陰陽師少女   作:花札

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携帯を切った麗華は、不機嫌そうにボタンを押しどこかへ電話した。その様子に、杏莉と朝妃はスッと大輔の元へ寄り、小声で話した。


「ねぇ、何であんなに不機嫌なの?

麗華って、ブラコン?」

「いや、多分あれの事で怒ってんだろう」

「あれって?」

「本人に聞け」


「ショウ!瞬火!」


その名を呼ぶと、奥の部屋から子猫達を連れた親猫が2匹が出て来て歩いていく彼女の元へ駆け寄った。


「何で猫なんか呼んだのかしら?」

「さぁ……

まさか、あれ普通の猫じゃないんじゃ」

「……」


神楽舞の準備

「麗華ぁ!居るかぁ!」

 

 

玄関の戸が開く音と共に、外から二人の男が入ってきた。居間から杏莉と朝妃は玄関を見るようにして、襖から顔を覗かせた。

 

 

「あれ?あの人達って、確か」

 

「麗華がよく行く、喫茶店の人達だ」

 

 

廊下を駆けてきた麗華は、牛鬼と安土から酒瓶を数本受け取ると二人を台所へ行かせた。

 

 

「とりあえず、店にあったもの作って持って来たけど……」

 

「ありがとう。桜雨堂は?」

 

「受け取ってきた。

 

 

間に合うのか?てか、やるのか?」

 

「中止にしたくても、どうせ雨を止ませるよあいつ」

 

「あり得るな」

 

「あいつ、お前の舞を見るが為に生きてるって言ってたもんな」

 

「だからだよ」

 

「神楽殿は平気なのか?」

 

「ショウ達に掃除させてる」

 

「今日の舞は、どんな感じにするんだ?」

 

「氷鸞の琵琶だけ。

 

 

水を使っての舞(着物出さないと)」

 

「機嫌悪いな?あれか?今日」

 

 

言い掛けた安土の顔面に、麗華は蹴りを入れた。彼女は歩み寄ると、倒れた彼の胸ぐらを掴み起こした。

 

 

「今日あれじゃないし、兄貴がこの雨で川が氾濫したから帰宅無理になったわけでもないし、物を揃え様にもあの人達が来たら対応しなきゃいけないってわけじゃないし、それを全て一人でやらなきゃいけなくて、イライラしてるわけじゃないから」

 

(機嫌悪い理由、それか)

 

(そういえば、麗華は舞の準備しながら裏に回ってたな)

 

「台所、任せたよ。お二人さん」

 

「は、はい」

 

 

台所から出てきた麗華に、不思議そうな顔をした杏莉は前に立ち質問した。

 

 

「何、舞って?」

 

「……神楽舞」

 

「今日、神楽舞するの?」

 

「そう」

 

「お祭りか何かなの?」

 

「まぁ、人ならざる者達が集まる宴会」

 

「人ならざる」

 

「者達……」

 

「……!

 

妖怪に見せる舞!」

 

「そうだよ……(山本達がいるの、すっかり忘れてた)」

 

「何か手伝うことある?手伝うよ?」

 

「え?」

 

「雨宿りさせてもらってお風呂まで入らせてもらったから、何か手伝うよ」

 

「……いやいい。

 

星崎はともかく、あんた等は食われる」

 

「何でそんな怖いことを……」

 

「これから来る妖怪達は、神領域のものがいる。

 

手伝わせて、私達以外の人の匂いを嗅いだら何が起きるか」

 

「麗華の式神、つけておけば」

 

「雷光達が、対応できればいい話」

 

「……」

 

「ちょっと聞きたい、何で星崎は平気なんだ?」

 

「俺には、こいつ等がいるから」

 

 

軽く口笛を吹くと、姿を消していたメル達が姿を現し大輔の肩と頭に座った。

 

 

「あらこの子達、島でゲットした」

 

「顔に似合わず、そんな可愛いキャラの妖怪連れて歩いてるなんて」

 

「置いて行こうとすると大泣きするんだよ、こいつ等!」

 

「すっかり、お父さんね」

 

「っ……」

 

「(ヤバイ、時間がない……

 

家の中での手伝いだけなら、襲われることはないか……牛鬼と安土、時雨がいるし。

 

 

外には、牛鬼が連れてきた杏がいる……何とかなるか)

 

 

立花、白鳥、二人は台所で牛鬼達の手伝いをしてくれ」

 

「分かったわ」

 

「オッケー!」

 

「牛鬼、安土、二人を頼む」

 

「あぁ」

「りょーかい!」

 

「山本と大野は神楽殿に、一緒に来て。星崎達も」

 

 

彼等を連れて、麗華は神楽殿へと向かった。腕捲りをしながら、杏莉と朝妃は台所へと立ち牛鬼達の手伝いをし始めた。

 

 

神楽殿へ来ると、人の姿となったショウと瞬火が舞台から降り、後から二人の子供が降りている最中だった。

 

 

「あれ?姐さん」

 

「神楽殿の掃除は終わった?」

 

「あぁ、一応」

 

「じゃあ、この三人使っていいから飾り付け、お願いしていい?」

 

「やるー!!」

「えー!?

 

花、姉ちゃんの着物手伝う!」

 

「いや、着物準備より神楽殿飾り付けてくれ」

 

「手伝う!手伝う!」

 

「花!わがまま言うな!」

 

 

ショウ達と話す麗華を見ながら、卓也は翼に小声で話しかけた。

 

 

「ねぇ、あの人達いつからいた?」

 

「さぁ……」

 

「あいつ等、さっきの猫」

 

「え……」

 

「あの猫、妖怪だったの?」

 

「この神社に、普通の動物はあんまりいないから」

 

「……」

 

 

その時、小降りだった雨がスッと止んだ。引き攣った表情を浮かべながら、麗華は駆け付けてきた安土と共に、神楽殿を去って行った。

 

 

 

階段脇に並べられた灯篭に、焔は火を点けて行きやって来た客人を神社へと誘導していった。神社の境内で鳥居の前に、麗華は提灯を下げながら点火を終えた焔と共に出迎えた。

 

 

「今宵も、我が山桜神社へお越し頂きありがとうございます」

 

「ほぉー、今宵は桜巫女が出迎えか」

 

「桜巫覡はどうした?」

 

「巫覡は、人間界の方で問題が起き、そちらの対処に行っております」

 

「という事は、今夜はあなただけって事ね?」

 

「噛みつこうとしたら、私の式達が容赦しませんよ?」

 

「あら、怖~い」

 

「それでは、神楽殿の方へ。焔」

 

 

大狼から人の姿へとなった焔は、麗華から提灯を受け取り彼等を神楽殿の方へ案内した。全員が神楽殿へ行った後に、大輔達が茂みの中から姿を現し麗華の元へ駆け寄った。

 

 

「相変わらず、スゲェ大群だな」

 

「疲れる……

 

神楽殿の飾り付けは?」

 

「超即急でやったから、大体出来てる。後は火を灯すだけだって、ショウが」

 

「良かった……間に合った」

 

「それより姉御、早く着替えないと舞の時間に間に合わねぇぞ」

 

「はーい……」

 

「そんな低いテンションでどうすんだよ……

 

瞬火、手伝ってくれ」

 

「はい」

 

「あぁ!花も手伝う!」

 

「アンタは邪魔しかしないでしょ!」

 

「嫌だ!手伝う!」

 

「言い合いはいいから、手伝うなら手伝って!」

 

「は、はい」

「は、はい」

 

(相当追い込められてるな……)


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