陰陽師少女   作:花札

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いじめとチョッカイ

公園に集まる、川逆高校の生徒達……手には金属バットや、木刀などの武器が握られていた。

 

 

(アイツ等、いつの時代の不良だよ……)

 

「さぁて、暴れるか」

 

 

手にグローブを嵌めながら、翼は首を回し方を回して公園へと近寄った。

 

 

「おいおい!あの軍団、一人でやるの?!」

 

「そう……みたい」

 

「お兄ちゃん、喧嘩強いよ」

 

「そういう問題じゃない。

 

あぁもう……私も合戦する」

 

「え?!神崎さん、そっちの方が危険……」

 

「大丈夫。

 

これでも、兄貴に思いっ切り鍛えられたから」

 

 

笑みを浮かべて、麗華は狼姿の焔の頬を一撫でし翼の元へ駆け寄った。卓也は恵を抱き上げ、公園の内部へ入り茂みから彼等を眺めた。

 

 

その間に、翼は喧嘩を始めていた。次々に襲い掛かってくる敵を相手に、翼は一殴りして倒していった。だがその時、隙を狙われた彼の背後から、竹刀を振り下ろす生徒の姿があった。

 

 

「翼!!」

「お兄ちゃん!!」

 

 

当たる寸前に、麗華はその生徒の頭に踵落としを喰らわせ手から離れた竹刀を手に持った。

 

 

「か、神崎」

 

「お姉ちゃん、カッコイイ!!」

 

「小さい妹を前に、兄貴が負けてちゃダメだろ?」

 

「……」

 

「合戦させて貰うよ」

 

「好きにしろ」

 

 

「何だ?!助っ人か?!」

 

「馬鹿!!よく見ろ、女だ!」

 

「何だ、女か」

 

「それじゃあ、容易い喧嘩だ!!」

 

 

一人の男が麗華に向かって突っ込んできた。突っ込んできた彼を、麗華は舞う様にして避け後ろ首を殴った。男は魂が抜けたかのようにして、その場に伸び倒れてしまった。

 

 

「女だからって、甘く見ない方が良いよ」

 

「この!!」

 

「あ~、あともう一つ。

 

そろそろ来るかもね」

 

「来る?何が?」

 

「私も一番の味方」

 

 

その声と共に、突如明かりが点いた。その灯りの背後には数台のパトカーが停まり、台車に腕を乗せる人相の悪い男が数名。

 

 

「け、警察?!」

 

「少年課課長・後藤清隆。

 

さっき知り合いに、電話したの。数分後に暴力沙汰起す高校があるからすぐに取り押さえてって」

 

「何ぃ!!?」

 

「つう訳だ……

 

さぁ、川逆高校の野郎共……全員、署まで来てもらうぞ」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

「待っても明後日もねぇ!!

 

こっちはな、殉職した先輩の御家族を危険な目に合わせた野郎が、一番気にくわねぇんだ」

 

 

鬼の形相で睨まれた川逆高校の者達は皆、悲鳴を上げ武器を下ろした。

 

 

次々に署に連行されていく川逆高校の生徒達……

 

 

「いやぁ、麗華ちゃんのおかげでやっとやんちゃ坊主を捕まえることが出来た。恩に着る!」

 

「そんな、私そこまでの事は」

 

「いやいや、川逆高校と言ったら……問題児で有名な高校。最近じゃ強盗する輩まで出てきて、その大将を捕まえようにもどうも奴ら口を割ろうとしねぇんだ」

 

「そうなんですか……」

 

「まぁ、大将が見つかったらまた連絡するよ!」

 

「分かった!それじゃ」

 

 

去って行くパトカーを、麗華は笑みを浮かべながら手を振り見送った。

 

 

「お前一体……」

 

「父さんと兄貴、顔が広いから」

 

「……」

 

「お姉ちゃん、さっきの踵落としカッコ良かったぁ!」

 

「どうも」

 

「ねぇ、大将って……

 

まだ、捕まって」

「る訳ねぇだろ?」

 

 

卓也の言葉に繋げるかのように、背後から声が聞こえた。卓也はその声に怯えたかのようにして、体をビクらせ恐る恐る後ろを振り返った。

 

 

髪をオールバックにし、手にナイフを持った男……

 

 

「よぉ、翼。

 

久し振りじゃねぇか」

 

「熊田謙介(クマダケンスケ)」

 

「熊田って……確か、中学の頃この辺りの不良グループの副リーダーの名前」

 

「そうだよ。良く知ってんな?女」

 

「まぁね」

 

「まだ卓也をいじめてたのか」

 

「いじめてるわけねぇだろ。

 

単なるチョッカイ出してたんだよ。そしたらそいつが諸に受けて」

「コイツの性格知ってんだろ!!」

 

「ったく、そう怒らなくても良いだろ?

 

それとも何か、お前はそいつの親か?」

 

「違う……」

 

「じゃあ何だ?」

 

「……親友だ」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、謙介はナイフを翼の腹に突き刺そうとした。そのナイフを彼は咄嗟に、手で振り払い転げ避けた。

 

 

「動くな!!」

 

「!?」

 

 

麗華の首にナイフを当て、不敵な笑みを浮かべた謙介……

 

 

「神崎さん!!」

 

「翼、動くなよ?

