あぁ。
『帰ってくるの、いつ?』
分からねぇ……
俺がいない間は、九条達に頼れ。
『……うん』
『……僕も、お兄ちゃんと一緒に行きたい』
『樹梨も』
……俺と来ても、今みたいな生活は出来ない。
『高校生になれば、東京に行ってもいいの?』
親父達が良いって言えばな。そしたら、俺の家に来い。
『本当!』
あぁ。
『じゃあ、樹梨を連れて一緒に行くね!』
分かった。お前等といつでも生活できるように、金貯めとくよ。
『僕も!お小遣いやお年玉、貯めておく!』
『樹梨も!』
「麗華!!」
走ってきたのか、息を切らしながら庭へ七海がやって来た。
「飯塚?どうしたの?」
「大輔が……大輔が!!」
「星崎の奴が、どうかしたのか?」
「起きたかと思ったら、突然久留美達を……」
「……星崎は?!」
「分からない……
その後、どこかに行っちゃって……どうしよう」
「……雷光!行くよ!」
「はい」
「飯塚、乗って」
馬の姿になった雷光の背に、麗華は七海を乗せた。
「兄さんは氷鸞に乗ってきて。氷鸞!頼む!」
「待って!麗華!私達も!」
「アンタ達はここにいて」
「何で?!」
「今外を出るのは危険だからだ」
「そんな……」
「でも、大輔が」
「心配なのは分かる……けど、危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「……」
「大野、これ渡しとく」
麗華はポーチから数枚の札を、翼に渡した。
「もし、ここに星崎が来たらこれで対処してくれ」
「何で、ここに来るって」
「可能性はある。
この家には、霊力を持った大空に微かに持つおばさん。それに大野がいる。
一番に来るとしたらここだ」
「……分かった」
「じゃあ、頼んだよ」
雷光に飛び乗り合図を送ると、二匹は空へ飛び久留美の家へ向かった。
久留美宅……
久留美の傷の手当てをする遥。彼女の傍には、半べそを掻く樹梨と、彼女を宥める海斗がいた。
そこへ雷光と氷鸞が降り立ち彼等の背から、龍実が先に降り、次に麗華が降りそして最後に七海が飛び降り彼女の腕に受け止められた。
「麗華!七海!」
「久留美!大丈夫?!」
「私は平気!
それより、大輔が!!」
「話は飯塚から聞いてる。
詳しく話して」
「……タオルを変えようと、部屋に行ったの。
そしたら、突然苦しみだして……」
「それで、そのまま出て行った」
「うん……ねぇ、大輔大丈夫よね?
あいつここに帰ってきてから何か、変だから」
「大丈夫だ。そんな弱な奴じゃない。
アンタが一番分かってるでしょ?」
「……」
「とりあえず、私は星崎を追い掛ける。
飯塚、ここをお願い」
「う、うん」
「俺は一旦、家に戻る。
こいつ(氷鸞)、借りてくぞ」
「分かった」
雷光の背に飛び乗ると、麗華はその場を去って行った。
湿った風が強く吹く外……縁側に座っていた翼は、気配に気付き札を手に持って、外を見た。
空から降り立つ一人の少年……青い下半身の道着を穿き、羽衣を身に纏い、顔には獣の目元だけの面を着けていた。
「な、何?あれ」
「俺が知るか」
「……巫女はどこだ?」
「巫女?」
「ここにはいない。
お前、何者だ」
「我は、この海を守りし精霊……名はメル」
「精霊?
確か、妖精みたいな奴だよね?」
「妖精とは違うよ。
万物に宿る魂のことだよ。九十九神が近いかな」
「……って、呑気に説明してないで、早くあの妖怪を追い払う方法を考えなさい!!」
「ご、ごめん!」
「もう一度聞く。
巫女はどこだ……」
「ここにはいない」
「それはない。巫女と同じ霊力を、この家から感じ取れる。
どこにいるんだ……早く出せ」
「だからいないって!」
「どうしても出さないなら、こちらにも考えがある」
そう言うとメルは、腰に付けていたケースから二つの扇子を手にして、勢い良く振り下ろした。その衝動から扇子から強烈な風が、彼等に向かって放たれてきた。
翼は手に持っていた札を前に出し、霊力を送った。すると札はその霊力に反応し、家を守るようにして結界が張られ、攻撃を防いだ。
「す、凄ぉ……」
(……俺の霊力って、こんなに凄かったのか?)
その時、彼等の前に氷鸞が降り立った。そして彼の背に乗っていた龍実は、そこから飛び降りメルを見た。
「龍実さん!」
「気になって戻ってみたら……
お前さんの探している者は、もういない」
「……何故だ」
「人の命は、短きもの……
探している者は、とうの昔に命尽きた」
「……」
「さぁ、ここを去れ。
ここにいても、お前が求めてる者は何もない」
「それは出来ない」
「何で?」
「この島に、災いが降りかかる。
それを我等は阻止する」
「災い?」
龍実をジッと見つめるメル……その時、どこからか聞こえた雷の音に気付き、その音の方へメルは飛び去って行った。
小島へ来た麗華……馬から人へと姿を変えた雷光は、漂う異様な気配を感じ彼女を守るようにして立った。
「麗殿」
「分かってる」
ガサガサと草木がざわつき、麗華は辺りを警戒した。草むらから、ニアとリユが姿を現し彼等の後から白狼の姿になった焔が現れた。彼は麗華の傍へ行くと彼女に体を擦り寄せ、彼女と共に二人を見た。
すると同時に、小島へメルが降り立った。ニアとリユは嬉しそうな表情を浮かべて、メルの傍へ駆け寄り抱き着いた。
「心配したんだから!」
「今まで、どこに行ってたんだよ!」
「ごめん……島の外を見たかったんだ
それより、さっき鬼麟様の雷が……」
振り返った三人は、雷光の姿を目にして固まった。雷光は一瞬麗華を見ると、人から馬へと姿を変えた。
「鬼麟様!!」
「なぜあなたが、人の子と?!」
「この者は、某の主だ。
今は、この方の元についている」
「……」
「メルと言ったね?
アンタ……
星崎の体に乗っ取って、何するつもり?」