何度も言ってるじゃないですか!!妖怪の力を借りると、その代償で何かを失うんです!!絶対に駄目です!
『けど大会で結果を出せば、スポーツ推薦を貰えるんだ!!頼む!神崎!一生のお願い!』
駄目なものは駄目です!!結果を出すなら、自分の実力で出して下さい!
(恨んでやる……
あいつも……あいつも……あいつもあいつもあいつも!!化け物も!!
皆、恨んでやる!!)
口に銜えていた煙草を、手に取りながら男は不敵な笑みを浮かべた。
「随分と学校生活を謳歌してるな?
いっちょ前に制服着て、髪伸ばして……」
「……」
「……この俺は、楽しい学校生活なんざ送れない哀れな人間なのになぁ」
「……」
「おい……何か言ったらどうだ?」
「……
頭無しに妖怪と付き合ってるんですか?」
「頭で考えながら、俺はこいつといるんだ。
最も、その原因はテメェだがな」
「っ……」
「黙って聞いてりゃ、いい気になりやがって!!」
大狼の姿になった焔は、牙を剥き出しながら今にも彼に襲い掛かろうとした。
「焔、駄目!」
麗華は慌てて焔の口を抑えて、顔を自身の方に向けさせた。
「三年前と変わらず、妖怪と戯れてんのか?
どうせ高校に入れたのも、そいつ等のおかげなんだろ?」
「違います!!全部、自分の実力です!!」
「どうだか……
土産に……いいもの置いてってやるよ」
「?」
男が手を上げると、傍にいた獣は長い尾の先端に強大な妖力の玉を作りそれを麗華達目掛けて放った。
麗華は奈々達を伏せさせ、当たる寸前焔は巨大な火玉をその玉に向けて放った。
“ドーン”
激しい爆発音が、町中に響いた。男は吸い殻を捨てると、獣の背に飛び乗りその場を立ち去った。
騒ぎに気付いた住人は、すぐに救急車と警察を呼んだ。野次馬が群がる中、奈々達を庇った麗華は背中に大火傷を負いそのまま地面に倒れた。
夕方……
鈴村と共に大輔は、病院に来ていた。受付で名前を書くと、病室へ向かった。
個室の病室に来た二人は、ドアをノックして部屋へ入った。
部屋には狼姿になっていた焔とシガン、さらに龍二達が来ていた。
「あの、神崎」
「痛ってぇ!!」
カーテンが引かれたベッドから、その叫び声が聞こえた。
「我慢せい!火傷を残さぬ様に治しているんだから」
「けど、限度というものが」
「問答無用!!」
「ギャァアア!!」
「キリの良いところで、やめておけよ。
体力にも、限度があんだから」
「分かっておる」
「では、俺は麗華の裸姿を」
ソッとカーテンを開けようとした真二に、緋音と龍二は空手チョップを食らわせた。
「まぁ、ご覧の通り命に別状は無い。
さっき目が覚めて、丙に治して貰ってるんだ」
「はぁ……」
「あの、長谷川達が運ばれたと聞いたんですが……」
「こっちです。龍二君、後任せた」
「はい」
鈴村を連れて、池蔵は部屋を出て行った。
「あ~……死ぬかと思った」
服を着ながら、麗華はカーテンを開けた。彼女の姿に、焔の頭に座っていたシガンは飛び降り肩に登ると体を擦り寄せた。
「さぁて……本題に入ろうか」
少々怒りに満ちた目で、龍二は麗華を睨んだ。その目に体をびくらせ目線を逸らし、逃げようとした。
「待て!どこに行く?」
「いや、少し散歩を」
「しなくてよし!」
「うっ……」
「龍二が怖い……」
「久し振りに見たわ、龍二の本気怒」
「さぁ、話して貰おうか?麗華」
「う~……」
泣きながら麗華は、今朝起きた事を全て話した。話し終えた彼女を、緋音は宥めるかのようにして頭を撫でた。
「獣の……妖怪……
俺には未知の世界だ」
「その妖怪と一緒にいた奴が、主犯って事か?」
「可能性は高い」
その時、ドアがノックされ外から池蔵が入ってきた。
「事情聴取しようと思ったけど、駄目だ」
