陰陽師少女   作:花札

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夜……


夕飯を食べ終えた麗華と陽一は、果穂達と縁側で夜涼みをしていた。居間では、つまみを食べながら龍二達がお酒を飲んでいた。


「龍二、お前相変わらず酒強いな?」

「え?そうですか?」

「成人式迎えた春休み、潰そうと思ってガンガン酒飲ませたもんね。

まぁ、潰れたのはアンタが先だったけど」

「輝二と優華も酒には強かったからな」

「てか、親父も強いじゃん」

「そう言うんなら、うちのお父ちゃんも強いで」

「せやせや!」

「親父達全員、酒には強いって事か……」

「龍二君が強いなら、麗華ちゃんも強いんじゃないの?」

「……飲ませてみます?」


冗談半分で言った龍二の頭を、いつの間にか背後に立っていた麗華は叩いた。


「何未成年に、酒飲ませようとしてんのよ」

「冗談に決まってんだろう?んなもん」

「冗談でも言うな」

「怖い妹。

美幸ちゃん、こんなのが義妹で小姑で大変だな?」

「全然!むしろ、有り難いですよ。

旦那の見張り役になりますから!」

「美幸、お前なぁ」


「ほら、スイカ切ったわよ!」


そう言いながら、美子は切ったスイカを乗せたおぼんを縁側に起き、果穂達に与えた。


「スイカ見て喜ぶなんて、まだまだお子ちゃまだな?」


酔っているのか泰明は、馬鹿にしたような言い方をした。その言葉に麗華と陽一は互いを見合うと悪戯笑みを浮かべた。麗華が傍に居た大雅に耳打ちすると、彼はみるみる明るくなりスイカを持って、泰明目掛けて突進した。

背中にもろ大雅の頭突きを食らった彼は、酒を吹き出し痛みからかそのまま体を丸めた。


「ひ、泰明!?大丈夫!?

大雅、飲み物飲んでいる人に頭突きしちゃダメじゃない!」

「麗華姉ちゃんが、頭突きするとパパが構ってくれるって……」

「麗華……テメェ……」


知らん顔しながら、麗華はスイカに塩を振り美味しそうに頬張った。


墓参り

翌日……

 

 

「それじゃあ、私と静華、里奈と真理奈さんで花を買ってくるから、輝三達は先にお墓に行ってお掃除始めてて頂戴」

 

「分かった」

 

「果穂、くれぐれも」

「はいはい、拓海の面倒を見てればいいんでしょ?見てれば」

 

「アンタね!!」

 

「里奈さん、抑えて抑えて」

 

 

美子達と別れた麗華達は、山の方へ続く道を歩き出した。しばらく山道を歩いていると、茂みから大きな角を生やした鹿が現れ、彼等をジッと見ると背を向け案内するかのようにして先を歩き出した。その鹿を、果穂と大雅は追いかけて行った。

 

 

「あの鹿、式神?」

 

「ムーンと同じく妖怪だ。

 

悪さはしねぇ」

 

「そんなこと良いから、早く行こうぜ。暑い」

 

「本当」

 

「何で私等のお墓、こんな山奥にあるん?」

 

「眺めがいいからだ。

 

それ以外、理由は知らない」

 

「何、その理由」

 

 

山道を抜け、広場へと抜けた。そこには、三つの墓石が建てられており、その近くにムーンが寝そべっていた。鹿の足音にムーンは耳を立てて鹿の元へ行き鼻を動かした。

 

 

「あ!ムーン!」

 

 

嬉しそうに果穂はムーンに抱き着いた。ムーンは抱き着いてきた果穂の頬を舐めると、鹿に頭を下げると森の方へと帰って行った。

 

その後すぐに、墓地に麗華達が到着した。草伸び放題の墓地に、泰明は絶望したような表情を浮かべてその光景を見た。

 

 

「マジかよ……これ」

 

「泰明、お前月神家の方を手伝え」

 

「え?何で?」

 

「人手が足りねぇからだ」

 

「陽一は麗華ちゃん達と一緒に、神崎家のお墓を。龍二君はこっち(三神家)を頼むよ」

 

「分かった」

「はい」

 

 

それぞれの墓へ行くと、彼等は生え伸びた雑草を処理していった。セミの鳴き声が響き、ジリジリと太陽の光が容赦なく麗華達を照らしつけていた。

 

 

「あ~、暑い」

 

「蒸し風呂にいるみたいや……

 

 

?」

 

 

墓石近くの草を毟っていた陽一は、墓石に刻まれた名前を見た。

 

 

「……なぁ、伯父さん」

 

「?」

 

「墓石に刻まれてる『神崎麗子』と『神崎龍輝』って……」

 

「俺等の親……云わば、お前達の祖父母だ」

 

「へぇ……麗の名前って、麗子祖母ちゃんから来たん?」

 

「一応、そう聞いてるけど」

 

「じゃあ麗、早死にするん?」

 

「何でそういう話になるの。私が死ぬ前に、アンタが先に逝くわ」

 

「逝かん逝かん。

 

俺は麗の後に、逝くつもりや」

 

「墓の前で不吉な話すんじゃねぇ!!」

 

 

 

 

数時間後……

 

 

全ての雑草を抜き終えた麗華達は、木陰で水分を取りながら休憩していた。水を飲んだ麗華は一息つくと、傍で寝そべっているムーンの頭を撫でた。

 

