陰陽師少女   作:花札

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五月下旬……


体育館に、全校生徒が集まっていた。


校長の長い話を聞きながら、生徒達は暇を持て余していた。


「長いわねぇ……」

「本当」

「早く終わんねぇかなぁ」


「これで、私の話は終わりです」

「校長先生、ありがとうございました。

続きまして、入賞式を行います。


弓道地区大会個人戦・男子部門優勝、三年A組平野想太」

「はい」

「続きまして、個人戦・女子部門優勝、三年A組坂口穂乃花」

「はい」

「最後に、個人戦・女子部門準優勝、一年C組神崎麗華」

「はい」

「以上の三名は、壇上の上へ」


教頭の言う通りに、三人は列から出て壇上へ上がった。麗華の名前に、一年の枠はざわついた。


「何か、ざわついてんですけど……」

「まぁまぁ……いいじゃない。私達と同じ舞台に立ててるんだから」

「そういう問題じゃ……」

「お前が準優勝したのが、衝撃なんだろ」

「しなきゃ、今までの練習が水の泡になりそうだったんで……」


三人はそれぞれ校長から賞状を貰い、全校生徒から盛大な拍手を貰った。

教室へ戻ると、麗華の元へクラスメイト達は駆け寄った。麗華は一人一人の質問を適当に応えながら、席に付いた。それとほぼ同時に担任の湯崎が入り、ホームルームを短めに終わらせ早速授業が始まった。


演劇部の悲劇

放課後。

 

 

「皆ぁ!!聞いて!!」

 

 

帰りの支度をしていた麗華達に、教室の前に立った杏莉は大きな声を出し皆を呼んだ。

 

 

「どうかしたの?白鳥さん」

 

「皆も知ってると思うけど、一応伝えるね!

 

明日、五・六時間目に一年生による演劇部の発表があります!」

 

「そういえば」

 

「そうだったな」

 

「私達一年生、一生懸命練習したんだからしっかり見なさいよ!」

 

「杏莉、劇は何のお話?」

 

「シンデレラ!主役はこの私!」

 

 

そう自慢する杏莉……そんな彼女を。麗華はボーっと眺めていた。

 

 

「朝はお前が主役だったのに、夕方は白鳥が主役になったな」

 

「別に主役って……」

 

「何かあんのか?」

 

「緋音姉さんから、聞いた話があんだ」

 

「話?」

 

「本当かどうか知らないけど……演劇部に伝わる古い話。

 

 

昔、演劇部に可愛い子がいたんだ。どんな役もまるで女優の様に演じる子だったらしい。

その当時、やる劇の主役もその子だった……

 

けど……発表を目前に忽然と、姿を消したんだ」

 

「行方不明になったのか?」

 

「うん。結局見つからず、主役は二番目に可愛い女の子がやることとなった」

 

「へ~……」

 

「それより早く先生、来てくれないかなぁ。

 

早く帰って寝たい」

 

「あれ?部活は?」

 

「ない。今日は休み」

 

「珍しい」

 

「試合前だったからあっただけで、通常だと今日は休み。

 

おまけに、試験前なのに練習あるわで散々だった」

 

「とか言いながら、普通に学年トップ取れてんじゃねぇか」

 

「そりゃあ……ね(竹刀片手に、勉強教えてくれた人の期待に応えなきゃ……)」

 

「まぁ、俺ももうすぐ試合だって言って試験終わった途端、連日練習なんだけどな」

 

「頑張んなぁ」

 

 

 

雨が降る中、体育館では演劇部の練習が行われていた。舞台に立つ杏莉……その時、体育館のどこからか軋む音が聞こえた。その時だった。

 

 

“ガシャーン”

 

 

「キャア!!」

 

 

突然、舞台の照明が落ちてきた。下にいた杏莉は間一髪避けていた。

 

 

「な、何……

 

何で照明が」

 

「白鳥さん、大丈夫?!」

 

「練習中止!!誰か怪我した人は?!」

 

 

見ていた先輩達の指示により、練習は一時中断し杏莉は同級生と共に保健室へ行った。

 

 

その夜、演劇部の部室へ黒い影が忍び込んだ。影は段ボール箱に入っていたシンデレラの服と書かれたドレスを見るなり、唸り声を上げた。

 

 

翌日……

 

 

「大変!!大変よ!!」

 

 

茶色のボブカットにピンク色のカチューシャをした伊藤夕美(イトウユミ)が、教室へ駆け込んできた。

 

 

「何?」

 

「どうかしたか?」

 

「演劇部の部室が、誰かに荒らされて衣装や小道具が滅茶苦茶何ですって!!」

 

「え?!」

 

「嘘!?」

 

「それだけじゃないの!

 

その部室の壁に、赤い字で書かれてたの」

 

「字?」

 

「劇を止めなければ、主役を殺すって」

 

「マジかよ……」

 

「ちょっと、シャレにならないよ」

 

 

ざわつくクラス……机に伏せ寝ていた麗華は、話が聞こえたのか薄らと目を開けた。彼女が覚めたのに気付いたのか、バックに着けていたポーチからシガンが顔を出した。

シガンは、皆に気付かれないように机の脚を伝い麗華の肩に乗った。そんなシガンを、麗華は頭を撫で何かを伝えるとシガンは机の間を通りこっそりと廊下へ出て行った。

 

 

「妖怪絡みか?」

 

「かもね……ファ~、眠い」

 

「昨日話してくれた噂、あれ詳しく知ってんのか?」

 

「あれねぇ……実は」

「学校怪談よ!!」

 

 

夕美が教卓の机を手で強く叩きながらそう叫んだ。

 

 

「学校……怪談?」

 

「私、先輩から聞いたことあるの!

 

昔、演劇部に可愛い子がいたのよ!どんな役もまるで女優の様に演じる子だった。

 

 

その当時、やる劇の主役もその子だったの……だけど……発表を目前に忽然と、姿を消したの!」

 

「消したって……」

 

「行方不明ってことか?」

 

「そう!

 

結局見つからず、主役は二番目に可愛い女の子がやることとなった……だけど。

 

 

劇が終わった翌日、その二番目の子が誤って屋上から転落して亡くなったの。学校で。

 

屋上に警察の調査が入ったんだけど……」

 

「どうしたんだよ」

 

「屋上、鍵がかかってたの」

 

「え?!」

 

「壊された形跡もないし、抉じ開けた形跡もない。

 

今は新しいドアになってるんだけど、以前のドア……外側しか鍵をかけることが出来なかったの」

 

 

ざわつく生徒達……そこへ、担任が入りざわつく皆を座らせホームルームを始めた。

 

その日は事件の事もあり、授業は午前中で終わった。下駄箱へ来た麗華は、革靴に履き替え帰ろうとした時だった。

 

 

「麗華!」

 

「?何、立花」

 

「一緒に帰らない?」

 

「悪いけど、寄る所あるから」

 

「寄るって……先生が真っ直ぐ帰れって」

 

「真っ直ぐ帰る奴なんて、いないよ」

 

 

そう言いながら、麗華は振り返り校舎を飛び出した。

 

 

「なぁ、今日ゲーセン行こうぜ」

 

「お!いいね!」

 

「ねぇ、この後カラオケ行こう!」

 

「行こう行こう!」

 

 

麗華の言う通り、誰一人と真面目に家へ帰ろうとする者はいなかった。


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