「どうしたんスか?」
「誰も喋らないんだよ。
困ったなぁ」
「口を割るのが、警部の仕事じゃないんですか?」
「麗華ちゃん、痛いところ突くな……」
「事件現場にいた長谷川達の中に、中村はいなかったのか?」
「いなかったよ。
てっきり、あいつ等と一緒にいるもんだと思ってたんだけど……」
「中村?誰だ?」
「中村優梨愛。クラスメイト何だけど……現在長谷川達と一緒で、不登校児」
「不登校?何でまた」
「スキー合宿の際に神崎を馬鹿にしたのが原因で皆の怒りを買い、表に出ようにも出られなくなってそのまま」
「麗華を馬鹿にって……何しやがったんだ?!そいつ!」
「はいはい、怒らない怒らない」
「噂じゃ、あいつ等夜の町を徘徊してるって話だったけど……
詳しいことは何も」
「……ねぇ、その中村優梨愛っていう女の子。
ひょっとして、金髪の長い女の子?」
「いや、金髪は一緒だけどショートだよな?」
「うん。肩上までのショートに赤いカチューシャしてるよ」
「じゃあ、違う子か……」
「どうかしたんですか?池蔵さん」
「確か三年前の事件で、犯人だと思われる子と一緒にいた女の子がその中村優梨愛って名前だったような気が……」
「三年前?何かあったのか?」
「あれ?龍二君、聞いてない?麗華ちゃんから」
「え?」
「うっ……」
「三年前、童守中学で事件が起きて……
確か、それに関わってるよね?麗華ちゃん」
「そ、それは……」
「どういうことだ?麗華」
怒りに満ちた声で龍二は、慌てて真二の後ろに隠れた麗華を睨んだ。
「は、早まるな!麗華にも、色々と事情が!」
「龍二君、今先輩方がいる前で大事起こさない方が良いよ?
ただでさえ、こないだの事でまだ上は君に目をつけてるんだから」
「……」
「あの、話戻して良い?」
「……続けて下さい」
「えっと、麗華ちゃんの同級生と三年前の事件に関わっていた女子生徒が同じかどうかって事だけど……」
「同姓同名ってだけじゃないんですか?」
「う~ん……」
「同じです」
「?」
ドアを開けながら、鈴村と一緒に入ってきた奈々はそう言った。
「長谷川……」
「これ、優梨愛が中学の時部活の試合で一緒に撮った写真です」
そう言いながら、奈々は財布のポケットから一枚の写真を出し皆に見せた。
そこに写っていたのは、今と差ほど変わらない奈々と長い金髪をサイドテールにし前髪に赤い百合の髪留めを着けた優梨愛の二人。
「あぁ!この子だよ!この子!」
「今と、随分雰囲気が違うな」
「優梨愛……あの人を助けるために、髪を切ったんだもん。今度は、自分が助ける番だからって言って」
「あの人?」
「伊達亮介(ダテリョウスケ)。
当時、童守中学の剣道部の期待のエースだった男よ」
「童守中学の剣道部……
あれ?確か、麗華ちゃんも剣道部のはずじゃ……」
「……」
「知らないとは言わせないわよ……同じ部の人から聞いたんだから。
神崎さんと伊達さん、一二を争うくらいのライバル関係だったんでしょ」
「え?」
「剣道部で、二年にも関わらず主将から一本取ったって有名だったらしいじゃない」
「……知らないよ、そんな奴」
「知らないって……」
眉間に皺を寄せた奈々は、ズカズカと麗華に歩み寄り彼女の胸倉を掴んだ。
「アンタが唆したからでしょ!!
唆したから、伊達さんはおかしくなったんでしょ!!」
「知らないって言ってるでしょ!!
第一、私はあの時忠告したはずだ!!」
「忠告が何よ!!
現に優梨愛と伊達さんは!!」
「自業自得だ!!
あの時、私は助けようとした!!けどあいつは、その助けを無視して妖怪に手を貸したんだ!!」
奈々の手を振り払った麗華は、彼女に攻め寄り怒鳴った。
「何度も言った!!妖怪に手を貸せば、何かを失うって!!
