アリス可愛すぎるよ、アリス。
有栖とアリス
あー、だりい…………男、有栖が心の中でそう呟く。
元来、有栖は人ごみと言うものが嫌いだ。と言うより、そもそも他人と言うのが嫌いだ。どれくらいかと言えば自分の女のような名前の次くらいに嫌いだ。
とは言っても、別に人嫌いなわけでも無いし、友人、知人もそれなりにいる。
もっと正確に言えば、他人の行動に自身が煩わされるのが嫌いだった。
雑踏の騒がしさ、運転時の前の車の遅さ、地下鉄を降りる時後ろの人間に急かされるような感覚、満員の電車の圧迫感。
そんな有栖だったが、現在信号待ちの途中だ。
地下鉄の駅を上がったら、ちょうど信号が変わってしまったのでやむを得ず待っていたのだが、すぐ後から来るわ来るわこれだけの人数がどこにいたと言いたくなるほどの数の他人が後からやってきていつの間にか有栖の周囲は大勢の人間がひしめき合っていた。
くそ、かったりいな…………声に出さないまま悪態を吐き、内心舌打ちする。
ふと信号を見るが、まだまだ変わる様子は無く、余計にイライラとする。
と、その時、ふと視界の端に何かが映る。
金色の…………それが髪だと気づく。
注視しようと視線を下げ………………そして驚愕に目を開く。
車が行き交う道路の真ん中に…………一人の少女が立っていた。
「なっ!!」
そして次の瞬間、少女の立っていた場所を車が通り過ぎる。
その後の惨状を想像し、目を閉じる……………………だが。
周囲から悲鳴は聞こえない。
少女が車に撥ねられたとなれば大事件のはず…………だと言うのに周囲は何も無かったかのように普段通りに騒がしい。
恐る恐る目を開く…………そこに変わらず少女が佇んでいて、こちらを見て笑っていた。
あまりにも異常なその光景に背筋が凍る。
戦慄のあまり硬直している有栖に向かって青いワンピースを着たその少女が口を開く。
「あのねー」
そして、トンッ…………と人ごみに背中が押される。
少女に気を取られていた有栖はそれに踏みとどまることができず…………車の激しく行き交う道路に放り出される。
そして。
「死んでくれる?」
そう言って少女が微笑むのと、有栖が車に撥ねられるのは、同時だった。
……………………。
…………………………………………。
………………………………………………………………。
…………ってことがあったのがもう十年くらい前。
気づいたら赤ん坊だった。
いや、意味分からんって言われてもこっちのほうが意味不明だわ。
つうかあのガキマジでむかつくんだが、何が死んでくれる、だ。
返事も聞かずに殺してんじゃねえよ、車道に押し出されたの、絶対あのガキのせいだろ。
そんな風にあの時の少女への苛立ちを胸にすくすくと育ってすでに十年。
俺はまた死に掛けていた。
それは、唐突に起こった。
共働きだった両親が、自身のためにと連れて行ってくれた外食。
精神年齢的には良い年の自分だったが、それでも普段一人家に残したままの自分への両親の気遣いはありがたく、また純粋に嬉しかった。
明日も仕事の両親だったので、外食自体は近場で済まし、近くに銭湯があるので入って帰ることにする。
そうして家族三人家路に着いたのは九時も過ぎよう頃。
空を見上げれば今日は新月らしく、月も見えない。
暗い道を両親と三人、手を繋いで歩き……………………。
瞬間、ゾクリ、と背筋が凍る。
突然立ち止まった有栖に、両親が驚き、それから声をかける。
だがそんな余裕、有栖には無い。
背筋が凍りつくようなその感覚を有栖は知っていた。
否…………
それは前世の記憶。
それはあの少女に会った時と同じ戦慄の感情。
瞬間、地面に現われた不可思議な模様。そして反転する景色。
やばい…………咄嗟にそう思った。
直感に体が押され、地面に伏せる。
直後、ふわっ…………と自身の真上を何かが通り過ぎるような感覚。
