保育所の庭で、海斗と樹梨は砂場で遊んでいた。別室へ来ていた大輔は大あくびをしながら、職員の話を聞いていた。
「えーっと、話をまとめますと……
お父さんはあの後、難無く香苗さんと離婚が成立。香苗さんは今現在、警察が身柄を確保している為当面の間は皆さんの前に現れることはないかと」
「はー、ひとまず安心だ」
「で、お父さんの事ですが……」
「すみません。
親父、昨日急遽仕事が入ってクロ連れて島に帰りました」
「……それで、引き取り手に君が」
「別にいいじゃないですか。俺が引き取ったって」
「未成年者に渡せるわけないだろう!」
「面倒」
「君が面倒だよ」
数時間後、部屋の戸が開き外から麗華と彼女と一緒に志津江が入ってきた。
「麗華ちゃん、その人は?」
「ごめんね大輔。仕事が長引いちゃって」
「別に平気だって。
先に連れて帰ろうかと思ったけど、何か未成年者には渡せないとか何とかで、二人貰えなかった」
「いや、普通にそうでしょう。
何かあったら、責任取れないでしょ。アンタ」
「っ」
(よかった……麗華ちゃんがまともに育ってくれて)
「あの、これ俊輔さんから預かった証明書何ですが」
鞄の中に入っているファイリングした紙を出し、志津江は職員に見せた。そこには、海斗と樹梨を志津江に預けると言った証明書だった。隅にはサインと印鑑が押されていた。
「……こ、これ。
てか、あなたは一体」
「俺の生みの親」
「は?」
「星崎俊輔の元妻で、大輔の母親です。
疑うんであれば、DNA鑑定しましょうか?」
「……いえ、大丈夫です(顔立ちがソックリ)」
職員はすぐに部屋を出て行き、二人を迎えに行った。
「大輔、本当に私の所でいいの?」
「え?」
「あの時、勢いで私と一緒に住もうって言ったけど……海斗君や樹梨ちゃんに嫌われたらどうしよう。
ちゃんと怒れるかしら。甘やかしすぎたどうしよう」
「その辺に関しては俺が監視するから、ご心配なく。
平気だよ。樹梨も海斗も、母さんが母さんなら凄い嬉しいって言ってたから」
「志津江さん、大丈夫ですよ。
私の母さんが、昔言ってましたよ。志津江さんに子供を任せれば怖いもの無しだって」
「優華さん、相変わらず無責任なことを」
「でも本当にそうだったじゃないですか。
私以外の子供の面倒を一番見てくれて。志津江さんが担当していた当時高校生の女子高生覚えてます?」
「美香ちゃんの事?」
「はい。美香さん、今別の病院で看護師やってるんですよ。小児外科の」
「まぁ、そうだったの」
「あと、周大さん。当時小学五年生の」
「周大君、足大丈夫だったかしら?
怪我して、サッカーが出来ないって泣いていたから」
「今、整骨院の専門学校に通ってるみたいですよ。
後遺症はなかったんですが、志津江さんの姿を見て、目指すものを変えたそうです。
サッカーは今でも好きで、やっているそうですよ」
自身が看てきた患者のその後を聞いた志津江は、どこか安心したような表情を浮かべた。その顔を見た大輔が何かを言おうとした時、部屋の戸が開き外から樹梨と海斗が入ってきた。
「お兄ちゃん!」
「大輔お兄ちゃん!」
職員の手を放し、二人は一目散に大輔の元へ駆け寄り飛び付いた。彼に抱き着いていた樹梨は、隣にいる志津江に気付くと嬉しそうな顔をした。
「あ!ママ!」
「え?」
大輔から離れた樹梨は嬉しそうに、志津江に抱き着いた。抱き着いた彼女を、志津江は優しく撫でそれを見た界人も大輔から離れると、彼女に抱き着いた。
「モテモテだな、母さん」
「コラ、親をからかわない!」
「お兄ちゃん、一緒に住むんだよね?」
「親父が仕事の都合付けられねぇから、俺の母さんと俺と海斗と樹梨の4人で暮らすんだよ」
「良いの!?」
「親父からは、許可得てる」
「じゃあママと暮らせるんだ!」
「樹梨、この人は……」
「?」
「好きなように呼んでいいわよ。
おばさんって呼んでもいいし、樹梨ちゃんみたいにママって呼んでも」
「ママは樹梨のこと樹梨って呼んでいいよ!」
「僕も海斗でいいよ!お母さん!」
そんな二人の姿に大輔は、ホッとしたような表情をしていた。その表情を見て麗華は、いたずら笑みを浮かべながら彼を見た。
「何だよ、その顔」
「うまい具合に、まとまったなぁって」
「……」
「ああいう家族の形も、いいかもね」
「そうか?」
「……母親がいるってだけでも、有り難いよ。
私は、樹梨ちゃんの歳の時にはもういなかったから」
「……」
「てか、あんな犬猿の仲だったのに……親父さんと連絡は取ってたんだ」
「あれはただ単に、自分の仕事ばかりして家の事を全くしねぇから、苛ついてるだけだ」
「……親父に対する、反抗期?」
「お前、反抗期ってあったの?」
「今がその時期」
「……」
「まぁ、兄貴だけだけどね。反抗してるの」
「お兄さん、可哀そう」
「十年くらい経てば、樹梨ちゃんも同じ道を行くよ」
「それを言うな」
その夜……
空に浮かぶシャボン玉……シャボン液に吹き具を付けた麗華は、息を吹き再びシャボン玉を空へと飛ばした。
その隣で、茂も同じように吹き具にシャボン液を付けて、息を吹きシャボン玉を飛ばした。
「何かあったの?麗華ちゃん」
「え?」
「君がこうやって、病院に来てシャボン玉を吹くなんて、中学生以来じゃん」
「……星崎達の事見てたら、何か羨ましくなって。
兄貴はいつも通り学校だし、緋音姉さん達も今実習で来られないし」
「それで僕の所に?
