「……はぁ?!」
見舞いに来ていた杏莉は、ビックリして飲んでいたお茶を吹き出しそれを見た卓也は、慌ててハンカチを差し出し貸した。彼女は借りたハンカチで、口周りを拭きながら大輔に質問した。
「何!?どうしたの、いきなり大きな声出して!」
「……いなくなった」
「え?」
「海斗と樹梨が、島からいなくなった!」
「……嘘!?」
携帯をいじりすぐに大輔は久瑠美に電話をした。数回コールすると、彼女はすぐに出て慌てた様子で話してきた。
「大輔、どうしよう!
海斗君と樹梨ちゃん、いなくなったってお母さんが」
「何でいなくなったんだ!?あいつ等、どこに行ったか分かんねぇのか?!」
「誰も分からないって。
おばさんに聞いても、知らないの一点張りで……今、警察が島中捜索してるけど全然見つからなくて」
「……!
九条、俺の家に行って二人の部屋を見てくれねぇか?」
「わ、分かった。部屋行けば、何かわかるの?」
「良いから、頼む!」
通話中にしたまま、久瑠美は騒ぐ大人達の目を盗んで大輔の家へ入った。二階へ上がり二人の部屋を覗くと、二人の机の上には空になった貯金箱が転がっていた。
「もしもし大輔」
「何かあったか?」
「海斗君と樹梨ちゃんの机の上に、空になった貯金箱が転がってる」
「やっぱり……」
「え?どうしたの?」
「あいつ等、俺に会いに来ようとしてる」
「え?!
まだ、小学五年生と二年生だよ!?」
「それだけ、その家が嫌になったんだよ!
こっちでも二人を探す」
「何言ってんの!?アンタまだ入院中でしょ!?」
そう言ったが、電話の向こうでガチャリと切る音が聞こえ通話終了の音が鳴り響いた。
とある商店街……
住所が書かれている紙を手に、海斗は樹梨の手を引きながら町の中を歩いていた。
「お兄ちゃん、大輔お兄ちゃん所まだ?」
「もうちょっと。疲れた?」
「足痛い……おんぶ」
「え……(どうしよう……)
あそこのベンチで休もう!」
街路樹の下に置かれていたベンチに、樹梨を座らせた海斗はリュックの中からペットボトルのお茶を出し、蓋を開けると彼女に渡した。その隣で、深く息を吐きながら海斗はベンチに深く座った。
その頃、大輔の病室へ麗華は携帯の通話を切りながら入ってきた。
「神崎!二人は?!」
「まだ捜索中。
今兄貴に頼んで、もし研修中の交番近くで見つけたら保護するって」
「……探しにいけねぇのが、歯痒い」
「それにしても、よっぽど大輔に会いたかったんだね。海斗君と樹梨ちゃん」
「子供の足で、あの島からここに来るのは無理だとは思うんだけど……」
「ていうか、普通子供だけで定期便や電車に乗ってると声かけられるんじゃないの?」
「船は分からないけど、電車とかだったら「お母さんの所に行くんだ」って言って、住所が書いた紙を見せれば誰も疑わないよ。多分」
「麗華もやったことあるの?」
「一回だけ。でもすぐに見つかって、滅茶苦茶怒られた」
「あらま」
その時携帯が鳴り、麗華はすぐに電話に出た。その電話は龍二で、海斗と樹梨を駅近くで保護したとの事。二人をパトカーでそっちの病院に送るとの事だった。
一時間後……辺りがすっかり暗くなった頃に、パトカーが病院の前に着いた。龍二は車から降りた二人を、大輔の元へ連れて行った。
病室の戸を開け、目の前に置かれたベッドに座る大輔の姿を見た樹梨は泣きながら彼に抱き着いた。泣く樹梨の姿に、海斗も我慢していたのか涙を流しながら大輔に話した。
「ご、ごめんなさい……僕……もう、あそこに……」
「分かったから、もう泣くな」
声を出して泣く海斗は、樹梨と同じく大輔に抱き着いた。その様子を見ながら、麗華は龍二の元へ行った。彼は小声で話を始めた。
「童守駅近くで、日が暮れてるのに子供が二人だけでウロウロしてるって連絡があってな。見回りに行ったら、案の定。
お前から写真貰っといて、正解だった」