そして…………。
顔を上げた有栖の視線の先…………そこには、半身が切り裂かれ、絶命した両親の姿。
それと…………両親の血が滴る剣を振り上げ、がらんどうの目でこちらを見てくるソレがいた。
ぼろぼろになった黒いローブに身を包み、どう見ても普通じゃない赤い馬に乗った…………骸骨。
例えるならそう……………………死神。
「ほう…………避けられるとはのぉー…………」
とても意外そうに…………けれどどこか楽しそうに、目の前の死神が言葉を紡ぐ。
「……………………おいおい、なんだよ、これ」
恐怖よりも、あまりの理不尽に呆れの声が漏れる。
目の前のアレが何なのか…………とか、そんなことはどうでも良い。
だって、どう考えてもアレは俺を殺しに来ている。
ソレだけ分かっていればあまりにも十分だ。
そして、それが分かるからこそイライラする。
前世で理不尽に殺され…………そうして折角手に入れた新しい生もまた理不尽に奪われようとしている。
「なんだってんだよ…………」
どうして自分ばかりこうも死ぬ目に会うのか…………一度殺して、それでもまだ殺し足りないのか?
倒れ付した両親を見る…………これも自分のせいだ。
どう考えても自分のせいだ、自分と一緒にいたからこそ両親は死んだ。
イライラする。どうしようも無く。
理不尽だ、不条理だ…………どうしてこうなる。
「なんだってんだよ!!! どいつもこいつも!!!」
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
感情が爆発する。自身の中で何かが溢れ出す。
そして、直後。
くすくすくす
笑い声。
聞こえたのは。
自身の真後ろ。
振り返る、そこに。
あの少女がいた。
笑う、笑う、笑う。
少女が笑う。
その視線を、俺を見て、それから、死神を見る。
くすくす
笑う、笑う、笑う。
楽しそう、嬉しそうに、愛おしそうに、笑う。
そして。
「メギドラオン」
紡がれた言葉。
直後、閃光と轟音。
光に焼かれた目と轟音の反響が鳴り止まぬ耳がその機能を取り戻すまで十秒もかからなかっただろう。
そして、次の目を開いた時、そこは…………元の夜道だった。
何だコレ、意味が分からん…………それが有栖の正直な心境だった。
夜の帰り道でいきなり変な場所に連れて行かれ、死神に両親を殺され、その上自分を殺した(と思わしき)少女が現われ何か呟いたと思ったら大爆発が起こって気づいたら自分は元の夜道に戻ってきていた。
「ツッコミ切れるか!!? なんだそれ!!!」
いきりたっても答える存在は…………。
「くすくす」
「っ?!」
声が、聞こえた。
さっきも聞いた声。
そして、十年前も聞いた声。
「お前…………」
そこに少女がいた。
いつか見た通り、青のワンピースに身を包み、金の髪にカチューシャのようにリボンを巻いた少女。
「ねえ、このまえのこたえ、きかせてほしいな?」
楽しそうに笑いながら、少女がそう言う。
「…………こた、え?」
「うん、わたしね、オトモダチがほしいの…………まだまだいっぱいほしいの」
そう言ってから、さっと、少女が手を振ると現われる死体の群れ。あまりにも異様な光景に有栖の顔が青褪める。
「でもね、わたしのオトモダチはみんな死んでるんだ」
だから…………そう言って少女がこちらを見て笑って言う。
「死 ん で く れ る?」
青褪めた顔で見たその死体の中に…………さきほど死んだ有栖の両親の姿を見つけた瞬間、ぷつん、と有栖の中で何かが切れる。
そして沸々と沸きあがってくる怒りに押され…………。
「ふざけんな!!!」
怒鳴り、少女の襟元に掴みかかる。
「人を勝手に殺しておいて、何ふざけたことぬかしてやがる!!!」
どう考えても普通じゃない少女に随分な態度だが、怒りがさきほどまでの恐怖を全て忘れさせていた。
