陰陽師少女   作:花札

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砂浜……
テントの中で、大輔の膝に頭を乗せて樹梨と海斗は気持ち良く眠っていた。


「すっかりお兄ちゃんに甘えちゃって」

「気持ち良さそうに眠ってますね」

「良い兄貴してんじゃねぇか?」

「こいつ等いなかったら、テメェのその顔面を殴ってるところだぞ」

「ちょっと、暴力はよくありません!」


騒ぐ彼等の元へ、シガンが駆け寄り大輔の肩に乗ると頬擦りした。


「あれ?そいつ、確か神崎の」


振り返ると、あくびをしながら麗華が杏莉達と歩み寄ってきていた。


「麗華!」

「起きてもう平気なのか?」

「まぁね」

「そういや、町長から金ガッポリ貰うつもりなんだろう?」

「その予定。

余計な仕事を増やしたから、報酬の二倍は貰う」

「……なぁ、前から思ったんだが……

お前、小学生の頃から依頼とか受けてんだろう。その妖怪退治」

「え?そうだけど?」

「嘘?!麗華、そんな小さい頃からこの職業してるの?!」

「普通に違反じゃ」

「兄貴が16だったから、良いの!

それに、保護者である輝三の同意も貰ってる!」

「そ、それでよ、その報酬ってどうしてんの?

やっぱり、生活費とかに充ててんのか?」

「いや、神社の維持費に充ててる。


生活費とかは、輝三や輝一伯父さんから定期的に貰ってるし……」

「学費は?」

「……え?学費は…って、人ん家の家庭事情に首を突っ込むな」

「惜しい、あともう少しだったのに」


久留美達と話す麗華の後ろから、ニア達が現れ彼等を気にしながら大輔の傍へ行き肩と頭に乗った。入れ違いに、肩に乗っていたシガンは彼から降りると麗華の元へと戻った。大輔は頭に乗ったメルを自身の手に乗せながら、彼は麗華の方を見て話した。


「そういや、こいつ等はもう良いのか?」

「輝三が言うには、別に害はないって。

詳しく話を聞きたいなら、聞きに来いってさ」

「……考えとく」


渋い顔をした大輔に、ニアとリユは元気付けようとしているのか頬擦りをした。


「お、おい、止めろ!」

「元気出せって!」

「何でお前が分かるんだよ」

「女の勘」

「……」

「大輔、あと一年待てば法律上九条と結婚できるぞ」

「っ!!

晃義!!テメェ!」


眠っている樹梨と海斗を久留美達に渡すと、大輔は走り出した晃義の後を追い掛けていった。その光景に一同は大笑いした。


得たもの

翌日……

 

 

島にある墓地……墓石の前に立つ大輔は、花を添え線香を上げた。彼の傍には、久留美と海斗、樹梨がいた。

 

 

「こんな奥にあったんだ……大輔のお祖母ちゃんのお墓」

 

「昔、本当のお袋と一緒に来たことがあったんだ。

 

その地図と住所が書いたメモを、ずっと保管してあって……まぁ、それをちょっと思い出して」

 

「ずっと忘れてたって事?」

 

「仕方ねぇだろう。凄え昔だったんだから」

 

「お兄ちゃん、ここ誰がいるの?」

 

 

大輔の袖を引っ張りながら、樹梨は質問した。

 

 

「俺達の祖母ちゃんだよ」

 

「お祖母ちゃん?」

 

「僕達にいたの?」

 

「お前等が生まれるずっと前に亡くなってる。

 

俺も会った覚えがない」

 

 

墓石に手を置きながら、大輔は静かに言った。彼の真似をして、樹梨も墓石に手を置き続いて海斗も手を置いた。

 

 

「……冷たい」

 

「石だからな」

 

「そういえば、麗華は?」

 

「今頃、親父達を脅してるだろうよ」

 

「脅してる?どういうこと」

 

 

 

 

町長宅

 

 

不機嫌そうな顔で、町長達を睨む麗華。向かいに座っている町長は、頭を深々と下げていた。

 

 

「本当に済まなかった!」

 

「島に祀っている妖達くらい、把握しとけ」

 

「申し訳ない……」

 

「ったく」

 

「麗華、それくらいにして」

 

「龍実兄さんは甘いの!

 

 

それで、今回の元凶である星崎さんは?」

 

「そ、それが……仕事があると、小島へ」

 

「……学習しないの?あの馬鹿は」

 

「麗華!」

 

 

小島……ボロボロの祠に、俊輔は花と水を添え手を合わせていた。その時、微風が吹き彼は振り返った。

 

そこには、焔から降りる麗華と龍実だった。

 

 

「……君は」

 

「今更、そこを参拝しても何もいやしないよ」

 

「……」

 

「今はここにいるけどね」

 

 

持っていた鞄の中から、ヒョッコリと三人は顔を出した。順々に彼等の頭を撫でながら、麗華は俊輔を睨んだ。

 

 

「整備は予定通り続行するんでしょ?

