蝉の鳴き声が鳴り響く外……麗華と龍二は、輝三の家に続いている坂を上っていた。
「暑い!!
何でこんな暑いんだ!!避暑地のはずなのに!!」
「日中は暑いに決まってるでしょ……
夕方には涼しくなるよ」
「クソォ……暑い」
「暑い暑い言うな!こっちまで暑くなる!」
坂を上り切り二人はようやく、輝三の家に着いた。玄関の引き戸を開きながら、龍二は美子の名を呼んだ。
「伯母さーん!
あれ?居ないのか?」
「畑の方に行ってるんじゃないの?」
「可能性あるな。
ちょっと、畑の方見て来るわ」
「分かった」
荷物を置き、龍二は裏へと回った。残った麗華は、玄関前に座り携帯を開いた。しばらく携帯を弄っていると、話し声が聞こえ顔を上げて声の方に目を向けると、陽一達がやって来た。
「あ!麗!」
「今回は早く来たんだ、陽」
「父ちゃんの店が珍しく作り終わってな!」
「お盆中に予約したお客様達の和菓子を、従業員一同でたくさん作ったからね……」
「おかげで手が痛いわ」
「姉貴は俺と父ちゃんが作った和菓子を、箱に詰めてた作業してただけやないか」
「箱詰めも大変なんや!!」
「だから陽、手ぇ火傷だらけなんだ」
「あぁ。餡子煮てたら、結構はねてなぁ」
火傷の跡を見て、心配そうに自分の腕を撫でる麗華に陽一は頬を少し赤くした。
「あんた、顔赤いで」
「この日差しのせいや!!」
「あらあら、もう来たの?」
庭の方から、ガーデニング帽子を取りながら、美子は龍二と共に玄関へとやって来た。
「あら姉さん、仕事やっての?」
「ちょうど収穫時だったから、あなた達が来るまで作業を進めちゃおうと思ってて。
さぁ、上がって頂戴!」
荷物を手に持ち、麗華達は家の中へと入った。部屋に荷物を置き一息吐くと、引き戸を勢い良く開く音と共に、騒がしい声が響いた。
「コラ拓海!靴を揃えなさい!!」
「麗華お姉ちゃんいる?!」
「果穂!走らない!!」
部屋から出た麗華を見つけると、果歩は一目散に駆け寄り彼女に飛び付いた。
「相変わらず、果穂は麗華にベッタリだな」
「果穂!!
ごめんねぇ、麗華ちゃん」
「あ、いえ……私は別に」
「麗華姉ちゃん、みっけ!」
そう言いながら、麗華の背後に誰かが抱き着き振り返るとそこには大雅が抱き着いていた。
「あら泰明、里奈。随分早かったわね」
「思ったより仕事が早く終わって」
「お袋、親父は?」
「夜に帰ってくるわ。どうしても忙しくて、何とか二日間だけ休みは取れたみたいだけど……」
「じゃあ、じいじとお祭り行けないの?」
「つまんなーい!」
「お義父さん、お仕事大変なんですか?」
「えぇ、ここのところずっと」
「体壊さなきゃ良いけど……」
「姉貴と一緒で、頑丈だから大丈夫だろう」
「何ですって!」
「こら!喧嘩は止めなさい!
輝一、来て早々悪いけど龍二君と泰明と文也さんと一緒に買い出し行って来てちょうだい」
「あ、はい」
「麗華ちゃん、陽一君と一緒に下町にある和菓子店でお団子買ってきて頂戴」
「はーい」
「あいよー」
「里奈と真理奈さんは私達と一緒に、台所の準備と明日の墓参りの準備をお願い」
「はーい」
「私、麗華お姉ちゃんのと一緒に行く!」
「あ!俺も!」
「僕もぉ!」
果穂の意見に賛同するようにして、大雅と拓海は手を挙げて自分も行くとアピールした。里奈と真理奈は少し困った表情を浮かべながら、やんわりと説得を始めた。
「大雅、お姉ちゃん達が行く所は坂を下った所にあるの。とっても遠いの。
だから、お母さんと一緒にお家でお祖母ちゃんのお手伝いしよう。ね?」
「嫌だ!」
「大雅ぁ……」
「拓海、今から行く所はたくさん歩くの。疲れても誰も抱っこもおんぶもしないよ?」
「でもお姉ちゃん行くじゃん。だから僕も行く!」
「お姉ちゃんも行かないわよ」
「私は行くけど」
「果穂!!」
「拓海はママと一緒にお留守番!
