数分前。
『麗華のクラスメイトがいなくなった!?』
空になった病室を前に、茂は困り果てた様子で部屋の中にいた。
『ちょっと、僕と看護婦が目を離した隙に。
まだ怪我も、完全に回復したわけじゃない』
『……麗華は?』
『麗華ちゃんは、今朝退院した。
その後、何か準備があるって言って家に帰ったみたいだけど』
『え?
俺、さっき様子を見に家へ帰りましたけど……誰もいませんでしたよ?』
『?!
……!まさか、あの子!』
茂が察したことと龍二の考えが一致したのか、彼は一目散に病院を飛び出し車を飛ばした。
家に着きすぐに彼女の部屋に入り、押し入れにある桐タンスを開けた。
(やっぱり……
あいつの変装セットが無い!)
家に鍵を掛け、龍二は再び車に乗るとエンジンを掛け飛ばした。
折られる木の薙刀……麗華は腕から血を流して、その場に膝を着いた。
「麗殿!」
「麗様!」
「構うな!!早く、目の前の敵を倒せ!」
四匹となった獣を相手に、麗華は焔達と戦っていた。
彼女の後ろには、恐怖で我を失った不良達が震え上がり叫んでいた。
「は、早くその化け物殺せよ!!」
「白い陰陽師なんだろ!!さっさと殺せよ!!」
その言葉に堪忍の尾が切れた麗華は、不良達の胸倉を掴み上げた。
「焔!!雷光!!氷鸞!!退け!!」
三人はその命令通り、獣から離れろ麗華の周りに集まった。四匹の獣は融合し一匹となり、唸り声を上げながら麗華の前に立った。
「私が許可を出す!!
殺りたければ、殺れ!!」
そう言って、麗華は不良達を獣に投げ渡した。獣は牙を剥き出しにして、彼等を睨んだ。
「た、助けてくれぇ!!」
「頼む!!礼ならいくらでも出す!!」
「いくらでも出す……
その言葉、私にじゃなくてそこに倒れている男に言え!!」
「?!」
「貴様等に夢と人生を奪われ、もがき苦しみながら今日まで生きた。
貴様等が、相当のことをしていればこんなことにはならなかった。それに貴様等の仲間も死なずに済んだ」
「し、仕方なかったんだよ!!あの時は!!」
「大学の推薦を貰ったばかりで、問題起こせば取り消しになるんだよ!!
分かるだろ?!」
「俺等の家は、世間体気にする家だから大学落ちた何て聞いたら表に出ることも出来ない。
それにあの時、もし俺等が警察沙汰起こしたら親父達の立場が」
「それだけか?」
「え?」
「言い訳はそれだけか?」
「……な、何だよ……」
「……」
麗華の方に向いていた不良達に、獣は前足で彼等を踏み付けた。
咆哮を上げた獣は、口を大きく開け不良達を食おうとした。
「止めろ!」
その声に、獣は止まった。優梨愛に支えられて立っていた亮介は、腕の傷を抑えながら彼女から離れ獣に歩み寄った。
「もういい……それぐらいで。
帰ろう……家へ」
そう言いながら、亮介はゆっくりと手を上げた。獣は彼等から足を離し、彼の手に顔を当てて甘えるようにして体を擦り寄せた。
「一件落着かな?」
「死ぬかと思った……」
「そ、某も」
「私も」
「お疲れ様」
「今だ!」
不良達は、隠し持っていた銃を獣と亮介目掛けて残っている弾を全て撃ち放った。
「先輩!!」
「亮!!」
弾は亮介の左腹部を掠った。それを見た獣は、怒りで我を失い銃弾を放った不良達に向かって牙を向けた。
彼等の前に立った麗華は、獣に腹部を噛まれ口から血を吐き出しながら獣の頬を撫でた。
「大丈夫だ……
もう、暴れなくていい……
ほら、主の所にお帰り」
彼女の言葉に正気を戻した獣は、元の姿になり亮介の元へ駆け寄った。
麗華は息を乱しながら、その場に倒れた。焔達はすぐに彼女に駆け寄り、腹部から溢れ出てくる血を止血した。
龍二が麗華の元へ駆け付けたのは、それから数分後のことだった。彼とほぼ同時に、池蔵が到着し車から降りた。
公園の入り口付近に停まる二台の救急車、そして数台のパトカー……胸騒ぎがした龍二は、警備をする警官を押し倒して黄色いテープを潜り中へ入った。彼の後を、池蔵は警察手帳を見せながら共に中へと入った。森の中から出て来る、手錠を嵌めた二人の不良学生。
「あれは確か、三年前の」
次に出て来たのは、担架に運ばれていく亮介と彼の傍を歩く優梨愛。そして掠り傷を負った奈々達……
「こら!離れなさい!!」
「うるせぇ!!」
聞き覚えのある声に、龍二は木の階段を駆け上った。
そこには、救急隊と揉める焔達がいた。恐る恐る下に目を向けると、彼等の傍には白い狩衣が真っ赤に染まった麗華が倒れていた。
「……麗華?」
「?
龍!!麗が!」
血塗れになっていた焔は、龍二の元へ駆け寄り言った。すぐに状況を理解した龍二は、着ていた上着を脱ぎそれを出血している麗華の傷口に当てた。
「すぐに病院へ!!早く!!」
「わ、分かりました!」
「渚、こいつ等を頼む」
「了解した」
「麗……」
担架に運ばれた麗華は、車に乗るとすぐに酸素マスクを着けられそのまま病院へ運ばれていった。
残った焔は、緊張が解けたかのようにしてその場に倒れ雷光達もその場に座り込んでしまった。
「大丈夫か!?」
「へ、平気だ……それより、あいつ」
「あいつ?」
焔の元へ歩み寄った獣は、彼の前に座った。
「何だ?この妖怪は」
「へへ……認められたか……
姉者」
「?」
「こいつ、しばらくの間家に……」
それを最後に、焔は気を失った。渚はまだ動ける雷光に彼を持たせ、氷鸞と共に獣を誘導させながら家へ帰った。