「何であの子達が、東京になんか行ってるのよ!!
誰の金使ったのよ!!」
「香苗、落ち着け」
「落ち着けるわけないでしょ!!こっちは子供誘拐されたかと思って、心配してるのに……
何で私にじゃなく、こんな小娘に連絡が来るのよ!!」
「ろくに子供の面倒を見ない女に、言われたくないわ!!」
「何ですって!!」
「久瑠美、止めなさい!!」
修羅場となっている時、俊輔の携帯が鳴った。画面を見るとそこには『大輔』と表示された電話コールだった。
「……もしもし」
「海斗と樹梨は、こっちで預かる。
アンタがその女ときっちり離婚して、児童虐待として警察に訴えるなら二人を島に帰す」
「……離婚は視野に入れているが、虐待の事に関しては」
「訴えないなら、俺が訴える。
樹梨と海斗の身体に、痣があった。ここ最近できたものばかりだ」
「……」
「また、仕事仕事で二人を見てなかったんだろう」
「……」
「また連絡する。
母さんが見つかった」
「?!」
それだけを言って大輔は、通話を切った。その様子を見ていたメルは、慰めるようにして彼の頭を撫でた。
翌日……麗華の家の縁側に座る樹梨は、リユを膝に乗せ抱きながらボーっと庭を見ていた。玄関の引き戸の音に、樹梨と楓の手伝いをしていた海斗は一目散に、玄関に駆け付けた。
玄関に入ってきたのは、麗華と大輔だった。
「大輔お兄ちゃん!」
「ただいま。リユ、樹梨の事ありがとうな」
「お兄ちゃん、僕達これからどうなるの?」
「まだ分からねぇ。
近い内に、大人達を交えた話し合いがある。そこで決まると思う」
「……僕達、戻されたりしないよね?」
「海斗…」
「え?帰るの?
やっと大輔お兄ちゃんの所に来たのに?」
「子供だけじゃ、暮らせないもん。
僕達は、大人の力がないとまだ生活が出来ないし」
「嫌だ嫌だ!大輔お兄ちゃんと一緒に暮らす!一緒にいる!!」
そう泣き叫びながら、樹梨は大輔にしがみ付いた。大輔は樹梨の頭を撫でながら、麗華の方を見た。
「怖い所にはもう行かないようにするから、大丈夫だよ」
「……ほんと?」
「うん。私の兄貴……お兄ちゃん達が懸命に二人を助けようと、動いてるんだよ」
「……」
「だから二人共、もう泣いちゃ駄目。じゃないと、お兄ちゃん困っちゃうから」
「うん」
「…はい」
「サンキューな、神崎」
「いいって。
兄妹は離れない方がいいよ」
涙を拭く樹梨にリユは軽く頬にキスをして、リユを真似してニアも海斗の頬にキスをした。
「そういえばお兄ちゃん、この妖精は何なの?」
「俺の守護精霊」
「守護…」
「せーれー?」
「俺達を守ってくれる、妖精だよ」
その時、麗華の携帯が鳴り彼女は画面を開きながら外へ出た。画面に『桐島さん』と表示され麗華はすぐ電話に出た。
「桐島さん、どうかしました?」
「今回の児童の件についてだ。
先程、鬼麟島の警官から連絡があって、明日そっちに田中と大輔君の御両親が行くそうだ。
場所は児童相談所の、会議室を使うとの事だ」
「分かりました。大輔にも伝えておきます」
「よろしく頼む」
電話を切ると、家から大輔が出てきた。麗華は先程の事を伝え、それを聞いた彼はすぐに携帯を開いた。そこには数件の不在着信と一件のメールが届いていた。メールを開くとそれは父・俊輔からで内容は『明日、東京へ行く』との内容文だった。
「アンタのお父さんって、よく分かんない」
「俺も分かんねぇ。
なぁ、神崎」
「ん?」
「母さん、俺が一緒に暮らしたいって言ったら……どんな反応すると思う?」
「……
めっちゃハッピーだろうね。
十年以上前に、置いてきちゃった目の中に入れてもいたくないほど可愛がっていた息子が、高校生になってまた一緒に暮らせるなんて、夢にも思ってなかったからだろうから。
でも、その反面自分が出来なかったことに申し訳なくて、責めちゃうだろうね。一番傍にいなきゃいけない時に、いてあげられなくて……」
「……気にしてないって言っても、そう思っちゃうものなのか?」
「思うよ……ずっと思っちゃうよ」
思い浮かぶ龍二の姿……島からこちらへ帰ってきてからの数日、龍二はずっと自分に謝っていた。いくら自分が気にしてない、もういいと言っても謝ることをやめなかった。
「大輔お兄ちゃん!麗華お姉ちゃん!