相変わらず、素直じゃないね」
「シャボン玉終わったら、帰るもん」
「ハイハイ。
そういうところ、先生そっくりだよ」
「本当?」
「あぁ。先生も、夜勤の時よく僕を連れ出しては、缶コーヒー片手にこの屋上で飲んだもんだよ。愚痴を言うわけでもなく、ただただずっと君等の事を話していたよ」
「……」
その時、携帯が鳴り茂はすぐに出た。対応するとすぐに通話を切り、最後のシャボン玉を飛ばした。
「仕事が入ったから、僕は戻るよ」
「私もこれ吹き終わったら、家帰る」
「そっか、じゃあね」
そういって、茂は院内へ戻った麗華は手摺に乗る鼬姿の焔とシガンの頭を交互に撫でると、最後のシャボン玉を吹き飛ばした。
とある昼休み……
「あ!星崎君のお弁当、凄い綺麗!」
お弁当箱のふたを開けた大輔は、クラスメイトにそう言われ頬を少し赤めていた。その声に、隣で食べていた麗華は席を覗き込んだ。
そのお弁当箱には、胡麻が降りかかった梅干しが乗った白いご飯が詰められた箇所ともう一つには、色とりどりのおかずが詰められており、さらにデザートの果物があった。
「うわ、星崎が普通の弁当を食ってる」
「普通の弁当って何だよ」
「どうしたの?このお弁当」
「まさか、神崎さんに作ってもらったの?」
「何でそうなるんだよ」
「朝苦手だから、私弁当なんて作らないし」
「そう言う割には、麗華はいつもお弁当よね?」
「知り合いに作ってもらってるの。
コンビニ弁当は駄目だって、兄貴が言うから」
「へー……」
放課後……部活を終えた大輔は、眠そうに欠伸をしながら肩を回した。
「お前、部活日数減らしてた割に全然腕落ちてなかったな?」
「自主練はきっちりしてたんで」
「あ、そう」
すると、携帯が鳴り画面を開くと仕事が終わったと志津江からメールが届いていた。嬉しそうに画面を眺めていると、校門に差し掛かった時弓道部の部員達がぞろぞろと道場から出てきていた。
「何嬉しそうな顔してるの?星崎」
「別にいいだろう」
「ガールフレンド?」
「ちげぇよ」
「じゃ、神崎。また明日な」
「またねぇ。
守山、伊藤のボディーガードしっかり!」
「応!任せとけ!」
「お先に失礼します!」
「先輩、また明日です!」
「しっかりストレッチしてねぇ」
「はーい!」
去って行く後輩達に手を振る麗華を、大輔は笑みを浮かべていた。
「すっかり、先輩だな」
「部長じゃない事だけは有り難い」
「え?部長じゃねぇの?」
「部長は水戸部。副部長は伊藤」
「へぇ……」
「で?さっきのメールは、志津江さん?」
「まぁな。仕事が終わったから、夕飯の材料を買って帰るって」
「そう。
楽しそうだね」
「まぁな」
嬉しそうに、大輔はそう答えた。麗華と別れた後、彼は志津江と合流し買い物をし帰路を歩いた。今住んでいるマンションに入りエレベーターで、自分達が借りている部屋の階へ向かうと、玄関が開いておりそこに樹梨と海斗が出迎えていた。
樹梨は嬉しそうに大輔達の元へ駆け寄り、二人の手を引きながら樹梨は玄関に上がり海斗は志津江から荷物を受け取ると、玄関を駆け上がった。大輔は何かを言いながら二人の後を追いかけて行き、志津江は三人に注意しながら玄関を上がった。