水平線の少女   作:宵闇@ねこまんま

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水平線の少女(18)

「しかし、名取とは驚きだねぇ」

 棗が茶をすすりながら、隣で胡坐をかいている木曾に話しかけた。

「嘘つけ。あの制服、長良と同じだったし、五十鈴は大湊にいるから、おおよその検討はついてたろ」

「いやしかし、名取かぁ。一時期は二水戦を率いたり、睦月型と縁があったり、新しい艦娘との邂逅は喜ばしいものだなぁ」

「そうですねぇ、提督」

 木曾の隣で同じように茶をすする扶桑は幸せそうだった。

「川内はまだ寝てるのか……こんなにいい天気だっていうのに」

「しょうがねぇよ。基本夜型だろ」

 木曾はちゃぶ台に顔を乗せる。

「というか、いつまでここにいるんだ。お前の大事な秘書艦が騒ぐぞ」

「そうだねー」

 棗は、変わらず茶をすする。

「うちには何日でも居てくれてかまわないですよ」

 扶桑の隣で、トランプタワーを名取と作っている勇次郎が言った。

「勇次郎さん、四段できましたよ!」

「やったな! なっちゃん!」

 名取と勇次郎がハイタッチをした風圧で、トランプタワーが倒れてしまった。

 悲しそうな名取に、勇次郎はカードを数枚渡して、新しいタワーの建設を始めた。

「棗さん、川内さんどかして! アタシの蒲団で寝始めてるんだけど!」

 月子が居間に飛び込んできた。

 その風圧で一段目の半ばまでできていたタワーがまた倒れた。

「あぁ、あれはそこらへんに放置してても勝手に寝てるから、月子ちゃんの邪魔にならないところに置いといていいですよ」

「分かった!」

 月子は勢いよく階段を駆け上っていった。

「置物扱い……」

「いつものことだ」

 名取の言葉に、木曾が答えた。

 深海凄艦の攻撃から、数日が経った。

 その間、棗たちは勇次郎の家の世話になっていた。

 扶桑が、瑞雲という、小さな戦闘機を飛ばして確認したところ、敵の姿は基地だった場所から綺麗さっぱり消えていたらしい。

「たぶん偵察隊だったとは言え、潜水艦三隻、駆逐艦三隻、軽巡のフラグシップがやられたんですし、しばらくは手を出してこないはずですよ」

 棗はそう言ったが、少しの間、この村に残ることになった。

 その間、漁師たちや村民に、鎮守府についての説明をして回り、なんとか同意を得ることに成功した。

「名取ちゃんが、一人で全部倒しちゃうんだもん。すごいよねぇ」

 棗は関心して、ちゃぶ台でふてくされてる木曾の頬を突いた。

「木曾でも、難しいんじゃない?」

「まぁ……そうかもな」

「でもあの時は、勇次郎さんたちを護るのに必死で」

 名取は照れくさそうに俯いた。

「んじゃ、本題に入ろうか」

 棗は勇次郎に向き合った。

 湯のみの中は、空だった。

「勇次郎君、君に提督になってほしい」

「いいっすよ」

 勇次郎はあっさりと了解した。

「よかったー。じゃあ私たちが帰るのと一緒に、うちの鎮守府に行こう。研修的なやつやるから」

「わかりました。なっちゃんも一緒でいいっすよね?」

「もちろん」

 その短いやり取りを、名取と木曾は驚愕の表情で見つめた。

「え、今のでいいのか? あんな軽い約束みたいなノリでいいのか!?」

「勇次郎さん、いいんですか!? 勿論私は嬉しいですけど」

 勇次郎は名取に当たり前の様な顔を見せた。

「俺はなっちゃんを護るって決めたんだ。だったら、提督以外に道はないだろ。言われなかったら土下座してでもなるつもりだった」

「こんな信頼しきってる二人を引き離すなんて、優しい提督の私には無理だ」

 およよと泣きまねを始める提督に、木曾は大きなため息をついた。

「やっぱり球磨姉さんに任せとけばよかった。俺つっこむの疲れた」

「あら、私は木曾さんが来てくれて嬉しいわ」

 扶桑が木曾の髪を優しくなでる。

「扶桑……」

「だって、もし球磨さんだったら、確実に私がツッコミをしないといけなくなるじゃない?」

「扶桑も大概自由だよね……」

 たぶんこの中で、本当に一番泣きたいのは木曾だっただろう。

「じゃ、厳さんと冴子さんには、私から話そう。大切な息子さんを連れて行くわけだし」

「いや、俺が話しますよ。というか、たぶんもう察してます」

 勇次郎は頭をポリポリとかいた。

「うちの親、鋭いんで」

 それはどこか自慢げに聞こえた。

「というわけでさ、なっちゃん」

 勇次郎は名取の手を取った。

「これからも、よろしく」

「はい!」

 居間に差し込む日光が、名取のカチューシャを眩しく照らしていた。




お気に入り登録や評価、感想をくださった方、ありがとうございます。
これは僕が初めて書いた二次小説でした。至らないところは寛大な心で許容するか、感想等でぶつけてください。
結構シリアス多め、独自設定多めで、ここまで読んでもらえれば分かると思いますが、序盤は艦これ要素がほとんどありません。しかも、伝えたい部分だけ淡々と伝えるような形になっているので、お茶の間シーンというか、キャラの日常みたいな部分がほとんど描写されてません。したかった(過去形)
そういう表現が苦手です。勉強しないとですね。
この話はそのまま次作の最前線の少女に繋がります。
次の話では僕の中の脳内鎮守府設定もりだくさんで、艦これ要素もたっぷりです。またせたな。
ただ最前線の少女も、多少水平線の少女と似てシリアス入ってます。
それでも良いと言う方は、今後ともよろしくお願いします。
原稿自体は既に完成しているので、また連日投稿になります。待てないよ、と言う方はpixvに飛んでください。ただハーメルンに上げるものは加筆修正してますのであしからず。
今後ともよろしくお願いします。

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