泣き喚かれたら困るし」
「嫌だぁ!行きたいぃ!」
「里奈さん、果穂の事は私が見ますので……」
「大雅も俺等がしっかり見とるから、真理奈さんは安心して体休めて下さい」
「でも、任せるのは」
「大丈夫よ。うちの息子、こう見えて結構小さい子の面倒見は良いから。
それに、麗華ちゃんもしっかりしてるし、何かあったら焔達が守ってくれるわよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。
麗華ちゃん、陽一君、大雅の事お願い」
「応!任せとき!」
胸を軽く叩く大輔と嬉しそうな表情を浮かべる大雅の姿を見て、拓海は半泣きしながら里奈に言った。
「大雅お兄ちゃんもいいんだから、僕もいいでしょ?!
ねぇ、僕も行く!僕も!」
「里奈さん、もう面倒なんで連れて行きます」
「本当に申し訳ない……麗華ちゃん」
「そんな、土下座しなくても」
「土下座するなら、拓海を抑え込めばいいじゃん」
「アンタが行かなきゃ全て収まるの!!」
怒鳴る里奈を文也は連れて、二階の部屋へと行った。泰明が何かを言い掛けた時、真理奈と龍二は慌てて口を塞いだ。
夕方……
ヒグラシが鳴く中、街灯が点々と点く坂を輝三は歩いていた。
「あぁ!ジィジ!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると袋を二つ持った麗華と彼女の手を繋ぎ歩く大雅、陽一におんぶされた拓海と、不機嫌そうに頬を膨らませる果穂が歩いていた。
「どうしたんだ?お前等」
「団子買いに下の町まで行ってて、その帰り」
「……拓海は何でおんぶされてんだ?」
「長い距離歩いたから、疲れたって」
(二倍疲れたわ……)
「ジィジ、早く帰ろう!バァバが美味しいご飯作って待ってるよ!」
「そうだな。
拓海、もうすぐ家だ。こっからは自分で歩け」
「ハーイ……」
陽一の背中から降りた拓海は、彼の手を握って歩き出した。果穂は輝三の手を引きながら帰路を歩いて行った。
「ただいまぁ!
ジィジも帰って来たよー!」
玄関の引き戸を勢い良く開きながら、果穂は靴を脱ぎ揃えると家に上がった。彼女の後を追うようにして、拓海は玄関の台に座り靴を脱ごうと、手を掛けた。
「里奈ぁ!タオル持って来い!」
「ハーイ!
って果穂、拓海は?」
「玄関にお姉ちゃんといるよ」
「拓海の靴脱ぐの、手伝ってあげなさい!!」
「手ぇ出そうとすると、いつも『自分でやる!』って泣きわめくから嫌だ!」
「アンタねぇ!!」
「里奈、少し怒り過ぎだ。
果穂、大雅連れて手ぇ洗ってこい」
「はーい。
大雅行くよ!」
「あ!待って!」
靴を脱ぎ揃えると、大雅は慌てて果穂の後を追い掛けていった。拓海は二人を見ると、慌てて靴を脱ぎ捨てて彼等の後を追い掛けた。
「拓海!靴は揃えなさい!
もう!」
靴を脱ぎ揃えた麗華と陽一は、台所から出て来た美子に団子と道中近所の人から頂いた物を渡した。