「大輔ぇ!お待たせ!」
バックを手に持った久留美は、駆け寄りサンダルを履いた。大輔は携帯をポケットにしまい、立ち上がった。奥から久留美の母親が見送りにやって来た。
「暑いんだから、水分補給しっかりするのよ!」
「ハイハイ」
「久留美!!
大輔君、久留美のことお願いね」
「はい」
戸を開け外を出た大輔の腕を、久留美は掴み共に歩き出した。
小学校へ着いた麗華……
「あ!麗華!」
校舎の前にいた七海は、彼女の元へ駆け寄ってきた。
「久し振り!」
「久し振り」
「驚いたよ!突然来るって聞いて!」
「星崎の付き添いで来たからね」
「大輔もそろそろ、久留美と来るよ。
ほら、教室行こう!皆が待ってる!」
七海に手を引かれ、麗華は校舎の中へ入った。
中に入ると、昔と変わらないクラスメイトが集まっていた。
「お!麗華!久し振り!」
「中学以来だよな?神崎と会うの」
「確か、町長が誤って祠壊して妖怪怒らせた時以来だよな?」
「そうだね」
「あれ?あの夫婦は?」
「そろそろ来るんじゃね?」
「けど、見事にゴールインしたよな?あの二人!」
「久留美が六年間、しっかりとバレンタインデーに本命チョコを渡し続けたからな」
「大輔の奴は、俺等に内緒でこっそりホワイトデーにそのお返しをあげてたみたいだしな?」
「あ、でも……大輔君、確か中学に上がってから久留美ちゃんにお返し渡してなかったよ?」
「えぇ?!」
「それ、初耳!」
「遥、何か知ってるの?」
「中学に上がってから、大輔君のお母さんとの仲が酷くなって……
それにおばさん、大輔君が六年生に上がってから彼と妹さんと弟さんの世話を一切しなくなったって聞いた……
本当かどうかは分からないけど」
「……あれ?大輔の母親って」
「確か義理よ。
本当のお母さんは、大輔が二歳か三歳の時に島を出て行ったってパパから聞いたわ。
お母さんと入れ違いに、今のお母さんが来てお父さんと再婚したって」
「何人の苦労話をネタに、盛り上がってんだよ」
晃義の背後から手を伸ばし、並べられていたお菓子を口にしながら大輔は言った。突如現れた彼に麗華意外のクラスメイトが、驚きの声を上げて飛び上がったり彼氏や彼女に抱き着いた。
「何驚いてんだよ」
「いつからそこにいた?!」
「中野が俺のお袋の話をし出したところから」
「ねぇ、麗華は分かってたの?」
「気配感じて、振り返ったら普通に」
「着たなら着たって言ってよ!」
「ビックリするじゃ無い!」
「もうビックリしたよ」
「これで、全員か。
よっしゃ!そんじゃあ……
俺等の仲間、神崎と大輔の帰りに乾杯!」
「乾杯!」
持っていたジュースで乾杯し合う一同……昔話や高校生活など、他愛の無い話しに花を咲かして喋った。
「えぇ!!!」
「鈴村先生、今二人の担任なの!!?」
「そう」
「今年からな」
「うわぁ……信じらんない」
「心病んで、教師辞めたのに」
「まぁ、見方は変わったな」
「そうだね。昔と同じで、オドオドしてるけど、やるところはしっかりやるようになったから」
「へ~」
「偶然って怖いなぁ」
「何が起きるか、分からないもんねぇ」
「来年さ、先生連れて来いよ」
「何で?」
「成長した私達、見て欲しいもん!」
「何だかんだ言ったって、小一からの担任は鈴村先生だったしな」
「言うだけ言うけど、強引は連れて来ないからな」
「分かってるって!」
話が盛り上がった頃だった。突然ドアが開き、外から半べそを掻いた樹梨と海斗が入ってきた。
二人を見た大輔は、持っていたコップを麗華に渡し駆け寄った。
「どうしたお前等?」
「う……ウワァァァン!」
泣き出した樹梨は大輔に抱き着き、彼女に釣られて海斗も泣き出した。
大輔は二人を別の教室へ連れて行き、彼の後を久留美と麗華は追い掛けていった。
しばらくして、落ち着きを戻した海斗は大輔からジュースを飲んだ。
「大丈夫?」
「うん……ありがとう、久留美さん」
「いいのよ」
「で、どうしたんだ?」
「ママが……お兄ちゃん探して見つけてくるまで、帰って来ちゃ駄目だって昨日……」
「まさか、昨日から?!」
「うん……」
「あのクソ婆……来るのは今日だって、親父に伝えたはずなのに」
「パパは、昨日だって言ったよ」
「あの野郎!!何勘違いしてんだ!!俺が来るのは今日だ!今日!」
「ちょっと大輔、落ち着きなさい!」
「落ち着いてる!
