陰陽師少女   作:花札

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数日後……

事件がまだ未解決のまま、演劇部の発表の日時が決まった。


部員は不安の色を隠せないまま、練習をした。その中でも、杏莉は不安を消すかのように練習に打ち込んだ。

そして本番当日……


始まった劇

体育館へ集まる生徒達……

 

 

舞台裏で、杏莉は手に御守りを持ちながら深呼吸をした。

 

 

『何これ?』

 

『知り合いに頼んだけど、もしかしたら間に合わないかも知れないって……

 

それで、これを持っててくれって』

 

 

前日、麗華はそう言いながら御守りを杏莉に渡した。

 

 

その頃麗華は大輔と一緒に、体育館の裏にいた。

 

麗華は大輔に、一通りの事を話した。

 

 

「白鳥……」

 

「先輩にお願いして、私上から見るつもり。

 

下に何かあったら、これを鳴らして」

 

 

そう言いながら、麗華は鈴を出した。

 

 

「鈴?聞こえるのか?」

 

「その鈴の音は、ここにいる焔とシガンにしか聞こえないようにしてる。

 

もちろん、周りにも聞こえない」

 

「……そうか」

 

 

《間もなく、演劇部による発表会が始まります。

 

外にいる生徒は、速やかに体育館へ入り自身の席へご着席下さい》

 

 

「そろそろか……」

 

「じゃあお願い」

 

「分かった」

 

 

二人は一緒に体育館へ入り、麗華は上へ大輔は自身の席へ座った。

 

 

暗くなった体育館……そこで、劇は行われた。初めは一年生のAグループから順々に発表していった。杏莉が出るのは最後のCグループ……

 

スポットライトの担当だった演劇部の先輩は、傍で手すりに身を乗せ劇を見る麗華に話し掛けた。

 

 

「ねぇ麗華ちゃん」

 

「?」

 

「本当に幽霊、現れるの?」

 

「多分現れますよ……

 

アイツも一緒に」

 

「アイツって?」

 

 

劇は事を無くスムーズに進んでいった。そして、杏莉の番が回ってきた。麗華の肩に乗っていた焔は、辺りを警戒し始めた。同じ頃、大輔の膝にいたシガンも辺りを気にし始め、大輔も一緒に辺りを気にした。

 

 

シンデレラを演じる杏莉の姿に、多くの生徒が魅了されていた。

 

その時だった。

 

 

「麗!鈴の音!」

 

「?!」

 

 

焔の声に、麗華は手すりから身を乗り出し下を見た。舞台の隅に立つ一人の少女……少女は、ゆっくりと杏莉の元へ歩み寄った。

 

 

(ヤバい!!)

 

 

麗華はすぐに下へと降りた。

 

 

杏莉の背後に迫る少女……少女は、手から鋏を出しそれを勢い良く、杏莉目掛けて振り下ろした。

 

 

刺さる瞬間、彼女の前に何者かが降り立った。陰陽師の着物を身に纏い、顔に狐の面を着け頭に白い毛皮を被った者……

 

 

「し、白い陰陽師……」

 

 

王子役の男子が、そう口にした。

 

 

「何故ダ……何故邪魔ヲスル?!

 

オ前等二人ハ!!」

 

「……」

 

 

後ろを振り返った白い陰陽師は、懐から札を取り出しそれを杏莉に投げ付けた。札は光り彼女の背後から黒髪に赤いピンを着けた少女が出て来た。

 

 

「す、鈴?」

 

「……」

 

「マタ邪魔シヤガッテ!!」

 

「どういう事?」

 

 

「そいつがずっと、お前の傍にいてお前を守ってたんだ」

 

 

大輔はそう言いながら、舞台へ上がり白い陰陽師に目を向けた。

 

 

「鈴が、私を?」

 

「そいつ、その悪霊に突き落とされたんだ。

 

歩道橋の階段から」

 

「……」

 

「ずっと意識不明だった……

 

けど、最近亡くなったんだよ。そうだろ?」

 

 

大輔の問いに、鈴子は頷いた。そして口を開いた。

 

 

『突き落とされた日、あの子に言われたの。

 

『私の方が一番なのに、何で皆私を見てくれないの?!

 

アンタが死ねば、私が一番になれる!!だから死んで!!』』

 

「……」

 

『私は何とか持ち堪えることができた。

 

でも……でも、杏が心配だった。あの子、主役をやっている子を呪うって言ってたから……』

 

「その思いが強くなって、生き霊になってずっと白鳥に憑いてたんだろ?

