起床時間となり、各部屋に教員達が生徒を叩き起こしていった。麗華達が泊まる部屋にも、先生が起こしに来て彼女達はすぐに起き上がり、眠そうに欠伸をした。
「眠い……」
「ほら、早く支度しないと……華純ぃ、早く起きてぇ」
「もうちょっと~」
「麗華、髪の毛貞子みたいになってるよ」
「分かってる……でも眠い」
しばらくして、身支度を整えた麗華達は食堂へと向かった。食堂へ着くと、既に男子達が席について自分達の朝食を取りにっている最中だった。
自分達のテーブルに、荷物を置くと朝食を取りにお盆を取った時だった。突然何かが落ちる音が聞こえ、その方に目を向けるとそこに何やらいちゃもんを付ける男子生徒達がにらみ合い言い合っていた。
「そっちが先にぶつかって来たんだろう、謝れ!」
「ハイハイ、すんまへんでした」
「テメェ…」
「やめとけ、先生から言われているだろう?喧嘩騒動起こすなって」
「……」
「流石、東京の人ですね。
弱腰ということですか?」
「何だと!?
言っとくけど、こいつは空手部の主将で関東大会で優勝してるんだぞ!」
「だったら、こっちには関西大会で優勝している奴がおるで。
三神、少し懲らしめてやれ」
振り返った主将だが、そこには眠そうにしており眼鏡をかけた男子生徒に支えられた陽一が情けなく立っていた。その光景を見ていた麗華は、軽く溜息を吐きながら不思議そうにしている朝妃達に話した。
「アイツ、朝が一番駄目なんだよ」
「え?そうなの?」
「夜どんなに早く寝ても、起きられなくて……伯母さんがいつも怒鳴り声をあげて起こしてるって」
「うわぁ、大変ねぇ伯母さん」
「三神!!お前は、何でこういう時に限って!」
「晴彦、眠い……」
「目覚めに何か飲みますか?」
「麗のお茶」
「……あのねぇ」
「これが、関西大会で優勝した選手か?」
「ポンコツにしか見えん」
少し身を引く空手部の主将に、大輔は後ろから何かを話した。主将は恐る恐る後ろを向くと、そこには目を光らせる剛田と麟音高校の教員が仁王立ちしていた。
「……お、お前等…席に戻れ」
「え?何でですか?」
「後ろを見ろ」
「後ろ?
……はい、すぐに戻ります」
二人の覇気に、空手部一同はそそくさと立ち去った。挑発しようとした麟音高校の主将に、蜜柑を口に入れた陽一は頭を殴り阻止した。
「武道を喧嘩に使いな。この阿呆」
「いつの間に、目が」
「朝一番に果物食べさせれば、大体目が覚めるみたいですよ」
「委員長、お前……」
「これ以上問題起こすと、午後の海中止になるで」
そう言いながら、陽一は主将の首根っこを掴みながら席へと戻り、他の部員達も戻って行った。
とある牧場……馬小屋を見回す鈴海高校の生徒達は、職員の話を聞いていた。しばらく話を聞き、外へと出ると、別のグループが馬に乗って牧場へ帰ってくるのが見えた。
「あ、中村達のグループ帰ってきた」
「ねぇ、伊達さんが乗ってる馬、何か暴れてない?」
「また、何か嫌なことでもやったんでしょ?先輩」
暴れる黒い馬からずり落ちた亮介は、地面に尻を着き痛そうに撫でていた。その光景を見ていた優梨愛は、馬から素早く下り彼の元へ駆け寄った。
「またあぬんまが……どうむちゅーや調子わっさんなぁ。
えー、ミーナんま房んかいむどぅちくぃー《またあの馬か……どうも今日は調子悪いなぁ。
おい、ミーナを馬房に戻してくれ》」
「はい」
手綱を引っ張り、ミーナという黒馬を馬房へ連れて行こうとした。だが、ミーナは職員の手を振り払うと勢い良く走り出した。
「んまぬ脱走さん《馬が脱走した》!」
走るミーナは、道を塞ぐ職員を次々と避けていき麗華達がいる集いに向かってきた。ギリギリの所で、彼等は地面に倒れて何とか避けた。
「な、何?あの馬」
「うぅってぃーから妙に機嫌わっくてぃ《一昨日から妙に機嫌悪くて》」
「え?何て言ったの?」
「機嫌悪いとかじゃね?」
(そんな馬に客を乗せるな)
「神崎、雷光に乗ってんだから乗り熟せるんじゃねぇの?」
「雷光は聞き分けの良い奴だから乗り熟せるだけで、言葉も通じない動物に乗れるわけ……?」
着ていた上着が、引っ張られる感覚が有り後ろを向いた。そこにいたのは、上着の裾を噛むミーナだった。
「……」
「……鈴村、問題の馬確保したー」
「馬にも懐かれる麗華って……」
