看護師や茂が呼び掛ける中、彼女はそのまま手術室へ運ばれた。
血塗れになった上着をソファーに置くと、龍二は手を握り顔を伏せた。
病院へ駆け付けた桐島達……
「……龍二君」
「……
出血量が多過ぎて、助かる見込みが五分五分だそうです」
「……」
「ここにいて貰っていいですか?
俺、輝三に連絡……」
立ち上がった龍二は、ふらつき倒れ掛けた。そんな彼を桐島は慌てて支え立たせた。
「だ、大丈夫?!龍二君」
「大丈夫です……電話してくるんで、ここ……お願いします」
フラフラと歩きながら龍二は、廊下を歩いて行った。
「龍二君、フラフラでしたね」
「……」
「……あ、俺……伊達亮介の所に行ってきます」
「頼む」
一緒に来ていた池蔵は、その場を離れ亮介の病室へ行った。
数時間後、病院へ着き廊下を走り手術室へ辿り着く緋音と真二、そして大輔。その後から輝三と美子、更に美幸と陽一が駆け付けた。
「……麗は?」
「まだ手術中です……
運ばれてから、既に五時間以上は」
「そんな……」
その時、手術室から看護師が血相をかいて出て来た。
「どなたか、B型の方はいませんか!?」
「どうしたんです?」
「輸血パックが足りなくなって、うちにある分はもう使い果たして……」
「そんな……O型の血は?!」
「以前手術した患者さんで、全て……」
「嘘だろ……」
「俺の使え!」
「俺の使え!
俺、O型や!姉貴、そうやろ?」
「え、えぇ!
この子、O型です!」
「俺のも使ってくれ!B型です」
「では、お二方こちらへ!」
看護師に誘導され、陽一と大輔は別の部屋へ行った。
数分後、看護師が四つの輸血パックを手に再び手術室へ入った。
それから数時間後、明け方の事だった。
ランプが消え、中からマスクを外しながら茂は出て来た。
「出来る限りのことはしました。
あとは、彼女次第です」
出て来た麗華は、全身に包帯を巻き酸素マスクを着けられ運ばれていった。龍二と陽一は彼女の傍へ駆け寄った。
「詳しい説明をしますので、こちらへ」
茂の診察室へ来た輝三達……
「率直に言います。
危険な状態です」
「っ……」
「一部の内臓が破られていた上に、出血の量が多い。
例え生きられたとしても、植物状態。奇跡的に目が覚めてももしかしたら……障害が残る可能性が」
「そんな……」
涙を流した美子は、手で顔を覆い泣き崩れた。
ICUに移動され、酸素マスクを着け体に数本の管を着けた麗華はベッドに寝かされていた。
窓越しから陽一は彼女を、龍二は前に置かれていた椅子に座った。
(……麗)
別室……ゆっくりと目を開ける亮介。
「……優梨愛」
「亮……」
起き上がった亮介を、優梨愛は泣きながら抱き締めた。
丁度そこへ、様子を見に来た茂がノックして入ってきた。
「先生……」
「君は、目が覚めたんだね」
「……!
あの、神崎は……」
「……ICUにいますよ」
「!?」
「とても危険な状態でしてね。
今、親族の方が来て彼女が目を覚ますのを待っています」
「お、俺も……俺のせいで」
「やめといた方が良いですよ」
「え?」
「どうしてよ!」
「行ってもいいですけど、こちらで一切の責任を負いません」
「え?」
「あの傷を負わせたあなた方を、親族の方は決して許しません。もし姿を現したなら、今の傷よりもっと酷い傷を負います。
それでも構わないと言うなら、どうぞご自由に」
「何なのよ、その言い方……まるで、亮が悪いみたいじゃない!!
神崎麗華は陰陽師なんでしょ!?何で命に関わる大怪我を負ったくらいで、私達が責められなきゃいけないのよ!!」
“ドーン”
凹む壁……手に持っていたバインダーが割れ、怒りの剣幕で茂は二人を睨んだ。
「誰のせいで、麗華ちゃんが怪我をしたと思ってるの?」
「っ……」
「はっきり言って、俺は今テメェ等の顔面を変形するくらい殴りたいよ。
何をした?麗華ちゃんが君等に」
「……」
「散々化け物扱いした挙げ句、自分達の手に負えないからって理由で彼女に危険なことをさせて……
陰陽師だから何だ?彼女はれっきとした、一人の女の子で人間です」
「……」
「これだけは覚えといて下さい。
自分達の勝手な行動で、一人の人間を殺し掛けていることを」
鋭い目付きで、二人を睨みながらそう言うと茂は部屋を出て行った。
病院へ駆け付けた牛鬼達……
「麗華……助かるよな?!麗華の奴」
「……」
「なぁ!」
「安土、止めろ」
「……!
時雨の力で、何とかならないのか!?」
「俺の回復術は、意識のある時にしか使えねぇ。
無い時に使うと、お嬢さんが妖怪になる可能性が高い」
「そんな……丙は?!あの、楓って奴は?!」
「他のもそうだ……
微かに意識があれば、何とかなる……完全に無いってなると……」
「そんな……」
愕然としながら、安土はその場に座り込んだ。
神崎宅……手当てを終えた焔は、深く眠っており、渚は彼の傍に添い寝していた。そこへ竃達が着き、業火はすぐに彼女の傍へ寄り添った。
「焔の様子は?」
「あれから、眠ったままだ。
……麗は?」
渚の質問に、竃は首を横に振った。渚は悲しみに満ちた目を浮かべて、頭を伏せ業火はそんな彼女の頬を舐めた。