水平線の少女   作:宵闇@ねこまんま

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最前線の少女(24)

 暁がVピースを向ける横で、敵の戦艦の身体が眩しく光はじめ、その中から一人の少女が現れた。

「……暁ちゃん、あれ」

 名取の指さす先に、視線を向け、暁は驚愕の表情を見せた。

「新しい艦娘よ! 久しぶりに見たわ」

 暁は名取の手を引いて、少女の傍に立った。少女は気を失っているようで、海面に仰向けに倒れ込んでいた。腰まで伸びた黒髪は、巫女装束のような着物によく映える。

「この服、比叡さんと似てる、というかそっくりですね」

「金剛型かしら。比叡に聞きましょう」

 無線で比叡を呼ぶと、比叡は長波を抱えすぐさま駆け付けた。

「これは……榛名でしょうか」

 比叡は倒れている少女を抱きかかえ、立ち上がった。

「とにもかくにも、一度鎮守府に帰りましょう」

「そうね、川内と扶桑と合流して帰るわ」

 そこで暁は思い出したように無線に通信を入れる。

「涼? こちら暁、終わったわ」

「暁の無線から全部聞いてたよ。ただ途中にも連絡は欲しかったかな」

「忙しかったんだからしょうがないじゃない。それより、新しい艦娘も連れて帰るから、みんなに伝えておいて。あとメアリーさんと整備部にも連絡」

「もう済ませてるよ。木曾達も無事に帰ってきた。お疲れ様、目標完了だ。ありがとう」

「なっちゃん、無事か?」

 無線が勇次郎に手渡された。

「勇次郎さん! はい、……長波ちゃんも無事です」

「名取!」

 長波がその場でジタバタと暴れるが、水しぶきがぴちゃぴちゃと跳ねるだけだった。

「そうか、よかった。お疲れさま」

「お、おう。まぁな」

 照れる長波を見て、みんなが微笑む。

「榛名は私が運びますから、名取さん、長波ちゃんをお願いします」

「はい」

 長波を肩に担ぎ、名取は海を滑った。まだ夜が明けるまで時間があった。

 暗い海の上には綺麗な月が輝き、その輝きは暁たちを鎮守府まで照らした。

「おそーい。もうとっくに終わってるよ」

「川内さんさっきまであんなに静かだったのに、またいつものに戻ってしまいました」

 苦笑する扶桑と騒ぎ立てる川内が暁の作る隊列に加わった。

「暁ちゃん」

 川内に長波を預けた名取は、暁に並んだ。

「どうしたの?」

「私には、暁ちゃんみたいに自分も相手も助けるっていうのは難しいと思う」

 暁は口を閉ざし、続きを促した。

「それでも、今日、暁ちゃんと一緒に戦って、それがどういうことか分かったし、いつかは暁ちゃんみたいになりたい」

「……それって私が一人前のれでぃーってことかしら」

 暁はいたずらっぽい顔で名取をからかう。

「ふふ、うん。暁ちゃんは立派なレディーだよ」

「本気で言ってないでしょ! まったく」

 頬を膨らませ、そのあとやっぱり笑い出す。それは年相応の感情豊かな子供のものだが、その背中には名取よりもずっと重いものを背負っている。

 名取は暁の顔を眺めて、思う。

 なんて強い子なんだろうと。

 そこで鎮守府に来た時から覚えていた疑問が氷解する。

 暁は強い。横須賀鎮守府の中で一番。それは戦闘面ではなく、精神面でもなく、おそらくそれは、『人間として』強いということなのだろう。

 深海凄艦との最前線で戦うこの少女を、勇次郎と名取は強く心に刻んだ。


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