「返せよ!! 俺の両親を、返せ!!!」
有栖の気迫に、少女が一瞬怯む。そして立ち直ったその表情から、笑顔が消えていた。
「いや! わたしのオトモダチをとっちゃダメ!」
「俺の両親はお前のトモダチじゃねえだろ!!!」
「死んでるんだから、わたしのトモダチなの!」
理屈になってないのではない…………少女の中ではそれが道理なのだと気づいた瞬間、有栖の怒りが少し収まる。
それと同時に疑問も沸いてくる。
「何で死んでるやつだけなんだ? 生きてる人間はダメなのか?」
よく見れば少女の顔は必死だった。どうしてそこまで? そう思ってしまった瞬間、さきほどまでの怒りが完全に消える。
許したわけではない…………だが、それよりも知りたくなった。
自分を殺した理由、両親が死んだ理由、少女がこんな歪な理由。
「あのねーマグネタイトをあつめてるの」
返って来た返事は意味不明だった。
「マグネタイト…………ってなんだ?」
返って来た少女の話を纏めると、感情の揺らぎによって生じるエネルギー結晶のようなものらしい。
それが無いと少女は生きていけないのだが、人間はそのマグネタイトを他の生き物よりたくさん持っているらしい。
そして、それを手に入れ、抜き取ることにより少女はオトモダチを増やすらしい。
つまり、食事とトモダチ作りはイコールらしい。
「って、納得できるか!!」
さすがにさきほどまでの熱は冷めているが、それでも燻った思いが思わず叫ばせる。
「結局エサじゃねえかよ!」
と言うか、普通の人間じゃないとは思っていたが、もう人間ですらないぞ、このガキ。
そんな有栖の内心の思いを否定しようとしたように少女が言葉を重ねる。
「お兄ちゃんはちがうよ、なんだかわたしとおなじかんじがするから、だからお兄ちゃんのマグネタイトはとったりしないよ」
「…………はぁ?」
同じ、とは一体どういう意味なのか…………それを問おうと思ったその時。
かくん…………と少女が崩れ落ちる。
「……………………は? お、おい!?」
不思議なもので、例え人間じゃないと分かっていても、見た目がただの少女であると、咄嗟に心配してしまう。
力が抜けた少女の体を咄嗟に抱きとめ、路面に寝かせる。
「おい、どうしたんだよ、おい!」
焦ったような有栖の声に、少女がどこか困ったように笑う。
「お兄ちゃんたすけるのに、ちょっとマグネタイトつかいすぎちゃった」
マグネタイト…………たしかこの少女が生きるために必要な物だったか、そう思い出した時、ふと少女の体を見る。
指先が黒ずみ、僅かだがボロボロと崩れていた。
「お前…………その指」
「ホントだ…………またあつめないと」
そう呟き、体を起そうとする少女を有栖は押し留める。
「待て、お前そんな体でどこ行くつもりだ?!」
「マグネタイトあつめないと…………わたし、まだ死ねないもの」
そう思ってるならどうして…………?
「なんで俺を助けたりしたんだよ…………放っておけば良かったじゃないか」
自分の命を削ってまでどうして俺を?
おかしいじゃないか…………自分の生命維持のために俺を食うんじゃないのか?
だったら何で命削ってまで俺を助ける必要がある?
そんな有栖の内心の吐露に、少女が苦笑いを返す。
「だから、お兄ちゃんのマグネタイトはとらないよ」
「どうして…………?」
どうしてそこまで俺に拘る?
そんな有栖の問いに、少女が答えに一瞬窮する。
それから数秒、思考を纏めていたらしい少女がぽつりと答える。
「はじめて、わたしとおなじかんじのする人だったから」
だから殺した、と?
そう尋ねる有栖に、けれど少女は首を振る。
「お兄ちゃん、わたしがオトモダチにするまえに死んじゃったよ?」
「……………………は?」
つまり何か? 前世で死んだのは、本当にこの少女のせいでもなんでもなく、単なる事故だと?
