陰陽師少女   作:花札

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ファミレスで、軽い食事を取る亮介……その時、携帯が鳴り彼は画面を開いた。


「……優梨愛?」


赤い約束

夜……

 

 

とある山奥へ来た優梨愛と亮介……二人の後を奈々達は付いてきており、木の陰に隠れていた。

 

 

「……言われた通り、来たよ!!」

 

「……」

 

 

吹き荒れる風……その時、亮介の後ろにいた獣が唸り声を上げながら上を見上げた。

 

 

空から舞い降りる、大狼姿の焔と彼の背中から飛び降りる一つの影。

 

 

「……!?」

 

 

白い狩衣に身を包み、頭に白い毛皮を被り顔に狐の面を着け天狗下駄を履いた麗華……

 

 

「……何の真似だ」

 

「昔のお望み通り……

 

白い陰陽師になっただけ」

 

 

面の隙間から見える目に、亮介は怒りの目を向け手に持っていた木刀を彼女目掛けて振り下ろした。その木刀を麗華は難なく避け、手を地面に点けるとそれを軸に彼に蹴りを入れた。

 

 

二人の戦いを合図に、獣は咆哮を上げて焔に突進してきた。焔はすぐに避け口から煙を吹き出し、空へと上がった。獣は煙を吹き払うと、彼を追い駆けて行った。

 

 

「何故あいつ等まで戦う!?」

 

「主に仕える妖怪は、主が敵と戦うというのならば共に戦うまで!

 

偽の妖怪使いになったのに、そんなことも知らないんですか?」

 

「好きでなったわけじゃねぇ!!」

 

 

振り下ろした木刀が地面を叩き、叩いた部分を中心に地面が凹んだ。

 

 

「テメェのせいで、何もかも狂った!!

 

テメェだけじゃねぇ!!あの時、事故を起こした奴等もだ!!

 

 

あいつ等が飛び出したって言うのに、悪いのは俺になった!!被害者であるこの俺だ!!

 

俺の親はそいつ等の親に、すぐ慰謝料を請求した。けど言ってきた言葉が!!

 

 

『子供がやったことでしょ?大目に見てよ』

 

『ごめんなさい、今家に余裕無いのよ』」

 

「……」

 

「余裕がない?……大手企業の社長に弁護士。

 

金に困るはずがない……

 

それに、子供だから大目に見てよ?ふざけるな!!

 

 

俺は道場を、親父から継ごうと思っていた!!それをあの事故のせいで、全てが水に流れた!

 

明治から続いていた伊達家の道場は、今じゃ誰一人寄りつかなくなった!!」

 

 

木刀を強く握り締め、亮介は怒りに任せて麗華に振り下ろした。彼女は手に持っていた木の薙刀で、その木刀を受け止めた。

 

 

「人を恨む前に、自分で何か出来るか考えたか!!」

 

「!?」

 

「その二人を殺して、先輩の両親が喜びますか?!

 

絶対、喜ばない!!

 

 

自分でも分かってるんでしょ?」

 

「っ……」

 

「本当は……誰かに助けて貰いたい……

 

独りになるのが怖かった……

 

 

だから、中村だけには連絡を取ってたんじゃなかったんですか?!」

 

「!!」

 

 

ハッとした亮介は、優梨愛を見た。月明かりに照らされた彼女の髪には、あの赤い百合の髪留めが着けられていた。

 

 

「……」

 

 

『赤い百合?』

 

『お前、金髪だろ?

 

黄色には、赤が似合うんだぜ?』

 

『……』

 

『何かあったら、いつでも俺の所に来いよ。

 

絶対、助けてやるから』

 

『……じゃあお返しに、亮の傍にずっといる!

 

約束する!』

 

 

幼い頃、優梨愛は亮介の腕にしがみついてそう言った。

 

 

思い出した亮介は、木刀を下げた。彼に合わせて、麗華も武器を下げた。

 

 

「……俺はただ……

 

俺は……」

 

「もういいですよね?

 

こんなこと……」

 

 

空で戦っていた獣は、攻撃を止め鳴き声を上げながら亮介の元へ降りた。

 

獣に合わせて、焔も降り麗華の傍へ寄り顔を擦り寄せた。寄せてきた彼の顔を、彼女は撫でた。

 

 

 

「このまま、終わらせねぇよ」

 

 

どこからか投げられた石が、座り込んでいた亮介の頭に当たった。

 

 

「亮!!」

 

 

焔と麗華は、素早く後ろを振り返った。そこにいたのは、不良の格好をした二人の男だった。

 

 

「ようやく見つけた……仲間を殺した奴」

 

「!?」

 

「おい見ろよ!噂の白い陰陽師までいるぞ!」

 

「おい陰陽師!その人殺しをさっさと、殺せ!!」

 

「……」

 

「お前が殺さないなら!」

 

 

懐から銃を出した不良は頭を抱える亮介目掛けて、銃弾を放った。弾は彼の腕を掠り獣の頬を掠った。

 

 

「亮!!」

 

 

腕から出る血を見た獣は、咆哮を上げた。すると地面から黒いオーラが吹き上げ、獣を包み込んだ。

 

 

「な、何だ?」

 

「凄い妖気……!?

 

ここにいる奴等、全員離れろ!!」

 

「!?」

 

「早くしろ!!」

 

 

そう叫んだその時……オーラの中から獣が姿を変えて現れ出た。四つの赤い目に鋭い爪と牙を生やし灰色の四つの尾を揺らしながら、獣は咆哮を上げ不良達目掛けて突進してきた。

 

恐怖で動かない彼等を、麗華は体当たりしてその場から離れさせた。そして、突進した獣は麗華を飛ばした。

 

 

「麗!!」

 

 

木々に当たり勢いを弱めた麗華は砕けた狐の面を広い顔に着けながら、寄ってきた焔の頬に触れた。

 

 

「これからここ全体に結界を張る!

 

奴の気を紛らわせて!!」

 

「了解!」

 

 

白から黒い狼となり、そして体に炎を纏った焔は獣に向かって攻撃を開始した。

 

 

その間に麗華は、亮介達が座り込んでいる所へ行き大きく陣を書くと腕を切り血を流した。

 

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!

 

 

九字結界、発動!!」

 

 

張り巡らせた札が光り出し、周りに結界が貼られた。

 

 

(来る前に、結界の札を貼っといて正解だった……)

 

「な、何だよあの化け物……」

 

「?」

 

「いきなり、俺等を襲って……一体何なんだよ!?」

 

「主を傷付けられ、更に己も傷付いた……

 

今は、貴様等を殺すことだけに集中している」

 

「主って……」

 

「そこで倒れてる、男だ」

 

「!?」


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