馬に乗る朝妃達……鞍のサドルに足を掛け跨がる彼等に続いて、麗華は軽々と飛び乗り手綱を持った。ミーナは嬉しそうに鼻息を出し、今にも駆け出す勢いで前足で地面を蹴った。
「ミーナぬくんぐとぅ興奮するぬ、はじみてぃやん《ミーナがこんなに興奮するの、初めてだ》」
「お嬢ちゃん、乗馬の経験は?」
「無いですけど(熊と狼に乗ったとは、言えない)」
「それでは、この辺りを歩いて行きます。私が先頭を歩いて行きますので、その後に続いて下さい。
馬は軽く足で蹴って下されば進みます。止まって欲しい時はこう手綱を少し引いて下されば止まります」
「あの人、標準語ペラペラね」
「ねぇ」
「大城さんは、東京の農業大学に通ってたから、ちゃんと喋れるんだ」
「そうなんですか」
「と言っても、普通に喋れるぜ。
琉球語使うのは、ほんの一部だ」
そう説明した時、彼等の横を通り過ぎる影を見て、急いで前を見ると走る馬の後ろ姿が見えた。
「あれ?あの黒い馬って……」
「麗華が乗ってる馬じゃ」
「大変!!」
馬の手綱を軽く振ると、職員はすぐに彼女達を追い駆けて行った。
浜辺を走るミーナは、岩石を飛び越えある場所へと向かった。海からとある森の中へと入り、その中を駆けて行き抜けた先の崖へと辿り着いた。
「……止まった?
って、ここどこ?」
ミーナの上から辺りを見た麗華は、ふと崖の上から朝妃達がいるであろう馬達が見え、その先に数人の職員を乗せた馬が駆けてきたミーナの足跡を辿っていた。
「……ミーナだっけ?
アンタ、私をここに……?」
妙な気配に麗華は気付き、ミーナから降り手綱を引きながら崖付近にある祠に近付いた。
「古い祠だね。
かなり封印が弱くなってる……(何だ?この祠の奥に、禍々しい邪気を感じる……)
まさか、これを知らせたくてここに連れてきたの?」
麗華の問いに、ミーナは鼻息を出して額を彼女の額に当てた。そんなミーナの頬を麗華は撫でてやった。すると、どこからか小さな体を持った妖怪が、姿を現し麗華の肩や頭に乗った。
「これが沖縄の妖怪ってやつか……
ここの祠に関しては、私は何もできないよ。さぁ、皆の所に帰ろう」
そう言うと、麗華は鞍のサドルに足を掛け背中に跨った。ミーナは鼻息を出すと、彼女の合図で歩き出し祠を後にした。
午後……太陽が照らす浜辺に、鈴海高校と麟音高校の生徒達が各々の水着を着て、海で楽しんでいた。更衣室で着替える女子を待つ男子生徒達の中に、カメラを構えた男子がいた。
「小谷、きっちり撮れよ!
女子全員の、水着写真!」
「カメラ部部長を、なめるでない!」
構えるカメラのレンズから除く景色が突然暗くなり、あれ?と思いカメラから目を離した。目の前にはレンズを手で塞ぐ翼が、小谷とその連れを睨んでいた。
「お、大野君……えッと」
「朝妃と白鳥の写真撮ったら、レンズをおじゃんにするぞ?」
「ひぃ!そ、それだけは!
お小遣いとお年玉を溜めてやっと買った、一眼レフカメラなんだ!」
「中古だけどな」
「ちょっと翼、どうしたの?」
更衣室から出てきた朝妃は、ピンク色に花柄をのビキニに身を包んでおり、その上から黒いパーカーを着ていた。その恰好を見た翼達は顔を真っ赤にし、翼はすぐに向きを変えさせると彼女と共にその場を去って行った。その後に、赤い色に白いフリルの着いたワンピース風の水着を着た杏莉が髪の毛を結い直しながら出てきた。そこへ卓也がやって来て、髪の毛を結い直す彼女の髪を結ってやり、誉め言葉を言いながら去って行った。
「……クソォ…羨ましい」
「リア充爆発しろ」
「陰キャの山本にまで、彼女が出来るなんて」
「……お!神崎さんが出て来るぞ」
「小谷、構えろ!」
「うん!……あれ?また真っ暗」
「はぁ?!」
レンズの前には、蛇の目傘を広げたリユがおり、その前に大あくびをする大輔が立っていた。出てきた麗華は、白いパーカーを着ており、中は水色のフリルが付いたホルタービキニに身を包み、下には青いグラデーションのパレオが巻かれていた。
「何じゃ、その水着」
「いや、ちょっと予想外……」
「……一応、陽一の所に行くまで前閉めとけ」
「え?何で、アイツの所に」
「アイツから電話があった。水着に着替えたら、一緒に泳ごうって」
「そういえば、私の所にもそんなメールが来てたなぁ」
「ほら、海の家で待ち合わせだから行くぞ」
「へーイ」