陰陽師少女   作:花札

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祠の前に立つ一人の男……


「ここはかなり巨大だな」

「別の者が封印されているみたいだな?」

「関係ない……」


手から赤黒い巨大な鎌を出すと、そいつは祠目掛けて刃を振り下ろした。岩に掛けられていた切れかかっていた注連縄が切れ、そこから邪気が出て行き空へと昇って行った。それを見届けた者……秀二は陽炎に飛び乗るとその場から去って行った。


「これで、残るは京都だけだ……」


そう言うと、秀二は突然咳き込んだ。荒く息をする彼の手には、口から出た血が付いていた。


(時間がない……時間が) 

「秀……」

「大丈夫だ……行くぞ」


解かれる封印

海の家へ来た麗華と大輔……列の中から、陽一達を見つけると彼女達は彼等の元へと駆け寄った。

 

 

「ずいぶん長い列だな」

 

「考えることは、皆一緒みたいや」

 

「まぁ、もうすぐ見たいやし。

 

 

 

 

なぁ麗、その水着……」

 

「美幸義姉さんの……」

 

「やっぱしか……」

 

「次のお待ちのお客さん、注文決まってるなら今承るよ!」

 

 

聞き覚えのある声に、麗華と大輔は振り返った。そこにいたのは海パンにTシャツを着て、キャップを被った安土だった。

 

 

「……」

 

「あれ?こいつ、どっかで」

 

「?

 

あれ?!麗華じゃん!それに、大輔!え?何で!?」

 

「いや、疑問こっちなんだけど」

 

「いや実はさ」

 

「安土!!早く注文取れ!」

 

「へーイ!落ち着いたら、訳話すから!」

 

 

注文を取った安土は、海の家へと戻って行った。外から見える厨房にタオルを頭を巻いた牛鬼がおり、安土から聞くと自分達の方を見てきた。

 

 

「……麗、龍義兄少し異常や」

 

「妹ながら私もそう思う。てかやり過ぎ」

 

 

しばらくして、列が無くなりお店が少し暇になった頃合いを見て、牛鬼と安土は休憩を貰い外で待っていた麗華達と遅めのお昼を食べながら話した。

 

 

「え?手伝い?」

 

「喫茶店を貸してくれてるオーナーの知り合いが、あの海の家を経営してて今年人手が足りないから手伝いに来てくれって」

 

「じゃあ、手伝いでここに来ただけで、龍二さんの命令で来たってわけじゃないんだな?」

 

「あぁ。そもそも麗華が沖縄行くなんて聞いてなかったし」

 

「来てるなら、俺とっくに麗華の事探してたわ!」

 

「へー、そう。(兄貴に申し訳ない思い込みをしてしまった)」

 

(龍義兄、すまない)

 

 

「あれ?何だ、あの雲!」

 

 

晴天の空に、突如と現れる黒い雲に海に入って遊んでいた者達は、その雲を指さしながら空を見上げた。

 

 

「何だあれ?」

 

「青天の霹靂ってやつか?」

 

「雲一つない晴天のはずだが……?」

 

 

強大な妖気に、牛鬼と安土に続いて麗華達は気付いた。黒い雲はバチバチと雷を鳴らすと、どんどん空に広がっていきやがてそこから、妖怪が現れた。

 

 

「何だ?あの妖怪」

 

「私、あんなの知らない」

 

「俺も……というより、麗どなんしよう」

 

「?」

 

「俺等……沖縄の妖怪に関しては皆無やで」

 

「え?マジか?」

 

「残念ながら、僕もです。

 

 

君等も書物でしか見たことないのでは?」

 

「正解」

 

「輝三の話と本でしか、聞いたことない」

 

「俺もや」

 

「なぁ……このヒョロヒョロ、誰?」

 

「あれ?牛鬼達知らなかったっけ?