どう考えても嘘くさいが、けれど少女が嘘を言っているとも思えない。
ってことは何か? 俺は単に事故で死んで、無意味な怒りを覚え続けて、そして今日その少女は命削ってまで俺を助けてくれた…………と?
「なんだよソレ…………これじゃお前責めてた俺が悪いじゃねえかよ…………」
額に手をやる…………頭が痛くなってきた。と、同時に少女への怒りは完全に消えうせた。
代わりに覚えたのは、罪悪感。
「はあ……………………悪かった。怒鳴ったりして。俺の完全なる早とちりだ」
まあ、少女が俺を殺そうとしていたことには変わりないのだが。それも未遂だし、今日は命を救ってもらった。それを考えれば寧ろプラスだろう。
そして、謝罪と共に覚えたのは、感謝。
「…………はあ、持ってけよ」
「え?」
「マグネタイト、とか言うの、俺にもあるんだろ…………持ってけ」
「オトモダチになってくれる?」
「絶対嫌だ。俺は死にたくねえからな。生きて生きて生きて生きて、死ぬまで生き続けたい」
だから…………と有栖が続ける。
「俺を殺さずにそのマグネタイトをお前にやる方法を教えろ」
その言葉に、少女が沈黙する。
果たしてそんな方法があるのか…………そう考えた有栖だったが、無ければ…………さて、どうしようか?
「あのねー」
そんなことを考えていると、沈黙していた少女が口を開く。
「生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生き続けて。最後まで、死ぬまで、終わりの時まで生きて」
感情も何も無い、能面のような少女の表情に、また背筋が凍るような感覚に陥る。
「生き抜いて、終わりが来たら、最後の時が来たら…………その時は一緒に」
死んでくれる?
まるで結婚でもするみたいだな…………と、そんな益体も無いことを思う。
けれど、それも悪くないか、とも思う。
助けてくれた恩もある、早とちりで責めてしまった負い目もある。
それでも尚、少女が俺を生かす方法を教えてくれるなら。
生きて生きて生きて生きて生き抜いて、その最後の時くらいは…………この少女にくれてやっても良いだろう。
頷く少年。
笑う少女。
そして、契約は結ばれる。
「あのね、いいわすれてたけど…………わたし、アリス。よろしくね?」
「へえ…………奇遇だな、俺も有栖だ、よろしくな」
かくして…………有栖はアリスと出合った。
有栖
LV 1 NEXT 10EXP
HP35/35 MP15/15
力2 魔1 体1 速2 運3
無効:呪殺
殴る 体当たり
――――――――――――――――
魔人 アリス
LV 70 NEXT 573398EXP
HP730/730 MP330/330
力56 魔75 体47 速59 運63
弱点:火炎、破魔、散弾
耐性:氷結、神経、精神
無効:呪殺
デスタッチ ムド成功率UP 死んでくれる? 破魔反射
メギドラ メギドラオン マハムドオン コンセントレイト
ステータスに特に意味は無い。
アリスちゃんprpr
アリスちゃん可愛いよね。ていうか可愛いよな、と言うか可愛いよな。
ネトゲメガテンでアリスちゃん使ってる水代です。
アリスちゃんをprprしたかった…………後悔はしてない。
この小説でのアリスちゃんの設定。
マグネタイトが無いと生きていけない(悪魔だから当然)。
殺した人間のマグネタイトを抜き取り、自分のマグネタイトを供給することで、死体を操る。
そうして操った人間を「オトモダチ」と呼び、傍に置いている。
人間を殺してはオトモダチを増やしているので相対的に対してマグネタイトを入手できなく、自分とオトモダチの維持にもマグネタイトが必要なので、自転車操業みたいな殺人を繰り返しながら放浪している。
赤おじさん? 黒おじさん? さあ? どこに行ったんだろうね?