 

だから、中学の三年間何も起きなかったんだ」

 

『だけど……

 

私は先月、亡くなった……そしたら、私がいなくなったのをいいことに、その子は杏に』

 

「鈴……」

 

「邪魔スル奴ハ、全員消エナサイ!!」

 

 

黒いオーラを放ち、悪霊は体育館を揺らした。揺れに怯えた生徒達は、一斉に外へと逃げた。

 

残された杏莉は大輔に支えられながら立ち、その前に白い陰陽師が立った。白い陰陽師は、札を取り出しそこから薙刀を出し手に持った。

 

 

「お前は一番になれはしない。

 

なぜって?お前は、人を不幸に落としてまで一番になろうとした。

 

けどこの二人は、自分の努力で一番を取った……努力もしないで一番を取ろうなんざ、最低の人間が考えることだ」

 

 

「黙レ!!

 

先二オ前ヲ殺ス!!」

 

 

天井を揺らし、悪霊はライトを落とした。白い陰陽師に落ちる寸前、煙を上げ現れた白い狼は彼の上に跨がり庇った。白い陰陽師は、狼に礼を言うかのようにして頬を撫で、立ち上がり悪霊を見た。

 

 

「闇に潜む邪悪な影……

 

人を不幸にして、無事にいられると思うな」

 

「ナ、何者ダ」

 

「我が名は白い陰陽師。

 

この地を守るために、ここへ来た」

 

「ヤ、ヤメロ……私ハ、マダ」

 

「もう遅い……

 

貴様のような悪霊は、無へ帰れ!!」

 

 

持っていた薙刀を勢い良く振り下ろし、悪霊を斬った。悪霊は断末魔を上げながら消滅した。

 

 

「す、すごぉ……」

 

「……」

 

『杏』

 

「?!」

 

 

その声に、杏莉は後ろを振り向いた。鈴子は半透明となり消えかかっていた。

 

 

「鈴!」

 

『よかった。無事で』

 

「鈴……」

 

『杏、私の分まで生きてね。

 

それで、私は叶わないけど……約束した、最高の女優になってね!』

 

 

涙を流しながら笑顔で、鈴子は言った。杏莉は目に涙を溜め、消えかかっていた彼女を抱き締めた。

 

 

「絶対なるよ、女優に。

 

だから……鈴、見守ってて。私のこと」

 

『もちろんだよ……ずっと傍で見守ってるから』

 

「……」

 

『もうお別れ』

 

「鈴!」

 

『杏、また会えるよ』

 

「鈴って分かったら、絶対声掛けるから!」

 

『うん……待ってるよ……

 

じゃあね』

 

 

笑顔で言うと、鈴子は消えてしまった。杏莉はしばらくの間、上を見上げていた。




夕方……中断した劇は再開し、見事大成功した。杏莉は先輩や同級生に褒め称えられていた。

その頃、麗華は大輔から鈴を受け取っていた。


「ありがとうね」

「別にいいよ。

なぁ、一つ聞いていいか?」

「?」

「あの白い陰陽師の格好は、何だ?」

「え?」

「バレてねぇとでも思ったか?」

「やっぱり、バレてた?」

「初めは疑ったが、焔の姿見てすぐに分かったよ。

お前だってな」

「……」

「で?何であんな格好してんだ?」

「……

中学の時、妖怪に襲われていた生徒を助けたんだ……


そしたらそいつ、私のことを悪いようにして噂して……皆私から離れていった。

稲葉達は、もう知ってたから関係ないって私とずっと一緒にいてくれたけど……


心の傷って怖い……噂が原因で、また不登校になっちゃった」

「……」

「しばらくして、また生徒が襲われて……

それで思ったの……別の格好すればいい。例えば陰陽師の衣装に狐の面、そして白い毛皮を頭から被って、誰からも分からないようにして」

「それであの格好か……」

「瞬く間に噂は広まった。

しばらくして、学校に行った。そしたら嘘のように、私の噂は消えていた。


だから思った……妖怪退治や悪霊退治の時は、あの格好しようって」

「フーン……」

「というわけで……

お願い!皆には内緒に」

「……条件がある」

「条件?」

「俺も手伝わせろ。その退治に」

「そ、そんなき」
「危険なのは、お前も一緒だ。

大丈夫。無茶はしねぇよ」

「……」

「神崎の力になりてぇんだよ。

昔、力になれなかったんだから」

「……ハァ。

分かった。その代わり、危険だと思ったらすぐにやめさせるから。それと私の指示には、絶対従って」

「りょーかい」


笑みを見せながら、大輔は答えた。

その後二人は、教室へと戻り先にやっていた杏莉の祝杯に参加した。


教室から響く笑い声を、焔は安心したかのようにして聞き流し、鞄の中にいたシガンは顔を出し楽しく仲間と話す麗華を見守るようにして見ていた。

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