「そっか……」
その頃島では、未だに二人の捜索をしていた。懐中電灯で島の中を探す久瑠美の携帯が鳴り、一緒に捜索していた七海と遥を章義を呼び止め、電話に出た。
「大輔、こっちまだ……え?!見つかった!」
「神崎に手伝ってもらってな。今、俺の病室で買ったジュース飲んでる」
「そっかぁ……よかったぁ」
「……アイツ等は?」
「おじさんの方は、仕事でまだ……おばさんの方は、ずっと知らないだの家にいなかっただのの言い訳三昧」
「……
九条、二人はこっちにいるって事だけは皆に伝えといてくれ」
「分かった。何かあったら、また連絡するね」
「あぁ。こっちも連絡する」
そう言って、大輔は通話を切った。ジュースを飲んでいた樹梨は、ずっと鼻を啜りながら彼の服の裾を握って離れようとしなかった。
「さぁて、見つかったはいいが……こいつ等どうしよう」
「明日の検査次第で退院するかどうか、決めようと思う」
「十日は入院だって言ってたのに、いいの?」
「大体数値が戻っているからね。明日の検査で問題なければ退院でいいと思っているよ」
すると病室に志津江と彼女に案内されてやって来た刑事が、警察手帳を見せながら入ってきた。
「少年課の田中です。先程松下巡査部長から連絡を貰い、こちらに伺いまし……?
あの、なぜうちの見習いがここに?」
「……お、お久しぶりです……田中さん」
「あの、後藤さんは?」
「別件で席を外している。
で、何故君がここにいる?三神」
「……」
「田中君、三神君は僕の付き添いでいるんだよ。後で、学校の方に送り届けるつもりだから、そう目くじらを立てないでくれ。子供達が怯えてしまうよ?」
「し、失礼しました」
その様子に麗華と龍二は顔をそむけて笑いを堪えており、そんな二人に茂は軽くゲンコツを食らわせた。
「それで、二人がその例の」
「えぇ。
男の子の方は、星崎海斗君小学五年生。女の子の方は星崎樹梨ちゃん小学二年生。
東京に住む現在高校二年生の兄・星崎大輔君に会う為に、島から出たとのことです」
「こんな子供が……
すぐに親御さんに連絡して、島に」
「嫌だ嫌だ!!
大輔お兄ちゃんの所にいる!!絶対いる!!」
空になった缶ジュースを床に投げ捨てた樹梨は大輔の膝に座りしがみ付き、同じ様に海斗は体を震えさせながら彼の腕にしがみ付いた。そんな二人に、田中は驚き麗華達の方に目を向けた。
「二人共、親から虐待受けてる可能性があります」
「え?そんな情報……」
「俺の先輩で児相に勤めてる人がいるんで、その人に今回の事話しました」
「三神、お前!!」
「情報交換は大事だ。三神の行動は正解だ」
「……」
「星崎、二人とも今日は私の家に泊まらせるから」
「悪い、頼む」
「いいって、ちょうど仕事に一段落点いた楓がしばらくこっちに来るって言ってたし」
そう言いながら、麗華は携帯の画面を開き電話を掛けた。掛けてから数十分後に、病室の戸が勢い良く開き外からスーツを着た楓が入ってきた。
「龍二ぃ!すっかり警察官になっちゃって!
ダンダンと輝二に似てきて」
「楓、先輩方がいる前でやめてくれ」
「星崎と約束してるんで、二人を今晩家に泊まらせますね」
「はい……(相変わらず、何なんだ三神は)」
しがみ付く樹梨を隣に座らせる大輔の元に、志津江は心配そうに歩み寄り前で屈んだ。
「あの女が産んだガキだ」
「そうだったの……」
「お兄ちゃん、この人誰?」
腕にしがみ付きながら、海斗は不思議そうに大輔に質問した。彼はチラッと志津江を見て、樹梨の頭を撫でながら答えた。
「この人は……
この人は、俺の母さんだよ」
「!」
「お母さん?」
「兄ちゃんを産んでくれた母さんだ」
「初めまして、海斗君、樹梨ちゃん」
にっこりとほほ笑む志津江につられて、樹梨と海斗は笑顔を浮かべた。二人の様子に、大輔は安堵の顔を浮かべた。