クソ!今から家に行く」
「え?!歓迎会は?!」
「俺は先に帰ったって伝えといてくれ」
「ちょっと大輔!」
「こいつ等頼んだ」
二人を麗華と久留美に渡すと、大輔は階段を駆け下り校舎を出て行った。彼の後を、シガンは追い駆けていった。
「もう!勝手なんだから!」
「まぁまぁ」
「それはそうと、この子達どうしよう」
「九条が預かっとけば?
未来の義妹と義弟でしょ?」
「もう!麗華まで、からかうの止めてよ!」
「ごめんごめん。
取りあえず、教室に戻ろうか」
「そうね。
海斗君、樹梨ちゃん。お姉さん達と一緒に隣の教室に行こうか」
「いいんですか?お兄ちゃんいないのに……迷惑じゃ」
「何子供が気ぃ使ってんのよ!
ほら!行くよ!」
久留美は海斗の手を引きながら、皆が待つ教室へ行った。ようやく泣き止んだ樹梨を、麗華は抱き上げて久留美の後について行った。
夕方……ゴミを纏め、机を戻した麗華達は校庭に出ていた。
「よし!今日はお開きで!」
「麗華達、しばらくの間いるんでしょ?」
「多分ね。星崎次第で帰るから」
「え?そうなの?」
「何で?」
「元々、星崎が親御さんと話があって一人で行くのが嫌だからって事で私が」
「同行したと」
「そういう事」
「あれ?でも、他にもいたよね?」
「あいつ等は勝手についてきたんだ」
「やっぱり……」
「ねぇ、海斗君達どうする?
結局、大輔の奴帰って来なかったよな?」
「いいよ!私のうちで、預かっとく」
そう言いながら、久留美は二人を見た。
「いいの?!」
「大輔、こっちにいる間は私の家に泊まるって言ってたし」
「何か心配だな……おい麗華」
「?」
「大輔帰ってくるまで、一緒にいてくれよ」
「何で?」
「だってお前、大輔の保護者だろ?」
「誰が保護者だ!!」
「心配ってどういう意味よ!!」
海岸沿いの道を歩く久留美と麗華達。
「全く失礼しちゃうわ!晃義の奴」
「そう怒るなって」
「怒ってないわよ!
それにしても、大輔の奴遅いわね。あれから三時間以上は経ってるのに」
「昔話にでも、花が咲いたんじゃないの?」
「……だといいんだけど」
夜……
自身の家から飛び出す大輔。彼の後を外で待っていたシガンは追い駆けた。
走り辿り着いた場所は、久留美の家だった。鍵の掛かっていないドアを開けると、その音に樹梨は気付き椅子から立ち彼を出迎えた。
「お兄ちゃん!」
樹梨は大輔に飛び付くと、顔を体に埋めて擦り寄せた。そんな彼女を撫でながら、彼は続いて出迎えてきた海斗の頭に手を置いた。
「……九条」
「平気。お母さん達にはもう訳を話してるから!」
「……悪いな」
「お兄ちゃん、どうしたの?顔色悪いよ?」
「何でも無いよ」
樹梨を海斗に渡すと、大輔は二階の用意された部屋に入った。
「兄ちゃん、どうかしたのかな……」
「大丈夫よ。
さ!お風呂に入っちゃないな!
お母さーん!二人をお風呂に入れてあげて!」
響く声……その声を聞きながら、大輔は畳まれていた布団に顔を埋めた。心配そうに、シガンは鳴き声を上げながら彼に体を擦り寄せた。