外部からでも自由に出入り出来る学食へ行くと、そこでは数人の大学生がノートパソコンを前に、様々な書物を広げてキーボードを打っていた。
その中には龍二もおり、彼は麗華に気付くと席から立ち彼女の元へ行った。
「どうしたんだ?こんな時間に」
「学校、事件起こって早く終わったの」
「事件?」
「ねぇ、今話しできる?」
「構わねぇけど……どうしたんだ?」
「鈴海高校の怪談話について、調べたいの」
テラスに置かれているテーブルに移った麗華は、龍二のパソコンを借りフロッピーに保存されていた資料を読んだ。
「一応、俺等の高校で起きた怪事件はそれで全部だ」
「スゴォ、退治の仕方も書いてる」
「手強い奴がいたからな。
もし、麗華が入学した時に封印が解けたときの対処だと思って残したんだ。使わずに終わればいいんだけど」
「兄貴の時は無かったの?
演劇部の事件」
「あったあった。
けどあの時に、成仏させたはずだけど」
「え?成仏って」
「俺等が聞いた話だと……
演劇部で主役やるはずだった子、事故で亡くなったんだよ。
急遽、代役を作り劇をやろうとした……けど、奪われたって勘違いしたみたいでそれからはずっと……
俺が高校入った時それを聞いて……霊を呼び出して、ちゃんと事情を話した。まぁ、色々攻撃は受けたけど」
「でも、ちゃんと成仏したんでしょ?」
「あぁ。俺等の代の演劇部の舞台見て……ちゃんと成仏した」
「……」
「それで、演劇部の発表は?」
「延期になるかもしれない。事件が収まるまでは」
「だろうな」
数時間後……
「……手掛かり無し」
ノートパソコンを返しながら、麗華はテーブルに伏せがっかりしたように言った。そんな彼女に龍二は自販機で、ジュースを買い差し出した。
「これでも飲め」
「うー。
やっぱり、兄貴が除霊した霊が蘇ったのかなぁ」
「そうだとしたら、俺の除霊は失敗した可能性が高いって事か……」
「……そんじゃあ、今度は私が除霊しなきゃね」
「迷惑掛けるな」
「本当……
てか、大丈夫なの?」
「何が?」
「卒論」
「今それを言うな。
さっきの席にいた奴等、卒論の事でピリピリしてんだから」
「……今日も遅いの?」
「まぁな……先休んでていいぞ」
「夕飯は?」
「軽めに作っといてくれ」
「りょーかい。
じゃあ、帰るね」
飲みきった缶ジュースを捨てながら、麗華はそこから立ち去ろうとした。
「麗華!」
「?」
「無理するなよ」
「大丈夫。
今度は星崎がいるから」
「そうか……」
「それに、平野先輩達もいるし」
「……」
「じゃあね」
龍二に笑顔を見せ、麗華は去って行った。麗華を見届けた後、龍二は缶コーヒーを飲み切り捨て自身を呼ぶ声の元へ駆けて行った。
夜……杏莉は一人、センター街を歩いていた。
(……何で……何で、私があんな目に)
思い出す朝のこと……朝練に来た杏莉は、部室へ行きドアを開けた。部屋の光景に驚いた彼女は、悲鳴を上げ腰が抜け座り込んだ。
(一体誰が……
主役決めは、先輩が平等に決めたし……
私は何もしてない……ズルもしてない……なのに)
『よくも、主役を奪ったわね』
「?!」
声が聞こえ杏莉はすぐに後ろを振り返った。そこに立っていたのは、茶髪の髪に赤いリボンを付けた少女。
「ア、アンタ……」
『許さない……私から、よくも主役を!!』
その時、彼女の前に店の看板が落ちてきた。杏莉は驚き地面に尻を突き、看板を見た。看板の上にはあの少女が立っていた。
『許さない……貴女も私と同じ所に逝かせてあ・げ・る』
微笑みながら、少女はスッと姿を消した。
「キ…キャァァアアアアア!!」
翌日……
看板が落ちた場所へ来た麗華……焔は、看板を見ながら彼女に話した。
「微かだが、霊気感じる」
「やっぱり……
池蔵さんが言うには、看板前にいた女の子怯えきってとても話せる状態じゃなかったって」
「その子、今日学校休んでるんだろ?」
「多分ね。まぁ、私も休んでるけど」
「仕方ねぇよ。
今朝、あれだけ咳き込んでたんだから……おまけに吐血してたし」
「咳し過ぎて、喉切ったの!」
「ヘイヘイ」
「全く、兄貴本当になんか厳しくなってる……」
「それだけ、麗華の事が心配なんだよ」
「だからって、やり過ぎにも程がある」
「麗華?」
「?」
自身の呼ぶ震えた声が聞こえ、麗華は後ろを振り返った。同じ様にして、傍にいた牛鬼と安土も振り返り焔は鼬姿へとなり麗華の肩に乗った。
そこにいたのは、怯えた表情をした杏莉だった。
「白鳥」
「何で……麗華が、ここに?」
「アンタと同じ、学校休んだの」
「でも、何で」
「看板落ちたって、この二人から聞いてね」
「どうも!前に学校であったことあるよね?」
「……」
「白鳥、聞きたいことがあるんだけど……」
「え?」
「牛鬼、店貸して」
「構わないぞ」
場所は変わり、牛鬼達の喫茶店へ来た二人。杏莉は出されたコーヒーに手を付けずずっと、下を向いたままだった。カウンターに座っていた安土は、思わず口を開いた。
「ねぇ、何か話したら?」
「……麗華、コイツ誰?」
「コイツって」
「糸川安土。この喫茶店で住み込みで働いてるんだ。お兄さんの牛鬼と」
「へ~……」
「つーか女、いつから麗華の名を呼び捨てで呼ぶようになったんだ?」
「体育の時間、クラスの皆を名前で呼び合えってゲームがあって、その成り行きでアタシと朝妃はそのまま下の名前で呼んでるの」
「フーン」
「牛鬼、いい加減コイツを黙らせて」
「応」
麗華の言う通り、牛鬼は安土の首を強く叩いた。安土は口から魂が抜けたかのように倒れ気を失った。
「さてと、本題に入ろうか」
「!」
「白鳥、今回の主役……」
「違う!!