 

「ママ達、遅くない?」

 

「どうせ近所の奴等に、捕まってんだろう」

 

「あり得そう。

 

静華、仕事柄か凄いお喋り好きだから」

 

「なぁ父ちゃん、分家って神崎家と三神家、月神家だけなんか?」

 

「そのはずだけど……どうして?」

 

「いや、普通奇数じゃなくて偶数やないか?」

 

「そこ?」

 

「だって、偶数の方が割り切れるやないか」

 

「陽、そういう問題じゃないと思う」

 

 

賑やかな声が聞こえ、振り返ると鹿につられてお供え用の花束と供物を持った美子達が登ってきた。

 

 

「やっと来た」

 

「あの鹿って、案内人?」

 

「まぁ、そうでしょう」

 

 

それぞれの墓に、花と供物を供えると全員墓の前で合掌した。皆が目を瞑り合掌していると、隣で物音が聞こえ麗華は薄っすらと目を開けた。輝三が数本の花と供物を手に移動し、麗華は龍二達の目を盗んで輝三の後をついて行った。

 

 

(どこ行くんだ?輝三)

 

 

獣道を歩いていると、輝三の前に大きな猪が姿を現した。猪は案内するようにして、前を歩いて行った。

 

 

(……墓が荒らされてないのって、この長く生きてる動物達のおかげなの?)

 

 

獣道を抜けると、生い茂った茂みの中にポツンと小さな墓石が建っていた。そこに、輝三は花と供物を供えると、ポケットからライターを取りお線香に火を点けようとしたが、風が吹き火はなかなか点かなかった。

 

イライラする彼の元へ、麗華は歩み寄り風を防ぐようにライターの口に手をかざした。

 

 

「麗華、お前」

 

「ほら、線香に火ぃ点けなよ」

 

 

線香に火を点け煙を焚くと、輝三は墓石の前にある入れ物に、線香を立て合掌した。麗華はふと墓石に刻まれている名前を読んだ。

 

 

「神田家……」

 

「今はもう亡き、一族だ」

 

「何で輝三だけ、ここに来てるの?」

 

「……ここの家の奴が、俺の師範だった」

 

「……」

 

「輝一達が生まれた頃に、この家の者は皆死んだ。

 

この人達の事を知っているのは、今はもう俺だけだ」

 

「……生きてるってことはないの?」

 

「あるかもな」

 

「?」

 

 

どこか悲しい表情を浮かべながら、輝三は墓石に手を置いた。風が吹き辺りの草木を揺らし、ざわつく草木の音に麗華はしばらくの間、そこに立ち尽くした。

 

 

 

ヒグラシが鳴く頃、下山し家へ帰ってきた果穂と拓海、大雅は縁側で昼寝をしていた。彼等に、真理奈と里奈は団扇で扇ぎながら暑くない様風を送っていた。

 

 

その間に、麗華は再び墓地へ向かっていた。墓地へ着くと、そこには既に龍二がおり自身の気配に気付いたのか振り返った。

 

 

「やっぱお前も来たか」

 

「兄貴こそ」

 

「そういやお前、さっき輝三とどこに行ってたんだ?」

 

「ずいぶん前に亡くなった一族の墓参り」

 

「亡くなった一族?」

 

「父さん達が生まれた頃に滅んだ一族だって。

 

その一族を知ってるのは、もう輝三だけなんだって」

 

「……」

 

 

ふと振り返ると、そこにあの猪が茂みの中から姿を現しジッと、麗華達を見ていた。龍二と顔を見合わせた麗華は、その猪の元へ歩み寄った。猪は二人に一礼すると彼等を案内するかのように、先程輝三と歩いた獣道を歩いて行き、その後を二人はついて行った。

 

 

獣道を歩き茂みを抜けると、先程と変わらない光景が広がっていた。

 

 

「こんな茂みに囲まれたところに、墓があったなんて」

 

「……」

 

 

墓石の汚れを軽く落とすと、その石は名前が刻まれていた。

 

 

「……神田幸子……

 

神田華那子」

 

「ずいぶん若くして亡くなったんだな」

 

「この華那子って人、私より長く生きてない」

 

「その他には、多分こっちの男女は年齢的にこの代の前の人かな」

 

「……

 

幸子さんの旦那さんの名前がないってことは、まだ生きてるのかな?」

 

「さぁな。

 

生きてたとしても、もう七十過ぎだろう」

 

「……」

 

「暗くなってきたし、そろそろ戻るか」

 

「うん」

 

 

寄ってきた猪の頭を撫でると、二人はその場を後にした。




彼等が去ってしばらくした後、大黒狼がそこへ降り立った。猪は嬉しそうに大黒狼から降りる者の所へ歩み寄った。


「……アイツ、律義にまだ花を添えてくれたのか」

「当たり前だろう。

秀の一番弟子だろう?」

「お前も同じことを言えるだろう?」


手に持っていた桔梗の花を二本、秀二は墓に添え合掌した。


「お前等の好きだった花を見つけるのに、苦労したぜ。


全て片付いたら、俺もお前等の所へ逝くからな」


墓石を撫でながら、秀二はポケットからぼろぼろの写真を見ながら薄く笑った。撫で終えると、彼は陽炎に飛び乗りその場を去って行った。

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