楓さんが、ご飯出来たって!」
そう言いながら、樹梨は玄関先で喋っている二人に声を掛けた。
「分かった。すぐ行くよ。
なぁ樹梨」
「なぁに?」
「……昨日会った、兄ちゃんの母ちゃん覚えてるか?」
「うん!樹梨の髪の毛、可愛く結んでくれた!」
「そうだったな。
もし、その母ちゃんと一緒に暮らすってなったら、樹梨は嬉しいか?」
「うん!
樹梨、ママはあの人がいい!」
満面な笑みを浮かべながら、樹梨はそう答えた。それを見て大輔は、嬉し泣きをしながら顔を下げて座り込んだ。
「大輔お兄ちゃん?どうしたの?どっか痛いの?」
「何でもねぇ……先、行っててくれ」
「でも…」
「樹梨ちゃん、私が後で連れて行くから。先に席座ってご飯食べてて」
「うん」
大輔を心配しながらも、樹梨は家の中へ入って行った。いなくなると、大輔はスッと顔を上げ麗華に携帯の画面を見せた。画面にはメールが表示されており、そのメールを送信したのは志津江だった。
「いつの間に翠川さんと」
「退院する少し前だよ。母さんの奴、一回言ったんだ。
『退院したら、一緒に暮らさないか』って」
「……」
「どうしようか迷ってた時だ。あいつ等が島からこっちに来てゴタゴタが起きちまった。
例え親父が、親権持ったとしても俺が面倒見るしかない……そうなれば、母さんに迷惑かけられない。だから、誘いを断ろうと思ったんだ。そしたら、そのメールだ」
画面の方に目を移すと、そのメールには
『もし良ければ、私が樹梨ちゃんと海斗君を育てます。無論、あなたも一緒です』
「……星崎、アンタには勿体ない位の母さんじゃん」
「俺、反抗期に成んなくてよかった」
「親父には反抗期だけどね」
「……」
「私と兄貴は、選べなかったけど……星崎選べるんだから、幸せじゃん」
「……お前、随分お節介になったな」
「多分、あいつのせいだよ。
鵺野鳴介……ぬ~べ~のせいだよ」
夜中……
携帯のバイブ音で、寝ていた麗華は目を覚まし携帯を手に取った。画面を開くとそこには川島と表示された電話コールだった。
「(なんだ?こんな夜中に……)
はい、もしもし」
「あ!麗姉、ごめん!こんな遅くに」
「大空?どうしたの?こんな夜遅くに」
「さっき、変な妖怪が家に来て報せてくれたんだ。
森に棲んでた凶暴な妖怪が、島を出てそっちに行ってるって!」
「はぁ?!どういうこと?!」
「何でも、その妖怪ずっと樹梨ちゃんの事狙ってたみたいなんだけど……
島から出たことが原因で、樹梨ちゃんについて一緒に行っちゃったって!」
「マジかよ……
分かった。こっちで何とかする。大空は何もしなくていい」
「分かった。本当にごめんなさい。
夜遅くに……すぐに伝えろって、妖怪が言ったから」
「分かったら。
ねぇ、その妖怪ってどんな奴だったの?今度礼に行くから」
「確か、顔と腕に包帯を巻いた男みたいな妖怪だったよ。
多分、この島に住んでる妖怪じゃないと思う」
「……それ、本当?」
「うん……」
「……分かった。ありがとう」
携帯を切った麗華は、ベッドに仰向けに倒れた。その傍で眠っていた狼姿の焔は頭だけをベッドに乗せ、乗せてきた彼の頭を麗華は撫でながら言った。
「顔と腕に包帯……秀二の式神みたいだね」
「……アイツが、そこにいたって事か?」
「かもね……何を目的にしているのか、さっぱり。
あの日以来、全然動きを見せないね。あいつ」
「……」
「嫌な予感がする……
知らない間に、着々と何かが進んでいる様に思える」