陰陽師少女   作:花札

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夏休み最後の週に入ろうとしていたある夕暮れ……
大輔はとある駅にいた。タオルで汗を拭きながら、彼はどこかへ電話した。その様子を傍にいたニア達は不思議そうに見ながら、周りを飛び回った。


「……あ、もしもし。


今駅に着いたけど……こっからどう行けば……

え?迎え?」


その時、微風が起こり風上の方を向くとそこには狼姿をした焔が降り立っていた。


「……」

「来たか、乗れ」

「良いのか?

つか、人目につくんじゃ」

「この辺りの奴等は、皆事情知ってるから見られても、さほど被害はねぇよ」

「……」

「ほら、乗れ。

麗が待ってるぞ」


焔に言われ、大輔は彼の背中に飛び乗り輝三家へと向かった。


守護精霊

庭先に降り立つ焔……焔から降りた大輔は、庭でばてている果穂と大雅を見て唖然としていた。

 

 

(……地面に人が、倒れてる……熱中症?)

 

 

「果穂、大雅!そこで寝てると、熱中症になるぞ!」

 

 

聞き覚えのある声に振り返ると、そこには髪をシニヨンにし竹刀を手に持った麗華が立っていた。

 

 

「体中、痛い……」

 

「姉ちゃん、厳しい」

 

「私は普通に甘い方だ。これが輝三とかだったら、もっと厳しいぞ」

 

 

麗華は寄ってきた焔の頬を撫でながら、大輔の元へ行った。

 

 

「ごめんね、迎えに行けなくて」

 

「いや、別に気にしなくていい……で、こいつ等は何で?」

 

「陰陽師としての修行中。

 

輝三伯父さんがいない間、俺と麗が面倒を見ることになったんや」

 

 

そう言いながら現れたのは、陽一だった。

 

 

「お前確か、神崎の従兄弟の……」

 

「陽一や。

 

呼び捨てでかまへんで」

 

「……で、肝心な伯父さんいないの?」

 

「仕事でいない」

 

「え?修行は?」

 

「修行の方は大丈夫。

 

明日から土日でしょ?その時にやるって」

 

「だから、三泊四日だったのか」

 

「当たり前でしょ。

 

 

その為にまた来たんだから私と陽だって。その時に帰るし」

 

「……お前等、宿題終わったの?」

 

「こっち来る前に終わらせた」

 

「俺もや」

 

「……流石」

 

 

「あらあら大輔君、いらっしゃい!」

 

 

美子は嬉しそうに縁側へ来て、大輔を出迎えた。彼は慌てて、軽くお辞儀をして挨拶した。

 

 

「お邪魔します。四日間よろしくお願いします」

 

「はいはい、こちらこそ。

 

姪の麗華が、いつもお世話になってるわね!」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「麗華、いつまでもそこにいさせないで、早くお部屋にご案内しなさい」

 

「ハーイ。

 

星崎、こっち。縁側から入っていいから」

 

 

大輔を連れ、麗華は部屋へと案内した。案内された部屋に荷物を置くと、すぐに庭へと出た。

 

 

「とりあえず、山の中案内するわ。ついて来て」

 

「……お前、地元ここだっけ?」

 

「童守町出身だ」

 

「俺は京都出身や!」

 

「見りゃ分かるよ」

 

 

山の中を歩く麗華と大輔と陽一……山道を歩いていると、茂みからムーンが現れ二人の元へ歩み寄り体を擦り寄せた。

 

 

「ほんとにこいつ、山の主なんだな」

 

「この地域の山はほとんど、ムーンの住処だよ」

 

「へー……

 

しっかし、広い山だなぁ」

 

「道覚えてよ、明日明後日って走るんだから」

 

「……え、走るの?」

 

「当たり前でしょ」

 

「……」

 

「ちゃんとついて来いよ!大輔!」

 

「お前に言われたくないわ」

 

 

 

 

夜……

 

並べられた豪勢な料理を、お風呂から上がった大輔はポカーンとして見ていた。

 

 

(スゲェ料理……美味そう)

 

「大輔君、ここ座って」

 

「あ、はい」

 

「果穂ちゃん、ご飯注いで」

 

「ハーイ」

 

 

炊飯器の前に座り、果穂はしゃもじで炊き立てのご飯をかき混ぜた。

 

 

「……なぁ、神崎」

 

「ん?」

 

「あのチビ二人、誰?」

 

「従兄姉の子供。

 

アンタが帰る日に、迎え来るから」

 

「……親がいなくとも、泣かないとは……強いな」

 

「麗華お姉ちゃんと陽一お兄ちゃんがいるから、平気だもん」

 

「俺も果穂いるし、姉ちゃんと兄ちゃんいるし、平気」

 

「ていうことらしいです」

 

「海斗に見習ってもらいたい」

 

「海斗?誰や?」

 

「腹違いの弟。六つ違いなんだ」

 

「じゃあ、今小五か!」

 

「正解。

 

 

あれ?龍二さんは?」

 

「兄貴はもう帰って、仕事。

 

輝三も今日、遅くなるって言ってたし」

 

「……俺、来てよかったのか?」

 

「いいのいいの。輝三が来させろって言ったんだから」

 

「……あれ?