 

動いたら、この女の首をグサリと刺すぜ」

 

「相変わらず、汚ぇやり方だな!!」

 

「さぁて、翼に」

「おい」

 

「あ?んだよ……?」

 

 

声の方に謙介は、振り返った。月明かりに照らされた姿……それは牙を剥き出した白い大狼の焔だった。

 

 

「な、何だ!?この化け物!!」

 

「人の獲物を捕ろうなんざ、良い度胸してるじゃねぇか……人の子よ」

 

「い、いや……こ、これはその……」

 

「主にそいつを餌にしていいと言われてるんだ……

 

さぁ、そいつを返して貰おうか?」

 

「は、はい……」

 

 

怯えながら、謙介は麗華の首からナイフを外した。外したと同時に、焔は雄叫びを上げた。それに恐怖を感じた謙介は、その場に座り込んでしまった。

 

それを狙い、翼は謙介の顔を思いっ切り殴った。

 

 

「次卓也に何かしてみろ。

 

もう」

「主の友に、何かしてみろ……

 

主が無数の妖怪達を連れて、お前を襲いに行くからな」

 

「お、お助けぇ!!」

 

 

叫びながら、謙介は逃げていった。

 

 

「これでもう、卓也をいじめることはないだろう……」

 

「それどころか、恐喝罪で逮捕するよ。

 

色々と情報集まったし」

 

「そういえば、お前いつからその狼の餌に?」

 

「さぁ……」

 

「……心配すんな。

 

餌にするわけねぇだろ。ちょっとした演技だ」

 

「演技……って、コイツの喋れるのか!?」

 

「喋れる奴もいる。

 

?ほら、迎え来たよ」

 

 

焔が振り返る先には、白い毛皮を頭から被り顔に狐の面を着け陰陽師の格好をした者……

 

 

「白い陰陽師」

 

「……アバよ」

 

 

焔はそう言うと、振り返りその者の所へ駆け寄った。駆け寄ってきた彼の背に白い陰陽師は乗り、空へ飛んでいった。

 

 

「原因の種はもうない。

 

憑き物も、もう現れないよ」

 

「そうか……」

 

「そんじゃ、私はこれで」

 

「あ、待って!送ってくよ」

 

「いいよ。この辺りは庭みたいなもんだし」

 

「でも……」

 

「大丈夫大丈夫。

 

じゃあ、会えたらまた明日」

 

 

そう言いながら、麗華は暗い夜道へ姿を消した。

 

 

「不思議な……人だね」

 

「……」

 

「お兄ちゃん……あのお姉ちゃん、ママと同じにおいがしたよ」

 

 

その言葉を耳にしながら、翼は麗華が去って行った道をしばらくの間眺めた。

 

 

 

暗い道を歩く麗華……そこへ空から焔が降り立った。

 

 

「演技上手かったよ」

 

「そりゃどうも」

 

 

背に乗っていたあの白い陰陽師の額に、麗華は指を噛み自身の血を着けた。それに反応するかの様にして、白い陰陽師は姿を消し一枚の紙になった。

 

 

「それも、案外役に立つな」

 

「そうね」

 

「しっかし、いつまで演技してなきゃいけねぇんだか……」

 

「仕方ないでしょ。

 

中学の時、これが原因で学校の奴等にバレちゃったんだから」

 

「まぁ、そうだけど」

 

「さぁて、家帰って寝よう。もうくたくたぁ」

 

「俺も同じ」

 

 

麗華を背に乗せた焔は、真っ直ぐ家へと帰った。




翌日。


真二のバイクに乗る麗華……


「ったく、龍二から電話かかってきたかと思えば、何だよ!!お前送れって!!」

「この辺りで、不審者が出たか何かで送ってくれってさ」

「だったら、桐山さんに頼んでパトカーで送れ!!」

「嫌だ!!絶対、断る!!」

「それがあるから、俺に頼んだのか!!」

「当たり前だ!!何で、学校に行くだけでパトカーに乗んなきゃいけないのよ!!そんなんで行ったら、皆の笑いものだ!!」

「それもそうだな……」


校門前に着くバイク……ヘルメットを取り、麗華はバイクから降りた。


「フー、気持ちよかった!」

「そりゃあ良かったぜ。

?お!おーい!湯崎先生―!!」


校門前に立っていた先生に、真二は手を振った。呼ばれた先生は、彼の元へと駆け寄った。


「滝沢君!どうしたの?!」

「神崎の妹を送ってきたんです」

「ア……神崎君の妹さんだったの、神崎さん」

「まぁ……」

「何だ?麗華、湯崎先生って」

「担任」

「嘘ぉ!!」

「何……その驚き方」

「な、何でも……


麗華、その先生教員の職に就いてからまだ日が浅いんだ。お手柔らかにな」

「は~い」

「そんじゃ先生、また」


ヘルメットのシールドを下げ、真二はバイクを走らせ学校を後にした。湯崎は何かを言い掛けたが、その直後卓也と翼が登校し麗華と共に何かを話しながら校舎の中へと入った。

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