奪ってなんかない!!」
「……」
「先輩が……先輩が平等に決めたのよ!!私はズルなんかしてない!!」
「白鳥の言い分はよく分かる。
私も、演劇部にいる先輩から話は聞いたし」
「じゃあ何で……」
「霊は信じるみたいだね」
「うん……前に、怖い目にあったから」
「え?」
「小二の時、学芸会があったの。その時私、白雪姫の役をやったんだけど……
変な嫌がらせが続いて、当時学校の関係者だった人が霊視したの。そしたら私に霊が憑りついてて……それを除霊して貰ったら、嘘のように嫌がらせが消えて……」
「へ~……
他に、劇はやったことある?」
「いっぱいあるよ、そんなの。
私、中学からずっと演劇部だったから。小学校の時だって、学芸会で何度も」
「……」
「そういえば何で、こんな話を聞くの?」
「知り合いの刑事さんの手伝い。
アンタ、事情聴取の時真面な答えを出してくれなかったって聞いたから。それで」
「……」
「白鳥さ、劇で代役貰ったことある?」
「え?
あ、あるけど……
小六の時だった……眠り姫をやった時、私最初は魔法使いの役だったの。だけど、突然先生が主役を私にって。
もちろん、初めは断ったわ!だって、あの子凄いやりたがってたんだもん!!」
「あの子?」
「三森鈴子(ミモリスズコ)。凄い演技が美味くて、子役のオーディションに受かってた女の子。そして、私の目標でもあった。
お姫様役で、私と鈴子が候補に上がった。多数決で決まって、鈴子になった。鈴子もスッゴイ喜んでた……そんな彼女が、突然私に」
「でもやった……そうでしょ?」
「……皆の努力を無駄にしたくなった。
劇が終わった後、鈴子に話そうと家へ行った……けど、家はもう物家の空だった。
先生に聞いたら、鈴子……誰かに階段から突き落とされて、意識が戻らなくなってしまったって」
「……」
「それからだった……私が主役になる度に、必ず嫌がらせが来るようになったのは」
「……その鈴子って子かもね。今回の原因は……」
「え?」
「意識不明だったけど、つい最近亡くなったんだと思う。
それで、お姫様役を出来なかった無念を晴らそうと、白鳥の憑りつき主役の座を下ろそうとしている」
「そんな……」
「知り合いに霊媒師がいるから、その人にアンタの事お願いしとくね」
「うん……
麗華」
「?」
「麗華は……親友を失った事ってある?」
「え?」
「私と鈴、ライバルで親友だったんだ。
初めて会ったのは、小一。同じクラスで隣同士の席になって……クラスでお楽しみ会をやった時、鈴の演技に私見とれちゃって……鈴もね、私の演技に見とれたって言ってくれて……そこから、親友になったんだ」
「親友ね……ゴロゴロいるわ。
中でも、人じゃない奴もいるけどね」
「人じゃない?」
「じゃあね」
「え?どこ行くの?」
「散歩しながら、帰るの」
「……明日、来る?」
「兄貴がいいって言ってくれればね。じゃあ」
笑みを浮かべ、麗華は焔と共に店を出て行った。
「兄貴がいいって……どういう事?」
「麗華の奴、体弱くてな。
兄貴がそれに凄い神経尖らせてて……兄貴が駄目って言えば、アイツは学校にいけないんだ」
「……そうなんだ」
夜……
桜雨堂の饅頭を食べる麗華……すると、傍に置いてあった携帯が鳴り麗華は手に取り画面を開いた。画面には一見のメールが届いており、開いてみると梅の花の和菓子と成長した陽一の姿が映った写メと『新作!梅の花や!綺麗にできたやろ?!』という文が書かれていた。
麗華は笑みを浮かべ、返信した。そして携帯を置くと空を見上げた。