私は、長くは生きられないからね』
『誰だ?』
同じ霊力……還ってきた?
どうしても、島の外を見てみたいんだ。
大丈夫。必ず、帰ってくる。
『明子はもう死んだよ』
そんな……
この土地は、もうじき消えるらしいよ……
まだ、メルが帰ってきてない!
でも他の仲間達皆、別の所移されてた。
私達、忘れられたのかな……
早く、伝えなきゃ……
島に災いが来る……
でも、体が無い……どうすれば……
明子の同じ霊力……あいつの体を借りよう……
心の隙間が実ってる……昔より……
今なら入れる。
「神崎!!いるか!?」
息を切らして、龍実達の家へ晃義は駆け込んできた。居間にいた龍実は、縁側から彼の元へ駆け寄った。
「晃義、どうした?」
「海が……た、大変なんだ」
「え?」
自宅から飛び出した龍実は、その光景を見て目を疑った。
干上がる海岸……港に浮かんでいた船達は皆、座礁していた。
「海が消えた?」
「嘘だろう……」
「大空!!今すぐ、必要な荷物まとめろ!!」
「う、うん!」
「お前等もだ!早くしろ」
「は、はい!(何いきなり……)」
「母ちゃん!!必要な荷物持ったら、高台の方に避難!
晃義、島の大人達全員に伝えろ!俺は町長の所に行って来る!!」
「分かった!」
急いで靴を履くと、龍実は玄関を飛び出していった。その間に、大空はすぐに別室にいる母親に声を掛け仏壇に飾ってある父の写真を手に取った。
「ねぇ、何事なの?
そんなにヤバいの?」
「津波だよ……」
「え?」
「馬鹿デカい津波が、こっち来ようとしてんだよ!」
「嘘……」
「とにかく、早く荷物まとめろ!!
大空、こいつ等のこと頼んだぞ!」
「うん!分かった!」
その異変は、麗華達にも感じ取れていた。不穏な風が吹いたかと思うと、メル達は空へと飛んでいきその後を麗華は焔に乗り空へ飛んだ。
「……え?」
「海が……消えた?」
「やっぱり……
時間がない」
心配そうに海の向こうを眺めるニアとリユを背に、メルはスッと麗華達のほうを向き口を開いた。
「この体の持ち主は、かつて我等をこの島に呼んだ巫女の孫だ」
「なぜその巫女の孫の体に、アンタが入っているんだ?」
「海の向こうへ行った際、我の体は力尽き消えてしまった。
魂だけとなった我は、この島に降りかかる災いを食い止めるが為にここへ戻ってきた」
「そんな……」
「じゃあ、メルはもう……」
「体がないことは分かった。
けど、ここでもこの状況を解決したとしたらその体の持ち主はどうなるの?」
「……分からない。
けど、明子の孫だ。多少は耐えられる」
「星崎は助かるだろうけど……アンタ達は消えるってことは分かってるよね?」
「っ……」
「え?メル消えちゃうの?」
「メルだけじゃない。
アンタ達二人共、今回の災いを止めれば……おそらく消える」
「どうして……どうして!!」
「信仰する者がもういないからだ。
感じたんじゃないの?島に住む他の仲間達は、ちゃんと別の島に移されて祀られているのに……
アンタ達の祠は、長く伸び切った草むらに隠れて誰一人探そうとしなかった」
「長年、島を守ってきたのに……私達は、忘れられたの?」
「でしょうね」
涙を流すリユ……泣く彼女を、ニアは慰めるようにして背中を擦った。その時、焔は耳を立てながら海の向こうを見るなり、驚いた声で麗華の名を呼んだ。呼ばれ彼が向いている方向に目を向けると、そこには巨大な波が押し寄せていた。
「うわぁぁ!!大津波だ!!」
「前より大きい!!」
「止めに行くぞ!!
おい、女童」
「?」
「島の人間達に、このことを伝えに行け!」
「言われなくとも!
雷光!!三人に力を貸して!!後から私達も加勢する!!」
「承知!」
焔の頸を撫でると、麗華は急いで島へと戻った。人の姿になっていた雷光は白馬の姿へと変わり、目の前に迫っている大津波に目を向けた。
大急ぎで島へ戻ってきた麗華は、高台にある市役所の中へ入った。そこには慌ただしくする町長達と指示する龍実がいた。龍実は彼女に気付くと、荷物を置きすぐに駆け寄り外へ出て話した。
「お前も知っての通り、大津波が来る。
今、島中の人達を高台に建ってる中学校の体育館に避難させてる」
「分かった。私はこのまま、精霊達の手伝いをしてくる」
「止められるのか?津波を」
「分からない……
それに、今あいつ等だけに出来ない」
「?」
“バーン”
突然鳴り響く雷……ふと海の方を見ると、目の前に空に届くほどの津波が押し寄せていた。
「……大津波だ!!」
「早く非難させて!!
氷鸞!島の人達をお願い!!」
「分かりました!
焔!麗様を頼みましたよ!!」
「応!」
大黒狼の姿になっていた焔の背に飛び乗った麗華は、雷光の元へと急いだ。
中学の体育館……
避難してきた島の住民達……状況をまだ把握出来ていない小さな子供達は、走り回り遊んでいた。
体育館の隅っこでは、七海達が共に避難した樹里と海斗と遊んでいた。その間、久留美は携帯に耳を当ててどこかに掛けていた
「……駄目だ、出ない」
「麗華達、まだ出ないの?」
「うん……(大輔、大丈夫なのかな)」
「おい!外、やばいことになってるぞ!!」
晃義の呼び声に、久留美達は外へ出た。いつも見えていた海はなく、目の前に自分達が住む島に迫り寄ってくる波が代わりに見えていた。
「な、何あれ」
「島が……沈む」
「あんなの来たら、皆終わりよ」
「……」
事の重大さを知ったのか、親の側にいた小さい子や先程まで騒いでいた小学生達が怖くなり泣き出した。それにつられて樹里と海斗も泣き出し、さらに翼の側にいた恵も泣き出した。
「と、とにかく体育館に戻って!!」
指示を出す教員を背に、久留実達は海を眺めた。
何も聞きたくない……
何も見たくない……
全部消えてくれ……
『大輔』
やめろ……
『星崎君』
『星崎』
『大輔、ごめんね』