 

良かったね、工事が中止にならなくて」

 

「……聞きたいことがある。

 

大輔は、東京でちゃんと生活できているのか?」

 

「何で聞くの?本人に聞けば良いじゃん」

 

「……」

 

「奥さんからしたら、前の奥さんとの間に出来た子供なんていらない。子供は、あの子達二人だけでいい……

 

 

中学卒業すれば、働けるようになる。だから、追い出したんでしょうね」

 

「……」

 

「麗華、少し言い過ぎだ」

 

「人ん家のゴタゴタに首突っ込む気は無かったけど……

 

星崎に関しては別。二人揃っているのに、誰も見ようとしない……」

 

「そう言えば、君にはご両親がいなかったんだね」

 

「だからなんですか?」

 

「……前妻を追い出したのは、確かに私だ」

 

「浮気したアンタのせいでしょ?」

 

「どこまで調べているんだ、私のことを」

 

「さぁね」

 

(こいつ、怖え……)

 

「親権争いの際、経済的に私が有利だった。

 

だから、私の元に置いた……ところが、香苗には懐かなかったんだ」

 

「……」

 

「仕事が忙しくなっていき、家のことは全て家内任せていた」

 

「これからどうする気なんですか?

 

未成年の一人暮らしって、結構問題起きますよ?」

 

「……」

 

「……フー。

 

星崎は、ちゃんと生活できています。何かあれば、私が手を貸しています」

 

「……そうか」

 

「これ以上の事は、本人の言葉から聞いて下さい」

 

 

焔の背に飛び乗る麗華……彼女に続いて、龍実も飛び乗り二人は去って行った。

 

一人残された俊輔は、祠をじっと見ながらしばらくの間そこに呆然と立った。

 

 

 

 

夕方……

 

 

港で杏莉達は、久留美達との別れを惜しんでいた。

 

 

「また遊びに来るからね!」

 

「今度は鈴村先生連れてこいよ!」

 

「その前に、これ先生に渡して!

 

クラス皆からの手紙って言って」

 

「分かった、渡しとくよ」

 

「ほったらかしだったな、俺等って」

 

「まぁ良いじゃん。恵ちゃんは、結構楽しめたみたいだよ?」

 

「お兄ちゃん、また行きたい!」

 

「時間できたらな」

 

 

彼等から少し離れた場所で、大輔は久留美と二人っきりになっていた。

 

 

「今度は、冬休みに帰ってきてよ!」

 

「あーハイハイ」

 

「何、その返事!

 

遠距離恋愛なんだから、少しは…!」

 

 

 

彼女を抱き寄せる大輔……頬を赤らめる久留美に、彼は小声で言った。

 

 

「ありがとな。今回は」

 

「大輔?」

 

「お前いなかったから、妖怪に精神奪われてた。

 

お前がいたから、理性保てた」

 

「……」

 

「一つ頼んで良いか?」

 

「何?」

 

「俺がいない間、海斗と樹梨を頼む」

 

「……」

 

「あいつのことだ……何しでかすか」

 

「……分かった。

 

でも、条件がある」

 

「?」

 

「電話して」

 

「ハァ?」

 

「電話して!メールでも良い!

 

状況報告して!しなかったら、麗華に言いつけてやるから!」

 

「何でそこで神崎なんだよ!」

 

「アンタの見張り台だからよ!」

 

「っ…」

 

 

何も言い返せない大輔……その時、出発を合図する汽笛が鳴り響いた。船に乗る杏莉達に続いて、乗ろうとしていた麗華は振り返り、彼の名前を呼んだ。

 

返事をしながら大輔は、彼等の元へ行こうとした時だった。突然、腕を引っ張られた彼の頬に柔らかい何かが当たった。

 

 

「……」

 

(あらま……)

 

「お、おま」

 

「ほら!早く行かないと、船に乗り遅れるよ!」

 

 

笑顔で言いながら、久留美は大輔を引っ張り麗華達の元へ駆けていった。




鬼麟島を出た船の上で、海をボーッと眺める大輔に麗華はニヤついた顔をしながら、彼の方を見た。


「浮かれてんの?星崎」

「うるせぇ……慣れてねぇんだ」

「だろうね」

「あいつ等に見られなかっただけラッキーか」


すると麗華の鞄が動き、中からニア達が出て来て大輔の元にくっ付いた。


「嫌がってた島行ったら、良いもの得たね」

「……」

「何か困ったら、連絡しな。力にはなるから」

「そのつもりだ」


くっ付くニア達を、大輔は笑みを浮かべながら順々に、彼等の頭を撫でた。

その時、杏莉と朝妃が駆け寄りニア達を見ながら楽しそうに彼等に話し掛けた。大輔と麗華は、その話に入りながらニア達を撫で、後から卓也達も加わりニア達を見ながら話の輪へと入った。


楽しそうに笑う大輔……その表情に、メルは少し安心したような表情を浮かべて眺めた。

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