その代償が、今だ!!」
奈々を押し倒すと、麗華は病室を出て行った。その後を、大輔は慌てて追い駆けていった。
「……今回の事件、どうやら三年前の事件と関係があるみたいだな」
「何があったか、話してくれるかな?」
「……私と優梨愛は、中学からの親友だった。
部活が一緒で、話し掛けてきてくれたのが優梨愛だった。仲良くなってから、違う中学に通ってる幼馴染みの伊達さんを私に紹介してくれた。
お調子者で正義感が強い人だった……だけど、彼が中学三年になって、受験が迫っている頃だった。
伊達さんには、部活の強豪校からスポーツ推薦が来ていたの。推薦の条件は、試合で優勝すること……
けど、試合直前に事故に遭って怪我をしてしまった……どうしても勝たなきゃいけなくて、考えに考えた結果が後輩だった神崎さんに頼むことだった」
「何で麗華に?あいつ、確か知り合い以外には」
「麗華の奴、一度妖怪に襲われかけたクラスメイトを助けたことがあったんだ。
けど、そのクラスメイトが麗華のことをクラスの奴等に話して、それが瞬く間に広まって……しばらくの間は学校にすら行かれなくなってたからな。
けど、あの白い陰陽師の格好をして別のクラスメイトを助けたら、それが話題になって誰もが麗華の力のことを忘れ去った」
「そんなことがあったのか……」
「伊達さんは、麗華から教わったって喜びながら一冊の本を手に妖怪を呼び出した。
光の帯と共に現れたのが、今彼と一緒にいる獣。獣は姿を現した途端、大暴れして……利き腕だった右腕を大怪我して、治りかけだった足にも大怪我を……
私と優梨愛が駆け付けた時には、獣は唸り声を上げながら彼の元を去って行くところだった……担架に乗せられて運ばれていく中、伊達さんはずっと言ってた。
『化け物のせいだ……化け物のせいで、俺は……俺は!!』
結局、試合に出ることが出来ず部活の強豪校からの推薦は破棄になった。
怪我が治るまで、二ヶ月近く掛かって……何とか高校には受かったけど、今は不登校だって……」
「……言っちゃ悪いが、自業自得だな。麗華の言う通り」
頭を掻きながら、真二は言った。
「やめろって麗華はずっと言ってたんだろ?
それを押し切って、妖怪を呼び出し大怪我を負った……」
「じゃあもっと強く言ってくれれば!」
「何甘えたこと言ってんだよ。
麗華のせいだって言ってるけど、実際お前等にも責任あるからな。心のどこかで薄々思ってたんだろ?自分達がもっと強く言ってれば、こんなことにならなかったんじゃないかって」
「それは……」
「自分達のせいになりたくないが為に、他人(麗華)を悪者扱いするなんて……
最低な人間だな?お前等」
怒りに満ちた目で、真二は奈々を睨んだ。彼女は痛いところを突かれたかのようにして、目を背けた。
「禁断の術?」
大狼姿になっていた焔の喉を撫でながら、麗華は屋上で大輔に話をしていた。
「中学の時、陰陽師と妖怪に関する本を何冊か読んだの。
その中に、禁断の術が書いてあったの」
「どういう内容なんだ?」
「自分の願いと引き替えに、ある妖怪を蘇らせる術。
けど願いが叶う前に、その妖怪から攻撃を食らうのが落ち。それで生きていれば、妖怪は自分を蘇らせてくれた主と認識して、生涯そいつに仕えるの」
「じゃあ、その伊達って人は」
「その禁断をやったのよ。
願いが叶う前に、右腕の二の腕に傷を負って……私生活には問題はないけど、今まで通り剣道を続けるのは難しいって言われたらしい。おまけに治りかけてた右脚もまた一からのリハビリ。
怪我のせいで、部活は引退前に退部せざるを得なかった。退部直後だった……先輩のスポーツ推薦が破棄になったのは。
それから先輩は、全く学校に来なくなった。結局最後まで来ることはなく、そのまま卒業……それ以降は全く」
「……なるほどなぁ。
じゃあ、その呼び出した妖怪は先輩が手名付けてるって事か?」
「だろうね。
主の指示次第で、攻撃的な妖怪になれるし……焔達みたいに、温厚な妖怪にもなれる」
「……助けたいって思ってんのか?」
「さぁね……やめろって言ったのに、やって怪我してそれを私のせいにして……
正直、助ける気ゼロ」