 

コイツは」

 

 

辺りに響く落雷の音……海水浴を楽しんでいた数人の女子が、耳を塞いでその場に座り込んだ。落雷した先の海から背ビレが浮き出て浅瀬目掛けて突進してきた。

 

 

「サメだ!!海から上がれ!!」

 

「キャー!!」

 

 

悲鳴が響く中、海に入っていた生徒達は次々と浜辺へ上がった。麗華と陽一は、ポケットから札を出し指を噛み血を出すと、その血を札に付けた。

 

 

「牛鬼、安土、援護頼む!」

 

「応よ!」

 

「晴彦は後方からお願い!」

 

 

いつの間にか出していた弓に矢を嵌めると、晴彦は背ビレ目掛けて矢を放った。矢は背ビレに命中し、血を出しながらその妖怪は、姿を変えて海から出てきた。

 

 

「何か姿変わった!?」

 

「アイツ、七変化?」

 

 

出てきた妖怪は咆哮を上げると、陽一と麗華目掛けて攻撃してきた。素早く避けた二人は飛び上がると、先に麗華が薙刀の刃を、妖怪に突き刺さした。だが、刺さったはずの刃は弾き返され、麗華は地面に倒れた。

 

 

「麗!!」

 

「……陽!

 

 

技出すよ!」

 

「お、応!」

 

「「大地の神に告ぐ!!何時の力、我に受け渡せ!!その力を使い、この地を守る!!

 

 

出でよ!建御雷之男神(タケミカヅチ)!!」」

 

 

構えた札から雷が放出され、二人が放った雷を妖怪は腕で振り払った。その光景を見て、陽一と麗華は口をあんぐりと開けて驚いた。

 

 

「効いてねぇ!!」

 

「こんな妖怪いるの?!」

 

「氷月達の力を借りるで!!」

 

 

人型の紙を出すと、二人は氷月達を出した。出てきた氷鸞と雷光は獣の姿で、目の前の妖怪を威嚇した。

 

 

「頭、この妖怪私達には無理です」

 

「戦うてもあらへんのに、何弱気になってんねん」

 

「主、無理」

 

「氷月まで」

 

「雷光、氷鸞、あんた等は是が非でもいけ」

 

 

そう言われた二人は、互いを見ると各々の攻撃を放った。雷と風が当たった妖怪は効いていないのか、無傷でそこに立っていた。

 

 

「……駄目だこりゃ」

 

「手に負えん」

 

「もしかしたら、土地がちゃうさかいなんや?」

 

「え?」

 

「沖縄って、独自の神の力通ってるさかい、内地の神の力は通用しいひんのや……」

 

「……」

 

「……氷月、目晦まし」

 

 

氷の息を吐き出した氷月に続いて、氷鸞も翼を羽ばたかせ吹雪を起こした。その隙に、陽一は麗華を担ぐと一目散に駆け出し、彼に続いて晴彦、安土、牛鬼、大輔も駆けだした。

 

 

「今は撤退!!作戦練る!!」

 

「賛成!!」

 

 

ホテルの敷地内に入る陽一達……陽一から降りた麗華は、彼と共に札をシーサーに貼った。すると、シーサーの目が光り入ってこようとした妖怪が、何かにぶつかったのか弾き飛ばされた。

 

 

「シーサー、流石や」

 

「結界張ってる暇が無かった……」

 

「……で、どうする?

 

 

アイツを倒す手段が」

 

 

「……」




ホテル内・ロビー……

 

数枚の札を出した麗華は、牛鬼から妖力を札に移し、彼の妖力が溜まった札を出していた薙刀の柄の部分と刃の部分に貼った。


「まさか、牛鬼と安土がこっちの出身だったとは」

「丸っ切り忘れてたわ」

「お手柄だな、山本」

「お役に立ててなによりだよ。

それより、大丈夫なの?二人の式神達は、あの妖怪……マジムンに敵うの?」

「多分無理や」

「その為、二人の力を借りる。


今回は土地が違うからね。私等もお手上げ」


いつの間にか出した弓矢を安土と牛鬼は手に持つと、先に外へ出て行った。三人も、札を貼り終えると武器を手に立ち上がった。


「さてと、戦闘開始と行くか。

星崎、ここ任せた」

「分かった」

「頼んだで!大輔」

「応」

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