外れではないのではないかと思う。

 例えば合体技とてそうだ。

 悪魔がサマナーへ力を委ねる。逆なら分かる。サマナーが仲魔へマグネタイトと言う形で力を渡すのは至極当然のことだ。だが仲魔のほうがサマナーへ力を渡すと言うのは、普通有り得ない。

 自身の力を渡しても良い、と仲魔がサマナーの思いに応えた結果が合体技と言う強力なスキルを生み出すに至ったのではないだろうか?

 

 まず最初に始めたのは対話だった。

 些細なことでも良い。ほんの一言二言でも良い。修行の合間合間に自身の仲魔と会話をした。

 そうしてくる内に、仲魔が自身に何を求めているのか、仲魔自身がどうなりたいのか、と言うのがわかってきた。

 この悪魔はこんなものが好きで、こんなものが苦手。こっちはあれが得意でそれが苦手、そっちはこいつと相性が良く、そいつと相性が悪い。

 段々と知る悪魔の好みや嗜好、その考え方など如何に自分が今まで仲魔のことを知らなかったのか思い知らされた。

 同時に、徐々にだが仲魔との間に絆が芽生えていくのを感じた。

 

 そうしてある日とうとう。

 

 召喚…………モコイ。

 召喚…………ヨシツネ。

 召喚…………オルトロス。

 召喚…………ツチグモ。

 召喚…………ネコマタ。

 

 主力級五体の同時召喚と制御。

 その力を持ってして自身はライドウ候補となり…………。

 その時、勘当同然だった実家から送られてきた一本の管。

 

 召喚…………ライホーくん。

 

 中に入っていたのはライホーくん、と言う雪の妖精の亜種悪魔だった。

 格好が葛葉ライドウのものと似ていることにも驚かされたが、何よりも驚いたのが。

 

 ライホーくんが十四代目の元仲魔だった、と言うこと。

 

 さすがは十四代目の元仲魔と言うべきか、今の自身とは比べ物にならないほどの高いレベルと能力を誇っていた。

 そんな彼が何故自身の下に来たのか、それは十四代目直々の言葉だかららしい。

 自身の家系の者でライドウを目指すものが現れたのなら、ライホー自身が了承した場合に限り、ライホーくんをその者の仲魔にする。

 そうして実際にライドウ候補にまで上り詰めた自身に与えられたライホーくん。ライホーくん自身と三日三晩対話し、そうして契約することとなるのは、また別の話だ。

 

 

 振り下ろした一閃が白い蛇の体を深々と切り裂く。

 悲鳴のような声を上げつつ、崩れ落ちるケツアルカトルに、群体が目を見開く。

「まさか…………っく、バジリスク!」

 召喚されたのは青い鳥。

 邪龍バジリスク…………ギリシア語で「小さな王」を意味する。また蛇眼の王。

 だが、ここでそれは悪手だ。

「ライホーくん、絶対零度。ヨシツネ、大暴れ。ツチグモ、瘴毒撃。ネコマタ、ラクカジャ。オルトロス、マハラギ」

 バジリスクは火炎と氷結が弱点の悪魔だ。ライホーくんの一撃に…………さて、耐えれるだろうか?

「食いしばれバジリスク! 耐えたら石化ブレス!」

 ライホーくんの攻撃が直撃する。氷結弱点だけあり、その一撃で瀕死になっていた…………だが。

「嘘っ?!」

 イタチの最後っ屁と言うものだろうか。瀕死の状態でありながらもその口からブレスを吐き出す。

「下がって!」

 咄嗟に全員を下がらせようとするが、攻撃に向かっていたライホーくん、ヨシツネ、ツチグモ、ネコマタ、オルトロスの五体が石化する。

「危なかったよ。だが、これで私の勝ちだ」

「…………………………」

 沈黙する。

 言葉が無い。

 たった一手であっさりと戦局を覆された。

 何がいけなかったのか。

 相手の力も見抜けず耐性で有利だ、と言うだけで勝ちに言ったことだろうか?

 何にせよ自身の失敗だ。

 ああ、失敗した。

 

「だから、次は気をつけるわ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「モコイ、戻りなさい…………出てきなさい、ラクシュミ!」

 

 モコイを管に戻し、追加の管で召喚したのは…………女神ラクシュミ。

「あら、大変なことになってるわね。私の愛しいサマナー?」

「…………私の失敗よ。だから、頼んだわ」

「ええ、任せなさい」

 その姿はまるで天女のようだった。

 

 光が満ちる。ラクシュミを中心に、光が溢れていく。

 

 言葉を紡ぐ。

 

「メシアライザー」

 

 そして光が仲魔たちへと降り注ぎ。

 

「ラクシュミ、()()()()。オルトロス、マハラギ…………バジリスクを落としなさい」

 

 石化が解け、自由を取り戻した仲魔たちが私の元へと集う。

「了解よ、サマナー」

「オレ、アイツタオス」

 そうしてラクシュミの放つ破魔の光がデカラビアを包み…………昇天させる。

 次いでオルトロスの吐き出す炎がバジリスクを落とし。

「さて………………これで詰みよ」

 群体のすぐ傍まで迫っていたヨシツネが、その刀を男へと突きつけた。

 

 




なんでライドウは八体同時に操れるのに、一体ですら暴走させちゃうやつもいるんだろう? と思ったのを自分なりに解釈した結果が「忠誠度」です。合体技が忠誠度で解禁されるように、悪魔にも忠誠は大事です。で、コドクノマレビト読んでみて、仲魔がサマナーに全てを預けきったような関係を見て、複数体同時召喚ってこういうのが大事なのかな、と勝手に妄想して設定しました。


すげえ書きにくかった。戦闘描写難しい。
あと群体さん超弱い。でも仕方ない。デカラビアに自由に動かれると勝てるもんが勝てない。だったら二体同時に出してる意味は何だ? と言われそう。
けど考えてみて欲しい。この人、デカラビアにレギオンを最初に出した。でもその前にコグリも召喚し続けているし、もう一体別の悪魔もひそかに召喚してるんです。普通にこの人もおかしいレベルなんですよ。

しかし呪編がおかしな方向に進んでる。当初、旧校舎で呪倒したら終わりだったのに。
Q.誰だよ群体って
A.密かに製作中のメガテン二次の登場人物。
この収集どうやってつけよう…………もう物語が作者の手を離れて一人歩きしてる。

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