 

陽一、お前は何でいるんだ?」

 

「麗と一緒にいたいから。それ以外理由はない」

 

「……」

 

 

 

 

「守護精霊?」

 

 

お風呂から上がり、バスタオルで髪を拭く麗華はニア達をタオルで拭く大輔に話した。

 

 

「そう、守護精霊」

 

「って、何だ?」

 

「守護霊って知ってるでしょ?」

 

「自分を保護してくれる霊だっけ?」

 

「そう。

 

その類と一緒だよ。こいつ等は」

 

 

拭き終えたニアは、大輔の肩に座り座ったニアの頭を撫でた。

 

 

「じゃあ俺、守護霊憑いてないの?」

 

「別で憑いていますから、そこはご安心を。

 

 

星崎が憑いてるこいつ等は、多分アンタの祖母の意思が継がれてるんだよ。

 

 

星崎の家系で霊が見えるのは、今現在アンタと海斗達だけ」

 

「え?海斗と樹梨が?」

 

「微かだけどね。

 

でも、戦えるって程じゃない。多分見る程度の力。霊や妖怪を祓ったり、浄化させたりするのは無理」

 

「じゃあ、襲われるんじゃ」

 

「その辺は平気。

 

妖怪達だって、人は見る。子供に攻撃するような奴はあの島にはいない。いたとしても、大空や龍実兄さんが退治してくれるよ」

 

「……」

 

「話し戻すけど、その守護精霊の特徴はその精霊の力を自分の力として利用できる」

 

「え?力を遣える?こいつ等の?」

 

「島での出来事、覚えてるでしょ?

 

メルが、アンタの体を借りて力を発揮したの」

 

「何となく」

 

「メルもニアもリユも、皆本来の身体を無くして精霊となって星崎の傍にいる。

 

 

妖怪との戦闘時、多分交互に三人を使い分けすれば少し有利になるよ」

 

「雲を操る妖怪、ニア。

雨を操る妖怪、リユ。

海を操る妖怪、メル。

 

 

雲は雷、雨は風、海は水……」

 

「あの時に、三人が発揮していた力だね」

 

「取り込んで力を発揮するのは分かったけど……何でそれで修行が必要なんだ?」

 

「力を発揮してから数日、私もアンタも寝込んだよね?」

 

「う……」

 

「寝込まない為の修行を伝授するから、輝三は呼んだの」

 

「とても有り難いお話で」

 

 

大輔の膝の上で彼に甘えるニアに、メルとリユはちょっかいを出してきた。ニアは怒り背負っていた傘から雷を放った。雷はリユだけに当たり彼女から煙が上がり、それを見てメルは面白おかしく笑い釣られてニアも笑った。リユは頭を振ると、二人に向かって飛び掛かった。

 

 

「普通に技、使えるんだ」

 

「多分、怯ませる程度って感じかな?」

 

「……」

 

「おい大輔、麗に変なことしてないやろうな?」

 

 

バスタオルを腰に巻きながら、突然陽一が大輔が泊まる部屋の襖を開けた。じゃれていたニア達は彼の元へ行くと縛っているタオルの結び目を引っ張った。

 

はらりと落ちるバスタオル……大輔は口をあんぐりと開けたまま呆然とし、隣に座っていた麗華は怒りのオーラを放ちながら顔を真っ赤にして立ち上がった。

 

 

「客人の前で何見せてんのよ!!」

 

「ま、待てや!!

 

これは事故や!!この小っこい妖怪が」

 

「風呂あがったら、とっととパンツ穿けばいい話でしょうが!!」

 

「こんな暑い日に、パンツ穿けるか!」

 

「客人がいるんだよ!!客人が!!」

 

「あ、あの、神崎」

 

 

怯えるようにして声を掛ける大輔だが、麗華には彼の声が届いていないのか立ち上がり拳を鳴らしながら、ズカズカと前へと出た。陽一は落ちたバスタオルを慌てて拾い、それで隠しながら後ろへ下がった。

 

 

「れ、麗!落ち着け!

 

じ、時間考えろや!!」

 

「うるさい。

 

 

ここは山の中、大声出しても近所迷惑にはならねぇんだよ!」

 

「ギャァァアア!!」

 

 

ボコボコにされ、伸びた陽一を跨いで麗華は自身の部屋へと帰った。殴られた瞬間を見たニア達は、体を小刻みに震えさせながら大輔の後ろに隠れていた。

 

 

「……お前等、もう余計なことするなよ」

 

 

彼の言葉に、三匹は強く頷いた。




『大輔、ほらおいで』


優しい女性の声……眠る大輔の耳に入ってきた。


小さい大輔は、その女性に抱っこされ彼女に頭を撫でて貰いながら、あのニア達が祀られていた祠の前に立っていた。


『ここにはね、この島を守って下さっている精霊さんがいるのよ』

せーれー?

『そう。厄災が起こった時この祠に祀られてる三人の精霊さんが、島を守って下さったの。


でもね、お祖母ちゃんの話だと……その精霊、昔から』




「……」


目を覚ます大輔……枕元に、三人で重なるようにしてニア達が眠っていた。


(……夢?

おふくろ、今どうしてんだろう)


眠るニア達の頭を撫でながら、大輔は目を閉じ再び眠りに付いた。

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